メディアさん奮闘記   作:メイベル

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幕間 遠坂凛 中編

 セイバーと合流後に間桐邸へとやってくると、敷地に入るまでもなく異常が見受けられた。在るべき筈のモノがなかったのだ。

 

「強力な人払いの魔術の残滓は感じるけど、結界の類が一つも感じられないわね」

 

 魔術師の住む屋敷に結界の一つもないはずがなく、それが無いと言う事が昨夜に何かあった事の裏付けとなる。実体化したアーチャーに眼をやると頷きが返ってきた。

 

「衛宮君はセイバーから離れないように。行くわよ」

 

 衛宮君とセイバーに付いて来る様に促し、人気のない間桐邸の敷地に入る。すると強烈な不快感に襲われ眩暈がした。

 

「遠坂!?」

「あ、衛宮君スト――――あ~……」

 

 顔に手を当てふらついた私を心配して衛宮君が駆け寄ってきたのだが……。敷地に入った彼も案の定同じ目に遭ったようだ。そうならない様に止めようとしたが、迷いなく私に駆け寄ってきたので間に合わなかった。

 

 外からでは分からなかった何かしらの強力な魔術――おそらく呪詛の類――が敷地内に掛けられていて、その影響で眩暈がしたようだ。受ける感じからすると対象が人ではないから害はないでしょうけど、それでも眩暈がするほどの不快感を受けるのは驚きだ。

 

 自分が対象の魔術ではなかったからとは言え、気づかなかった事は反省するとして。

 

「衛宮君、良い? 私とアーチャーが前衛、貴方とセイバーはバックアップ。それと今みたいに私に何かあっても考えなしに突っ込まない事。反論はなし」

 

 迷う素振りも見せずに駆け寄ってきた衛宮君に注意はしておこう。

 

「でも遠坂」

「衛宮君」

 

 口を開いた衛宮君を睨むように見つめ黙らせる。すると彼は渋々と言った感じでだけど口を閉じた。

 

 力不足は自覚している癖に、それでも咄嗟に私を心配して駆けつける彼の善性は好ましい。しかしそれでは今後無事では済まない。同盟している関係上、衛宮君に何かあっては困るのだ。

 

 ふと、同盟に反対しているアーチャーが衛宮君の行動に皮肉の一つでも言うかなと彼を見たのだが。

 

「アーチャー?」

「ん? どうしたマスター?」

 

 私達の事には目もくれず間桐邸をジッと見ていたアーチャー。敵が居るかもしれない場所だから警戒しているのは分かるが、同盟を反対し衛宮君に厳しい言葉を浴びせていたアーチャーが、先ほどの衛宮君の行動に対して何も言わないのは何故だろう。

 

 私の知らない内に衛宮君と和解した……わけがないわよねぇ。

 

「何でもない。慎重に進むわよ、アーチャー」

 

 まぁ今のアーチャーの態度のほうがサーヴァントとして正しい。マスターの意見に反対して、同盟関係の相手に皮肉を言ういつもの方がおかしいのだから、気にする必要はないか。

 

 洋館の入り口に向かいながらチラッと背後の衛宮君を見る。衛宮君の桜を心配している真剣な雰囲気が、誰かさんに似ているのは気のせいなのかしらね。

 

 

 

 

 

「お、お前らなんで来たんだよ! 僕はもうマスターじゃないんだっ! お前達とは関係ないんだ! 帰れよ!」

 

 屋敷に入り人の気配がすると言うアーチャーの先導に従い二階の一室のドアを開けると、そこには怯えた声で叫ぶ間桐慎二が居た。

 

「落ち着け、慎二。俺達は桜や慎二に何かあったかもしれないから心配で来たんだ」

「嘘をつくな! サーヴァントを連れて僕に仕返しに来たんだろう!」

「違うって、話を聞いてくれ」

「うるさい! くそっ! くそっ!」

 

 喚き散らし部屋の中の物を投げつけてくる間桐君。それに対して飛んでくる物を律儀に受けたり避けたりしつつ説得らしき事を行っている衛宮君。

 

 その様子をサーヴァントの二人は見守っている。もしかしたら関わりたくないだけかもしれない。間桐君の醜態は見るに耐えないし、衛宮君の真面目っぷりはどこかずれている。聖杯戦争に関わる事態のはずがまるで喜劇だ。

 

 事態を進展させるには私が動くしかないようだ。盛大にため息をついてから間桐君へ指を向ける。魔術刻印を起動させ指差しの呪いを発動させる。

 

「ひぃぃ!?」

 

 狙い違わず喚く間桐君の顔を掠め、彼の背後の壁にガンッと黒い呪いの塊がぶつかると場に静寂が訪れた。静かになった部屋の中で、間桐君は自分の頬に手を当てながら後ずさり壁に背が当たると尻餅をついた。

 

 目を見開き口を半開きにしている彼に近づき、彼の顔の真横の壁に脚をドカンと叩きつける。

 

「間桐君、貴方は余計な事を喋る必要はないわ。羽虫の羽音は煩いもの。昨夜あった事を言うだけでいいの」

「は、羽虫……? 僕が羽虫だって! ひっ!?」

 

 再び小うるさくなりそうだったので左足で再度壁を踏みつける。魔力も禄に感じさせず魔術師とは思えない彼は、マスターであるが一般人でもある。そんな間桐君に分かりやすい形の脅しとして。

 

 立場を明確にする為に床に座り込む様を見下ろしていると、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「き、昨日キャスターがうちに攻めて来たんだ。さ、最初は獲物が向こうからやってきたって喜んでいたのに、気づいたらライダーがあいつのサーヴァントにされて、偉そうな事を言ってたうちの爺さんもあっさりやられて……。あんなに偉そうにしてたのにあっさり死にやがった! ライダーの奴も裏切りやがって! 何で僕が! 使えないライダーなんかがサーヴァントだったばっかりにさ! くそ! ふざけやがって! くそ!」

 

 下を向き誰を見ることもなく淡々と語っていたかと思えば、途中から半狂乱になって喚き散らす。キャスターに襲われ祖父を殺され、言うとおりなら頼りにしていたはずのライダーを奪われた。聖杯戦争に臨む魔術師としての覚悟がなかった彼は、今も混乱の只中に居るのでしょうね。

 

「慎二、桜はどうしたんだ?」

 

 衛宮君が静かな声で問いを投げかける。その声音にはある種の思いが篭っていた。私も同じ思いを抱いて間桐君の返答を待った。

 

「ふ、はは、桜? 桜がどうしただって? 死んだよ! 死んださ! 当然だろ! あんな役立たず! キャスターに心臓を抉り出されたんだからなぁ! あはははははは」

 

 間桐君の話の途中から少しは覚悟していたが、言葉にされると思っていた以上にきつかった。胸の中の感情を抑え込もうとするが上手くいかない。悲しいのか悔しいのか分からずに、目の前の狂ったように嗤う間桐君に感情をぶつけてしまう、

 

「黙りなさい!」

「ひっ!? ひ、ひひ、ひひひひはははは。サーヴァントが居なくなった僕と違って、お前達はキャスターに狙われる。そして惨たらしく殺されるんだ。ザマーみろ!」

 

 ふざけた事を言う目の前の男に指差しの呪いであるガンド撃ちを行う。ガンガンガンと壁を抉る音が響いた後に、込み上げる感情を無理矢理押さえつけた。

 

 同情でも憐れみでもなく、魔術師としての義務感のみで口を開く。

 

「例えサーヴァントが居なくなってもね、マスターであった事実は消えないわ。本気で聖杯を狙うマスターなら、万全を期す為にサーヴァントを失ったマスターだとしても始末するでしょうね」

「は? なんだよそれ。ふざけるな!」

「命が惜しかったら冬木教会に駆け込むことね。聖杯戦争の監督役が、戦いを降りたマスターの保護をしてくれるわよ」

 

 言う事を言って背を向け部屋を出る。背後で聞くに堪えない叫びが聞こえるか無視して進む。アーチャーや衛宮君達も続いてくるのを気配で感じ、顔を向けずに語りかける。

 

「屋敷内に遺体がないか探すわよ。遺体の状況を見ればキャスターの手の内が少しは分かるかもしれないし――」

「遠坂!」

 

 私の言葉を遮り、名前を呼んで肩を掴み私を振り向かせた衛宮君が強い視線で見てきたが、すぐに視線の強さが弱まっていく。

 

「何かしら? 衛宮君」

「いや……悪かった。なんでもない」

「そう。じゃあ、すぐに行動するわよ」

 

 キャスターの手の内を探る為に足を進める。遺体を見つけ、私達が有利になる何かを見つける為に。そう自分に言い聞かせて体を動かす。

 

 その後、地上の邸宅部分だけではなく地下の魔術工房も見つけ捜索したが遺体はなかった。遺体ではなく、魔力を根こそぎ奪われ塵と化した何かの残骸は見つけられたが。

 

 弔うべき妹を見つける事は出来ず、間桐邸を跡にした。

 

 

 

 

 

 買い物を済ませ、衛宮君の家に着いてすぐにキッチンへと向かう。男の一人暮らしにしては妙に綺麗で驚いた。掛けてあったエプロンを手に取って着込み、早速とばかりに調理を開始する。

 

「腹が減っては戦は出来ずってね。衛宮君、少し待っててね」

 

 気軽な調子で声を掛けると、衛宮君は苦笑と共に言葉を返してくる。

 

「遠坂に作ってもらうのは、なんだか悪い気がするけど」

「同盟関係なんだし、場所の提供は衛宮君がしてるんだから料理は私が作らなきゃダメよ」

 

 手馴れた中華料理を作っていく。帰宅中に中華は辛いと言っていた衛宮君の認識を改めさせる為に、辛くない物を中心に。どこかの陰険な兄弟子が好む中華料理だけが中華の真髄ではない事を広めなくては。

 

 大量に買ってきた材料を使い、気づけば数多くの品数がテーブルに並んでいた。衛宮君に作りすぎだと止められるまで気づかないのだから、自覚せずにかなり熱が入っていたようだ。

 

 調理器具を軽く洗って片付け、居間へ移動すると何故か藤村先生が座っていた。私を見た藤村先生は見るからに動揺し、衛宮君に面白おかしく絡んでいる。「セイバーちゃんは仕方ないにしても、早退した上に遠坂さんまで連れ込んでいるのはどういう事~!」と雄叫びを上げていた。

 

「藤村先生、衛宮君は具合が悪い私に付き添って早退してくれたんです。おかげで体調も良くなったので、お礼に夕飯を作っているだけですが、藤村先生は衛宮君が下心を持って女子を家に連れ込むと思っているんですね?」

「そんな事はないけど~、でも士郎も一応男の子だし~」

「一応って……。藤ねぇ」

「ん~、まぁセイバーちゃんも居たなら大丈夫だと思うけど」

「えぇ、誓ってシロウに不純な動機はなかったかと」

「そっかぁ。士郎もまだまだ切嗣さんほどの甲斐性はないかぁ」

「なんでセイバーの言う事なら素直に納得するんだ」

 

 そんな風にちぐはぐな会話をしている内に落ち着いた藤村先生を含め4人で夕食を食べた。食事中にも関わらずいたずらをする藤村先生。その先生のいたずらにいちいちリアクションをする衛宮君。そして食事が不要なサーヴァントの癖に一心不乱に大量の料理を食べ続けるセイバー。

 

 いつも一人での食事ばかりな私には、騒がしい食事風景は新鮮に見える。知らずに笑って3人を見ていたら笑い返された。セイバーだけは顔を赤くして目を逸らされたが。

 

 食事が終わると藤村先生は衛宮君に私を家に送って行くように言い、その後「葛木先生に頼まれた仕事があるのだ~」と叫びながら原付に乗って去って行った。教師の割りに奔放な人だと思う。

 

 突然の来訪者が去り、食後のお茶を飲んでいると衛宮君が私を見つめていた。私が見返しても視線を外さずジッと見つめてくる。

 

 何かしら――――と聞こうとしたら先に口を開かれた。

 

「遠坂、俺は魔術師としては強化が少し出来るくらいの半人前も良いとこだ。同盟関係って言っても、セイバーはまだしも俺自身は遠坂の力になれるかは分からない。それに桜と遠坂がどんな関係だったか本当の所を察したりも出来ない。上手い言葉で慰めたりも無理だ」

 

 そこで一旦言葉を切って目を閉じる。目を閉じた衛宮君は悩んでいるように見えた。少しの間、カチカチと時計の音だけが響いた。

 

「だけど話を聞くくらいなら俺でも出来る。だからそんなに無理をしないでくれ」

 

 目を開いた衛宮君はそんな言葉を言ってきた。

 

 魔術師の癖に他の魔術師に魔術が強化しか出来ない事を平然と言い、役に立つか怪しいと自ら言う。その癖、話を聞くくらいは出来るなんて、私を気遣うような事を言ってくる。桜と私の関係を察したり出来ないって言う癖に、間桐邸を跡にしてからずっと私を優しく扱って――――――。

 

「なんで、あんたは……」

「と、遠坂!? 悪い。余計な事を」

「うるさいっ! 話を聞くって言うなら、ちゃんと聞きなさいよ!」

「あぁ、分かった。ちゃんと聞く。だから今は」

 

 しっかり泣いとけ――――と、優しい声が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 年甲斐もなく泣いてしまったけれど、泣き終わるとすっきりした気分だった。

 

 そして顔を上げたら自然とタオルを渡され、お茶を新しく注いでくれて、温かいお茶を飲んで深く息を吐いてから衛宮君を見ると、柔らかな眼差しで見られている事に気づく。

 

「弱ってる相手に優しくして篭絡するなんて、衛宮君って女たらしなのね」

「べ、別にそんなつもりだったわけじゃ」

「冗談よ」

 

 顔を赤くして慌てた彼を見てつい笑ってしまう。なんだかすっかり衛宮君に心許してしまっているみたいだ。自分で言った事がそのまま今の自分に当て嵌ってしまっているのは癪だが、元々嫌いじゃなかったから仕方ない気もする。

 

 衛宮君が夕暮れの校庭で、何度も何度も一人で飛び超えられない走り高飛びに挑んでいたのを見た時から気になっていた。これも運命なのかしらね。そんな風に思う自分をらしくないなと思う。

 

 顔を赤くしたままの衛宮君に、私達を微笑んで見ているセイバー、そして念話で繋がっているアーチャーへ向けてゆっくりと口を開く。

 

「妹、だったのよ」

「妹?」

「えぇ、妹、だったのよ」

 

 誰が、かはお互いに言わない。

 

 衛宮君は何故間桐の家人が遠坂の私の妹なのか聞きたいでしょうに、疑問を口に出す事無くしっかり私が話すのを待ってくれた。

 

「簡単に説明するわね。遠坂と間桐、それとアインツベルンって国外の魔術師の家系。この3つの家は協力して聖杯戦争のシステムを作り上げた。その関係で遠坂と間桐には昔からの付き合いがあったの」

 

 前提とする関係を軽く説明する。聖杯戦争については説明済みだけど、遠坂や間桐について説明はしていなかった。これについても聞きたい事はあるでしょうに、口を挟まず真剣な目をして言葉を待ってくれている。

 

「元々間桐は外国の魔術師の家系で、冬木の聖杯のシステムを作るのを機に日本に移り住んだの。でも冬木の土地が合わなかったのか、徐々に魔術師として衰退していった。そして慎二の代で魔術師としての間桐は廃れた。彼には魔術回路がないのよ。だからあいつがマスターだとは露ほども思わなかったんだけど、っと、話が逸れたわね」

 

 私が優等生らしくなく慎二と呼び捨てにしても、衛宮君は一切変化がない。泣いてる所を見たんだから、今更その程度は気にしないのだろうか。私も素で話せるので気が楽だけど、そう思う事が少し気恥ずかしい。

 

「そんな状況を憂いた間桐の当主から、先代の遠坂の当主へ打診があったの。娘を一人養子にくれないかってね」

「それが桜だったって訳か」

「えぇ。廃れた間桐に遠坂の血を入れ魔術師の家として再興させる為、桜は養子に行ったの。だからその時から私と桜は姉妹ではなくなったんだけど……」

「養子に行ったかどうかなんて関係ないだろ。桜が間桐桜になったとしても、遠坂凛とは姉妹じゃないか」

 

 魔術師の家と言うのは代々伝わる魔術を他家に漏らさず、たとえ同じ家系の者でも後継者とその他の者では伝えられる魔術には天と地の差がある。それが家を出た者となれば、敵とは言わずとも自家の秘術を守る為に縁を切るのは当然の事だ。

 

 だから魔術師の常識では衛宮君の言う事は筋違いだ。だと言うのに私の口からは魔術師らしくない言葉が出ていた。

 

「……ありがとう」

 

 言ってから自分の頬が真っ赤に染まるのがわかる。先ほど冗談でたらしと言ったが、案外こいつは本当にたらしなのではなかろうか。言って欲しい事を言ってくれるし、意外と気が利くし、しかもそれに他意がある訳じゃないから安心できてしまう。

 

 今回の事とは関係ないが、誰にも言えなかった思いが口に出た。自分らしくない感情を誤魔化す為もあったかもしれない。

 

「遠坂と聖杯戦争の関係は深いわ。前回の聖杯戦争、第4次聖杯戦争では前当主の父が参加して亡くなったわ。母もその最中に一時行方知れずになって綺礼が、えっと、聖杯戦争の監督役が見つけてくれたんだけど、結局亡くなったわ。残った唯一の家族の桜も……」

 

 家を出た妹を家族と言うのは魔術師としてはやはり正しくない。でも亡くなった今は遠坂も間桐も魔術師の家柄も関係ないわよね。こう考えるのは誰かさんの影響かもしれないけど。

 

 沈黙が部屋を支配する。話し終えて区切りがついた私には、その時間がまるで黙祷をしているようだった。

 

「俺も、昔家族を失った」

 

 静かな時を衛宮君の声が動かす。その声を聴いて、衛宮君も私が話したように自分の事を話すんだと分かった。

 

「10年前の大火災で家族を失った。俺も本当はその時に死ぬはずだったけど、助けてくれた人が居てさ。実は衛宮ってのは、その時に助けてくれた人の苗字で、行く当てがなかった俺に一緒に来ないかって言ってくれた。だからその人の養子になったんだ。養父になった親父、切嗣は魔術師の家系だったらしいけど、俺は元々一般家庭で育ったから魔術師としては――」

「待って、衛宮君」

 

 自分の事を話してくれるのは今は嬉しいし、もっと聞いていたいとも思った。しかしそれ以上に伝えなければいけない。真実を知る者として伝えなくてはいけない事を伝える。

 

「10年前の大火災は、聖杯戦争が原因よ」

「そう……なのか?」

「綺礼が言っていたわ。聖杯にふさわしくないマスターが聖杯に触れた為に起こった大火災だって」

 

 衛宮君が魔術師らしくない理由の一端は分かった。一般家庭で生まれて、本来は魔術に関わりがなかったはずだったからだと。その彼が聖杯戦争が原因で起こった災害で家族を失い、魔術師に救われ、現在マスターとして聖杯戦争に参加している。因縁、なのかしらね。

 

 私の言葉を受けて、衛宮君は厳しい顔をして何かを考えているようだ。災害の当事者であるし、聖杯戦争に対して過去に関わりがあった事で思う所があるのだろう。

 

 話を聞いていたセイバーも顔を歪めて居た。英霊であるセイバーも聖杯戦争が原因である災害を快く思ってないのだろう。

 

「聖杯戦争が10年前の火災の原因だと言うなら――」

 

 考えが纏まったのか、衛宮君が話し出した。私とセイバーは彼に視線を向ける。

 

「それが二度と起こらない様にしたい。それにマスターだから、関係者だからって遠坂の両親や桜や慎二の爺さんのような犠牲者がこれ以上出ないようにしたい」

 

 衛宮君の決意の言葉に頷きを返す。聖杯自体には興味はなかった。遠坂の魔術師の義務として勝利のみを求めていた。それが間違っていたとは思わない。けれどもう一つ目的が加わる。

 

「衛宮君、セイバー、それにアーチャー。これ以上犠牲者を出す事無く、私達が聖杯戦争の勝者になるわよ」


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