BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
それから、四番隊へ通う日々が始まった。
もちろん、十一番隊隊長を辞めたわけではない。
隊の仕事をこなし、隊士たちの鍛錬を見て、自分の剣も振るう。その合間を縫って四番隊へ通った。
もっとも、すぐに回道を教えてもらえたわけではない。最初に学んだのは、医術だった。
資料室に並ぶ書物を読み、身体の構造から、傷や病、薬について学んでいく。覚えることは多かったが、それでも一つずつ頭に入れていった。
そうして数か月が過ぎた頃、四番隊で行われている医術の試験を受けた。
結果は、合格。
◇
試験に合格してからは、実際の四番隊の仕事に加わるようになった。
もっとも、最初から一人で任されたわけではない。
俺が患者を診る間、天示郎が近くでその様子を見ていた。何も言わずに終わることもあれば、診察が終わってからカルテを見て、足りないところを指摘されることもある。
最初のうち、四番隊の隊士たちは俺と働くことに随分と気後れしていた。無理もない。俺は十一番隊隊長であり、剣八でもある。
何かを頼もうとして、言葉に詰まる隊士もいた。
けれど、それも長くは続かなかった。
ここで扱っているのは、人の命だ。患者を前にして、隊長だからと遠慮している暇などない。
「卯ノ花隊長、次の診察お願いします」
「はい」
「終わったら、カルテを治療担当へ回してください」
「分かりました」
いつの間にか、そんなやり取りが当たり前になっていた。
四番隊へ来るのは、傷を負った隊士だけではない。病を患った隊士もいれば、瀞霊廷に暮らす者もやってくる。
「どうされました?」
「今朝の訓練で斬られました」
目の前に座った隊士が、左腕に巻かれた布を外した。傷はそれほど深くなく、出血もすでに少ない。
「指を動かしてください」
言われた通り、五本の指が動く。
「次は握ってください」
拳を作らせる。動きに問題はない。
続いて傷の先へ触れ、感覚が残っているかを確かめていく。
「ここは分かりますか?」
「はい」
「こちらは?」
「……少し鈍いです」
「…………」
刃が入った位置と向き、その深さを確認しながら、その下にある血管や筋、神経を思い浮かべる。場所を変えて何度か確かめると、感覚の鈍い範囲も分かってきた。
「分かりました」
診察を終え、机へ戻る。
患者の名と所属、傷を負った時刻と原因。傷の位置と状態、指の動きには異常がないこと、一部に感覚の低下があることを書き、考えられる損傷も添える。
書き終えたところで、横から天示郎がカルテを取った。
「こいつ、手ぇ動かしたか?」
「はい」
「感覚は?」
「確認しました」
「どこまでだ」
「傷の先を何箇所か」
「なら、それも書け」
「はい」
カルテを見る。
確かに、感覚が鈍っていることは書いたが、どの範囲まで確認したのかは記していない。
カルテを戻してもらい、足りない部分を書き加える。
「これを持って、二番の治療室へ行ってください」
「はい」
カルテを受け取った隊士が奥へ向かう。そこには回道を使える四番隊士がいる。
俺には、まだ使えない。
だから今の俺の仕事は、患者を診て何が起きているのかを判断し、それを治療できる者へ繋ぐところまでだった。
「次の方、どうぞ」
今度入ってきたのは、刀を持たない老人だった。
「三日前から熱が下がらなくてね」
「咳はありますか?」
「ああ」
「いつ頃から?」
今度は傷ではない。話を聞き、脈を取り、呼吸や胸の音を確かめながら必要なことをカルテへ書き込んでいく。
天示郎は少し離れたところから、それを見ていた。
傷なら状態に応じて処置をし、回道が必要なら使える者へ回す。病なら原因を探り、必要な薬を選ぶ。重ければ寝台へ入れて経過を見て、自分では判断できないものは、より経験のある者へ相談する。
一人が終われば、また次の患者が来た。
◇
半年もすると、診察以外の仕事も増えていた。
「卯ノ花隊長」
「はい」
「七番の方、昨夜また熱が上がりました」
「食事は?」
「朝は半分ほど」
「分かりました。診てきます」
入院している患者のもとへ向かい、昨日より良くなっているのか、それとも悪くなっているのかを確かめる。薬が効いているか、傷に腫れや熱はないか。回道を受けた者も、それで終わりというわけではない。
額に触れてから脈を取り、状態を尋ねる。
「気分はどうですか?」
「昨日よりは、随分」
「食欲は?」
「少し戻りました」
「では、もう一日様子を見ましょう」
カルテへ経過を書き足し、次の寝台へ向かう。
骨折した者、傷を化膿させた者、高熱を出した者、薬を飲み始めた者。それぞれの状態を確認し、必要なら処置や薬を変え、回道を扱える者に再び診てもらう。
それが終われば、また診察へ戻った。
四番隊にいる時間が増えても、十一番隊での生活が変わったわけではない。
朝から隊務を片づけ、隊士たちの鍛錬に顔を出す。必要なら任務へ出て、戻れば自分の鍛錬をする。
そして時間ができれば、四番隊へ向かった。
刀を置いて医術を学んでいるわけではない。
刀を振る時間の隣に、医術を学ぶ時間が増えただけだった。
◇
季節が変わる頃には、薬を扱うことも日常の一つになっていた。
「こちらを朝と夜に」
「食事の前ですか?」
「後にしてください」
「分かりました」
薬を渡し、カルテへ記す。
同じ症状でも、誰にでも同じ薬を同じ量だけ出せばいいわけではない。年齢や体格、身体の状態、他に飲んでいる薬まで見なければならなかった。
「卯ノ花隊長」
「はい」
「この方、昨日の薬を飲んでから吐き気が出ています」
「カルテを」
受け取って確認すると、昨日から使っている薬とは別に、以前から飲み続けているものがある。
「…………」
組み合わせが悪い。
「こちらは止めてください。代わりに別の薬を出します」
「分かりました」
別の日には、毒を受けた隊士が運ばれてきた。
何の毒か分からなければ、どこで、どのように受けたのかを聞く。症状が現れた時刻や、瞳、呼吸、脈、震えや吐き気を確かめ、可能性を絞って解毒薬を選ぶ。
傷だけを知っていても、人は治せない。
資料室で覚えた知識の多くを、実際の患者を通して理解するようになっていた。
◇
一年が過ぎた。
その日、腹痛を訴える者が三人続いた。
同じ腹痛でも、診てみればまるで違う。
一人目は昨夜から吐き続けており、同じものを食べた家族にも似た症状が出ている。
二人目は熱があり、腹の一箇所を押すと強く痛がった。
三人目は隊士だった。数日前、任務で腹を斬られ、すでに回道による治療を受けている。
けれど、顔色が悪い。
手首を取ると、脈も速かった。
「立てますか?」
「ああ」
男が立ち上がって数歩進む。しかし、すぐに身体が揺れた。
「横になってください」
「大丈夫だ。ちょっと腹が――」
「横になってください」
「……はい」
腹へ触れると、男の顔が歪む。
以前のカルテを確認する。傷を負った場所と、その時の状態、施された治療。
現在の状態を書き加えてから、近くにいた四番隊士を呼んだ。
「この方を先に診てもらってください」
「何か?」
「腹の中で出血している可能性があります」
カルテを受け取った隊士の表情が変わる。
「分かりました」
すぐに男が奥へ運ばれていった。
残った二人の診察へ戻る。
最初の頃は、一人を診るだけで精一杯だった。今は患者の状態を比べ、誰を先に治療へ回すべきなのかまで判断できるようになっている。
◇
さらに一年。
診察をしてカルテを書き、必要なら薬を出す。入院している患者を回診し、状態が変わっていれば処置を改める。回道が必要な者は、それを扱える隊士へ引き継ぐ。
そんな四番隊の一日の流れに混ざることが、いつしか当たり前になっていた。
俺の書いたカルテを受け取った隊士が、細かく聞き返すことも減っている。
傷なら、どこまで達していると考えられるのか。病なら、何を疑っているのか。薬なら、何をどれだけ使ったのか。回道が必要なら、どこを特に確認してほしいのか。
必要なことは、そこに書いてある。
「次はこちらです」
「分かりました」
それだけで患者が引き継がれていく。
最初の頃は一人の患者を診るたびに近くで見ていた天示郎も、いつしか俺の診察を一つ一つ確認することはなくなっていた。
それでも時折、俺の書いたカルテを手に声をかけてくる。
「卯ノ花」
「はい」
「何でこっちを先に回した」
「出血量に対して傷が小さすぎます。奥の血管まで届いている可能性があります」
「こっちは?」
「骨折していますが、脈も意識も正常です。待てます」
「薬は?」
「こちらを使いました。量も書いてあります」
「…………」
天示郎はしばらくカルテを眺めてから、それを返した。
「問題ねえ」
「はい」
それだけ言って歩き出した天示郎が、数歩先で足を止める。
「明日、空けとけ」
「何かあるのですか?」
「ああ。医術の次の試験だ」
◇
翌日、四番隊で行われている、より上の医術試験を受けた。
最初に受けたものとは違い、知識を覚えているだけでは足りない。患者の状態を判断し、必要な処置や薬を選び、複数の患者がいれば誰を優先するのかまで問われる。
これまで四番隊でやってきたことを、そのまま試されるような内容だった。
結果は、合格。
「卯ノ花」
渡された結果を見ていると、天示郎がやってきた。
「合格したか」
「はい」
「それだけかよ?」
「他にもあるのですか?」
「そういう意味じゃねえよ」
天示郎が鼻を鳴らす。
「明日から回道やるぞ」
「…………」
「何だよ」
「ようやくですか」
「あ?」
「随分とかかりました」
「誰のためにやってたと思ってんだ、てめえ」
「私のためでしょうか」
「分かってんなら言うな!」
◇
翌日。
天示郎と向かい合う。
「最初に言っとく。回道ってのは、傷に霊力ぶち込んで塞ぐ技じゃねえ」
「では?」
「俺たちの身体は霊子でできてる。斬られりゃ、そこにあったもんが壊れる」
「はい」
「皮だけくっつけりゃ治ったことになると思うか?」
「なりませんね」
「そういうことだ。血の通り道も、筋も、神経も、元あった形に霊子で再構成させる。それが回道だ」
「…………」
「だから身体を知らなきゃ話にならねえ。どこに何があったかも知らねえ奴が、何を元に戻すんだよ」
そこでようやく、ここまで医術を学んだ理由が一つに繋がった。
傷を見て、その下に何があるのかを知る。何が壊れたのかを判断し、それが元々どんな形だったのかを知る。
それが分からなければ、霊子を元の形へ戻すことなどできない。
「なるほど」
「分かったか」
「はい」
肉雫唼なら、傷を粘体で覆えば、あとはあれが治してくれる。俺が血管一本一本の形まで考える必要はない。
けれど、回道は違う。
自分で見て、自分で判断し、自分で元へ戻す。
「じゃあ、始めるぞ」
「はい」
天示郎が用意していたのは、人ではなかった。
四番隊で治療技術の訓練に使われている小さな生き物で、その脚にはごく浅い傷がついている。
「まずはそいつだ」
しゃがみ込み、傷へ掌を翳して霊力を流す。
何も起きなかった。
「治りませんね」
「当たり前だ。今てめえがやったのは、霊力流しただけだ」
「はい」
「何が壊れてる」
改めて傷を見る。
皮膚と、その下にあるもの。覚えた構造を思い浮かべる。
もう一度、掌を翳した。
今度は、ただ霊力を流すのではない。
傷ついた箇所へ意識を向け、そこにある霊子へ自分の霊力を干渉させる。
「…………」
僅かに、感触があった。
自分の霊力とは違う。
けれど、触れられる。
なら。
そこにあった構造を思い浮かべ、その霊子を元の形へ戻していく。
少しずつ傷口が閉じ始めた。
「できました」
「まだだ」
「…………」
生き物を歩かせてみると、僅かに脚を引いている。
表面は閉じている。だが、覚えた構造と照らし合わせれば、治すべき場所はその下にも残っている。
「中ですね」
「そういうことだ」
もう一度、手を翳した。
◇
そこから、回道そのものの修練が始まった。
最初に扱ったのは、皮膚だけの浅い傷だった。
傷ついた箇所の霊子へ干渉し、そこに元々あった構造を意識しながら再構成する。最初は傷が閉じても、天示郎からやり直しを命じられることが多かった。
「形が違う」
「治っていますが」
「見た目だけな。元に戻せっつっただろ」
「…………」
確かに、表面だけを見れば治っている。
けれど、学んだ構造と照らし合わせれば、霊子の組み上がり方が僅かに違っていた。
そこを直す。
一度できれば、別の傷で同じことを繰り返した。傷の位置も深さも、個体も変わる。それでも正しく元へ戻せるようになるまで続けた。
やがて浅い傷なら、元の構造を崩さず安定して治せるようになった。
◇
次に扱ったのは、さらに深い傷だった。
筋まで達したもの。血管を傷つけたもの。細い神経に触れたもの。
深くなるほど、難しさは増していく。
表面だけを治しても意味はない。中にあるものを見極め、それぞれの霊子へ干渉し、どの形へ戻すのかを考えなければならない。
特に苦労したのは、細い血管や神経だった。
霊力が僅かに強いだけでも、狙った場所から外れる。
『力は腐るほどあるくせに、細けえ扱いがなってねえ』
以前、天示郎に言われた言葉を思い出す。
必要なのは、力ではない。
精度だった。
必要な場所へ必要な量だけ霊力を届かせ、狙った霊子にだけ干渉する。
何度も失敗した。
けれど、失敗するたびに何が違ったのかを確かめ、次には直す。剣を覚えた時と同じように、一つできれば、その精度を上げる。
そうして扱えるものを一つずつ増やしていった。
◇
さらに月日が流れた。
目の前には、脚を骨折した小動物がいる。
折れた骨だけではない。その周囲の筋や血管も傷ついていた。
傷ついた霊子を探りながら、元の構造を思い出す。
骨を正しい位置と形へ戻し、その周囲にある血管と筋も再構成していく。最後に表面まで戻してから手を離した。
小動物を地面へ下ろす。
立ち上がり、歩く。
やがて走り出した。
動きに異常はない。
「…………」
天示郎が脚を確かめる。
「もう一回だ」
「まだ駄目ですか?」
「違えよ」
天示郎が次の個体を示した。
「今のを、もう一回やれ」
「…………」
できたから終わりではない。
同じことを、偶然ではなく何度でもできるようにする。
傷の場所が変わっても、深さが変わっても、複数の組織が同時に傷ついていても、何が壊れているのかを見極め、必要な霊子へ干渉し、正しい順序で元へ戻す。
それが安定してできるようになるまで、修練は続いた。
やがて天示郎が横から口を出すことも減り、最後に治した箇所を確認するだけになっていった。
◇
ある日。
いつものように修練へ向かうと、小動物の姿がなかった。
代わりに、一人の隊士が寝台に座っている。
「今日から人を治せ」
「…………」
ようやく、そこまで来たらしい。
「いいのですか?」
「駄目なら言わねえよ。最初は俺が見る」
「はい」
隊士の腕には、浅い刀傷があった。これまで診察だけなら何度も扱ってきた程度の傷だ。
「お願いします、卯ノ花隊長」
「はい」
指の動きや感覚を確かめ、傷の位置と深さを見る。
掌を翳し、霊力を流す。
傷ついた箇所の霊子へ干渉する。
小動物とは違う。
身体も大きければ、霊子の感触も違う。それでも、そこに何があったのかは分かる。
焦らず、一つずつ元の形へ戻していく。
やがて傷が閉じた。
「動かしてください」
隊士が腕を動かす。
「痛みは?」
「ありません」
「指もお願いします」
握らせ、開かせる。
問題はない。
俺は天示郎を見る。
「どうでしょう」
「待ってろ」
天示郎が治した場所を確かめる。
しばらくして、手を離した。
「……悪くねえ」
「では」
「次も俺が見る。一人治したくらいで任せられるか」
「はい」
その日は、何人かの軽傷者を治した。
治すたびに天示郎が確認し、僅かな違いがあれば指摘される。
人の身体でも、同じ精度で。
何度でも。
それができるようになるまで、確認は続いた。
◇
それからしばらくして。
「お願いします、卯ノ花隊長」
「はい」
いつものように患者を診て、回道を施す。
傷ついた血管と筋を元の構造へ戻し、最後に皮膚を再構成する。
動きと感覚を確かめた。
「問題ありません」
「ありがとうございます」
隊士が頭を下げる。
カルテを手に取り、診察内容の下へ、自分が行った回道とその結果を書き加える。
天示郎を呼ぶ必要はなかった。
いつからだったか、軽い傷なら確認を受けずに任されるようになっていた。
今までなら、診察を終えればカルテを回道の使える者へ渡していた。
その先まで、初めて自分の仕事になった。
◇
そこから任される患者は、少しずつ重くなっていった。
浅い傷から深い傷へ。筋や血管、骨、神経、やがて複数の場所を同時に損傷した者まで治療するようになる。
回道を使うたびに、医術で学んだものが必要になった。逆に、医術を知っているからこそ、どの霊子へ干渉し、何をどの形へ戻せばいいのかが分かる。
診察して、状態を判断し、必要なら自分で治し、その後の経過まで見る。それまで別々だった仕事が、一つに繋がっていった。
もちろん、四番隊へ来る患者の全てに回道を使うわけではない。
「この方には薬を」
「回道は?」
「必要ありません」
病なら薬を使い、休ませ、食事や水分を見る。感染した傷なら必要な処置を行い、骨折も状態によって固定する。
回道は強力な治療法だが、何でも回道を使えばいいわけではない。
それもまた、ここで過ごした時間の中で身につけたことだった。
◇
さらに月日は流れた。
「卯ノ花隊長、こちらお願いします」
「はい」
「五番の患者、熱が下がりました」
「あとで診ます」
「このカルテ、確認を」
「置いておいてください」
診察をして、薬を出し、必要なら回道を使う。病室を回り、カルテを書き、他の隊士から患者について相談される。
四番隊で働き始めた頃にあった遠慮は、もうどこにも残っていなかった。
十一番隊隊長だから。
剣八だから。
そんなことを気にする者はいない。
俺も気にしない。
ここでは、目の前の患者をどう生かすのか。それだけを考える。
「卯ノ花」
呼ばれて振り返ると、天示郎が立っていた。
「あの患者、てめえが治したのか」
「はい」
「診断も?」
「はい」
「薬の指示も?」
「そうですが」
天示郎がしばらく俺を見た。
「てめえ、治す方も向いてるかもしれねえな」
「そうでしょうか」
「自覚ねえのかよ」
「他の方がどの程度で覚えるものなのか、私は知りませんので」
「普通はこんな早く、ここまで任せねえよ」
「そうなのですか」
「おうよ」
「…………」
なら、思っていたよりは上手くできているらしい。
視線を戻す。
先ほど回道を施した隊士が、寝台で眠っている。
「ただ」
「あ?」
「ここで死ねば、この方がこれ以上強くなることはありません」
「…………」
「生きていれば、また刀を握れる。もっと強くなることもできる」
それに。
「もう一度、護廷の名を背負って戦うこともできる」
天示郎はしばらく黙っていた。
「だから治すってか?」
「それでは駄目ですか?」
「……いや」
小さく息を吐く。
「最初に聞いた時よりゃ、ずっとマシだ」
「そうですか」
「ああ」
「卯ノ花隊長」
別の隊士から声が飛んでくる。
「次の患者をお願いします」
「はい」
立ち上がる。
最初は、自分が戦い続けるために欲しかった。
傷を負っても刀を止めず、もっと長く斬り合うために回道を学び始めた。
それは今も変わっていない。
けれど、生かせばその者の先も続く。
また立ち、刀を握ることができる。
もっと強くなることもできる。
「卯ノ花隊長?」
「今行きます」
次の患者のもとへ向かう。
今は。
この者たちを生かそう。