「ふむ、ログポースも明日には溜まるのか」
明日には出航だな。麻痺したライラの腕も、少しは動けるようになった。出航しても大きな問題はないだろう。ふー、この島の海賊達には本当に助けられたよ。礼も言わずに去るのが申し訳ないな。
「して、そちはこれからどうするつもりじゃ?」
「む?どうするって、何がだい?」
少し感慨に浸っていたら、イレーナから話しかけてきた。今日はイレーナの部屋で話している。なかなかに良い部屋だ。マリーナス島の屋敷の雰囲気に似ている。こういうのが好きなのだろう。周りの幽霊の使用人達も部屋に馴染んでいるね。あと、このベリーもなかなかに美味しい。金じゃないよ?食べ物のベリーだよ?
「目標じゃ。そちが海賊になった理由は聞いたが、何をするのかは聞いておらぬからのう」
「ああ、確かに言ってないね。すまない。最初に言うべきだった」
「よい。過ぎたことじゃ。妾も聞いてなかったしのう。それで、何をするのじゃ?」
うわ、そういや言わなかったか。あの時はグランドラインへの準備で忙しかったけど、こんな大事なことを忘れるとは…。イレーナは気にしないと言ってくれたけど、次からは気をつけないとな。
「まずは、私達が今までしていた活動だが、翡翠の輸送船の略奪なのは知っているよな?」
「うむ。新聞でもそれは書かれておったな。だが、そちの身分を聞いたら少し疑問に感じるのう」
「祖国の翡翠をただ略奪するだけでは、今までとは変わらない。ということかい」
「そうじゃ。天竜人に持っていかれようが、そちに略奪されようが、同じく王国には利がない。まさか、政府に行かなければいい、とは言わんじゃろう」
「それはないな」
そう見えるのかな、やっぱり。ならば上手く隠すことが出来たのだな。これは嬉しいことだ。
「私達が略奪した翡翠の扱いは主に3つに分けられる」
まず、一部はそのまま王国に戻す。勿論バレたら困るので密かに。次の一部は闇市に流す。闇市に流すことで王国に戻る翡翠の目眩ましになる。そして、これで手に入る金は一部を王国に流す。同じく、バレないように気をつけてな。
「なるほどのう、確かにそれなら王国にも利があるか。して、残りはどうするのじゃ?」
「勿論決まっているだろう。私達が貰う」
残った翡翠と闇市で手に入った金の残り。これらはそのまま私達が使う。海賊って金が必要なんだよねぇ。特に私達は人数も多いし、金はあればあるほど良い。
「よいのか?仮にも王族だった者が、祖国の物を私的に使うなど」
「いいんだよ。出る前に父上にも許しを得ている。すべてが戻るとか、誰も思ってないさ」
天竜人に行くのを防ぎ、一部だけど王国に戻る。それで充分さ。高望みは身を滅ぼすものだよ。
「つまり、そちの目的はあくまでも、政府に対する略奪という訳か」
「そうさ。最初に言ったろ?」
「しかしそうなると、疑問、いや心配になるのじゃが。政府がそちと王国の繋がりにいつまでも気付かぬとは、到底思わんのだが」
「だろうね。いつ気付いてもおかしくはないね」
政府も無能ではない。諜報機関も存在してるし、私と王国の繋がりは疑われない方が難しい。いや、すでに知っている可能性が高いな。
「その割には、心配が一切見えぬのじゃが」
「まあ、そりゃあね。心配する必要がないからさ」
「どういう意味じゃ?」
「簡単さ。忘れたのかい。リバースマウンテンの山頂のこと」
「山頂?それがどうしたと……いや、そうか。そういうことじゃな」
おお、流石イレーナ。気づくのが速いね。あの時、リバースマウンテンの山頂で集めた風により、普段以上の風を操れた。山頂のような高度では下より風が荒れ吹いていて、いつも以上に集められる。おかげで能力の出力も上がる。カゼカゼの実の高度での脅威は計り知れないのだ。
「そして、天竜人達が住む場所もまた山頂」
「王国を攻め滅ぼしても、そちが捕まってないなら意味がない訳じゃな」
「そういうこと。彼らも無闇に自分達の根城に危険を齎したくはないだろう」
私1人でマリージョアを攻め落とせる、とは言えない。だが、少なくとも多くの天竜人がレッドラインから吹き飛ばされることになるだろう。遠くから嵐を作って飛ばし続けるだけで充分だ。それを知っているがゆえに政府は王国を滅ぼすことは出来ない。ヤツラが選べる手段は王族としてではなく、海賊である私を犯罪者として捕まえること。私を王族として扱って捕まえるとするなら、それは即ち王国に対する戦争になる。私も手段を選ぶ必要がなくなるということだ。
「おそらくだが、私達をグランドラインへ追い出したのは、その辺りの事情も含まれていただろう」
「なるほど。そちと王国を離し、繋がりを絶つためか」
「確証はないけどね」
私と王国の間の繋がりを絶つ。王国から送られる情報を止め、翡翠の輸送路を守るため。そして、私と王国との関係を隠すためでもあるだろう。この事実が世界に知られたら、政府としても王国を攻めるしかなくなる。戦争が起これば、私も王国を守るために動かざるを得ない。そんな結果は私も政府も望んではいない。だからこその、此度の作戦が行われたと考えられる。
「まあ、これが今まで起きたことへの説明かな。それで、これからの話だったな」
「うむ、そうじゃったな。少々、意外な話が出たので忘れておったのう」
うん。それは私のせいだな。もっと早く言うべきだった。
「私達の目的は変わらない。政府に対する略奪と翡翠の輸送路の略奪」
「だが王国との繋がりが絶たれたのじゃ。輸送路の位置を把握できるのか」
「その辺りは問題ない。情報源がある。ある程度の信用も出来る者さ」
闇市の関連者だけど、かなり優秀な者なんだ。完全な味方ではないが、利用出来る者ではある。
「だが直ぐにではない。政府に納められる物の輸送経路はレッドライン付近。そこまで行かないとどうにもならない」
「ほお、流石にそれくらいは把握しておるのじゃな」
そりゃあね。何なら一度通った経験もある。幼い頃、父上に付いてレヴェリーに参加した時に。初めての参加に胸を躍らせたが、そこで目撃したのはゴミどもの住まう巨大なゴミ箱だった。ガッカリにも程がある。
「とにかく、まずはレッドラインの近く。たしか、シャボンディ諸島だったか?そこを目指すのが先決だな」
「ならば、ログポースを辿るしかおるまいのう。エターナルポースも持ってはおるが、流石の妾でも海図はないのじゃ。どれが近いかなど判断できまい」
「当然、ただ辿るだけじゃない。途中で手に入った情報によっては、寄り道もあるだろう」
「ふふ。それは楽しみじゃのう。期待しながら待つとしよう。うふふ」
そう言いながら、イレーナはテーブルのベリーを一つ摘んで食べる。小さく赤いベリーが、イレーナの艶やかな赤い唇の中へと消える姿は、とても美しく、一幅の絵のようだ。うーん。ずっと見ていたくなるねぇ。あっ、こっち見て笑った。なるほど、自分の顔に自覚があるタイプか。これはこれでいい。
「真面目な話はこれで終わりかな。ここからは楽しい話をしよう」
「ふふ、そうじゃのう。妾の美しさについてでも語りたいのかえ?」
「それは終わらなさそうだから、やめとくよ。そうだな……ああ、そういや私の木彫り工芸が、なかなかにいい値段で売られてね」
「ほう。それは大したものじゃな。確かにそちの作った物はどれも素晴らしい出来であったな」
こうして真面目な話は終わり、イレーナと雑談をしながら時間を過ごす。イレーナはこの船でも数少ない、芸術に関して話し合える存在である。そんなイレーナと話せるこの時間は、とても楽しく大事な一時である。
出航する前の最後の休み。今日は心ゆくまで語り、楽しく過ごそう。
明日から始まる、行く先の見えない遠い道を進むために。
ーーーーーーーーーー
「さぁ、会議を始めるさね。全員集まってるかい」
グランドラインの入口近くの海軍基地。そこでアタシ達、ジェイド海賊団追跡部隊が本格的に動き始める前の最後の会議をしようとしている。ウィースもアンナもいるね。全員参加さね。
「まず、私から先に提案があります」
「何だい。提案って?」
「この一帯でのジェイド海賊団追跡はやめ、他の場所に移動することを提案します」
会議が始まってすぐ、アンナからやめようと提案された。理由はわかるさ。どの島かも分からないんじゃ、どうしても時間がかかりジェイド海賊団が逃げてしまう。
「移動って…どこへだい?」
「ここより先に進んだ場所。そして、私達追跡部隊が留まっても問題ないほどの経済力があり、島や街も大きい場所です」
なるほど。ジェイド海賊団より前の場所で待機し、ヤツラが動くのを待つのかい。ジェイド海賊団の活動は政府に対する略奪。どうしても目立ってしまう。待機してヤツラの報告が入り次第、移動を開始すると。そしていつになるか分からない以上、待機地の場所も検討が必要さね。
「ボクも賛成だヨ。無意味に彷徨うなど美しくなイ」
「それじゃぁ、その場所の検討さね……アンナ、すでに候補は決まっているかい?」
「ええ、勿論です。その上での提案でしたので」
ほぉ、立派だねぇ。会議に参加もしない、どこかの犬も見習って欲しいねぇ。
「それで、場所は?」
「はい。候補として必要な条件には、経済力や大きさもありますが、もう一つ大事なことがあります」
「なんだい、それは?」
「戦力です。私達はジェイド海賊団の追跡が任務。ですが海軍である以上、海賊がいればそれを捕まえるのもまた、私達の仕事です」
「そうだネ。任務があると言って他は手を抜くなんて、美しさが欠けるヨ」
ごもっとも。特に待機地でそんなことをしたら、そこの住民達からどんな目で見られるか…。
「しかし、それでもやはり、私達の任務はジェイド海賊団です。なら、他のことに気を向くのは合理的ではありません」
「なるほど、だから戦力かい」
「はい。私達に代わって、その地で起こるすべての厄介事を任せられるほどの戦力。それが必要なんです」
そうなるとかなり候補は絞られるねぇ。巨大で、豊かで、戦力もある島。そして、ここからそれほど離れていない場所。ジェイド海賊団との距離が離れすぎるのは良くない。この条件を満たす国は一つしかない。それは――
「つまり、私達が向かうべき場所は――」
砂漠の国。アラバスタ王国。
これで後日談も終わり。次新章です。ここまで読んでくれて、本当にありがとう!
次回からは更新ペース、落とすことになります。
設定は細部のやつを出しとくか。
好物
ユリウス
ヴルストを使った料理。海賊になった後はザウアークラウトも好物。
最近王宮の食事にもザウアークラウトを出して良いのではと、割と真剣に思っている。
干し肉?無い無い、諦めろ。
ルッツ
干し肉。
昔、王宮に入る前に主に食べていたが、王宮で暮らし始めてからは食べるのをやめる。
王宮の高級食にも慣れた頃、口直しにと久しぶりに食べた干し肉が、案外口に合った。それ以来また食べるようになり、そのまま好物になった。
王宮の食事に出しても良いのではと、密かに思っている。
ライラ
鶏むね肉の料理。
食感が好み。焼いても具にしても美味しい。
イレーナ
果物料理、サラダ料理
特に好きな果物はベリー類。