BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
更木剣八と斬り合ってから、幾日か経った。
十一番隊の隊舎では、いつもと変わらず朝から刀を振る音が響き、どこかでは隊士同士が喧嘩をしている。俺も普段と変わらず刀を振り、稽古を終えると自室へ戻った。
着物の胸元を開く。
胸の中央には、まだ傷が残っていた。
あの戦いが終わったあと、倒れていた更木剣八には死なない程度の治療だけを施し、その場に残した。俺も胸の傷を肉雫唼の粘体で覆い、止血だけをした。
完全に治すこともできた。
けれど、そうはしなかった。
指先で傷へ触れる。
本物の卯ノ花八千流が、更木剣八につけられた傷と同じ場所だった。
結局、ここも原作と同じになってしまった。けれど、それを理由に、この傷まで否定するのは違う。
これは俺が更木剣八と斬り合い、その刀を受けて刻まれた傷だ。
なら、残しておきたい。
俺をここまで斬った者がいたという証として。
「…………」
着物を戻す。
あれから何度も、更木剣八との戦いを思い返していた。
最後の一太刀。
僅かに鈍った、更木剣八の動き。
俺には、それが何を意味するのか、思い当たるものがある。
強すぎるがゆえに。
戦いを終わらせないために。
「…………」
けれど。
あの時の更木剣八も同じだったのか。
そこまでは、考えない。
今も曖昧なままにしている。
ただ、あの戦いで一つだけ、はっきりしたことがあった。
胸を斬られたあと、俺は傷を治さなかった。
治せなかったわけではない。肉雫唼を使えば治せたが、そのためには粘体で傷を覆わなければならない。
身体を覆う粘体は、どうしても動きを鈍らせる。
更木剣八を相手に、傷を治すために刀を鈍らせるなど、あまりにも惜しい。
だから俺は、治すより刀を振ることを選んだ。
けれど。
治療のために刀を鈍らせる必要がないのなら、話は別だった。
「回道……」
いずれ身につけると決めていた技術だった。
最高の卯ノ花になると決めた時から、剣術も、回道も、霊圧も、斬魄刀も、原作の卯ノ花八千流が持っていたものはすべて手に入れ、その先まで行くつもりでいる。
ただ、回道については今まで優先してこなかった。
肉雫唼がある。
傷を負っても治せるのだから、まずは刀を振る方を優先した。
けれど、もし更木剣八との戦いで、すでに回道を使えていたなら。
胸を斬られたあとも、刀を止めることなく傷を癒すことができた。あの斬り合いも、また違ったものになっていたかもしれない。
原作では、卯ノ花八千流は実際に更木剣八との戦いの中で傷を癒しながら斬り合っていた。
そして、彼女が回道を身につけた理由も知っている。
人を救うためではなく。
永遠に戦いを愉しむためだ。
「…………ふふ」
少しだけ笑った。
随分と物騒な理由で治療を学ぶものだと、昔の俺は思っていた。
けれど、今なら分かる。
傷を負うことが嫌なのではない。
痛みが嫌なのでもない。
それで刀を振れなくなることが、惜しいのだ。
治せるのなら治せばいい。
治しながら斬れるのなら、なおさらいい。
そうすれば、傷を負ったからといって刀を止める必要はなくなる。
「決まりですね」
肉雫唼を腰へ差す。
回道を学ぶ。
そう決めると、向かう場所も決まっていた。
◇
四番隊の隊舎へ足を踏み入れる。
十一番隊とは空気が違った。
こちらでは怒鳴り声も、刀を打ち合わせる音もほとんど聞こえない。代わりに薬の匂いが漂い、隊士たちが廊下を忙しなく行き来している。
とはいえ、俺が原作で知っている四番隊とも少し違う。
後世の四番隊は、護廷十三隊の中でも治療と補給を担う部隊として確立されている。
けれど、最初からそうだったわけではない。
初代四番隊隊長、志島知霧。
護廷十三隊が作られた当初、四番隊に治療や後方の仕事が集まったのは、彼が初代隊長たちの中では珍しく、事務や物資、人員の管理といった仕事を得意としていたことが大きい。
負傷者を集める。
薬や包帯を用意する。
治療のできる者を振り分ける。
そういった仕事も四番隊が担うようになり、次第に負傷者の治療そのものが四番隊の役割として定着していった。
もっとも、当時の治療は今よりずっと原始的だった。
血を止める。
傷を洗う。
薬を塗り、布を巻く。
霊力を用いて傷を癒す者もいたが、それぞれが経験や感覚、あるいは個人の異能を用いて行うものに近かった。
何より、当時の四番隊は治療だけをする部隊ではない。
戦になれば刀を持った。
他の隊と同じように敵を斬り、必要なら前線へ出る。
初代護廷十三隊が戦うために集められた組織である以上、それは四番隊も例外ではなかった。
そんな四番隊が、今では少しずつ変わり始めている。
その中心にいるのが、今代の四番隊隊長だった。
廊下を歩いていると、何人かの隊士が俺を見た。
十一番隊の羽織を確認すると、すぐに視線を逸らす者もいる。
「…………」
何もしていないのに。
少し失礼ではないだろうか。
近くにいた隊士へ声をかける。
「すみません」
「は、はいっ」
「麒麟寺隊長にお話があるのですが」
「隊長に、ですか?」
「はい」
隊士は一瞬だけ俺の顔を見たあと、すぐに頷いた。
「……分かりました。ご案内します」
「お願いします」
隊士のあとについて、四番隊の隊舎を進む。
治療を受けている隊士たちの姿が途中に見えた。包帯を巻かれている者もいれば、傷口へ手を翳されている者もいる。
昔に比べれば、随分と変わった。
その変化を生み出した男が、この先にいる。
やがて隊士が一つの部屋の前で足を止め、戸を叩いた。
「隊長。十一番隊の卯ノ花隊長がお見えです」
「入れ」
中から声が返ってくる。
「失礼します」
戸が開く。
中にいたのは、一人の男だった。
大柄な身体に、鋭い目つき。何より目を引くのは、前方へ大きく突き出した黒い髪だった。
治療を担う四番隊の隊長と聞いて思い浮かべる姿とは、随分とかけ離れている。
四番隊隊長。
麒麟寺天示郎。
そして、回道の開祖。
原作では後に零番隊へと上がり、現在は「雷迅」の異名を持つ男だ。
それまで経験や薬に頼るところの大きかった治療へ霊力による技術を持ち込み、回道という体系化された技術を生み出した。
それでも、今の回道は俺が原作で知るものと同じではない。
生み出した天示郎自身の手によって、今なお研究と改良が重ねられている。
つまり俺の目の前にいるのは、回道を生み出し、今なおその技術を発展させ続けている人物だ。
俺が部屋へ入ると、案内してくれた隊士は一礼し、静かに戸を閉めた。
天示郎がこちらを見る。
「十一番隊の人斬り女が、うちに何の用だぁ?」
「こんにちは、麒麟寺隊長」
「挨拶しに来たわけじゃねえだろ」
「はい」
「なら、とっとと用件を言え」
「回道を教えていただきたいのです」
「あぁ?」
天示郎の眉が動いた。
「てめえが?」
「はい」
「回道を?」
「はい」
じろじろと見られる。
「お前、十一番隊の剣八だよな?」
「そうですね」
「人斬ることしか考えてねえような奴が、急に何言い出してやがる」
「急ではありませんよ。いずれ覚えるつもりでした」
「だったら、なんで今なんだ」
「必要になったからです」
「何に」
少し考える。
別に隠す必要もない。
「斬り合いに」
「…………」
天示郎の顔が険しくなった。
「もう一回言ってみろ」
「斬り合いに必要になりました」
「聞き間違いじゃなかったか」
「はい」
大きな溜息を吐かれる。
「てめえ、回道を何だと思ってやがる」
「傷を治す技術でしょう?」
「そういうこと聞いてんじゃねえ」
「では?」
「…………チッ」
舌打ちされた。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
「傷を治して、また斬り合うつもりか?」
「少し違います」
「あ?」
「斬り合いながら治したいのです」
「もっと悪ぃじゃねえか」
「そうでしょうか?」
「ったりめぇだ!」
即答された。
「治療ってのはな、斬り合いを長引かせるためにあるんじゃねえぞ」
「知っています」
「分かってねえから言ってんだ」
「…………」
用途について意見が違うだけで、回道そのものについては理解しているつもりなのだが。
天示郎はしばらく俺を睨んでいたが、やがて視線を胸元へ落とした。
「その傷は?」
「先日、斬られました」
「治せねえのか」
「治せます」
「なら、なんで残してやがる」
「残しておきたいので」
「…………」
また睨まれた。
「てめえ、本当に面倒くせえな」
「よく言われます」
「言われんのかよ」
言われたことはなかった気もする。
まあ、似たようなことは何度か言われている。
天示郎は鼻を鳴らした。
「回道を覚えりゃ、もっと斬り合えると思ってんだな?」
「はい」
「自分が死ににくくなるからか」
「それもあります」
「他には」
「相手も治せます」
「…………」
「相手がまだ戦えるのなら、傷を治せば続けられるでしょう?」
天示郎が黙った。
なぜだろう。
先ほどより機嫌が悪くなったように見える。
「帰れ」
「嫌です」
「即答すんな」
「教えていただくために来ましたので」
「俺は教えるなんて言ってねえ」
「では、どうすれば教えていただけますか?」
「あぁ?」
「条件があるのでしたら、言ってください」
天示郎が俺を見る。
俺も見返した。
しばらく、そのまま沈黙が続く。
「…………チッ」
天示郎が舌打ちする。
「ついて来い」
「教えていただけるのですか?」
「まだ決めてねえ。てめえが回道を扱えるだけのもんを持ってんのか、まず見てやる」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早え」
「では、教えていただけることになったら、もう一度言います」
「そういう意味じゃねえよ」
「?」
「……もういい。来い」
「はい」
◇
天示郎のあとを追って隊舎を進み、一つの治療室へ通された。
壁際には薬や包帯の入った棚が並び、いくつか置かれた寝台の一つに、若い隊士が横になっている。上半身を晒した脇腹には布が巻かれ、血が滲んでいた。
天示郎はその隊士の横で足を止める。
「訓練中に斬られた。傷は深くねえ。放っといても死にはしねえし、普通に治しても問題なく治る」
「はい」
「こいつを治せ」
「…………」
「今のてめえができるやり方でだ。薬でも包帯でも、てめえの斬魄刀でも何でもいい」
「それで何が分かるのですか?」
「それを見るためにやらせんだよ」
「なるほど」
よく分からないが、やればいいらしい。
寝台へ近づき、隊士の脇腹に巻かれた布を外していく。
「少し失礼します」
「あ、はい」
布の下から現れたのは、刃が浅く走った傷だった。
これなら肉雫唼で問題なく治せる。
腰の刀へ手を伸ばしたところで、天示郎に止められた。
「待て。何する気だ」
「肉雫唼で治します」
「どうやって」
「傷を粘体で覆えば」
「それだけか?」
「はい」
「傷がどうなってるかは?」
「見れば分かります」
「そうじゃねえ。どこまで刃が入ってる。何が傷ついてる。血はどこから出てる。傷の中がどうなってる」
「…………」
改めて傷を見る。
皮膚が裂け、その下も傷ついている。血が流れていることも分かる。
だが、それ以上は詳しく分からない。
「分かりませんね」
「だろうな」
天示郎が鼻を鳴らした。
「てめえの斬魄刀は、それでも治せんのか?」
「治せます」
「便利な刀だな」
「はい。気に入っています」
「褒めてねえよ」
「?」
天示郎が溜息を吐き、隊士の脇腹へ手を翳した。
「よく見てろ」
「はい」
掌に霊力が集まり、傷口へ流れ込んでいく。
鬼道とは少し違う。
攻撃するために高めるような荒々しさはなく、霊力の流れは静かで細い。
淡い光が傷口を包むと、流れていた血が徐々に止まった。それから裂けた傷が内側から塞がり、最後に皮膚が繋がっていく。
回道。
原作では何度も見た技術だが、実際に目の前で見るのは初めてだった。
俺は傷そのものではなく、天示郎の霊力へ意識を向ける。
ただ傷へ霊力を注いでいるわけではない。場所によって強さを変え、傷の深さに合わせるように流れそのものを細かく調整している。
やがて天示郎が手を離した。
傷は完全には消えていないが、出血は止まり、開いていた傷口もほとんど閉じていた。
「今日はこれで十分だ」
「ありがとうございます、麒麟寺隊長」
隊士は身体を起こし、治った脇腹を確かめる。
「もう行っていいぞ」
「はい。失礼します」
隊士が部屋を出る。
戸が閉まったところで、天示郎がこちらを見た。
「どうだった」
「ただ霊力を傷へ流しているわけではありませんね。場所によって流し方を変えていました。深い場所と浅い場所でも違ったように見えます」
「他には」
「表面から治していない。先に出血を止めて、そのあと内側から傷を塞いでいました」
天示郎が僅かに目を細めた。
「剣振るしか能がねえわけじゃなさそうだな」
「剣を振ることには自信があります」
「そこは聞いてねえ」
天示郎が先ほどの寝台を指差す。
「回道は、ただ霊力をぶち込めば傷が治るなんて都合のいい技じゃねえ。傷を見て、中がどうなってるかを知り、どこから治すかを決める。その上で、必要な場所へ必要なだけ霊力を流す。多すぎても駄目だ。少なすぎても駄目だ。流し方を間違えても駄目だ」
「難しいのですね」
「当たり前だ」
「肉雫唼の方が簡単です」
「帰れ」
「まだ何も教わっていません」
「てめえが喧嘩売ってきたんだろうが!」
「そんなつもりはありません」
本当のことを言っただけなのだが、天示郎は額を押さえて大きく息を吐いた。
「……いいか。てめえの斬魄刀がどういう理屈で傷を治してるのかは知らねえ。だが、少なくともてめえ自身は、傷がどう治ってるか分かってねえ」
「そうですね」
否定はできない。
肉雫唼は傷を治す。俺はそれを知っているから使ってきた。粘体で傷を覆えば、あとは肉雫唼が治してくれる。
その間に何が起きているのかまで、考えたことはなかった。
「回道じゃそうはいかねえ。治すのは斬魄刀じゃねえ。てめえだ。てめえが傷を見て、てめえが霊力を操って、てめえが治す」
「…………」
なるほど。
そこは肉雫唼とは大きく違う。
肉雫唼は、勝手に傷を治してくれる。その過程に、俺の意思や判断は必要ない。
だが、回道では傷の状態を自分で見極め、自分の霊力を操って治さなければならない。
「分かりました」
「本当か?」
「たぶん」
「そこは言い切れよ」
「まだ使っていませんから」
「…………手ぇ出せ」
「はい」
右手を差し出す。
「違う。両方だ」
両手を前へ出すと、天示郎が俺の手首を掴んだ。
「霊力を出せ。少しだ」
「分かりました」
言われた通りに霊力を流す。
「多い!」
次の瞬間、手を叩かれた。
「痛いです」
「知るか! 誰がそんな出せっつった!」
「少しですが」
「てめえの少しを基準にすんな!」
「…………」
言われた通りに霊力を落とす。
それでも多いと言われ、さらに何度か絞り、普段なら意識する必要もないほどの量まで落としたところで、ようやく天示郎が止めた。
「そこで止めろ」
「これですか?」
「ああ。その量を保て」
「はい」
言われた量を維持する。
思ったより難しい。
大きな霊力を放つのなら簡単だし、霊圧そのものを抑えることにも慣れている。
だが、ごく僅かな量だけを途切れさせず、まったく同じ強さで流し続けるとなると話が違った。
少し気を抜くだけで流れが強くなる。
「上がった。下げろ」
「はい」
「下げすぎだ」
少し戻す。
「上げすぎ」
「難しいですね」
「だから言ってんだろ」
細く。
一定に。
途切れさせない。
天示郎の指示に合わせて何度も調整し、しばらくすると手首を離された。
「もういい」
霊力を止める。
「どうでした?」
「雑だ。力は腐るほどあるくせに、細けえ扱いがなってねえ」
「なるほど」
「そこで納得すんな。少しは悔しがれ」
「できないのなら、できるようになればいいだけでしょう?」
「…………」
天示郎が俺を見る。
「剣もそうでした。最初から振れたわけではありません。立ち方も、握り方も、足の運びも直して、できなければできるまで繰り返しました」
あの頃と同じなら、やることは変わらない。
「回道も同じなら、覚えます」
「同じじゃねえよ」
「違うのですか?」
「……いや」
天示郎が頭を掻く。
「そういうところは、同じかもな」
「では、教えていただけますか?」
「話を最後まで聞け」
「はい」
天示郎が大きく息を吐いた。
「てめえが回道を覚えて何に使うつもりなのか。そこは気に入らねえ。自分を治して斬る。相手を治してまた斬る。そんな使い方をする奴に、俺が作った回道を教えろってんだ。気に入るわけねえだろ」
天示郎が睨みつけてくる。
俺もその視線を返した。
しばらく沈黙が続いたあと、天示郎が鼻を鳴らした。
「だがな。回道は、使える奴が増えりゃ、それだけ救える奴も増える技術だ」
「…………」
「四番隊は、護廷の名のもとに戦った隊士を、一人でも多く生かすためにある。てめえが気に入らねえからって、人を救える奴の芽まで潰す気はねえ」
「では、私は?」
「素質だけならある。霊力は十分すぎる。扱いは雑だが、言われりゃ加減もできる。さっき俺が治すところも、それなりに見えてた」
「それなら」
「一つ条件がある」
「何でしょう」
天示郎は答えず、治療室を出ていく。
そのあとを追うと、通されたのは四番隊の資料室だった。
壁際には書棚が並び、治療や身体について記された書物が収められている。
天示郎が、その一角を指差した。
「まず、医術を覚えろ」
「医術?」
「ああ。身体の中に何があるのか。どこを斬られりゃ何が傷つくのか。血の止め方、傷の処置、折れた骨の扱い。治す相手の身体も知らねえ奴に、回道なんざ使わせられるか」
「…………」
指された書棚を見る。
かなりある。
「全部ですか?」
「全部だ」
「…………」
刀なら何千回でも振れる。
何万回でも構わない。
けれど、目の前に並んだ本の数は、それとはまったく違う。
「麒麟寺隊長」
「あ?」
「回道を覚えるのは、随分と大変なのですね」
「今さら気づいたのか」
「はい」
「嫌なら帰れ。てめえは刀振ってりゃ満足なんだろ?」
「そうですね」
「だったら――」
「ですが」
言葉を遮り、書棚へ手を伸ばす。
一冊を抜き取った。
「これを覚えれば、もっと長く刀を振れるのでしょう?」
「…………」
「なら、やります」
本を開く。
並んでいる文字を眺める。
面白そうだとは思わない。
剣を振る方が、ずっといい。
それでも。
その先に、傷を負ってなお刀を止めずに済む術があるのなら。
覚える理由としては、それで十分だった。