BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
瀞霊廷。
その名は、ずっと前から知っていた。
けれど、実際に足を踏み入れて最初に思ったのは。
「…………」
違う。
だった。
◇
山本重國の後ろを歩く。
身体にはまだ戦いの跡が残っている。焼けた腕には布を巻き、肩も痛む。
それでも気になるのは、自分の傷より周囲だった。
建物も道も人もいる。
けれど、俺の記憶にある瀞霊廷とは随分違う。
新しく建てられたばかりの建物の隣に古い家が残り、道もまだ完全には整っていない。
後の時代に見る、整然とした街ではなかった。
「…………」
当然か。
俺の知っている瀞霊廷は、ここから長い時間をかけて作られていくものなのだから。
通りを歩く者たちは山本を見ると道を空ける。
その後ろにいる俺には、別の意味で視線が集まった。
誰だ。
そんな顔をしている。
当然だろう。
つい昨日まで、俺は瀞霊廷とは何の関係もない人斬りだった。
「何を見ておる」
「いえ」
「珍しいか」
「はい」
「そうか」
それだけ言って、山本は歩き続ける。
知っている場所なのに、知らない。
妙な気分だった。
◇
しばらくして、一つの建物へ入った。
「入れ」
「はい」
中には棚が並び、そこには何本もの刀が置かれていた。
「好きなものを取れ」
「よろしいのですか」
「ああ」
一本取って握る。
戻す。
次を取る。
三本、四本と確かめて、首を傾げた。
「あの」
「何じゃ」
「全部同じでは?」
「そうじゃ」
「…………」
なら、なぜ選ばせたのだろう。
「何か違いがあるのかと思いました」
「ない」
「そうですか」
少し残念だった。
「浅打じゃ」
「…………」
手が止まる。
「これが」
「ああ」
浅打。
斬魄刀になる前の刀。
死神が持ち続け、自らの魂を刻み込むことで、その者だけの斬魄刀となる。
知識としては知っていた。
けれど、実際に手の中にあると妙な感じがする。
「これが、斬魄刀になるのですね」
「お主次第じゃ」
「私次第」
「持っただけで何かになるものではない」
鞘から抜く。
綺麗な刃だった。
一度振る。
――ヒュンッ。
もう一度。
――ヒュンッ。
「どうじゃ」
「普通ですね」
「当然じゃ」
「少し残念です」
「何を期待しておった」
「もう少し、何かあるのかと」
山本の視線が浅打へ落ちる。
「今は何もない。お主が入れるのじゃ」
「…………」
その言葉だけは、妙に気に入った。
◇
浅打を腰へ差す。
今まで使っていた刀と二本になった。
旅の途中で刀は何度も変わった。
折れたものもあれば、刃こぼれが酷くなったものもある。
今使っている刀も最初から持っていたものではない。
それでも、随分長く俺と一緒に戦ってきた。
「捨てる必要はない」
山本が言った。
「今までの刀を持つことと、浅打を持つことは別じゃ」
「そうなのですか」
「ああ」
なら、今はこのままでいい。
二本とも腰へ差した。
◇
建物を出てさらに歩くと、妙な気配を感じた。
一つではない。
いくつも。
強い。
それだけではなく、殺気を隠す気すらないような者が、この先に何人もいる。
自然と足が速くなった。
「この先には、強い方がいらっしゃいますか」
「おる」
「何人ほど」
「見れば分かる」
「そうですか」
少し間を置く。
「楽しみです」
「そうか」
山本は、もう俺のこういう反応に少し慣れているようだった。
◇
広い場所へ出る。
そこには十人以上の者たちがいた。
男も女もいる。
若い者もいれば、随分歳を重ねた者もいた。
立っている者。
座っている者。
壁にもたれている者。
酒を飲んでいる者。
誰一人として同じようには見えない。
けれど、一つだけ共通していた。
強い。
旅をしていた頃なら、何年探しても一人出会えるかどうかという者が、ここには何人もいる。
「…………ふふ」
思わず顔が綻んだ。
こんな場所があったのか。
「何笑ってんだ」
見ると、ひときわ大きな男がいた。
顔には赤い紋様があり、首には大きな数珠。片手には酒を持っている。
「申し訳ありません」
「何がそんなに面白え」
「皆さん、強そうなので」
男が俺を見る。
顔、身体、腰の二本の刀。
「お前、八千流か」
「はい」
周囲の何人かがこちらを見る。
「あれが?」
「思ったより細えな」
「本当にそんなに斬ったのか?」
大男が酒を飲む。
「随分、人を斬ったらしいな」
「そうらしいですね」
「覚えてねえのか」
「数えていませんので」
男が笑った。
「俺もだ」
「…………」
少し笑った。
やはり、ここは今までいた場所とは違う。
◇
男の手が刀へ伸びる。
「なあ」
「はい」
「ちょっとやろうぜ」
「…………!」
顔が綻んだ。
「よろしいのですか」
「あ?」
「斬り合っても」
「そのつもりで言ってんだよ」
「嬉しいです」
いつもの刀へ手を伸ばしかけて、止まる。
そういえば、今日はもう一本ある。
手にしたばかりの浅打。
まだ誰かと斬り合ったことはない。
なら、ちょうどいい。
浅打の柄を握る。
「何だ、新しい刀か」
「はい」
「なら試し斬りに――」
「やめい」
山本の声で、二人とも止まった。
「後にせい」
男がしばらく山本を見る。
「ちっ。分かったよ」
「八千流」
「はい」
「お主もじゃ」
「はい」
浅打から手を離す。
残念だった。
「何だよ、その顔」
「いえ」
「やりたかったのか」
「はい」
男が笑う。
「気に入った。久面井煙鉄だ」
「卯ノ花八千流と申します」
「今度やろうぜ」
「はい」
即答した。
今度。
その言葉が妙に嬉しかった。
旅をしていた頃は、強い者と斬り合えば、それで終わることが多かった。
勝つか、死ぬか。
次など、ほとんどなかった。
けれど、この男はここにいる。
他の者たちもいる。
また斬り合える。
今日で終わりではない。
そのことが、思った以上に嬉しかった。
◇
改めて周囲を見る。
誰も俺を恐れていない。
道を空ける者もいない。
俺が何人斬ったのかなど、大したことだと思っていない。
今まで町へ入れば、戸を閉ざす者がいた。
逃げる者もいた。
人斬り。化け物。大罪人。
そんな目を向けられることにも、もう慣れていた。
一人で歩くことも嫌いではない。
けれど、ここに来て初めて気づいた。
俺は、こういう場所も探していたのかもしれない。
一度斬り合って終わる相手ではなく、何度でも刀を抜ける相手。
斬って、斬られて。
それでも次がある者たち。
仲間と呼ぶにはまだ早い。
それでも少なくとも、ここには俺と同じように刀を抜くことを躊躇わない者たちがいる。
悪くない。
たぶん。
かなり、嬉しかった。
◇
「揃ったか」
山本が言った。
好き勝手にしていた者たちが、少しずつ彼を見る。
煙鉄も、女たちも、端にいた翁も。
完全に静かになったわけではない。
それでも空気が変わった。
「これより、お主らには儂と共に戦ってもらう」
誰も答えない。
山本は続ける。
「ここにおる者が何をしてきたか、儂は知っておる。人を殺した者。奪った者。己が力のみを頼りに生きてきた者」
その視線が、一瞬こちらでも止まった。
「その過去を問うために集めたのではない。儂が求めておるのは、善人ではない」
山本が全員を見渡す。
「共に戦える強者じゃ」
誰も口を挟まなかった。
「儂がお主らを集めた理由は一つ。尸魂界を護るためじゃ」
護る。
この場には、随分と似合わない言葉だった。
誰かを護るためにここへ来た者が、どれほどいるのだろう。
少なくとも、俺は違う。
山本も承知しているはずだった。
「何を護るべきか分からぬなら、考える必要はない」
山本の声が少し低くなる。
「儂が示す」
「…………」
「儂が敵と定めた者を斬れ。立ちはだかる者を斬れ。敵が百なら、百斬れ」
随分と単純な話だった。
善人になれとは言わない。
刀を捨てろとも、過去を悔いろとも言わない。
俺たちがすることは、今までと変わらない。
刀を抜き、敵を斬る。
ただ、その刃の向かう先を山本が定める。
「その刃をもって、尸魂界を護る」
「…………」
なるほど。
俺たちに護る者になれと言っているのではない。
斬ることしか知らない者たちを、護るために使う。
そういうことなのだろう。
◇
「そして」
山本が続ける。
「今日より」
次に来る言葉を、俺は知っていた。
ずっと前から。
「お主らを、護廷十三隊とする」
「…………」
胸の奥で、何かが鳴った。
護廷十三隊。
あまりにもよく知っている名前。
別の世界で、画面の向こうから何度も聞いた。
けれど、今はその画面の向こうにはいない。
目の前には山本重國がいる。
周囲には、後に殺伐とした殺し屋集団と呼ばれる者たちが立っている。
そして、その中に俺もいる。
腰へ触れる。
そこには今日初めて手にした浅打があった。
まだ何も入っていない刀。
――お主が入れるのじゃ。
山本の言葉を思い出す。
「…………」
ここなら何度でも斬り合える。
明日も、その先も、俺の知らない剣を見られる。
もっと強くなれる。
「…………ふふ」
隣にいた者が怪訝そうにこちらを見る。
「何だ」
「いえ」
浅打の柄を握る。
「楽しみで」
護廷十三隊。
知っていた名前。
けれど、もう画面の向こうにあった組織ではない。
殺すことを躊躇わない者たちを、一人の男が集め、その刃の向かう先を定めた。
それが、この日の護廷十三隊だった。
そして、その十三人の中に。
卯ノ花八千流として。
俺は初めて立った。