『武器を捨てろぉぉ!!!』
リビングフォースが導くまま先手の攻撃をする為に、スターファイターに乗って発進シーケンスを整えていたアナキンは施設全体に響き渡る慟哭に顔を上げた。
『聞こえないのか! 武器を捨てろ! ジェダイに逆らうな! 私を殺す気か!!』『CEO!?』『第三区画、射撃中止!』『全隊、待て! 最高責任者がジェダイと一緒にいる!』『人質にとったのか!? ジェダイがぁ!?』『嘘だろ! ジェダイだぞ! ジェダイが人質なんてとるわけがぁ!?』『いや、そもそも奴隷共が逃げてるぞ!?』『倉庫を抑えられた!武装してやがる!?』『まさか、この為にCEOを人質にぃ!!??』『嘘だぁ!? ジェダイが奴隷を解放するためにCEOを人質にするわけがねぇぇ!!??』『ジェダイってもっと話し合いとかする連中じゃなかったのか!?』『さっきまで話し合ってただろ! その結果がこれだよ!!』『船まで!いや!戦闘機まで抑えてやがるぅ!?』『ジェダイってこういう連中だったのかよぉぉぉ!!??』『俺たちより悪党じゃねぇかぁ!!??』
ようやく何が自分たちの施設で行われているかを悟り、あんまりのことにパニックになるカラザク社員たちの通信を切り裂いてCEOの慟哭が響き渡る。
『撃つなと言っているだろうがぁ!!』
「マスターだ!」
弟子入りしてから直ぐにしてくれたタトゥーイン解放から始まり今まででよくある流れに、リビングフォースに攻撃しなくていいと伝えられたアナキンの顔がぱっと明るくなった。
その視点の先の港の入口で、警備兵たちが次々と武器を下ろし、左右へ道を開けていく。
その中央を、右手には緑刃のライトセーバーを持ちながら左隣にガルド・ヴァレックを連れたクワイ=ガン・ジンが悠々と歩いてきた。
別に首へ刃を突きつけているわけではない。腕を捻り上げてもいない──ただ、ヴァレックが少しでも離れようとすると、クワイ=ガンが静かに肩へ手を添えるだけだった。
『離せ!』
『危険ですので、私の傍を離れないでください』
『貴様が一番危険なんだ!』
『ご安心を。あなたの安全は私が保証します』
『だから今、貴様が私の安全を脅かしているんだ!』
『お気持ちは分かります。元老院議員との黒い繋がりを自白されたこと、さぞや不安でしょうとも。ですがご心配なく、私の傍におられれば安全ですとも』
『貴様ァ!? 本当にジェダイかぁぁぁぁぁ!!!???』
元老院議員との繋がりをヴァレック自身が漏らしたことを、わざわざスピーカー越しに周囲へ聞かせる。それだけで、ヴァレックが今さら元の立場へ戻る道は消えた。いや、裏社会から常に命を狙われるようになった。生き延びたければ、共和国とジェダイに協力し、保護を求めるしかない。
そこまで計算する師の姿に、アナキンは感動した。
あぁ、ふん縛って捕まえて司法省に引き渡せば良いで思考を止めた自分の未熟さよ。
「やっぱりマスターは凄いなあ──それに比べて僕はまだまだだ。もっと学ばないと」
武器弾薬の仕分けを終え、操縦が出来るため格納庫へやって来たヴァンが、自らの至らなさを再確認して精進を決意するアナキンの横でその光景を見て絶句する。
「……本当にCEOを盾にして歩いてきたな。ジェダイが人質を盾にしてるぞ」
「盾じゃないよ」
クワイ=ガンの背中を見て育っているアナキンが即座に訂正した。
「極めて重要な自白をした被疑者を保護するために、一緒に来てもらってるだけだよ。そこはちゃんと言い分けしないと。あとで評議会が困るからさ」
「……ジェダイって大変だな」
ヴァンが思わずアナキンとクワイ=ガンを見比べて何かを理解した目で空を仰ぐ。まるでこの師弟の上司である評議会に同情するように。
(どうしてヴァンは任務報告の時に評議員が浮かべる目をしているのだろう)アナキンは少し疑問に思ったが、同じく操縦のできるセラがやって来たため、すぐに考えるのをやめた。
そのセラはとりあえず戦闘機に乗るのを辞めて周りを見渡した。誰も撃たない。撃てない。CEOの元老院議員との黒い繋がりやCEOが人質()に取られていることにパニックになっているから。
いや、ヴァレックが元老院議員との繋がりを漏らした事に顔色を変え何処に連絡している連中もいる。が、その連中も、その連絡を受けた者達からの指示が来るまでは動きそうになかった。
「だいぶ混乱しているわね。ヴァレックの人質の価値はもうしばらくで消えるでしょうけど、うん、間違いなく逃げ切れるわ」
その言葉通り、その間にも、解放された奴隷たちは次々と輸送船へ乗り込んでいく。食料。水。医薬品。武器。燃料など。逃げ延びるために必要なもの、金品や違法品以外を根こそぎ、手際よく運び込みながら。
「全部持っていくの?」
「必要な分だけよ」
暗に根こそぎもっていくの法律は大丈夫なのというアナキンの眼差しに、法務官であるセラが即答した。
「必要な分だけなら根こそぎは良いんだ」
「いいとは言ってないわ! 緊急避難で許される限りの量よ!」
「でも根こそぎ持っていくんだよね?」
「……ええ、持っていくわよ! 600万人よ! 600万人! これでも足りないわよ!」
割と堅物だった同僚がここ数日で良い意味で崩れたことにヴァンが笑った。
「もう諦めろ、セラ」
「誰のせいよ!」
クワイ=ガンも合流する。勿論、人質、ゲフンゲフン、銀河でもはや安眠できる場所がほぼ無くなったヴァレックと共に。
「アナキン」
「はい、マスター!」
「よくやった。素晴らしい働きだったぞ」
何時も通りに先ずは褒めてくれるマスターに、アナキンはもうそんな年じゃないのにと思いながら誇りで胸を一杯にした。
「スターファイターは?」
「48機あります。これなら18隻の輸送船を守れます」
「そうか。では有難く使わせてもらおう。彼らの退職金代わりだ」
「使わせるか!!」
何のためらいもなく理由を付けて根こそぎ奪い取ろうとするジェダイ・マスターに、思わずヴァレックが絶叫する。
「あれは我が社の財産だ!」
「でも盗んだ機体ばかりですよね。何故か工場からそのまま送られた機体が沢山ありますけど」
「黙れ! パダワン風情が、子供は黙ってろ!」
「ヴァレック殿、工場から送られた戦闘機が登録されていない件も、後ほど詳しく伺いましょう」
「後ほどが多すぎるんだよ貴様は!! 私をどうする気だぁ!!!」
「あなたのことだけは評議会に連絡いたしました。直に連絡が来るでしょう」
「だけ……?」
聞き捨てならないことを言われたヴァレックの顔から怒りが消えた。
「待て。貴様、まさか船のことを報告していないのか?」
「現時点では」
「物資も!? スターファイターも!?」
「それらについては、状況が落ち着いてから正式に報告します」
「貴様ぁ!! どういうつもりだぁ!?」
何を考えているのかさっぱりわからないというヴァレックの絶叫をよそに、クワイ=ガンはちょうどこちらへやって来たセラを呼び止めた。
「セラ殿、彼をお願いします」
「ええ。ここからは司法省の仕事ですから。ヴァレック、来てもらうわよ」
「…………待て」
セラに腕を取られたヴァレックだが、その場から動こうとしなかった。
「……私は、どこへ連れて行かれる?」
「共和国司法省の管理下よ。あなたには聞きたいことが山ほどあるから」
「ここには戻らないな?」
「少なくとも捜査が終わるまではね」
「その後もだ! 絶対にここへ戻すな! それから私の居場所を誰にも知らせるな! いや、司法取引だ! 証人保護プログラムの対象に私をするんだ!」
先ほどまでとは明らかに違う、切羽詰まった声だった。
そりゃあそうである。元老院議員や共和国高官との裏取引を自白し、その事実を施設中に知られてしまったのだ。これから自分がどうなるかなど、裏社会で生きてきたヴァレック自身が一番よく分かっている。当然、セラもすぐに察した。
「……保護を求めている、ということでいいのね?」
「…………そうだ」
「その代わり、捜査には全面的に協力してもらうわよ。元老院議員、高官、送金経路、取引先。あなたが知っていることは全部」
「分かっている! 全部話す! だから私を共和国の保護下に置け!」
「交渉成立ですね。どうぞコチラへ。しばらくは我々と共に行動していただきます」
セラに促され、ヴァレックも大人しく歩き出した。だが数歩進んだところで足を止め、忌々しげにクワイ=ガンを振り返る。
「……貴様、最初からこれが狙いだったのか?」
「何のことでしょう?」
「貴様、本当にジェダイなんだろうな」
呆れと戦慄をその瞳に混ぜながらも、もはやヴァレックはクワイ=ガンから逃げようとはしなかった。それどころか周囲の警備兵たちを警戒しながら、セラの傍を離れようともしない。生き延びるための唯一の手段を決して手放さないその姿はある意味見事だった。
その様子を半眼で見ていたアナキンは、スターファイターの操縦席からマスターに聞いた。
「マスター、このまま砲台を潰していいですか? このままでは逃げる時の邪魔になってしまいます」
「待て! 砲台は止める! 警備部隊にも手を出すなと命令する! だから余計なことをするな!」
「でも、僕たちが出る時に、また動かされたら困るんですけど」
「管理権限ごと渡す! 港湾防衛システムも警備システムも全部だ! お前たちが脱出するまでお前たちが停止させられるようにする! それでいいだろう!」
完璧な企業への裏切りだが、ヴァレックにしてみれば当然だった。共和国司法省の保護下へ入ると決めた以上、もはやカラザクとその上に義理立てする理由などない。それどころか、ここで解放奴隷やジェダイに死傷者が出れば、自分まで共和国側から見放されかねない。
何より、先ほど自分が名前を漏らした者たちの手が、この施設のどこまで伸びているのか、ヴァレック自身にも分からなかった。
警備部隊がまだ自分の命令を聞くのか。それとも、既に誰か別の命令を受けているのか。
それを確かめる意味でも、砲台を止めさせる必要があった。もし最高責任者である自分の命令を無視して砲台が動き続けるようなら、次に撃たれるのは輸送船ではなく、自分かもしれない。その時はジェダイたちに何とかしてもらう!
「全警備部隊に告ぐ! 戦闘行為を停止しろ! 港湾砲台も全基停止! 輸送船には手を出すな! これは最高責任者命令だ!」
『し、しかしCEO──』
「命令だと言っている! 私にこれ以上面倒を増やすな!」
怒鳴りつけながらヴァレックが認証を通すと、アナキンの戦術画面に表示されていた港湾砲台が次々と沈黙していった。
「……全部止まった」
先制攻撃の準備まで整えていたアナキンは、少しだけ残念そうに火器管制を落とした。それを見たヴァレックが安堵する。少なくとも今のところ、警備部隊はまだ自分の命令を聞く。つまり、この場で背後から撃たれる可能性は低い。それを確認できただけでも、彼にとっては収穫だった。
「撃たなくて済んだな、アナキン」
「はい。まあ、撃たないで済むならその方がいいです」
そう答えながらも若干残念そうな弟子を見て、クワイ=ガンは何も言わなかった。この弟子が飛ぶのが大好きなことなどよく知っているからだ。若者の元気さに感心しながらヴァレックから受け取った管理者権限を確認するクワイ=ガンに、ヴァレックが咆哮した。
「それより! 約束は守れ! 船でも戦闘機でも好きに持っていけ! 食料も燃料もだ! だから私を絶対にここへ置いていくな!」
「もちろんです。あなたは共和国にとって極めて重要な参考人ですから、必ずや護りましょう」
「やはり……最初からこうなると分かっていたな、貴様」
「さて、何のことでしょう」
「…………この悪党が」
「ジェダイです」
「どこがだぁぁぁ!!!???」
これで、脱出を阻む障害はなくなった。
港湾砲台は沈黙し、最高責任者自身から警備部隊へ戦闘停止命令が出され管理者権限はジェダイの手にある。そしてその最高責任者は、今や自分から共和国司法省の保護を求め、捜査への全面協力まで申し出ている。
ほんの少し前まで要塞そのものを敵に回していた脱出計画は、いつの間にかその要塞の最高責任者から全面的な協力を取り付けた脱出作戦へと変わっていた。
……ちょっとばかり、ジェダイ≒悪党という認識をした気の毒な人たちを産んだだけで最良の状況だった。