BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第二十七章 行く先々

 

 護廷十三隊を離れてから、十日が経った。

 

 行き先は決めていない。

 

 ただ、足の向く方へ歩いている。

 

 瀞霊廷を出て。

 

 流魂街を抜け。

 

 知っている道がなくなっても、そのまま歩いた。

 

 以前なら。

 

 道ですれ違う者の腰に刀があれば、まずそこを見ていた。

 

 強いのか。

 

 どんな剣を使うのか。

 

 戦えば、どちらが勝つのか。

 

 今も目に入らないわけではない。

 

 だが。

 

「…………」

 

 以前ほどではなかった。

 

 代わりに、別のものを見るようになった。

 

 道の脇で畑を耕す者。

 

 家の前で洗濯物を干す女。

 

 走り回る子供。

 

 軒下で昼寝をしている老人。

 

 そういうものが。

 

 妙に目につく。

 

「…………」

 

 昔もあったはずなのに。

 

 こんなに見ていただろうか。

 

 分からなかった。

 

 ◇

 

「姉ちゃん、旅人か?」

 

 声をかけられた。

 

 振り向くと、小さな荷車を引いた老人がこちらを見ていた。

 

「はい」

 

「どこまで行く」

 

「決めていません」

 

「…………は?」

 

「まだ、どこへ行くか決めていないのです」

 

 老人が眉を寄せる。

 

「じゃあ、何で歩いてんだ」

 

「歩きたいからでしょうか」

 

「俺に聞くなよ」

 

「申し訳ありません」

 

 老人がしばらくこちらを見る。

 

 やがて。

 

「変わった嬢ちゃんだな」

 

「よく言われます」

 

「そうだろうな」

 

 荷車の車輪が、石にはまった。

 

「ああ、くそ」

 

「押しましょうか」

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

 後ろへ回る。

 

 荷車を持ち上げる。

 

「せーの――」

 

 老人が力を入れるより先に。

 

 荷車が石から抜けた。

 

「…………」

 

「抜けました」

 

「お前、力あるな」

 

「そうでしょうか」

 

「あるだろ」

 

 そう言われても。

 

 もっと力の強い者をいくらでも知っている。

 

「どっちへ行くんだ?」

 

 老人が聞いた。

 

「まだ決めていません」

 

「なら、この先の村まで来い。飯くらい食わせてやる」

 

「よろしいのですか?」

 

「荷車押してもらったからな」

 

「ありがとうございます」

 

 その日は。

 

 老人と一緒に荷車を引いて歩いた。

 

 ◇

 

 山小屋では。

 

 薪を割った。

 

「違う違う」

 

 男が横から言う。

 

「もっと腰を入れろ」

 

「こうでしょうか」

 

「違う。足はこうだ」

 

「こうですか?」

 

「そうそう」

 

 斧を振り下ろす。

 

 ――ガッ。

 

「…………」

 

 斧が薪に食い込んだ。

 

「難しいですね」

 

 斧を引き抜く。

 

「…………」

 

「剣とは少し違いますね」

 

「当たり前だ」

 

「でも、似ています」

 

「何が」

 

「力を入れる場所でしょうか」

 

 男は少し黙ってから。

 

「知らん」

 

 と言った。

 

「そうですか」

 

 今度は。

 

 剣と同じように構えてみる。

 

 肩の力を抜き。

 

 いつものように振り下ろす。

 

 ――パカンッ。

 

 薪が綺麗に割れた。

 

「…………」

 

 男が薪と俺を二度見した。

 

「ふふっ」

 

 もう一本置く。

 

 同じように振る。

 

 ――パカンッ。

 

「ふふふっ」

 

「…………」

 

 少し面白かった。

 

 ◇

 

 別の村では。

 

 子供に追いかけられた。

 

「姉ちゃん!」

 

「はい」

 

「それ刀?」

 

「はい」

 

「見せて!」

 

「駄目です」

 

「なんで!」

 

「危ないので」

 

「ちょっとだけ!」

 

「駄目です」

 

 しばらく歩いても、ついてくる。

 

「…………」

 

「ねえ」

 

「はい」

 

「強い?」

 

 足が止まった。

 

「私ですか?」

 

「うん」

 

「…………」

 

 どうなのだろう。

 

 宗玄よりは弱かった。

 

 山本重國にも届かなかった。

 

 更木とは。

 

「…………」

 

「姉ちゃん?」

 

「強い方だとは思います」

 

「どれくらい?」

 

「分かりません」

 

「じゃあ俺とどっちが強い?」

 

「私です」

 

「即答じゃん!」

 

「申し訳ありません」

 

「そこは悩めよ!」

 

 子供が怒った。

 

 少し笑った。

 

 ◇

 

 雨が降った。

 

 かなり強い。

 

 近くにあった小屋の軒下へ入る。

 

 すでに先客がいた。

 

 若い男だった。

 

 腰に刀がある。

 

 向こうもこちらの刀を見た。

 

「…………」

 

「…………」

 

 昔なら。

 

 少し期待したかもしれない。

 

 男も同じだったのか。

 

「姉ちゃん、強いだろ」

 

「どうでしょう」

 

「その刀、飾りじゃねえんだろ?」

 

「はい」

 

「俺もだ」

 

「そうですか」

 

「…………」

 

「…………」

 

 雨を見る。

 

「やらないのか?」

 

「何をでしょう」

 

「斬り合いだよ。分かんだろ」

 

「今ですか?」

 

「まあ……そうだな」

 

 雨を見る。

 

「雨が止んでからでいいですか?」

 

「…………」

 

 男が何とも言えない顔をした。

 

「別に、いいけどよ」

 

「ありがとうございます」

 

 結局。

 

 雨がやんでも。

 

 斬り合うことはなかった。

 

 男は東へ。

 

 俺は西へ向かった。

 

 ◇

 

 道端で。

 

 男が倒れていた。

 

「…………」

 

 近づく。

 

 脇腹から血が出ている。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫に見えるか」

 

「見えませんね」

 

「…………」

 

 傷口へ手を当てる。

 

 霊力を流す。

 

 淡い光が傷を包んだ。

 

「……何してる」

 

「治しています」

 

「お前、医者か?」

 

「いえ」

 

 傷が少しずつ塞がっていく。

 

「剣士です」

 

「…………」

 

 男が俺の腰の肉雫唼を見る。

 

 もう一度、傷を治す手を見る。

 

「……どっちだよ」

 

「剣士です」

 

「そうかよ……」

 

 治療を続けた。

 

 ◇

 

 歩いた。

 

 山を越えた。

 

 川を渡った。

 

 森を抜けた。

 

 途中で道を間違えた。

 

「…………」

 

 同じ木を三度見た。

 

 さすがに気づく。

 

「迷いましたね」

 

 誰もいない。

 

 返事もない。

 

 引き返した。

 

 今度は反対へ進んだ。

 

 また同じ木があった。

 

「…………」

 

 どうやら。

 

 剣より道を覚える方が難しいらしい。

 

 その日は森を出られなかった。

 

 ◇

 

 夜。

 

 焚き火を起こした。

 

 適当に拾った枝を燃やす。

 

 火の向こうに。

 

 肉雫唼を置く。

 

「…………」

 

 静かだった。

 

 隊舎にいた頃なら。

 

 遠くから誰かの声が聞こえた。

 

 隊士が歩く音。

 

 刀がぶつかる音。

 

 誰かが呼ぶ声。

 

 今は。

 

 木が燃える音しかない。

 

 少し前までなら。

 

 暇だと思ったかもしれない。

 

 けれど。

 

 不思議と嫌ではなかった。

 

 枝が一本。

 

 火の中で崩れた。

 

「…………」

 

 宗玄は。

 

 こういう時間をどう過ごしていたのだろう。

 

 新太なら。

 

 きっと何か喋っていただろう。

 

「…………ふふ」

 

 少しだけ笑った。

 

 ◇

 

 日差しの強い季節の頃。

 

 歩いていると。

 

 道端で老婆が座り込んでいた。

 

 傍らには、大きな籠がある。

 

「どうされました?」

 

「暑くてねえ。ちょっと休んでたんだよ」

 

「そうでしたか」

 

「もう行くよ。まだ運ばないといけないからね」

 

 老婆が籠へ手を伸ばす。

 

「運びましょうか」

 

「いやいや、無理だよ。重いから」

 

「そうですか」

 

 片手で持ち上げる。

 

「…………」

 

「どちらまででしょう」

 

「お前さん、何者だい」

 

「旅人です」

 

「旅人ってそんなに力あるのかい?」

 

「人によると思います」

 

 片手に籠を持って歩く。

 

 中には野菜が入っていた。

 

「姉ちゃん、どこから来たんだ?」

 

「瀞霊廷です」

 

「死神かい?」

 

「以前は」

 

「辞めたのか?」

 

「少し、お暇をいただきました」

 

「暇?」

 

「はい」

 

「死神って暇取れるのか」

 

「私も今回初めて取りました」

 

 老婆が笑った。

 

「変な死神だねえ」

 

 また言われた。

 

 ◇

 

 その日。

 

 礼にと大根を一本もらった。

 

「…………」

 

 どう食べればいいのだろう。

 

 焼いてみた。

 

 焦げた。

 

 一口食べる。

 

「…………」

 

 苦い。

 

 もう一口。

 

 やはり苦い。

 

「…………」

 

 宗玄なら。

 

 もう少しましに作れただろうか。

 

 新太は。

 

 多分、俺より下手だった。

 

 そう思うと。

 

 少し懐かしくなった。

 

 ◇

 

 数日後。

 

 小さな集落を通りかかった。

 

 家々の間を歩いていると、どこからか匂いがした。

 

「…………」

 

 足が止まる。

 

 何かを煮ているらしい。

 

 匂いを辿ると、家の前で女が鍋を火にかけていた。

 

 中を覗く。

 

 大根が入っている。

 

「…………」

 

「なんだい」

 

 女がこちらを見た。

 

「いえ」

 

「腹減ってるのかい?」

 

「それもありますが」

 

 もう一度、鍋を見る。

 

「大根は、そうやって食べるのですね」

 

「…………は?」

 

「以前、一本いただきまして」

 

「うん」

 

「焼きました」

 

「焼いたって、どうやって」

 

「そのまま火にかけました」

 

「丸ごとかい?」

 

「はい」

 

「…………」

 

 女が黙った。

 

「焦げました」

 

「そりゃ焦げるよ」

 

「苦かったです」

 

「そりゃ苦いよ」

 

「やはり、やり方が違ったのですね」

 

「見りゃ分かるだろう」

 

「分かりませんでした」

 

 女が俺の顔を見る。

 

 それから腰の肉雫唼を見て、もう一度俺の顔を見た。

 

「あんた、飯作ったことないのかい?」

 

「ほとんどありません」

 

「今までどうしてたんだい」

 

「誰かが作っていましたので」

 

「いい身分だねえ」

 

「そうかもしれません」

 

 女が呆れたように息を吐いた。

 

「そこ座りな」

 

「よろしいのですか?」

 

「そのまま旅させたら、また何か丸焼きにするだろ」

 

「…………」

 

 否定できない。

 

「お願いいたします」

 

 火のそばへ座った。

 

 女が別の大根を一本持ってくる。

 

「まず洗う」

 

「はい」

 

 言われた通りに洗う。

 

 女へ渡すと、慣れた手つきで皮を剥いていった。

 

「それから切る」

 

「はい」

 

 包丁を渡された。

 

 大根を置き、刃を入れる。

 

 すっと切れた。

 

「……あんた、包丁は使えるんだね」

 

「刃物ですから」

 

「じゃあ、なんで丸ごと焼いたんだい」

 

「切ってから調理するとは知りませんでした」

 

「…………」

 

 女が何とも言えない顔をした。

 

 切った大根を鍋へ入れる。

 

 他の野菜も入れ、水を加える。

 

 そこまで終わると。

 

「待つ」

 

「待つのですか」

 

「そうだよ」

 

「どれくらいでしょう」

 

「柔らかくなるまで」

 

「…………」

 

 曖昧だった。

 

「どのくらい待てばよいのでしょう」

 

「そんなもん数えてないよ」

 

「では、どうやって分かるのでしょう」

 

「見りゃ分かる」

 

「…………」

 

 それが分からないから聞いているのだが。

 

 とはいえ、女はもう鍋を見ている。

 

 俺も見ることにした。

 

 しばらくして、女が大根へ箸を刺した。

 

「ほら」

 

「はい」

 

「こうなったら食える」

 

「なるほど」

 

 同じように箸を刺してみる。

 

 すっと入った。

 

「…………」

 

 少し面白い。

 

 器によそってもらい、一つ食べる。

 

「…………」

 

「どうだい」

 

「美味しいです」

 

「だろ」

 

 もう一つ食べる。

 

 以前食べたものとは、まるで違った。

 

「大根とは、このような味だったのですね」

 

「焦げた味だと思ってたのかい」

 

「少し」

 

「大根に謝りな」

 

「申し訳ありませんでした」

 

「本当に謝るのかい」

 

「…………?」

 

 女が笑った。

 

 俺も少し笑う。

 

 刀の振り方なら、教えられる。

 

 傷の治し方も、今なら少しは分かる。

 

 けれど。

 

 大根の食べ方一つ、俺は知らなかった。

 

「…………」

 

 知らないことは、まだ随分とあるらしい。

 

 鍋から、もう一つ大根を取った。

 

 ◇

 

 ある村では。

 

「姉ちゃん、腰も治せるのか?」

 

 老人に聞かれた。

 

「腰ですか?」

 

「ああ。ずっと痛くてな」

 

「やってみましょうか」

 

「おう」

 

 腰へ手を当てる。

 

 霊力を流す。

 

「…………」

 

「どうでしょう」

 

 老人が立ち上がる。

 

 腰を伸ばす。

 

 捻る。

 

 もう一度捻る。

 

「…………」

 

「痛みますか?」

 

「痛くねえ」

 

「よかったです」

 

「ちょっと待ってろ」

 

「はい」

 

 老人が走っていった。

 

「…………」

 

 腰は大丈夫そうだった。

 

 しばらくすると。

 

 戻ってきた。

 

 老婆を連れて。

 

「こいつも頼む」

 

「肩が上がらなくてねえ」

 

「分かりました」

 

 肩へ手を当てる。

 

 霊力を流す。

 

「上げてみてください」

 

 老婆が腕を上げた。

 

「あら」

 

 もう少し上げる。

 

「あらあら」

 

 頭の上まで上がった。

 

「あらまあ」

 

「大丈夫そうですね」

 

「ちょっと待ってておくれ」

 

「はい」

 

 老婆が走っていった。

 

「…………」

 

 肩も大丈夫そうだった。

 

 しばらくすると。

 

 三人になって戻ってきた。

 

「…………」

 

「膝が痛いんだと」

 

「首が回らなくてねえ」

 

「俺は腰だ」

 

「分かりました」

 

 治した。

 

「おお」

 

「楽になった」

 

「こりゃすごい」

 

「ありがとうございます」

 

「ちょっと待ってろ」

 

「はい」

 

 三人が走っていった。

 

「…………」

 

 嫌な予感がした。

 

 しばらくすると。

 

 八人になって戻ってきた。

 

「…………」

 

「お願いします」

 

「はい」

 

 治した。

 

 さらに増えた。

 

 治した。

 

 また増えた。

 

「…………」

 

 日が暮れる頃には。

 

 列ができていた。

 

「次の方」

 

「はいよ」

 

 腰へ手を当てる。

 

「次の方」

 

「はいはい」

 

 肩へ手を当てる。

 

「次の方」

 

「膝なんだけど」

 

「見せてください」

 

「…………」

 

 何をしているのだろう。

 

 俺は。

 

 旅をしていたはずなのだが。

 

「次、俺な!」

 

「並べ!」

 

「割り込むんじゃないよ!」

 

「…………」

 

 いつの間にか。

 

 整理する者までいた。

 

「姉ちゃん!」

 

「はい」

 

「明日もいるか?」

 

「いえ。出発します」

 

「そうか……」

 

 老人たちが一斉に残念そうな顔をした。

 

「…………」

 

「では」

 

 少し考える。

 

「今日中に治しましょうか」

 

「おお!」

 

 歓声が上がった。

 

「…………」

 

 その日は。

 

 夜まで村人を治した。

 

 ◇

 

 さらに歩いた。

 

 ある集落で。

 

 剣を教えている壮年の男を見た。

 

 子供が五人ほど。

 

 木の棒を握って並んでいる。

 

「違う」

 

 男が言った。

 

「足が逆だ」

 

「こう?」

 

「そうだ」

 

「腕は?」

 

「上げ過ぎるな」

 

「こう?」

 

「そう」

 

「…………」

 

 足が止まった。

 

 見覚えのある光景だった。

 

 もちろん。

 

 宗玄ではない。

 

 教えている内容も。

 

 構えも。

 

 全く違う。

 

 それでも。

 

「もっと腰を落とせ」

 

「きつい!」

 

「だからやるんだ」

 

「嫌だ!」

 

「じゃあ帰れ」

 

「嫌だ!」

 

「どっちだ」

 

 子供たちが笑った。

 

 男も笑った。

 

「…………」

 

 しばらく見ていた。

 

 やがて男がこちらに気づく。

 

「何か用か?」

 

「いえ」

 

「剣を習いたいのか?」

 

「昔、習っていました」

 

「そうか」

 

「はい」

 

 頭を下げる。

 

 その場を離れた。

 

 歩きながら。

 

 昔のことを思い出していた。

 

 木の棒。

 

 足の置き方。

 

 握り方。

 

 構え。

 

 宗玄の声。

 

 そして。

 

 隣にいた男。

 

「…………」

 

 新太。

 

 最後に見た姿を思い出す。

 

 あれから。

 

 随分と長い時間が経った。

 

 ◇

 

 それからも旅を続けた。

 

 知らない町へ行った。

 

 知らないものを食べた。

 

 知らない者と話した。

 

 道を尋ね。

 

 道を間違え。

 

 時には数日同じ場所に留まった。

 

 祭りを見た。

 

 喧嘩を見た。

 

 結婚する二人を見た。

 

 死んだ者を送る人々も見た。

 

 刀を持たずに生きている者の方が。

 

 ずっと多かった。

 

「…………」

 

 尸魂界へ来てから。

 

 俺はずっと剣を追っていた。

 

 剣を習い。

 

 強い者を探し。

 

 斬り合い。

 

 もっと強い者を探した。

 

 それが嫌になったわけではない。

 

 今でも。

 

 強い者がいると聞けば興味は湧く。

 

 斬り合えば。

 

 きっと楽しい。

 

 けれど。

 

 それ以外にも。

 

 面白いものはあるらしい。

 

 そう思うようになった。

 

 ◇

 

 ある夕方。

 

 小さな川のほとりに座り、沈んでいく夕日を眺めていた。

 

「…………」

 

 旅に出てから、どれほど経ったのだろう。

 

 考えてみたが、分からなかった。

 

 そもそも、日数など数えていない。

 

 行きたい場所も、戻らなければならない日もない。

 

 だから、それで困ることもなかった。

 

 川の流れを眺めながら、昔のことを考える。

 

 あれから長い年月が流れ、多くの者と斬り合ってきた。

 

 それでも。

 

 あの日々は、ずっと俺の真ん中にある。

 

 だからなのか。

 

 まるで癖のように、あの日々を思い出すことが多い。

 

 宗玄のこと。

 

 新太のこと。

 

 二人と剣を振っていた頃のこと。

 

「…………」

 

 随分、遠くまで来た。

 

 そう思った。

 

 立ち上がり、肉雫唼を腰へ戻す。

 

 明日どちらへ行くかは。

 

 まだ決めていなかった。

 

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