5月下旬、梅雨が近付く今日この頃。
友真はいつもの2人と共にダンジョンへと来ていた。
今回、ついにゲストとして迎えての配信を行う。学生お馴染みの中間試験が終わり、溜まっていたフラストレーションを発散するため、いつもよりガッツリと配信していくつもりなのだ。
探索者を育成する学校なのに、どうして一般校と同じように学力試験があるのか。それは、卒業すれば高卒の資格を得られるからである。更には、名門を名乗るなら相応の学力が必要だという理事たちの妄言により、進学校ほどではないが平均よりは高い水準を求められていた。それ故に、普段から自習を欠かさない
結果、時間の掛かるダンジョン探索は週に1回となり、自宅からの雑談やゲーム配信ばかりで物足りていない日々が続いたのである。それでも記念配信や非公式wikiに載ったことなどで界隈に知られるようになっており、興味本位から覗きに来る新規は定期的にやって来ている。友真自身の魅力と《共有》の不思議体験のおかげでちょこちょこと定着する人は増えていき、チャンネルの登録者は5000人が見えるところまで来ていた。
そんな状況からの今である。
「……ん、セットアップ出来ました。2人もカメラ映りを確認してください」
中間試験の5教科平均82点で学年48位の男、友真が作業を終える。ついに解禁となる新しい探索カメラの設定をウキウキで調整していた。
ここまでの道中ですでに試運転をしていたが、最新モデルだけあって協会のレンタル品よりも数段動きが良い。カメラの質もより良い物になっており、カメラ上部の映像も数段鮮明になっていた。
「大丈夫だ、問題ない。さすがは一番良いカメラ」
平均94点で学年11位の男、ミサクが探索カメラの前に身を乗り出す。試験期間でも普段と変わらずそこまで勉強してない癖にこの成績である。TOP10に入ると成績上位者に名前が載るから嫌だったのか、それともただの偶然なのかは本人のみぞ知ることだ。
「お、サンキュー♪ へぇ、配信の映像ってこんな風に確認すんのか」
平均98点で学年3位の男、タクトもまた探索カメラの前に姿を映して確認をする。頭の悪そうなキャラクター性に反して勉強のできる男であった。ちなみに、1位は同率100点で2人。1人は
そんな学生事情はさて置いて、探索の話だ。
これまでと違い、3人の身を守る防具は探索者らしい物に変わっていた。学校経由で依頼していた防具が完成しており、同時に妥協を知らないクラスメイトも
詳細は後ほどにするが、代わりに余談を1つ。
今日は中間試験が終わった翌日である。それなのに、複数人の装備が作られているのは何故か。詳細は言えないが、彼の中間試験が89位と下から2番目だったのが何かヒントになるかもしれない。今頃、母親に叱られながら再試験に向けて死に物狂いで勉強をしているだろう。
「提案がある。タクトは左に、友真は右に立って、僕が少し下がって真ん中に……ヨシ、ミュージックスタート」
何やら最終確認のついでに変なことを始めたようだが割愛する。一言で言えば音楽に合わせて顔芸をしているだけだからだ。
1分ちょっとで音楽が鳴り止み、3人がやりきった表情で満足そうに笑みを浮かべる。探索カメラに問題ないことが確認できたので、配信を開始することにした。
なお、この映像は全て探索者協会に送信されていることをここに記す。
***
◎ 待機!
◎ ついに来たか
◎ クシノちゃん以来のゲスト!!
◎ やっと出てくれる
◎ 初めてのゲストポジをぽっと出の女に取られた親友
配信の待機所では、今日の配信を楽しみに待つ視聴者たちで賑わっている。最近は試験勉強の影響で自宅からの雑談やゲーム配信ばかりだったこともあり、一週間ぶりの探索を楽しみにしてくれているようだった。しかも、今回は焦らされていた2人をゲストに迎えての配信なので更に倍率ドンである。
「こんにちはー! トモリの配信へようこそ。本日も来ていただいてありがとうございます。ゆっくり見ていってくださいね」
配信が始まり、いつものように挨拶を始める。そして《共有》の説明と注意事項をサクッと終えると本日の目的について話し始めた。
「今回は開放的な草原ダンジョンの探索になります」
GWのとき、2人と共に連携確認や魔力切れなどを試したダンジョン。そこを更に深く進み、下級エリア内の最奥まで来ていた。
「そして、告知した通り助っ人として友人2人をゲストにお迎えです。ササッ、カモンカモーン」
トモリに呼ばれ、カメラの外で待機していた2人が入って来る。ミサクはいつもと変わらず自然体であるが、タクトは少しだけ緊張しているのかやや動きが硬かった。
◎ 待ってた!
◎ ナイス凸凹
◎ でかい方ガッチガチで草
◎ ちっちゃい方は普通なのに
「そこ、ちっちゃいって言うな」
流れるコメントの中にあるワードを目敏く見逃さなかったミサクが、ズビッとカメラに向かって指を差す。一応、平均より少し低い程度であるが本人にとっては癇だったようだ。
「呼ばれて飛び出て以下省略。スミスミと呼びたまへ」
向けていた指をすぐに引っ込めると挨拶を始める。よくわからない推定Y字らしきポーズを取っているが名乗りとは全く関係ない。
◎ スミスミ!スミスミ!
◎ スミスミ、把握した
◎ なんか隅っこに暮らしてそう
◎ 偉大なるローマ
◎ いいや、ベリーなメロンの方かもしれねぇぞ
名乗りの時点で大盛り上がりなのは、もう共有者のノリなのかもしれない。YかVかも語らぬ予測未確定の構えであったが、スミスミは確かにこの場に印象を残すのだった。
「オレはトータクと呼んでくれ。まあ、暴君になるつもりはないけどな」
それに続いてタクトも配信用の名前を名乗る。少しわかり辛い冗談を交えながら、緊張を解すためか手に持つ盾をグルグルと回していた。
◎ トータクね、おっけー
◎ 酒池肉林好きそうな名前だね
◎ でっか、高1ってことはまだ大きくなりそう
◎ 盾がぐるんぐるん
本人の発現も合わさってか、後漢末期のある武将を連想する視聴者が多いようだ。他には、トータクの体格の良さやリズム良く回る盾に触れるコメントが多い。
◎ んー、大中小感のバランスが良いね♪
そして、3人が並んだときのサイズ感が気に入ったらしきコメントも書き込まれている。
「ちっちゃくないよ!」
当然、そこはしっかり拾うスミスミ。もしかしたら、この流れを定着させたいのかもしれない。
「と言う訳で、今回は友人2人と草原エリアの探索です。P試験に向けての連携確認もあるので、ボスの徘徊する最奥エリアで頑張っていきますよ」
ダンジョンを次のエリアへ進む際、毎回倒さないと通れないようなボス部屋は存在しない。しかし、そのエリア内の最奥には他と比べて一段上の強さを誇るボス個体が生息していることが多い。
今回の標的は、そのボス個体である。
「ところで、視聴者のみなさんは俺たちの姿を見て何か気付きましたか?」
自己紹介タイムが終わり、お次はお披露目タイムに移る。一旦、2人はカメラの外へ移動してトモリが自身の見た目に関して問い掛けた。配信の開始時点ですでに触れているコメントもあったが、漸く話題に触れられる。
◎ そういや、トモリの装備変わったね
◎ 完成が待ち遠しかったぜ
◎ ついにレンタル卒業したのか
◎ 協会ロゴもないな
「そうなのです。どうですか、見てくださいよ」
トモリの期待にしっかり応えて新装備について書き込む偉い共有者たち。それらを確認すると、機嫌良くゆっくりと回転しながら全身を見せる。
これまではジャージの上に防刃ベストを着ていたが、今は革製の軽鎧を身につけていた。かつて志乃と共に倒したリザードマンの皮素材が使われており、動きを阻害しない作りでありながら防御性能もある逸品である。学校経由で依頼したプロの職人が手掛けたこともあり、着心地も悪くなく長時間着ていても不快感のない仕上がりだった。
また、背負う長剣もレンタル品ではなくなっていた。下級エリアで採れる金属でクラスメイトが作ってくれた物で、見た目は大きく変わっていないが切れ味や強度は上がっている。他にも、グリップや重心のバランスなどがトモリ専用に調整されたおかげでよく手に馴染んでいた。
◎ 探索者っぽい防具きちゃー!
◎ やっぱ布の服の次は革鎧が定番だよね
◎ 一気にファンタジー感が増してタスカル
◎ お、武器も自前になったんだ
コメントも、トモリが新人から抜け出せた変化に大喜びである。やはり、新衣装お披露目というのはどの分野でも一大イベントなのだろう。
「3人共新装備。だから試運転も兼ねている」
横からヌッと出て来たスミスミの防具も、トモリと似たデザインの革製の軽鎧を付けていた。しかし、革の色が違うことから別個体のリザードマン素材であることが分かる。
武器の方は以前までは木製だった杖が金属製の物に変わっており、作りもスマートになって取り回しの良い鈍器として殺意が高まっていた。GWが明けて以降、頻繁に教官のところへ通って杖術を学んでいたこともあり、もしモンスターに接近されたとしても反撃できるように鍛えたらしい。
◎ ほぅ、トモリとは色違いのお揃いですかぁ
◎ これは滾りますなぁ
◎ 魔法使いはそれらしい帽子を被るべきだと僕は思います!
杖のおかげか、初見ながらもスミスミの担当が魔法使いだと見抜かれていた。魔法使いの帽子ガチ勢が声を大にするのを見た彼は、確かに……と共感を口にしている。
「オレはタンクだからな。2人と違って防御力重視だ」
スミスミと入れ替わりに入って来たトータクは、地面を大きく踏み込み音を鳴らしながら重量感をアピールをする。
丈夫な布をベースに小片が全体に縫い付けられた鎧で、俗に言うスケイルアーマーと呼ばれる物だ。名前の通り、鱗上の見た目をしている。2人の防具と比べると重みがあり、機動力に難があるがそこは筋力でカバーしている。
そこに新調した鉄製の大盾も合わさり、今まで以上にタンク職としてより安定感が増していた。また、大盾の背面には多節式の仕込み槍も隠されている。
◎ おー、中世っぽさムンムンだー
◎ やっぱ、鎧といったら金属製だよね
◎ 歩く度に音がするかと思ってたけど意外としないな
◎ そこが職人の技術力ってやつじゃない?
◎ 作るのめっちゃ手間掛かってそう
やはり、注目を集めているのは丁寧に仕上げられた鎧だ。小片の1つ1つを人の手で縫い付けてあるのでかなりの労力を要したと聞いている。その手間暇に掛かった分性能は良いのだが、比例するようにお値段も良いものだった。境専の補助金があるとはいえ、それでも高額なので6回の分割払いであることはここだけの秘密だ。
◎ 武器は持ってないんだ
◎ タンク特化……いや、盾で殴る矛盾タイプと見た
◎ 盾の裏に仕込み槍あったぞ
◎ え、マジで!?
また、大盾の背面には多節式の仕込み槍が内臓されている。ほとんどの共有者が見落としている中、一部の目敏い者は見逃していなかったようだ。
「さて、3人の装備をお披露目した訳ですが……みなさん、もう1つ気付いたでしょうか?」
一通り終えたところで、再度カメラの中央に移動したトモリが問い掛ける。
◎ 今日のトモリは一段と綺麗
◎ 映像が進化した
◎ めっちゃ画質良くなっちょる
◎ 音質も余計なノイズなくてクリアだ
◎ てことは、ついに例のカメラ実装か
◎ 財前教授に貰ったやつね
◎ むむむ、肌のキメ細やか過ぎひん?
その問いに対して気付いていた者は多く、すぐに正解のコメントが流れていった。それを皮きりに画質や音質の良さ、そこに映るトモリの肌感などに感嘆の声が上がる。
「そうなんです。今回からついに例のカメラ実装です」
使われているカメラは、財前教授が交渉用に用意しただけあってかなりのハイスペックだった。探索者協会から借りていた従来品と比べると、耐久力や追従力、それにサイズもよりコンパクトにまとまっている。
メーカーロゴのみで型番が付いてなかったが、今年行われた探索者向け製品の展示会に出されていた製品らしくまだ市場に出ていないらしい。恐らくは想像の数倍以上は高額な品であろうが、税金関係は学校所属の税理士と財前教授が上手くやってくれたのでトモリの負担はない。しかし、その話を聞いても来年の確定申告が本当に大丈夫なのか戦々恐々としていた。
そんな些細なことはさておき、探索カメラのアピールタイムは継続中。画質の良さを伝えるために一旦背景の草原を移していると、遠くの茂みが不自然に揺れた。
「話の途中だがモンスターだ!」
3人が素早く身構え、スミスミが視聴者に分かりやすく伝える。そして、雑談パートから戦闘パートに移り変わるのだった。
【あとがき】
・音楽に合わせて顔芸
エベバーデェェェイ……。