【アリスルール・オンライン】18歳童貞だけど現実の才能で決まるスキルが【魅了】だった件。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ? 作:ひきさん
それからミナエルは、静かにその場を去っていった。
それも自然なことだろう。
彼女の本来いる場所は、ここではなく、この初心者の階層より遥か上、第200層のグランセリアなる都市なのだから――
残った物は、静謐で、それでいて強烈な、たしかな恋心だけだった。
俺はしばらく放心していたが、やがて正気を取り戻し、元の目的である錬金素材の収集に戻った。
硝子の湖の砂浜には、時々鉱石が露出しており、薬草なども生えていた。
時折見つかるそんな鉱石や薬草たちに触れると、アイテムボックスにそれらが採取されていく。
地道な工程を繰り返しながらも、俺の脳裏を占めていたのは、先ほどの女の子、ミナエルのことばかりだった。
200層、か。
あまりに遠い目標に思える。
だが、あの子にもう一度会うためなら――
あのアリスルールにそっくりな少女に会うためなら――
少女は、いくらなんでも美しすぎた。
天使のごとき、女神のごとき、非現実的な美しさ。
通常の人生では到底みることのできない、純白の絹糸のような長髪。
神を宿したような美しい紫色の瞳。
そして、あの瑞々しい唇が触れたときの、至福をもたらす柔らかさ――
ずっと、ずっとずっと、先ほどのあのキスの瞬間の、少女の全てが流れ込んでくるような体験が、頭を離れない。
あれは、なんだったんだ――
あれが、ただのNPCなんてこと、あるのか――?
果たしてこれは、本当にただのゲームなのだろうか――
ぐるぐると回る思考に絡み取られて、採集作業は完全に無意識で行われていた。
≪鉄鉱石≫、≪銅鉱石≫、≪鉄鉱石≫、≪銀鉱石≫、≪硝子≫、≪硝子≫、≪ハバナ草≫、≪ディル草≫、≪香草≫、≪ブルリア草≫、≪鉄鉱石≫――
気付けば、結構な数のアイテムが集まっているが、俺の心に喜びはない。
あるのは、ただ焦燥と飢餓だった。
早く、またあの美しい少女を一目見たい。
あの少女と口づけするあの絶頂を再び味わいたい――
そんな強い欲望が、俺の全身を支配して、そこから一歩も抜け出せそうになかった。
俺は、あの少女、ミナエルに、そしてミナエルが恋しているであろうアリスルールに、完膚なきまでに恋していたのだ――
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<≪ひさきちゃんねる≫からメッセージが届きました!>
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急に届いた火咲からのメッセージの知らせに、ハッと現実に帰る。
――なんの用だ?
そう思い、メッセージを開いてみると――
≪いろいろ研究関連で面白い発見があってさ! ツキトの方もそんな感じだから、一回帰ってきてよ! 情報共有したいんだ≫
採集作業はいつまで続けても良さそうではあるが、すでにある程度の種類と数は集まっている。
火咲のゲームに関する優秀さは折り紙付きであり、火咲が面白いというからには、おそらくまた尋常ではなく面白いことを見つけたのだろう。
そう思い、俺は素直に頷き、1層に帰ることにした。
≪わかった、今から戻る≫
そう返事をして、俺は≪硝子の湖≫の湖畔から、元の道を戻ったのだった。
*****
学生寮に戻った俺は、火咲にメッセージを送る。
≪寮に着いたぞ≫
≪直接見せたいから、わたしの部屋に入ってきていいよー。ノックとかいらないから、そのまま入ってきて≫
火咲の許可も得られたので、俺は火咲の部屋の扉を開けた。
ガチャッと音を立てて、俺は火咲の部屋の中に入っていく。地味に、人生初の女の子の部屋に入るというシチュエーションである。ゲームだが。
部屋の中には、当たり前だが火咲がいた。火咲は手を振りながら、口パクで何かを喋っている。何をしているんだ? 何も聞こえないのに、口だけは本物のように言葉を喋っている。
と、それから数秒遅れて、火咲が喋っていないタイミングで、なぜか火咲の声が聞こえてくる。
「やっほー、成功してるかな!? これがわたしの新魔術【流動音響】だよ!」
「これは……流動魔術を音に使ってるのか」
火咲が再び口パクで何かを返事する。
「聞こえないが。分かったから魔術を解除しろよ」
「しょうがないなぁ「そうそう!」」
火咲の魔術を解除したリアルタイムの返事に、さっきの口パクの音声が重なって聞こえて頭がガンガンする。
「とりあえず嫌がらせには使えそうな魔術だな」
「ふっふっふっ、この火咲ちゃんが考え無しにこんな魔術作ると思う? 色々使い道は考えてあるから、明後日の中級試験を楽しみにしててね!」
「お楽しみってやつか。ツキトに悪い影響受けてないか」
「そういえば、ツキトも面白い魔術を考えたみたいだよ」
「そうなんだ」
と、気付いていなかったが、部屋の柱の陰になっているところに、ツキトが静かに立っていた。
「うお、いたのか、びっくりした」
「ちょっとしたサプライズという奴をやらせてもらった。ヒサキに無音にしてもらってね」
まったく気配がなかったが、丁寧に音まで消していたのか。どいつもこいつも、無駄なことに魔術を使う奴らだ。
「そんで、ツキトはどんな魔術を発明したんだ?」
ツキトはそれに返事をせず、懐から一枚のコインを取り出した。
「キョウスケ、このコインを今から投げるけど、表と裏、それぞれの出る確率は?」
「そんなの、50パーセントずつに決まってるだろ。イカサマコインでもない限り」
「では、
「は?」
そこでツキトは、懐から大きなオーブのようなものを取り出した。
これは、キンググリフォンの巨大魔石を加工したのか――?
「【確率卜占】」
ツキトはそのキンググリフォン産のオーブを使って卜占魔術を使ってみせる。
その結果は――
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<確率占いの結果が出ました!>
コインの表が出る確率:50.07%!
コインの裏が出る確率:49.93%!
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「へぇ、確率が分かるのか……便利そうだが、これで表は出せなくないか?」
「このコインは、形状とか空気抵抗の関係で、ほんのちょっとだけ表が出やすい。そこでだ――」
ツキトはオーブを持って、集中する様子を見せる。凄まじい魔力がうねるのを、不思議と本能的に感じた。
「【四捨五入】」
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<確率が四捨五入されました!>
コインの表が出る確率:100%!
コインの裏が出る確率:0%!
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「……は?」
「ほいっと」
ツキトが机にコインを投げる。その結果は――表。
しばし、沈黙が場を支配した。
「……これ、すごすぎないか?」
そんな俺の呆然とした声に、ツキトは爽やかに微笑んでみせる。
「魔石を机で研究したら≪式≫も手に入ったから、思った以上にいい魔術が開発できたよ。キンググリフォン様々だ。ま、馬鹿みたいに魔力食うんだけど……」
「……へぇ。レアアイテムは、≪式≫をくれる場合があるのか」
「そうそう、そうみたい! βだとこんな仕様なかったと思うから、本番仕様みたいだねっ! だからキョウスケに預けてる≪キンググリフォンの爪≫からも、≪式≫が採れるんじゃないかなって期待してるんだ!」
「なるほどな」
それから俺たちは、キンググリフォンの爪を一つずつ火咲とツキトに渡して、それぞれ研究机で≪式≫の研究という行動を試した。
果たして、得られたのは――
「……≪真空≫の式か。いいね」
「なるほど、これが足りてなかったんだね! これがあれば、【暗殺風刃】の魔術も完璧に仕上がりそうだよ!」
俺は改めて、このゲームの底知れない面白さに驚いていた。
オリジナル魔術の開発というコンテンツだけで、無限に遊べそうなほどの深みと面白さが詰まっている。
なんなんだ、このゲームは――
思い出すのは、あの少女、ミナエルの顔だった。
ただのNPCが、あれほどの瑞々しさと神々しさをもって、俺というプレイヤーを完膚無きまでに恋に堕とす。
ましてや、その女神であると思われるアリスルールに至っては――
思い出すだけで、可愛すぎて、美しすぎて、惹かれすぎて、一つになりたくて――
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<警告!>
【■■■■■■の大灯】があなたを浸蝕しています!
あなたの精神に致命的な変質が発生しています!
【浸蝕度】:14%!
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「……キョウスケ? ……キョウスケ!」
「……はっ!」
気付けば、完全に自分の世界に入り込んでいた。
俺は夢中になって、ミナエルとの、アリスルールとの、秘密の交わりを脳内で再生して、すこしでもあの時の歓びを取り戻そうと必死になっていた。
「なんか、エッチなことでも考えてたんじゃないの?」
「ご、誤解だ」
「うわ、あやしー」
歯切れの悪い返事をしてしまい、思いっきり怪しまれてしまった。
「ふふっ。試験前に喧嘩はほどほどにね」
ツキトは余裕の表情で、いつも通り飄々とした様子だ。
「とにもかくにも、これで明後日の試験で、大きく有利がつけられそうだ。引き続き、みんなで自己強化に励もう」
とりあえず話題を全力で逸らし――
俺は急いで火咲の部屋から逃げ帰ろうとするが――
「ご主人様のみだらな妄想を、ベルが幸せの鐘で形にしてあげましょうかっ♡」
いつの間にか、馬鹿妖精が勝手に召喚されて出てきてしまっていたっ!
「ヘンタイっ……!」
「誤解だ」
俺の誤解は日に日に積み重なっていくばかりである――