その数日後、ジェダイがレースに出走して勝ち同胞を取り戻すことをマズ経由で知らされたマンダロリアン──ジェダイの単語に公爵を始めとして色々な反応があった──の一派デス・ウォッチ派が代表者を送ると伝えられたタコダナにて。
「長く銀河を生きれば、友人は増える」そんなクワイ=ガンの台詞を頭に浮かべながら、解放奴隷の生活地盤を何とか整えた──交渉したタコダナ政府から「ジェダイ辞めてウチで働きませんか」と引き留められるほどの手腕を発揮した──オビ=ワンは嫌な予感を覚えていた。
マズから聞いた話では、捕らえられているのはデス・ウォッチに属する若いマンダロリアンたち。
その中には、少し、そう少しだけ自分に関係があるマンダロア公爵家の血を引く、ボ=カターン・クライズまで含まれているという。
VIPだった。少しばかりの知人(強調)である現代表の妹がVIPでない方がおかしい。当然ながら、デス・ウォッチもそんなVIPが捕らえられたことを把握している。
その上で、ジェダイに協力を申し込まれたのだ。
(ならば、間違いなくかなりの大物が来る)
そう考えていたオビ=ワンの予想そのものは正しかった。ちょっと大物すぎただけで。
「マスター」
「ああ」
降り立った宇宙船から出てきた一団を見つけ、オビ=ワンは表情を引き締めた。
マンダロリアン・アーマーを着込んだ一団はどう見ても歴戦の兵だった。
青を基調とした装甲には、見覚えのある有名な印が刻まれている。デス・ウォッチの印。
誰一人として武器を構えてはいない。だが、それでもこの場で戦闘が始まれば何人死ぬのかを、周囲にいる者たちが反射的に考えてしまうほどの圧力があった。
その中央を歩く男を見た瞬間、オビ=ワンの手が反射的にライトセーバーへ近づいた。
プレ・ヴィズラ。
武力によるマンダロア再興を掲げるデス・ウォッチを率いる男だった。ただ強いだけの戦士ではない。武装したマンダロリアンたちを束ね、思想を掲げ、一つの国家そのものを揺さぶるだけの力を持つ男である。
超大物だった。何で直々に来てるんだよ、とオビ=ワンが思わず口の中で毒づくほどの超大物だった。
ちょっとした知り合いである(超強調)サティーン・クライズが進める平和主義な新マンダロリアン政権とは真っ向から対立する存在であり、ジェダイに対しても友好的とは言い難い。
「アナキン。退路を再確認してくれ」
「はい」
言われるより前に周囲を確認していたアナキンは、それでも興味深そうにヴィズラたちを見ていた。
無理もないだろう。
アナキンが本物のマンダロリアンを見るのは、これが初めてなのだ。
「あれが、伝説の銀河最強の傭兵集団」
同じく初めてみて呻くアルトたちは好奇心ではなく警戒が勝り、ブラスターに自然と手を伸ばしていた。ブロンズ・ニンバスとして幾つもの戦場を潜り抜けてきた彼らだからこそ、目の前にいるマンダロリアンたちがどれほど危険なのかを理解できた。
それほどまでに、マンダロリアンたちは圧倒的な『強』と『暴』の気配を漂わせていた。
歴戦の戦士だけが纏う、隠しようのない暴力の気配。
血の匂いさえ漂ってくるような錯覚を覚えるほどのそれに、宇宙港から一人、また一人と人影が消えていく。
普通の旅客は、彼らが歩いてくる進路から黙って離れた。港の警備員たちですら彼らに声を掛けようとはしない。マンダロリアンたちは何もしていない。ただ歩いているだけで、周囲が勝手に道を空けていく。
そんな有様を見ても、マンダロリアンたちは一切動じない。周囲が道を空けることなど当然だとでもいうように歩き続ける。その姿だけで、彼らがどれ程の存在なのかが分かった。
圧迫感さえ漂う宇宙港で、マンダロリアンとクワイ=ガンだけが普段と何も変わらなかった。
そうこうしているうちに、近くまで来たプレが集団から離れて一人近づいてくる。
(せめて、使者を出せよ。自分一人で来るんじゃない。自分の立場をわかっているのか。それとも何とでもなると思っているのか)
護衛すら連れずに近づいてくるプレに内心で毒づきながら、オビ=ワンは身構えた。超大物らしからぬ無防備さだが、それが自信から来るものなのか、それとも別の理由があるのかまでは分からない。
何より不気味なのは、こちらへ歩いてくるプレにも、後ろに残ったデス・ウォッチにも、警戒している様子がまるでないことだった。オビ=ワンは彼らから目を離さないまま、いざという時の退路だけを頭の中でもう一度確認した。
プレがクワイ=ガンの間近まできた。
足を止める。
数秒。宇宙港にいる者たちが息を呑む。
そして──
「クワイ=ガン! ──我が友よ! 久しぶりだな!」
──プレ・ヴィズラが両腕を広げた。
「久しぶりだな、プレ」
クワイ=ガンも莞爾と笑い、そのまま固く抱き合った。
「………………………」
オビ=ワンは目を擦った。何度も目を擦った。痛くなるほど擦った。だが、いくら擦っても現実は変わらなかった。目の前の光景は変わらない。
デス・ウォッチの指導者と、自分の師が抱き合っている。しかも、どう見ても儀礼的な挨拶ではない。互いに命を預け合える親友、刎頚の友への再会の挨拶にしか見えなかった。
「……………………マスター……?」
ひょっとして自分の人生はこの人を師とした時から変えようがないレールに乗ったのではという顔で言葉を吐き出したオビ=ワンに対して、親友と久しぶりに再会しているのだから空気を読みなさいという目でクワイ=ガンは見た。
「どうしたんだ、オビ=ワン」
「…………いえ。その方とは、随分と親しいようですね」
「古い友人だからな」
「………………………………そうですか」
それ以上聞くのが怖くなったオビ=ワンが黙る。だが、プレはそんな彼を見て、にやりと笑った。
「おお、お前さんがケノービか。ようやく会えたな。お前とは直接会うより先に随分と話を聞いていたから初対面とは思えん」
「……私の話を?」
「ああ。サティーンからな──代表なのにまだ独身なのが最近問題になってるサティーンから、よぉぉぉく聞いている」
「………………………………」
さっきまで、少しばかりの関係だと内心で強調していたオビ=ワンの表情どころか全身が固まった。横で思春期真っ只中のアナキンが即座に反応する。
「サティーン? まだ独身? 最近問題?」
「アナキン」
「はい?」
「聞かなくていい」
「でも──」
「聞かなくていい。金輪際。絶対に」
珍しく強い口調でオビ=ワンは断言した。その反応だけで何かあると察したらしい目を向けてくる生意気な弟弟子に一言言ってやろうとした時、政敵とはいえサティーンとは長い付き合いのプレが、愉快そうに声を上げて笑った。
「何だ。まだ弟弟子には話していないのか? 護衛任務中、随分とおさか──」
「プレ」
オビ=ワンを無視して続きを口にしようとしたプレを、今度はクワイ=ガンが笑いながら制した。
「その辺りにしておけ。本人が話していないことを、私たちが勝手に教えるものでもないだろう」
「お前がそれを言うのか? 当時一番近くで見ていたくせに」
「だからこそだ」
定期的に連絡しているパドメという想い人を持つアナキンには、ここまで聞けば充分だったらしい。兄弟子を見る目に、妙な親近感が宿っている。どうやらオビ=ワンも自分と同類らしいと理解したようだった。
そして、その好奇心に満ちた視線は、当然のように事情を知っているらしい師へと向けられた。
「マスター。どういうことなんです?」
「後でオビ=ワンから聞きなさい、アナキン。きっと話してくれる」
「本当ですか?」
「ああ」
師から言質を取ったアナキンの顔が明るくなる一方で、オビ=ワンの表情は目に見えて険しくなった。
「マスター! 貴方まで何故そちら側なんです!」
「アナキンにまで隠すようなことでもないだろう、オビ=ワン」
「隠すか話すかどうかは私が決めることです!」
まったくもって正論だった。しかし、プレはますます楽しそうに笑い、クワイ=ガンもどこか懐かしそうな顔をしている。アナキンは目を輝かせている。
少し離れたところでは、先ほどまでデス・ウォッチを前に緊張していたアルトたちまで、今や何とも言えない顔でこちらを見ていた。いや「何だよ。マンダロリアンのトップと良い仲なら最初から言えよ」という目で見ていた。
つまり、この場にオビ=ワンの味方はいなかった。
──なお、オビ=ワンは後に、タコダナ到着からこの宇宙港での出来事までを、『タコダナ有力者から依頼を受け、マンダロリアン戦闘派代表と接触。初動では相互に警戒が見られたものの、その後は良好な関係を構築した』とだけ評議会へ報告している。
何時も通りに省略しただけで、嘘は一つもついていなかった。