BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第二十二章 護廷十三隊

瀞霊廷。

 

その名は、ずっと前から知っていた。

 

けれど、実際に足を踏み入れて最初に思ったのは。

 

「…………」

 

違う。

 

だった。

 

 

山本重國の後ろを歩く。

 

身体にはまだ戦いの跡が残っている。焼けた腕には布を巻き、肩も痛む。

 

それでも気になるのは、自分の傷より周囲だった。

 

建物も道も人もいる。

 

けれど、俺の記憶にある瀞霊廷とは随分違う。

 

新しく建てられたばかりの建物の隣に古い家が残り、道もまだ完全には整っていない。

 

後の時代に見る、整然とした街ではなかった。

 

「…………」

 

当然か。

 

俺の知っている瀞霊廷は、ここから長い時間をかけて作られていくものなのだから。

 

通りを歩く者たちは山本を見ると道を空ける。

 

その後ろにいる俺には、別の意味で視線が集まった。

 

誰だ。

 

そんな顔をしている。

 

当然だろう。

 

つい昨日まで、俺は瀞霊廷とは何の関係もない人斬りだった。

 

「何を見ておる」

 

「いえ」

 

「珍しいか」

 

「はい」

 

「そうか」

 

それだけ言って、山本は歩き続ける。

 

知っている場所なのに、知らない。

 

妙な気分だった。

 

 

しばらくして、一つの建物へ入った。

 

「入れ」

 

「はい」

 

中には棚が並び、そこには何本もの刀が置かれていた。

 

「好きなものを取れ」

 

「よろしいのですか」

 

「ああ」

 

一本取って握る。

 

戻す。

 

次を取る。

 

三本、四本と確かめて、首を傾げた。

 

「あの」

 

「何じゃ」

 

「全部同じでは?」

 

「そうじゃ」

 

「…………」

 

なら、なぜ選ばせたのだろう。

 

「何か違いがあるのかと思いました」

 

「ない」

 

「そうですか」

 

少し残念だった。

 

「浅打じゃ」

 

「…………」

 

手が止まる。

 

「これが」

 

「ああ」

 

浅打。

 

斬魄刀になる前の刀。

 

死神が持ち続け、自らの魂を刻み込むことで、その者だけの斬魄刀となる。

 

知識としては知っていた。

 

けれど、実際に手の中にあると妙な感じがする。

 

「これが、斬魄刀になるのですね」

 

「お主次第じゃ」

 

「私次第」

 

「持っただけで何かになるものではない」

 

鞘から抜く。

 

綺麗な刃だった。

 

一度振る。

 

――ヒュンッ。

 

もう一度。

 

――ヒュンッ。

 

「どうじゃ」

 

「普通ですね」

 

「当然じゃ」

 

「少し残念です」

 

「何を期待しておった」

 

「もう少し、何かあるのかと」

 

山本の視線が浅打へ落ちる。

 

「今は何もない。お主が入れるのじゃ」

 

「…………」

 

その言葉だけは、妙に気に入った。

 

 

浅打を腰へ差す。

 

今まで使っていた刀と二本になった。

 

旅の途中で刀は何度も変わった。

 

折れたものもあれば、刃こぼれが酷くなったものもある。

 

今使っている刀も最初から持っていたものではない。

 

それでも、随分長く俺と一緒に戦ってきた。

 

「捨てる必要はない」

 

山本が言った。

 

「今までの刀を持つことと、浅打を持つことは別じゃ」

 

「そうなのですか」

 

「ああ」

 

なら、今はこのままでいい。

 

二本とも腰へ差した。

 

 

建物を出てさらに歩くと、妙な気配を感じた。

 

一つではない。

 

いくつも。

 

強い。

 

それだけではなく、殺気を隠す気すらないような者が、この先に何人もいる。

 

自然と足が速くなった。

 

「この先には、強い方がいらっしゃいますか」

 

「おる」

 

「何人ほど」

 

「見れば分かる」

 

「そうですか」

 

少し間を置く。

 

「楽しみです」

 

「そうか」

 

山本は、もう俺のこういう反応に少し慣れているようだった。

 

 

広い場所へ出る。

 

そこには十人以上の者たちがいた。

 

男も女もいる。

 

若い者もいれば、随分歳を重ねた者もいた。

 

立っている者。

 

座っている者。

 

壁にもたれている者。

 

酒を飲んでいる者。

 

誰一人として同じようには見えない。

 

けれど、一つだけ共通していた。

 

強い。

 

旅をしていた頃なら、何年探しても一人出会えるかどうかという者が、ここには何人もいる。

 

「…………ふふ」

 

思わず顔が綻んだ。

 

こんな場所があったのか。

 

「何笑ってんだ」

 

見ると、ひときわ大きな男がいた。

 

顔には赤い紋様があり、首には大きな数珠。片手には酒を持っている。

 

「申し訳ありません」

 

「何がそんなに面白え」

 

「皆さん、強そうなので」

 

男が俺を見る。

 

顔、身体、腰の二本の刀。

 

「お前、八千流か」

 

「はい」

 

周囲の何人かがこちらを見る。

 

「あれが?」

 

「思ったより細えな」

 

「本当にそんなに斬ったのか?」

 

大男が酒を飲む。

 

「随分、人を斬ったらしいな」

 

「そうらしいですね」

 

「覚えてねえのか」

 

「数えていませんので」

 

男が笑った。

 

「俺もだ」

 

「…………」

 

少し笑った。

 

やはり、ここは今までいた場所とは違う。

 

 

男の手が刀へ伸びる。

 

「なあ」

 

「はい」

 

「ちょっとやろうぜ」

 

「…………!」

 

顔が綻んだ。

 

「よろしいのですか」

 

「あ?」

 

「斬り合っても」

 

「そのつもりで言ってんだよ」

 

「嬉しいです」

 

いつもの刀へ手を伸ばしかけて、止まる。

 

そういえば、今日はもう一本ある。

 

手にしたばかりの浅打。

 

まだ誰かと斬り合ったことはない。

 

なら、ちょうどいい。

 

浅打の柄を握る。

 

「何だ、新しい刀か」

 

「はい」

 

「なら試し斬りに――」

 

「やめい」

 

山本の声で、二人とも止まった。

 

「後にせい」

 

男がしばらく山本を見る。

 

「ちっ。分かったよ」

 

「八千流」

 

「はい」

 

「お主もじゃ」

 

「はい」

 

浅打から手を離す。

 

残念だった。

 

「何だよ、その顔」

 

「いえ」

 

「やりたかったのか」

 

「はい」

 

男が笑う。

 

「気に入った。久面井煙鉄だ」

 

「卯ノ花八千流と申します」

 

「今度やろうぜ」

 

「はい」

 

即答した。

 

今度。

 

その言葉が妙に嬉しかった。

 

旅をしていた頃は、強い者と斬り合えば、それで終わることが多かった。

 

勝つか、死ぬか。

 

次など、ほとんどなかった。

 

けれど、この男はここにいる。

 

他の者たちもいる。

 

また斬り合える。

 

今日で終わりではない。

 

そのことが、思った以上に嬉しかった。

 

 

改めて周囲を見る。

 

誰も俺を恐れていない。

 

道を空ける者もいない。

 

俺が何人斬ったのかなど、大したことだと思っていない。

 

今まで町へ入れば、戸を閉ざす者がいた。

 

逃げる者もいた。

 

人斬り。化け物。大罪人。

 

そんな目を向けられることにも、もう慣れていた。

 

一人で歩くことも嫌いではない。

 

けれど、ここに来て初めて気づいた。

 

俺は、こういう場所も探していたのかもしれない。

 

一度斬り合って終わる相手ではなく、何度でも刀を抜ける相手。

 

斬って、斬られて。

 

それでも次がある者たち。

 

仲間と呼ぶにはまだ早い。

 

それでも少なくとも、ここには俺と同じように刀を抜くことを躊躇わない者たちがいる。

 

悪くない。

 

たぶん。

 

かなり、嬉しかった。

 

 

「揃ったか」

 

山本が言った。

 

好き勝手にしていた者たちが、少しずつ彼を見る。

 

煙鉄も、女たちも、端にいた翁も。

 

完全に静かになったわけではない。

 

それでも空気が変わった。

 

「これより、お主らには儂と共に戦ってもらう」

 

誰も答えない。

 

山本は続ける。

 

「ここにおる者が何をしてきたか、儂は知っておる。人を殺した者。奪った者。己が力のみを頼りに生きてきた者」

 

その視線が、一瞬こちらでも止まった。

 

「その過去を問うために集めたのではない。儂が求めておるのは、善人ではない」

 

山本が全員を見渡す。

 

「共に戦える強者じゃ」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「儂がお主らを集めた理由は一つ。尸魂界を護るためじゃ」

 

護る。

 

この場には、随分と似合わない言葉だった。

 

誰かを護るためにここへ来た者が、どれほどいるのだろう。

 

少なくとも、俺は違う。

 

山本も承知しているはずだった。

 

「何を護るべきか分からぬなら、考える必要はない」

 

山本の声が少し低くなる。

 

「儂が示す」

 

「…………」

 

「儂が敵と定めた者を斬れ。立ちはだかる者を斬れ。敵が百なら、百斬れ」

 

随分と単純な話だった。

 

善人になれとは言わない。

 

刀を捨てろとも、過去を悔いろとも言わない。

 

俺たちがすることは、今までと変わらない。

 

刀を抜き、敵を斬る。

 

ただ、その刃の向かう先を山本が定める。

 

「その刃をもって、尸魂界を護る」

 

「…………」

 

なるほど。

 

俺たちに護る者になれと言っているのではない。

 

斬ることしか知らない者たちを、護るために使う。

 

そういうことなのだろう。

 

 

「そして」

 

山本が続ける。

 

「今日より」

 

次に来る言葉を、俺は知っていた。

 

ずっと前から。

 

「お主らを、護廷十三隊とする」

 

「…………」

 

胸の奥で、何かが鳴った。

 

護廷十三隊。

 

あまりにもよく知っている名前。

 

別の世界で、画面の向こうから何度も聞いた。

 

けれど、今はその画面の向こうにはいない。

 

目の前には山本重國がいる。

 

周囲には、後に殺伐とした殺し屋集団と呼ばれる者たちが立っている。

 

そして、その中に俺もいる。

 

腰へ触れる。

 

そこには今日初めて手にした浅打があった。

 

まだ何も入っていない刀。

 

――お主が入れるのじゃ。

 

山本の言葉を思い出す。

 

「…………」

 

ここなら何度でも斬り合える。

 

明日も、その先も、俺の知らない剣を見られる。

 

もっと強くなれる。

 

「…………ふふ」

 

隣にいた者が怪訝そうにこちらを見る。

 

「何だ」

 

「いえ」

 

浅打の柄を握る。

 

「楽しみで」

 

護廷十三隊。

 

知っていた名前。

 

けれど、もう画面の向こうにあった組織ではない。

 

殺すことを躊躇わない者たちを、一人の男が集め、その刃の向かう先を定めた。

 

それが、この日の護廷十三隊だった。

 

そして、その十三人の中に。

 

卯ノ花八千流として。

 

俺は初めて立った。

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