BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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前章から長かったので、分けています。
前日まで見ていただいた方は、前章の後半からが続きです。

ややこしくて申し訳ありません。


第三十章 剣の頂

 

 新太の刀は止まらなかった。

 

 俺も止まらない。

 

 踏み込んで斬ると、新太が外れる。追って刀を返したところへ刃が触れ、ほんの僅かに軌道を逸らされた。

 

 次。

 

 もう分かっている。

 

 このずれは残る。

 

 なら、残ることを前提に斬ればいい。

 

 足を踏み直さず、ずれた身体のまま刀を返す。

 

「…………」

 

 新太の目が僅かに細くなった。

 

 俺の刃が、新太の肩へ迫る。

 

 届く。

 

 そう思った瞬間、新太が半歩だけ退き、刃が空を切る。

 

 その足が地面へ触れるより早く、新太の刀が来た。

 

 身体を開いて避け、そのまま懐へ入る。

 

 近い。刀を振るには狭すぎる。

 

 なら、柄で打つ。

 

 新太が首を振って外した。

 

「お前、そんなこともするようになったのか」

 

「色々覚えましたので」

 

 新太が笑う。

 

 近い距離のまま刀が動いた。

 

 首へ走る刃をこちらの刀で受け、そのまま押し込む。

 

 力なら比べるまでもない。俺が少し腕に力を込めれば、新太の刀ごと押し切れる。

 

 だが、新太にとって力の強弱に意味はない。

 

 重なった刃を滑らせ、俺が押す力に沿うように身体を外へ運ぶ。支えを失った刀が僅かに前へ流れ、それにつられて肩が出た。

 

 その肩を追うように新太が半歩踏み込み、気づいた時には刃先が胸の前にある。

 

「…………」

 

 身体を捻って外し、返す刀で新太の首を狙う。

 

 また、避けられた。

 

 だが、先ほどまでとは見え方が違う。

 

 新太が俺の攻撃を利用していることは、もう分かっていた。

 刀を流せば終わりではない。流された俺の肩が開き、身体が前へ出る。その動きまで含めて、新太は次の一太刀を作っている。

 

 新太にとって、俺が踏み込む動きは、新太が踏み込むことと同義なのだ。

 

 自分から一歩を踏み出さなくとも、俺が距離を潰せば二人の間合いは縮まる。俺が刀を振れば、その力を受け流すことで俺の身体が動く。避けようと足を置けば、その一歩さえ次の間合いを作る材料になる。

 

 俺の身体を動かしているのは俺自身だ。

 

 なのに、斬り合いが続けば続くほど、その動きのすべてが新太の剣へ組み込まれていく。

 

 まるで、二人で一つの剣を振っているようだった。

 

「…………」

 

 面白い。

 

 もっと見たい。

 

 この剣が、どこまで続くのか。

 

 踏み込み、今度は首ではなく胴を狙う。

 

 新太は僅かに身を退いて刃を外し、そのまま俺の刀へ刃先を添えた。軌道が上へ流れる。

 

 戻さない。その勢いをそのまま使い、腰を回して頭上から刀を振り下ろす。

 

「…………!」

 

 初めて、新太が大きく横へ動いた。

 

 刃は地面へ落ちる。

 

 届いてはいない。

 

 だが、今までとは違った。

 

 俺が新太に作られた動きを、そのまま次へ使った。

 

「はは」

 

 新太が笑った。

 

「なんですか?」

 

「いや。やっぱ早えなと思ってよ」

 

 呆れたような声だった。

 

 けれど、新太は嬉しそうに笑っていた。

 

 もう一度、こちらから踏み込む。

 

 新太に流された刀を戻さず、そのまま次へ繋げようとしたところで、新太が刀を下げたまま、まるで歩くようにこちらの横へ移った。

 

「…………!」

 

 次に足を置くはずだった場所に、新太がいる。

 

 追うことはできる。だが、そこから追うには足を外へ運び、腰の向きまで変えなければならない。

 

 咄嗟に踏む場所を変えた瞬間、それまで繋がっていた動きが途切れた。その僅かな遅れへ新太が踏み込んできたため、身体を外して刀を返す。

 

 身体はもう、考えるより先に動いていた。

 

 旅に出てから、随分と多くの剣を見た。

 

 流魂街でも、護廷十三隊でも、様々な剣をこの身で知った。

 

 そのすべてが、今の俺の剣に残っている。

 

 新太の刃を流して踏み込み、避けられた先へ刀を返す。それも外されれば、その動きからさらに次へ繋げる。

 

 それでも、新太を斬れない。

 

 返した刀が、また僅かに外された。

 

         ◇

 

 昔、新太は俺の先にいた。

 

 出来ないことがあれば見て、真似をして、何度も失敗して。そうしているうちに、いつからか俺は新太を振り返らなくなった。

 

 もう後ろにいるものだと思っていた。

 

 けれど、新太は止まっていなかった。

 

 俺が外へ出て、数え切れないほどの剣を見ていた間も、新太は同じ剣を振り続けていた。

 

 宗玄から教わった剣。

 

 外へ出て、別の剣を見ても、最後にはそこへ戻った。

 

 何百年も。

 

 ただ同じ場所を掘り続けるように。

 

 深く。

 

 そして今。

 

 俺の知らない深さまで辿り着いている。

 

         ◇

 

 斬り合いは続いた。

 

 陽は少しずつ傾き、川面へ差し込む光の角度も変わっていた。

 

 新太の呼吸は明らかに乱れ始めている。

 

 額から流れた汗が頬を伝い、顎から地面へ落ちる。刀を握る手には僅かな震えが見える。

 

 当然だった。

 

 霊格は低く、身体も老いている。これだけ長く刀を振り続けていれば、疲れないはずがない。

 

「休みますか?」

 

「馬鹿言え」

 

 新太は荒い息の合間に答えた。

 

「かなり苦しそうですが」

 

「年寄りなんだから仕方ねえだろ」

 

「では、やはり休んだ方が」

 

「清子」

 

「はい」

 

「余計なこと考えんな」

 

「…………」

 

 新太が刀を構えた。

 

 息は乱れ、額からは汗が流れ、刀を握る手にも僅かな震えがある。

 

 それでも、刀を構えた新太は何も変わっていなかった。

 

 踏む位置も、身体を外す幅も、刀を添える角度も、最初の一太刀から何一つ崩れていない。

 

 家の前で初めて見た時、俺は一瞬だけ宗玄が立っているのかと思った。

 

 今なら分かる。

 

 違う。

 

 似ているのは当然なのだ。

 

 同じ人から剣を教わったのだから。

 

 けれど、今ここにあるものは宗玄の剣ではない。

 

 外へ出ても、知らない剣に触れても、最後には宗玄から教わった場所へ戻り、そこからまた振り始めた。

 

 そうして途方もない時間を積み重ねた末に残った、新太自身の剣だった。

 

「まだ終わってねえぞ」

 

「…………」

 

 昨日、新太が口にした言葉が蘇る。

 

『ただ、俺はまだだ』

 

『俺には、まだ一つ残ってる』

 

 その意味を尋ねても、新太は答えなかった。

 

 今も聞こうとは思わない。

 

 刀を交わしている。

 

 それで十分だった。

 

 同じ場所から始まり、何度も向かい合ってきた。

 

 だからこそ、一太刀を受けるたびに伝わってくるものがある。

 

 力を求めた剣ではない。

 

 速さを求めた剣でもない。

 

 俺のように、無数の剣を重ねて作ったものでもない。

 

 ただ一つ。

 

 宗玄から受け取ったものを、途方もない時間をかけて磨き続けた剣。

 

 そして今、そのすべてが俺へ向けられている。

 

「…………」

 

 最後に宗玄と剣を交えた日のことが、ふと蘇った。

 

『殺し合いなら、お前の方が強えよ』

 

 あの人はそう言った。

 

 俺は納得しなかった。

 

 速さでも、力でもない。

 

 殺し合いの経験でもない。

 

 俺は、宗玄の剣そのものを超えたかった。

 

「…………」

 

 新太の刀を見る。

 

 宗玄から受け取った剣を捨てず、何百年も振り続けてきた。

 

 俺とはまるで違う道を歩いて。

 

 それでも。

 

 辿り着こうとしていた場所は。

 

「…………」

 

 新太と目が合った。

 

 何も言わない。

 

 俺も何も聞かなかった。

 

 刀を構える。

 

 それだけでよかった。

 

         ◇

 

 新太が踏み込んだ。

 

 首へ走る刃を身体を外して躱し、そのまま斬り返す。新太は僅かに身を引いて刃を外すと、俺の刀へ刃先を添えた。

 

 軌道が逸れ、その僅かなずれがまた次へ残る。

 

「…………」

 

 最初と同じだった。

 

 呼吸は荒く、汗も流れている。

 

 それでも、剣を交わせば何も変わらない。

 

 俺は流された刀を無理に戻さず、その勢いを使って腰を回した。反対側から斬り返すと、新太の刀がそれを受け、刃同士が滑る。

 

 身体が僅かに前へ流される。

 

 その一歩すら利用して踏み込むと、新太が退いた。

 

 今度は追わず、退いた先へ刀を置く。新太はそこへ来ず、さらに外へ動いた。

 

 なら、その先へ刀を返す。新太に受け流されれば、その流れを使ってさらに斬る。

 

 刃は届かない。新太も俺を斬れない。

 

 また次へ続く。

 

「はは……」

 

 新太が笑った。

 

 荒い呼吸の中でも、嬉しそうだった。

 

 聞く必要もない。

 

 再び新太が踏み込む。

 

 その一太刀を受け、滑らされた刀をそのまま次の斬撃へ繋げる。新太が外れれば追うのではなく、その先へ刃を置く。

 

 避けるために置いた足は踏み直さず、次の踏み込みへ使う。開かされた肩も戻さない。そのまま腰を回し、新しい一太刀へ変える。

 

 俺も。

 

 繋げる。

 

 一太刀ずつ終わらせない。

 

 新太が何百年もかけて辿り着いた剣を、斬り合いながら追いかける。

 

 俺が変われば、新太も変わる。

 

 先ほどまで通じていた斬り返しを読まれ、その次を作られる。ならば俺も、その一太刀を利用してさらに先へ進む。

 

 斬れば外され、その外された刀からもう一度斬るが、受け流される。

 

 流された身体を使って踏み込むと新太の刀が来る。それを避け、その一歩からさらに次へ繋げる。

 

 互いの刀が触れるたびに、次が生まれる。

 

 いや。

 

 最初からずっと。

 

 同じ一太刀の中にいる。

 

「…………」

 

 そして。

 

 その時が来た。

 

 新太の刀を外し、そのまま懐へ踏み込む。

 

 新太が身体を開いたところへ刀を返すが、刃先を添えられ、僅かに軌道を逸らされた。

 

 だが、戻さない。その流れのまま足を進めてもう一度斬り、新太が避ければさらに次へ繋げるが、それも受けられる。

 

 また次。

 

 何度も繋げる。

 

 新太の剣を真似ているわけではない。

 

 俺の剣の中へ、新太から教わったものが混ざっていく。

 

 やがて、見えた。

 

 新太の胸が開いている。

 

 距離も、刀の位置も、俺の足もいい。すべてが揃っている。今なら斬れる。

 

 そう判断して踏み込み、最短の一歩から最短の軌道で刀を走らせた。

 

 速さはこちらが上。力も上。距離も正しく、新太の刀は間に合わない。

 

 俺の刃が先に届く。

 

 そのはずだった。

 

 だが、踏み込んだ瞬間、身体が僅かに前へ沈んだ。

 

「…………?」

 

 地面ではない。

 

 重心が、ほんの僅かに俺が思っていたより前にある。

 

 そのずれを直そうとして、気づいた。

 

 右足も、肩も、腰も、刀の位置も、間合いも、すべてがほんの少しずつおかしい。

 

 そして、そのどれもが今、作られたものではない。

 

「…………!」

 

 何十合も前に流された刀。

 

 それを利用して踏み込んだ足。

 

 新太を追うために開いた肩。

 

 さらにその前、避けるために自分で選んだ一歩。

 

 もっと前。

 

 もっと。

 

 辿っていく。

 

 全部が繋がっている。

 

 俺は新太を追い詰めていたのではない。

 

 追い詰めていると思って、自分からここへ来た。

 

 新太が最初の一太刀から作り続けた、この場所へ。

 

 目の前で、新太の刀が動いた。

 

 遅い。

 

 見える。

 

 避けられる。

 

 いつもの俺なら。

 

 身体を外そうとして、動きが止まる。

 

 足が、いつもの位置にない。

 

 腰も、肩も、重心も。

 

 刀を受けられる位置へ戻そうにも、こちらの刃は新太を斬るために振り切られている。

 

 どれも僅かなずれだった。

 

 一つだけなら、どうとでもなる。

 

 だが、そのすべてが重なった今。

 

 新太の一太刀を外すための動きが、どこにも残っていない。

 

 逃げ道がない。

 

 今この瞬間に塞がれたのではない。

 

 ずっと前から。

 

 最初の一太刀から、少しずつ。

 

 ここへ繋がっていた。

 

         ◇

 

 胸の奥で、何かが震えた。

 

 負ける。

 

 斬られる。

 

 そう理解しているのに、恐怖より先に込み上げたものがあった。

 

 まだ、こんな場所があったのか。

 

 知らない剣を求めて外へ出た。

 

 強くなるために。

 

 もっと先へ行くために。

 

 ずっと進んできた。

 

 なのに、その道の始まりにいた男が。

 

 俺がとうの昔に追い越したと思っていた男が。

 

 今。

 

 俺の知らない場所から刀を振っている。

 

 遠い。

 

 ただただ、遠い。

 

 その先にあるものを、俺はまだ知らない。

 

 剣の頂。

 

 そう呼べるものがあるのだとすれば。

 

 今、ほんの一瞬だけ。

 

 その姿を垣間見た気がした。

 

「…………」

 

 俺の刃が、新太の身体の脇を抜けた。

 

 新太の刀だけが、俺の胸へ届いた。

 

         ◇

 

 胸に走った痛みに、覚えがあった。

 

 胸。

 

 更木に斬られたのと、同じ場所だった。

 

「…………」

 

 新太の刀が離れる。

 

 斬られた胸から血が流れ、着物を濡らしていく。

 

 俺はそれを見下ろした。

 

 同じ場所。

 

 けれど、まるで違う。

 

 更木は、圧倒的な霊圧と身体能力、戦いの勘と才でここへ届いた。

 

 新太は霊格も低く、身体は老い、速さも力も俺には及ばない。

 

 それでも。

 

 剣だけで。

 

 ここへ届いた。

 

「……一本ですね」

 

「ああ」

 

 掠れた声だった。

 

「疲れたな」

 

 新太が笑った。

 

 長い稽古を終えた時のような、穏やかな笑みだった。

 

「…………」

 

 その顔を見ながら、これまで歩いてきた道を思った。

 

 宗玄から剣を習い、新太の背中を追った。

 

 やがて追いつき、外へ出た。

 

 数え切れないほどの剣を見た。

 

 強い者と斬り合い、知らない技を覚えた。

 

 そうして、ここまで来た。

 

 強くなった。

 

 あまりにも。

 

 いつしか、俺とまともに斬り合える者はほとんどいなくなった。

 

 刀を振るう相手を探しても見つからず、何も満たされない日々が続いた。

 

「…………」

 

 新太を見る。

 

 霊格も、速さも、力も、とうの昔に追い越したはずの人だった。

 

 そして。

 

 俺の身に傷をつけた。

 

「…………」

 

 俺は、ずっと外へ求め続けた。

 

 強い者を探し、知らない剣を見て、斬り合い、その先へ進んできた。

 

 だから、いつしか斬り合える相手がいなくなることを、道の終わりのように感じていた。

 

「…………」

 

 けれど。

 

 そうではなかった。

 

 先へ進む道は、まだ他にもある。

 

 そして。

 

 きっと、剣の頂に終わりなどないのだろう。

 

 新太が辿り着いた場所からも、その先がある。

 

 俺が今いる場所からも。

 

 まだ、先へ行ける。

 

 どこまで続いているのか。

 

 きっと、死神の長い生でも、生涯見ることはできない。

 

「…………」

 

 視界が滲んだ。

 

 胸からは、まだ血が流れている。

 

 それとは別に。

 

 一筋の涙が、頬を伝った。

 

「…………」

 

 新太を見る。

 

 刀を握ったまま立っている。

 

 先ほどの笑みが、まだ残っていた。

 

「新太」

 

「…………」

 

 返事はなかった。

 

 もう一度呼ぼうとして。

 

 やめた。

 

 風が吹く。

 

 白い髪が揺れる。

 

 新太は倒れなかった。

 

 刀を握ったまま。

 

 立っている。

 

 一切の無駄のない重心が、それを可能にしている。

 

 目を閉じ。

 

 穏やかな顔で。

 

 もう動かない。

 

「…………」

 

 昨日、新太から聞いた話を思い出した。

 

 心の寿命。

 

『ただ、俺はまだだ』

 

『俺には、まだ一つ残ってる』

 

 その意味を、新太は最後まで言わなかった。

 

「…………」

 

 そういえば。

 

 新太は俺の兄弟子だった。

 

 それなのに、一度も言ったことがなかった。

 

 刀を鞘へ戻す。

 

 新太の前に立つ。

 

 深く頭を下げた。

 

「ご指導、ありがとうございました」

 

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