伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
戦場のあちこちに呪力を帯びたビー玉が転がっている。
これらは東堂の術式によって位置を入れ替えられる媒介だ。
大小様々で瓦礫に紛れているので見つけるのも容易じゃない。
パンッ!
乾いた音が戦場に響くと近くにあったビー玉と東堂の位置が入れ替わる。
そして奴は勢いよく蹴りを繰り出す。
避けるのは間に合わないから受けるしかない。
咄嗟に身体の前方へ呪力を集中させて防御を固めた。
パンッ!
再び乾いた音が響くが何も起こらない。
これは普通に手を叩いただけ。
つまりフェイントか。
思わず意識が揺らいで身体に纏わせた呪力が僅かに乱れる。
何が何やら分からない。
パンッ!
3度目の拍手が響いた直後、背中に鈍い衝撃が炸裂した。
これにより身体が前方へ弾き飛ばされ、そのまま地面へ叩きつけられる。
……今のは効いた。
縛りで身体を強化していなければ意識が飛んでいたかもしれない。
おそらく別のビー玉と東堂の位置を入れ替えたのだろう。
最初の入れ替えで俺の意識を正面へ釘付けにする。
そこへフェイントを挟み、最後の一手で死角へ回り込む。
同じ術式を連続して使われただけなのに、まるで全く別の攻撃を仕掛けられたような錯覚すら覚える。
不義遊戯を見切るのは実質的に不可能だな。
「これで終わりじゃないよな?」
「まだまだァッ!」
「いいぞッ!」
その言葉に呼応して地面へ手を突き身体を起こす。
俺が口元を吊り上げると東堂も嬉しそうに笑った。
パンッ!
視界が切り替わると目の前に拳が迫っていた。
俺は咄嗟に腕を交差させて防御する。
そして攻撃が激突した瞬間、東堂の身体が硬直した。
「……なッ!?」
その隙を見逃さず懐へ潜り込み連打を喰らわせる。
腹、胸、顔面。
反撃する暇を与えずに絶え間なく攻撃を浴びせていく。
すると巨体が大きく揺れて最後は勢い良く吹き飛んだ。
「これは……電撃か?」
「正っ解っ!」
これは宿儺や乙骨憂花のように式神そのものを顕現させずに能力だけを引き出す応用技だ。
今回の場合は鵺が纏う電気の呪力特性を自らに付与している。
要するに鹿紫雲一と同じような状態だ。
まあ彼よりも熟達していないので必中の稲妻は使えないわけだが。
「落花の情を組み合わせた俺だけのオリジナル技だ」
落花の情。
それは御三家に伝わる対領域の術だ。
簡易領域のように自ら領域を展開することはない。
攻撃が触れた瞬間、反射的に呪力を放出して身を守る。
ただ攻撃を受けるだけでは相手は感電しない。
触れた瞬間にカウンターとして呪力を解放する。
そうすることで電撃を相手へと集中させた。
「俺は五条家の庇護下で暮らしていて実父は禪院家出身だ。実質、御三家の人間だから秘伝技の落花の情も使えるというわけさ」
ちなみに教えてくれたのは五条家の家人だ。
なにせ五条先生は教えるのが下手だからな。
「その額にあるマークは電撃に関係しているのか?」
「どうでしょう!」
式神の能力だけを引き出す技は非常に難しい。
なので俺は補助輪として縛りを設けた。
具体的には式神に刻まれてる神宝の紋様を自分の額に刻むことだ。
例えば蝦蟇の能力を引き出す場合は沖津鏡の紋様が浮かび上がる。
つまり今の俺は、どの式神の能力を使うのかを相手に教えているわけだ。
もちろん十種影法術に詳しくなければ初見で理解するのは不可能である。
「触れれば痺れるぞ!」
「その程度の理由で引くとでも?」
「流石だなッ!」
触れれば痺れる。
痺れれば動きが鈍る。
動きが鈍れば攻撃を叩き込める。
東堂の戦い方は殴る蹴るが中心だ。
このまま続けていれば俺が勝つだろう。
「本当にそう思っているの?」
「へ?」
いつの間にか俺は小学生の頃に暮らしていたボロアパートにいた。
そして目の前には現在の津美紀が決めポーズを取っている。
「えっと……どういう状況?」
「私は恵の脳内にいる津美紀よ」
「要するに東堂の脳内高田ちゃんみたいなものか」
「その認識で間違いないわ」
俺の脳内にいるから原作知識もあると。
それにしても東堂と同じ能力に目覚めるとか嫌だな。
「時間も無いし早速、本題に入りましょ。相手は東堂葵だよ。そう簡単に負けてくれる相手じゃない」
「電気を帯びた呪力特性を突破できるとは思えないぞ」
「確かに電撃のような呪力特性は単純な肉体強化だけでは防ぎにくい。だけど防げないわけじゃない。原作で強引に突破した術師がいなかったかしら?」
「……秤金次!」
奴は無制限に溢れる呪力で鹿紫雲一の電撃を耐えながら戦っていた。
つまり呪力さえあればゴリ押しが効く。
「そして今この場で呪力を引き上げる方法は1つ」
「黒閃!」
それを経験すると一時的に呪力操作が呼吸するかのように自然と行われ呪力出力も上昇する。
いわゆる『ゾーン』に入った状態だ。
「東堂葵なら確実に出す凄みがあるな」
「なら恵はどうするつもり?」
「俺も黒閃を出す。そうすれば電撃の出力も上がるはずだ」
「もう助言はいらないわね」
そう言い残して津美紀は煙のように消えた。
俺は黒閃を経験したことがない。
狙って出せるものじゃないことも分かっている。
だが東堂に勝つには……それしかない。
パンッ!
乾いた音が響くと視界が切り替わり目の前に東堂が現れた。
やはり正面から来るよな。
黒閃を出すつもりだというのに背後から襲うような無粋な真似はしない。
だからこそ動きは完全に読めている。
「行くぞッ!」
「応ッ!」
俺たちは同時に呪力を拳へ滾らせて真正面から打ち出す。
拳と呪力が完全に同期した刹那、空間が歪み呪力は黒く光る。
黒 閃 !
凄まじい反動が全身を駆け抜け後方へ吹き飛ばされる。
威力は完全に互角だった。
黒閃によって東堂の呪力出力は上昇したが、それは俺も同じこと。
つまり帯電した呪力は無効化されていない。
「……ッ、ぐ!」
案の定、東堂の身体が小刻みに震えている。
黒閃の激突と同時に流れ込んだ電撃が奴の身体を痺れさせているのだ。
やるなら今しかない。
「これで終わりだッ!」
ありったけの呪力を拳へ集中させる。
そして渾身の一撃を東堂に叩き込んだ。
黒閃は発動しなかったが威力は十分。
凄まじい衝撃が相手の巨体を吹き飛ばす。
これにより砂埃が舞い上がり視界が覆われた。
さあ、どうなった?
やがて砂埃が晴れる。
そこには東堂が立っていた。
……まだ倒れないのかよ。
「見事だ」
それだけを告げると東堂は膝から崩れ落ちた。
呪力は完全に途切れている。
つまり俺と津美紀の勝利だ。
「いやぁ、凄い戦いだったね」
「黒閃が同時に衝突するとは……過去に類を見ない現象なのではないか?」
「途轍もない熱を感じたぜ」
家入さんの治療を受けながら観戦者たちの声に耳を傾ける。
黒閃を経験できたのは思わぬ収穫だった。
それを体感した者と体感していない者では呪力の核心との距離に天と地ほどの差がある。
アッチ側へ到達する為にも、これは大きな一歩になるはずだ。
「伏黒……いや、
「ああ!」
そう言って俺たちは晴れやかな表情で握手を交わす。
来年の姉妹校交流会が実に楽しみだ。
「それはそれとして姉を恋愛対象にするのは辞めておけ」
「断る!」
好きなってしまったんだから仕方ないだろ。
俺は津美紀への愛を曲げるつもりはない。
こうして2017年度の姉妹校交流会は終わりを告げた。
※新たに課した縛り
・神宝の紋様
式神そのものを顕現させずに能力だけを引き出す応用技を使う場合、神宝の紋様を額に刻む。
現在、使っている能力が分かる代わりに術式の効果が向上する。
十種影法術の能力や紋様を理解している人は少ないのでデメリットが機能していない。
だけど縛りの効果は発動している理不尽仕様。