【悲報】錬金術師ロールプレイのつもりでVRMMO始めたのに現実の才能を反映した固有スキルが【魅了】だったんだが。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ? 作:ひきさん
赤い絨毯の敷かれた通路は長かった。
左右の壁には、たくさんの絵が一面を覆っている。
両手を掲げて金色の輪を空に浮かべる人々。
輪から雷が降り注ぎ、それを器に受けて運ぶ人々。
子供たちは、浮かぶ庭で果物をもいで笑いあっている。
絵と絵の間には、扉や金輪に刻まれていたのと同じ古代文字がびっしりと書き込まれていた。
「なんて書いてあるんだろうね、これっ?」
火咲が、壁の文字を見つめながら歩いている。
「読めたら絶対面白いのになぁっ! ボス攻略のヒントとか、隠し財宝の場所とか書いてあるってこれっ!」
「お前の中の古代人は、ゲームの攻略情報しか書き残さないのか?」
「こんだけあれば、一個くらいはあるでしょっ」
ツキトは、黙って壁画を眺めているようだった。
そんなツキトに、火咲が話しかける。
「ツキトは何か分かったのっ?」
「もちろん分からないさ。ただね……この人たちは、ずいぶん楽しそうに生きてたんだなって思っただけだよ」
「……なるほどねっ」
古代人たちは、絵の中でみな笑顔を浮かべていた。
にも拘らず、この宮殿を作った連中は、いったいどこへ消えたのだろう?
そんな思考を巡らせているうちに、通路の終わりが見えてきた。
*****
一番奥にあったのは、巨大な円形の大広間だった。
天井は丸いドームになっていて、ドームの内側を、大小さまざまな金輪が、ぐるぐると回っている。
大広間の奥には、階段状の段々が存在し、その上に、玉座がひとつある。
誰も座っていない、空っぽの玉座だ。
玉座の真上――
いくつもの金輪の中心に、一つの大鐘が吊るされていた。
めちゃくちゃ大きい。
ベルの鐘どころの大きさではない、家ほどもある巨大な鐘だ。
「……鐘ですねっ♡」
いつの間にか肩に乗っていたベルが嬉しそうに言った。
「あれはお前の親戚か?」
「何言ってるんですかっ♡ あんな鐘よりわたしのほうが、ずっと可愛いですっ♡」
ベルは今日も平常運転だった。
「敵だ、主」
ミスドラがなにかを発見した。
踊り子の視線の先――玉座の右の幕から、なにかが現れた。
金色の鎧だった。
道中倒した≪金輪の騎士≫と、同じデザインの金色の鎧。
しかし、その大きさはまるで違う。
実に、三階建てのビルくらいの高さがある。
背中には、身の丈ほどの金輪が、ひとつ背負われて、後光のように輝いていた。
兜の奥に、紫色の光が灯った。
==========
<ダンジョンボス! エピックモンスター:≪宝宮の守護者≫が現れた!>
王なき玉座を守る守護者は、何人たりとも近づけぬ――
==========
「ボス部屋だねっ!」
火咲が、嬉しそうに戦いの構えをする。
巨大な鎧が、ゆっくりと立ち上がった。
同時、天上のドームに存在する金輪が、一斉に回転を速める。
守護者の背負った金輪も、ぐるぐると大きく回り出した。
==========
<警告!>
≪宝宮の守護者≫は【重力転向】を唱えている!
この空間の「下」は、守護者の金輪となる!
==========
「え……?」
次の瞬間、俺の足が、床から離れた。
――いや、違う。
床が、横になった。
真横にあった守護者の金輪めがけて、俺たちの身体が真っ直ぐに落ちていく。
「うおおおおおおおおっ!?」
探索中、庭の球体でも横に落ちる場面があったが、あれとはまったく規模が違う。
俺の身体は、何十メートルも先にある金輪に向かって一方的に加速していく。
このまま落ちたら、落下ダメージだけで致命傷だろう。
「【妖精占い】♡」
==========
<妖精占いの結果が出ました!>
6秒後、落下ダメージで死にます!
7秒後、【重力倍増】で飛ぶことが困難になります!
22秒後、周囲のすべてが雷に包まれて全員死にます!
==========
「ご主人様っ♡ 占いによると、6秒後にご主人様はぺしゃんこですっ♡」
「それは分かってるから、助けろよぉおおおお!」
俺が叫んだ直後、近くで赤い光が輝いた。
竜の爪が、俺の胴体をつまんでキャッチする。
竜の姿に戻ったミスドラが、俺を掴んで、翼を羽ばたかせて飛ぼうとしていた。
「まったく、世話の焼ける主である!」
「ミスドラ、ナイスだ……!」
だが――ミスドラの巨体すら、じりじりと金輪の方へ引き寄せられている。
全力で羽ばたいて、なんとかその場に留まれる程度。
「【縛りプレイ:常時浮遊】! 【流動空気】!」
遠くで、火咲が飛び回っている。
火咲だけは、重力にも逆らって、平気そうに空中で体勢を立て直していた。
「この程度なら、流動魔術で相殺できるっ! ツキトはどこっ!?」
「【流動地面】♡」
ベルの声がして、見ると、ツキトが床から伸びた土の塊にしがみついていた。
ベルが、流動魔術で泥でキャッチしたらしい。
「ベルちゃん、助かった」
「まったく、ご主人様以外の男の人に尽くさせるなんて、罪な男ですっ♡」
ツキトは土の柱にしがみついたまま、もう片方の手でオーブを掲げた。
「こっちも切り札でいこうか。【物質射出】【位相変換】」
石の槍が、ツキトの頭上に撃ち出される。
――が。
==========
<警告!>
≪宝宮の守護者≫は【重力倍増】を唱えている!
対象の空間の重力は、倍になる!
==========
撃ち出された槍は、すぐに向きを変え、ぐにゃりと曲がって、守護者の金輪の方へまっすぐ落ちていった。
ツキトが回転させようとした軌道ごと、「下」へ歪んでしまったような感じ――
石の槍は、そのまま金輪に触れて粉々に消えた。
「……あらら」
ツキトは、微笑みながら、冷静さを保っていた。
「曲がっちゃうみたいだね」
「ここではあれは使えないか!」
「そうだね。たぶん何回やっても全部あの輪に吸われる。困ったね」
おそらく【妖精占い】の文章と合わせて考えると、元々はあの魔法で俺たちを堕とす運命が、ツキトの魔術で石の槍をターゲットに使うように書き換わって囮となった形だろうと理解する。
==========
<警告!>
≪宝宮の守護者≫は【雷輪無双】を唱えている!
金輪を巡る雷が、侵入者を焼き尽くす!
==========
ドームの金輪が、次々と紫色に光り、輪から輪へと、雷が跳ねる。
あの吹き抜けの広間と同じ流動魔術。ただし今度は、雷がすべて俺たちを狙っていた。
「ミスドラ、右にっ!」
ミスドラが翼を傾けた直後、さっきまでいた空間を、紫色の稲妻が貫いた。
ばりばりと空気が裂ける音がして、鱗の焦げる匂いがする。
「空では避けきれぬ!」
「【灼熱吐息】で相殺できないか?」
「やってみようぞ」
ミスドラの喉が真っ赤に光り、白い炎が守護者へ向けて吐き出される。
――だが、その炎が途中で曲がった。
石の槍とまったく同じ。白い炎は、軌道を逸れて、守護者の背中の金輪へと吸い込まれていく。
金輪は、白い炎を浴びても、びくともしなかった。
「……あの輪っか、炎すら引き寄せるのか」
「なんだあの輪は。無礼である」
ミスドラは、怒っていた。
プライドの高い竜族として、自慢の炎を曲げられてカチンと来たらしい。
では、どうするか――
「ミスドラっ!」
「なんだ、主よ」
「羽ばたくのをやめて、全力で落ちてくれ!」
「……竜に、地に堕ちよと言うか」
「いや、それだけじゃなく、全力で羽ばたけ。あの輪に向かってだ」
ミスドラは、目を細めた。
「それぐらいすれば、お前ならあの輪、壊せるんじゃないか?」
しばしの沈黙。
「……いいだろう」
竜が、笑った。
「ただし、俺は降ろしてからなっ!」
「娘! 主を預ける」
ミスドラが、遠くを飛ぶ火咲に向かって俺をボールみたいに投げた。
「主を預ける!」
「ちょっ、うわ、重っ!? 【縛りプレイ:流動限定】!」
なんとか火咲が俺を抱きとめる。
ぐらり、と二人して金輪の方へ傾いたが、火咲の強化された【流動空気】がなんとか持ち直す。
「キョウスケ、重すぎっ!」
「今度いいダイエット法を教えてくれっ!」
そんなやり取りをしている間に――
竜が、落ちていく。
金輪へ、まっすぐに。
そして、両の翼が、力いっぱい羽ばたいた。
加速した真っ赤な巨体が、流星のように堕ちていく。
守護者も気付いて、金輪ごと身体をひねろうとする。
だが、あまりの速度に、間に合うはずもなく――
竜の鱗が、金輪に叩きつけられた。
凄まじい衝撃が、広間全体を揺らす。
金色の輪に、大きな亀裂が走った。
「いけるっ!」
火咲が叫ぶ。
同時に、俺たちを引っ張る力が、ぐらりと揺らいだ。
「下」が、定まらなくなっている。
「【流動地面】! キョウスケ、そこで待っててっ!」
火咲は土の柱を出してそこに俺を放り投げると、そのまま空中で身を翻した。
「【縛りプレイ:一撃必殺】!」
鉄環が巻き付く。
そして火咲は――金輪に向かって、自分から落ちていった。
「【流動空気】!【流動空気】!【流動空気】!」
【流動空気】の暴風を次々に背中に受けて、竜よりもさらに鋭く、さらに速く跳ぶ。
火咲の握りしめた拳が、その亀裂の真ん中を、正確に捉えた。
――澄んだ音がして、守護者の金輪が、ばらばらに砕け散った。
世界が、元の向きに戻る。
横にあった床が、下に戻った。
つまり、俺はというと――
「うえっ」
そのまま、床だった場所に落ちた。
二メートルほどの高さだったため、頑丈値で無事ではあったが、ちょっと痛い。
だが――まだ、終わっていなかった。
背中の金輪を失った守護者は、よろめきながらも立っていた。
砕けた金輪の破片から、雷が次々と噴き出し始めた。
ばちばちとした紫色の雷が、あちこちを無差別に這い回る。
そこに――
「【灼熱吐息】」
ミスドラの灼炎が、すべてを破壊しつくす。
巨大な鎧が、炎の中、ゆっくりと膝をつき、それから前のめりに崩れ落ちる。
==========
<ボス撃破! エピックモンスター:≪宝宮の守護者≫を討伐しました!>
≪雷晶の大結晶≫がドロップしました!
≪古代金≫が6つドロップしました!
≪守護者の鎧片≫が3つドロップしました!
≪【重力転向】の理論書≫がドロップしました!
<≪古代宝宮≫をクリアしました!>
==========
「……勝った、な」
へたり込んだ俺の横に、火咲が着地した。
「やったやったやったぁっ! ボス撃破だよっ! 踏破だよっ!」
そのままいつものようにぎゅっと俺のことを抱きしめてくる。
気持ちいい。
女の子の身体ってやつは、なんでこう、どうしようもなく気持ちいい柔らかさをしてるんだっ!
果物のようないい匂いまでしてきてドキドキしてしまったので、俺は慌てて火咲の身体を放す。
危ない。男として超えてはいけない一線を超えるところだった。
「でも今日の一番の英雄は、ミスドラだねっ!」
火咲の言葉に、近づいてきたツキトも、踊り子の姿に戻ったミスドラを見て微笑んだ。
「素晴らしかったよ、ミスドラ」
「自ら落ちるという発想は、竜にはなかった。主の手柄でもある」
ミスドラは、そう言いながらも、満足げだった。
「しかし、今回は良いところが無かったなぁ」
ツキトはそう言って、懐から、道中で手に入れた≪転向の金輪≫を取り出した。
「軌道を曲げられるなら――どうせなら、曲げる側に回りたいものだね」
そう言って不敵に微笑むツキトは、いつも通りだった。
「ご主人様っ♡」
と、その時、ベルが目の前に飛び出してきた。
「記念すべき大勝利のお祝いに、幸せの鐘を鳴らしちゃいますねっ♡」
「待て待て待て」
俺は、反射的に止めていた。
「お前が鳴らすと、だいたい、とんでもないものが――」
「【妖精鐘:タロットベル】♡」
澄んだ鐘の音が、からん、からん、と大広間に響き渡る。
――ごぉん。
途端、頭の上から、音が降ってきた。
低い鐘の音。
腹の底を揺らすような、重い重い音。
見上げる。
玉座の真上。
そこにあった、あの巨大な鐘が――
――ひとりでに輝き、揺れていた。
ごぉん、ごぉん。
鳴り続ける。
音に合わせて、ドームの金輪が、一斉に輝いた。
==========
<警告!>
<エピックイベント:≪最後の祝祭≫発生!>
千年封じられた鐘が、祝福の鐘の音に応えた!
宝宮は最後の務めを果たす!
失われた古代の宝を受け取り、元居た場所へと帰れ!
==========
「……へ?」
同時、広間全体の床、壁、あらゆるところから、金色の砂が昇っていく。
砂が、形を作っていく。
人の形。建物の形。都市の形。
――気付けば、俺たちの周りを、何百という人影と、古代の都市の風景が埋め尽くしていた。
「きゃっ♡ ご主人様と、古代へハネムーンですねっ♡」
――どうやらうちの馬鹿妖精は、千年前の古代の風景を、呼び起こしてしまったらしい……