俺がマギカなのか……?改   作:きのこ大三元

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これからも頑張っていきますm(_ _)m


13話 普通の女の子たち

 昼休みのチャイムが鳴ると、教室の空気が一気に緩んだ。教科書を閉じる音に椅子を引く音、購買へ急ぐ足音。早乙女先生の朝の話が長かっただの、次の体育が嫌だの、あちこちから好き勝手な声が飛び交い始める。

 

 俺も机の中から弁当箱を取り出した。

 

「今日も作ってきたの?」

 

 隣からまどかが覗き込む。

 

「まあね」

「田中さん、最近ずっと自分で作ってるよね。私、自分で毎日は無理かも」

「夕飯の残り入れてるだけの日も多いけど」

 

 実際、今日も大半は昨夜の残り物だ。

 

 昨日はキュゥべえを連れて商店街を歩き回り、帰宅してから夕飯を作った。そのついでに翌日の弁当も詰めていたのだが、冷蔵庫に残っていたチーズと海苔を見たところで、ふと思いついてしまった。

 

 ――これ、耳に使えるな。

 

 そこから妙にやる気が出た。

 

おれって、ほんとばか……。

 

「ほらほら、今日も机寄せるよー」

 

 さやかが自分の机を引っ張ってくる。その横で仁美が丁寧に弁当包みを開き、ほむらも少し遅れて椅子を寄せた。

 

 まどか、さやか、仁美、ほむら、それから俺。いつの間にか、この五人で昼を食べる形が当たり前になりつつあった。

 

「今日は購買ですか、美樹さん?」

「朝寝坊した。というわけで本日の昼食は焼きそばパンとメロンパンです」

「炭水化物ばかりですわ」

「昼から体育あるんだからいいの」

「その理屈だと、むしろ重くならない?」

「田中まで裏切った!」

 

 さやかが大げさに机へ突っ伏す。その横で、俺も弁当の蓋へ手をかけた。

 

「そういや田中、今日は何?」

「そんな毎日確認するほど変わらないけど」

「自炊勢の弁当ってちょっと気になるじゃん」

「今日は……まあ、ちょっとだけ変」

 

 自分で言ってから蓋を開けた。

 

 白いご飯を丸く整えた顔。海苔で作った口元と、小さく切った赤い具材を二つ。左右にはチーズと海苔を重ねた、妙に長い耳が伸びている。

 

 昨夜は最初、耳だけ付けるつもりだった。そこから赤い目も欲しくなり、口も付けたくなり、途中からちょっと楽しくなってしまった結果である。

 

「…………」

 

 一拍置いて、最初に声を漏らしたのはほむらだった。

 

「かわいい……」

「だろ?」

 

 反射的に答えてから、少し嬉しくなる。そんなに手間をかけたつもりはない。実物を日常的に見ているせいで、特徴を拾いやすかっただけだ。

 

「……何これ?」

 

 さやかが首を傾げる。

 

「え?」

「何の動物?」

 

 仁美も弁当を覗き込んだ。

 

「猫……でしょうか?」

 

 そこでようやく気づいた。

 

 そうだった。さやかと仁美には、もちろん伝わらない。

 

 横を見ると、まどかだけは明らかに分かっていた。弁当と俺を交互に見ながら、口元を押さえている。

 

「これって、キュ――」

 

 目を合わせる。

 

 まどかが止まった。

 

「……なんでもない」

「いや今、絶対なんか言おうとしたでしょ」

 

 さやかが即座に食いつく。

 

「な、何でもないよ」

「じゃあこれ、何のキャラなの?」

 

 今度は俺へ来た。

 

「……オリジナル」

「嘘くさ」

「即答するなよ」

「だって今、まどかと目合わせたじゃん」

 

 こういう時だけ妙に鋭い。

 

「モデルは?」

「……猫」

「耳長くない?」

「そういう猫」

「どんな猫よ」

「新種」

「逃げた!」

 

 仁美がくすりと笑った。

 

「でも、とてもかわいらしいですわ。少し不思議なお顔ですけれど」

「不思議な顔……」

 

 改めて見る。

 

 まあ、元がキュゥべえだからな。

 

「耳のところ……どうやって作ったんですか?」

 

 ほむらはまだ弁当を見ていた。

 

「チーズを細く切って、海苔重ねただけ。昨日余ってたから」

「それで、こんな形にできるんですね……」

「近くで見ると結構雑だよ」

 

 ほむらが少し身を寄せる。

 

「でも、かわいいです」

「……そっか」

 

 そこまで素直に言われると、悪い気はしない。昨日キュゥべえへリードを付けて歩き回ったせいで、何となく頭に残っていたから作っただけなのに。

 

 今度は、もう少し綺麗に作ってみようかな。

 

 そこまで考えて、ふと箸が止まる。

 

友達に弁当を褒められて、次はもっと可愛く作ろうとしている。

 

 ……馴染みすぎじゃないか、俺。

 

「田中さん?」

 

 ほむらがこちらを見る。

 

「いや、何でもない」

 

「結構似てるね」

 

 まどかが小声で言った。

 

「毎日顔見てるからな」

「田中?」

 

 さやかの首がこちらを向く。

 

「何に似てるの?」

「猫」

「だから、その猫どこにいるのよ」

 

 しまった。

 

 今日のさやか、妙に食いつく。

 

キュゥべえ。

 

 こっそり念話を飛ばすと、少し離れたところからすぐ返事が来た。

 

なんだい?

 

 普通だ。

 

 妙に含みのある間もなければ、語尾にwwも付いていない。

 

……お前、この前の冷笑個体じゃないよな?

冷笑個体?

ならいい。

 

 横を見ると、まどかが急に口元を押さえた。

 

「まどか?」

 

 さやかが怪訝そうに見る。

 

「な、何でもないよ」

 

 肩が少し震えている。

 

 たぶん思い出したな。

 

君たちが何の話をしているのか分からないけれど。

お前は知らなくていい。

 

 あの個体がどこかでまだ「ww」と喋っている可能性については、今は考えないことにする。

 

それより、今、教室に来ようとしてないよな?

ちょうど君たちのところへ行こうと思っていたところだよ。

来るな。

 

 一拍。

 

どうしてだい?

昼飯食ってるところに摩訶不思議な宇宙人が出てきたら、見えた人の食欲落ちるだろ。引っ込んでろ。

僕の姿と食欲に、どんな関係があるんだい?

あれだよ。飯食ってる時にGが出てくるようなもん。

 

 少し間があった。

 

Gというものが何かは分からないけれど、あまりいい例えではなさそうだね。

まあ、一匹いたら百匹いるとか言うしな。

僕たちと何が似ているんだい?

一匹見かけたら、だいたい近くにお前らいるところ。

それは僕たちが個体間で情報を共有しているから――

説明しなくていい。余計似てきた。

やっぱり、君の言っていることはわけがわからないよ。

 

 一瞬、あの妙に人間臭い抑揚が脳裏をよぎった。

 

……普通に言われると安心するな。

何のことだい?

分からなくていい。

 

 窓の方へ視線だけ向けると、一瞬だけ白い耳の先が見えて、そのまま引っ込んだ。

 

 ……ちゃんと言うこと聞くんだな。

 

 ◇

 

「でも、食べるのもったいないですね」

 

 いざ食事を始めようとすると、ほむらが名残惜しそうに言った。

 

「いや、弁当だから食うよ」

「そうですけど……」

「じゃ、いただきます」

 

 箸で長い耳の片方を崩す。

 

「あっ……」

 

 ほむらが本気で惜しそうな顔をした。

 

「そんな顔する?」

「ご、ごめんなさい。ただ……なくなっちゃうんだなって」

 

 さやかが横で吹き出す。

 

「ほむら、それめちゃくちゃ気に入ってんじゃん」

「えっ!? いえ、その……かわいかったので」

「じゃあ今度、田中にまた作ってもらえば?」

 

 ほむらが俺を見る。

 

 何も言わない。

 

 でも、そのまま目だけは逸らさなかった。

 

 今度は分かりやすい。

 

「……また作ろうか?」

「いいんですか?」

 

 返事が早い。

 

「うん。材料余ってたら」

 

 ほむらの表情がぱっと明るくなる。

 

「ありがとうございます」

 

 素直だな。

 

 こっちまで少し嬉しくなる。

 

 ふと、その顔を見ながら別の姿を想像した。

 

 眼鏡も三つ編みもなくなり、何十回も時間を繰り返して、必要なことしか喋らなくなった暁美ほむら。前世の記憶だと、ああいうのをクーほむとか呼んでいた気がする。

 

 もし三十周くらい先のあいつにも同じ弁当を作って渡したら、どんな顔をするだろう。

 

『……くだらないわね』

 

 とか言いながら、たぶん普通に食べる。それどころか耳の角度が少し違っただけで、

 

『前の方が似ていたわ』

 

 くらい言いそうだ。

 

 大体、想像はつくな。

 

「田中さん?」

 

 今度はほむらが少し首を傾げた。

 

「ん?」

「どうかしましたか?」

「いや。何でもない」

 

 今のほむらは、弁当一つでこんなに分かりやすく喜んでいる。その方が少し面白かった。

 

 昨日はキュゥべえにリードを付けて散歩させ、今日はその顔を弁当にして、ほむらがそれを見て喜んでいる。改めて考えると意味が分からない。

 

 それでも、画面の中で見ていた暁美ほむらが自分の作った弁当を見ている――そんなことを、いちいち特別だと思わなくなっている自分の方が、今は不思議だった。

 

 ◇

 

 弁当の話が一段落すると、話題は勝手に別の方向へ転がっていった。次の体育が持久走だとか、早乙女先生がまた朝から妙な話をしていただとか、仁美の習い事が増えただとか、さやかが上条のところへまた見舞いに行くだとか。

 

「最近、恭介が前より元気そうなんだよね」

 

 さやかがパンの袋を畳みながら言う。

 

「それはよかったですわね」

「まあね。本人は相変わらずちょっと暗いけど」

「さやかちゃん、よくお見舞い行ってるもんね」

「幼馴染だからねー」

 

 まどかが笑い、仁美も頷く。

 

 俺も普通にその会話へ混ざっていた。

 

 少し前なら、もっと違和感があったはずだ。女子の制服で女子の輪へ入り、弁当を食べながら友達の幼馴染の話を聞いている。最初の頃は何をするにも「俺がここにいていいのか」と一歩遅れて考えていたのに、今では違和感に気づく方が遅い。

 

「田中?」

「ん?」

「急に黙ったけど」

 

 さやかがこちらを見る。

 

「いや。体育嫌だなって」

「分かる!」

 

 一瞬で話が流れた。

 

こういうのでいいのかもしれない。

 

 ◇

 

 昼休みの終わり際。

 

 さやかと仁美が先に席を離れ、ほむらも次の授業の準備をしに戻った。机を元へ戻していると、まどかだけが近くに残った。

 

「そういえばね」

「うん?」

「マギカちゃん、最近ちょっと戦うの上手になったんだよ」

「へえ」

 

 俺の話だな。

 

「最初は本当に危なっかしかったんだけど、この前はちゃんとマミさんの動きも見てたし、助けてもらったの」

「そんなに?」

「うん。まだ無茶するけど」

 

 そこは否定できない。

 

「マミさんが教えてるからかな」

「そうなんじゃない?」

 

 他人事みたいに返す。

 

 まどかは少し考えるように机の端へ指を置いてから、続けた。

 

「前よりずっと頼りになるよ。なんていうか……マギカちゃんがいると、前より安心するようになったっていうか」

「……そう」

 

 面と向かって褒められるより、妙に恥ずかしい。

 

 まどかの中では、目の前にいる田中と、今褒めているマギカは完全に別人だ。なのに受け取っている俺は同じ。

 

「田中さんも」

「え?」

 

 まどかが、今度は俺の顔を見る。

 

「最近、学校楽しそうだよね」

 

 一瞬、返事が止まった。

 

「そう見える?」

「うん。最初の頃より」

 

 少し前にも似たようなことを言われた。キュゥべえに。

 

 あいつの場合は、以前より表情が増えたという観測結果だった。まどかのこれは、たぶんもう少し違う。

 

「……まあ、前よりは」

 

 結局、そう答えた。

 

「そっか」

 

 まどかはそれ以上聞かず、ただ嬉しそうに笑った。

 

 ◇

 

 放課後。

 

 俺とまどか、ほむらの三人は、そのままマミさんの家へ向かった。さやかは上条の見舞い。仁美は習い事。

 

 俺は今日は田中のままだ。

 

 それ自体は何度もあるのに、マミさんの家へ向かうと少し妙な感じがする。ついこの前まで、ここではマギカとして刀の握り方や魔力の使い方を教えてもらっていた。

 

 今日は制服姿の田中として、お茶を飲みに行く。

 

同じ相手と、二種類の人間関係を同時に続けている。

 

 改めて考えるとかなり面倒なのに、嫌ではなかった。

 

「いらっしゃい」

 

 玄関を開けたマミさんは、いつものように笑った。

 

「どうぞ。今日はちゃんと普通のお茶会だから安心して」

「普通の?」

 

 思わず聞き返す。

 

「マミさん、この前すごいの作ってたんだよ」

 

 まどかが靴を脱ぎながら言う。

 

「ちょっと凝っただけよ」

「ケーキ三種類はちょっとじゃないと思います」

 

 ほむらが控えめに付け足した。

 

「三種類?」

「全部違う味だったんです」

「それは普通にすごいですね」

「だから今日は普通よ」

 

 何故か念押しされた。

 

 ◇

 

 テーブルには紅茶と、小さめのケーキが並んでいた。

 

 普通。

 

 たぶん、マミさん基準では。

 

 ケーキの飾り付けまで妙に綺麗だけど、そこはもう気にしないことにする。

 

「学校はどう?」

 

 紅茶を注ぎながら、マミさんが俺に聞いた。

 

「だいぶ慣れました」

「そう。よかった」

「前より話す人も増えたみたいですよ」

 

 まどかが横から言う。

 

「そうなの?」

「まあ……少し」

 

 マミさんは俺の返事を聞きながら、カップを一つずつ並べていく。

 

「ちゃんと食事もしてる?」

「してます」

「自炊?」

「基本は」

「偉いわね」

「一人なんで、やるしかないですけど」

「それでもよ。無理して適当に済ませちゃ駄目だからね。食べるものって、思っているより体調に出るんだから」

 

 マギカの時とは全然違う。

 

 魔力の流し方、刀の振り方、踏み込み、姿勢、戦い方。そんな話は一つも出てこない。

 

 田中として会う時のマミさんは、少し年上の世話焼きな先輩だった。マギカとして会えば師匠になる。同じ人なのに、俺への接し方が違うのが少し面白かった。

 

 ◇

 

「そういえば」

 

 マミさんがケーキを切りながら言った。

 

「田中さんは、マギカさんとはまだちゃんと会ったことがないのよね?」

 

 来た。

 

「……ないですね」

 

 完全な嘘だった。

 

「そうなんだ」

 

 まどかが頷く。

 

「いつか紹介したいよね」

「そうね」

 

 無理です。

 

「どんな子なんですか?」

 

 一応、聞いてみる。

 

 マミさんはすぐには答えず、ナイフを置いて少し考えた。

 

「そうね……不思議な子かしら。最初は、本当にどうして今まで無事だったのか心配になるくらいだったのよ。身体能力は高いのに刀の扱いはほとんど素人で、魔力の使い方も全然分かっていなくて。目を離したら、そのまま勢いだけで突っ込んでいきそうだったもの」

「……へえ」

 

 結構ひどい。

 

 いや、事実だけど。

 

「でも、教えたことはちゃんと覚えるし、自分でも色々考えているみたい。最近は少しずつ、自分の魔法を戦い方へ組み込めるようにもなってきたわ」

 

 そこで一度言葉を切り、マミさんは少しだけ柔らかく笑った。

 

「まだ危なっかしいところはあるけれど、頑張り屋さんなのよ。だから、もう少しちゃんと見てあげたいの。せっかく私を師匠って呼んでくれたんだもの」

 

 思っていたより、効いた。

 

「……そうなんですね」

 

 それしか返せない。

 

 本人です。

 

 いつもなら内心でそう突っ込んで終わるところなのに、今日は少し違った。

 

単純に、嬉しかった。

 

 マミさんが俺のことを、そう思ってくれていたのが。

 

「マギカちゃん、ちょっと変なところもあるけど優しいんだよ」

 

 まどかも続けた。

 

「変なところ?」

 

 反射的に聞き返す。

 

「えっ」

「どの辺?」

「そこ食いつくんだ……」

 

 まどかが困った顔になる。

 

「いや、ちょっと気になって」

「えっと……急に変なこと言ったり」

「例えば?」

「キュゥべえのこと、変な呼び方しそうになったり」

 

「…………」

 

「あと、自分で変なこと言って、自分で困ってたり」

「もういい」

「聞いたの田中さんだよ?」

 

 まどかが笑う。

 

 マミさんまで少し口元を緩めていた。

 

 ◇

 

「私も、マギカさんには助けてもらいました」

 

 それまで静かに聞いていたほむらが口を開いた。

 

「最初に魔女の結界へ入ってしまった時、私を守ってくれて……あの時、マギカさんが来てくれなかったら、たぶん私は」

「暁美さん」

 

 マミさんが少しだけ優しく遮る。

 

「今は無事だった。それでいいのよ」

「……はい」

 

 ほむらは小さく頷き、紅茶のカップへ視線を落とした。

 

 少し間を置いてから、今度は俺を見る。

 

「でも、田中さんにも助けてもらってます」

「私?」

「学校で。私、まだクラスに慣れてなくて……鹿目さんにもたくさん助けてもらってますけど、田中さんも声をかけてくれたり、分からないことを教えてくれたりするので」

「そんな大したことしてないよ」

 

 ほむらは一瞬迷ったあと、首を横に振った。

 

「私には大きいです」

 

 真っ直ぐ言われた。

 

「……そっか」

 

 二人分の感謝を、一人で受け取っている。

 

 マギカへ。

 

 田中へ。

 

 ほむら本人は、それぞれ別の相手へ感謝しているつもりだ。

 

 それ、両方俺なんだけどな。

 

 少し笑いそうになった直後、妙な感覚が残った。

 

田中とマギカを、本当に別人みたいに感じ始めているのは、もしかしたら俺も同じなのかもしれない。

 

「田中さん?」

 

 まどかがこちらを見る。

 

「ん?」

「どうかした?」

「何でもない」

 

 今は、それでよかった。

 

 ◇

 

 それからは、本当にどうでもいい話ばかりだった。

 

 マミさんの料理の話。まどかの家では母親が朝から元気すぎるという話。ほむらがまだ校舎の階段を時々間違える話。俺が一人暮らしで洗濯物を溜めすぎて困った話。

 

「それは溜めない方がいいわよ」

「分かってるんですけど」

「田中さん、この前も同じこと言ってた」

「まどか、余計なこと覚えてるね」

「覚えてるよ」

 

 何でもない会話だった。

 

 魔女も、願いも、ソウルジェムも、誰かの生死も関係ない。ただケーキを食べ、紅茶を飲み、思いついたことを話して笑う。

 

 いつの間にか日が傾き、窓から差し込む光の色が変わっていた。それでも誰も、すぐに帰ろうとはしなかった。

 

 ◇

 

「また、みんなで来ようね」

 

 マミさんの家を出て少し歩いたところで、まどかが言った。

 

「うん」

「はい」

 

 俺とほむらが、ほとんど同時に返す。

 

 まどかは、それだけで嬉しそうに笑った。

 

 交差点でマミさんと別れ、少し先でまどかとも別れる。

 

「また明日ね」

「また明日」

 

 ほむらとは、もう少しだけ同じ道だった。

 

「今日は楽しかったです」

「うん」

 

 少し歩いてから、ほむらがまた口を開く。

 

「田中さん」

「何?」

「お弁当……」

 

 一瞬、何のことか分からなかった。

 

 それから気づく。

 

「ああ。あれ?」

 

 ほむらが小さく頷く。

 

「そんなに気に入った?」

「……少し」

 

 少し、の言い方ではなかった。

 

「じゃあ、また作るよ」

「本当ですか?」

「材料余ってたらね」

 

 ほむらの顔が目に見えて明るくなる。

 

「ありがとうございます」

「大げさだな」

 

 分かれ道まで来た。

 

「じゃあ、また明日」

「はい。また明日」

 

 手を振ると、ほむらも小さく手を振り返した。

 

 そのまま、一人で家へ帰った。

 

 ◇

 

「ただいま」

 

 玄関へ入る。

 

 返事はない。

 

 それでも、もうこの言葉を口にする時の違和感はほとんどなくなっていた。

 

 制服を着替え、夕飯の準備をしようと冷蔵庫を開ける。卵、ウインナー、チーズ。海苔もまだ残っている。

 

 明日の弁当、何にしよう。

 

 また、あいつでも作るか。ほむら、結構気に入ってたし。今度は耳をもう少し綺麗に切ろう。

 

そんなくだらないことを考えながら、俺は冷蔵庫を閉じた。




最近モニターの調子が悪いのですが、格闘しながら投稿しています…
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