伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
百鬼夜行は首魁の夏油傑が乙骨先輩に討たれたことで呪術高専側の勝利に終わった。
そして戦いの中で折本里香の解呪にも成功している。
要するに原作通りだ。
後は後始末の時に行った私闘は俺が厳重注意、禪院直哉が謹慎処分で終わった。
どうやら煽ったのが悪かったらしい。
まあ秤さんが停学にならなかったので実質的に勝利である。
ただし1つだけ問題がある。
このままだと夏油の遺体が羂索に乗っ取られてしまう。
しかし俺は敢えて阻止しなかった。
入手に失敗したら俺たちが死ぬまで姿を隠すかもしれないからだ。
それなら今は泳がせた方が良い。
後の世代に負の遺産を残さない為にも今ここで確実に始末する
「さてと、始めるか」
ここは五条家の屋敷にある俺の自室。
机の上には異形の胎児が入った1本の瓶詰が置かれている。
厚いガラスの内側には強烈な呪いが渦巻いていた。
これこそが特級呪物、呪胎九相図である。
明治時代の初め頃、とんでもなく不幸な女性がいた。
彼女は人間でありながら呪霊との間に子供を孕むことができる特異体質の持ち主だった。
ある日、呪霊との間に子を成した彼女は身に覚えのない懐妊と異形の赤ん坊を出産する。
これにより親類縁者から想像を絶する風当たりを受けることになった。
追い詰められた彼女が赤ん坊の亡骸を抱えて駆け込んだ寺。
そこにいたのが後に史上最悪の呪詛師として名を馳せることになる男、加茂憲倫だった。
彼は呪霊を孕む体質に知的好奇心を刺激され実験材料として利用する。
九度の懐妊。
九度の堕胎。
こうして生み出された胎児たちは呪物へと加工され封印された。
その果てに女性がどうなったのかを知る者は数少ない。
紆余曲折を経て九体の呪物は呪術高専の忌庫へ収められる。
これほど凄惨な経緯で生み出された呪物を簡単に保管できるはずがない。
厳重な封印を施され、特級呪物として長い間眠り続けていた。
そして今、その1本が俺の目の前にある。
俺は百鬼夜行で円鹿を駆使して多くの術師を救った。
その功績によって俺の発言力は以前よりも大きくなっている。
多少の我儘なら通せる程度には。
さらに禪院家に作った貸しも活用した。
だからこそ呪術高専の忌庫から1つだけ譲り受けた。
もちろん五条先生には内緒だ。
話せば間違いなく止められるからな。
あの人は何だかんだで善性がある。
まあ少し前に俺のメアドを勝手に大量のメルマガへ登録したけど。
朝起きたら通知が数十件も届いていた時は何事かと思った。
恩師じゃなかったら許されない嫌がらせだぞ。
「上手くいくかは賭けだな」
これから俺は呪胎九相図を取り込む。
伏黒恵の肉体は取り込めば即死するほどの猛毒である宿儺の指に耐えられる。
ならば通常の呪物ならどうなる?
虎杖のように自我を保ったまま呪物を内側に封じ込める器になれるかもしれない。
転生したことにより魂が強化され浴で身体が強化された状態なら尚更だ。
「ええい、ままよ!」
迷っていても仕方がない。
瓶の蓋を開けて中身を口へ放り込む。
「ヴォエッ!」
味は笑えるほど不味い。
食感もブヨブヨしてて最悪だ。
そう思った直後、全身を猛烈な悪寒が駆け抜けた。
身体の内側から何かが這い上がってくる。
呪力が暴れ回り心臓が異様な速度で脈打つ。
俺の身体を器として別の何かが主導権を握ろうとしている。
「大人しく……しやがれッ!」
意識が一瞬だけ遠のいた。
だが完全に乗っ取られたわけじゃない。
全身の呪力を自分の意思で制御する。
「この身体は俺の物だッ!」
暫くすると荒れ狂っていた呪力が徐々に収まっていった。
鏡を見ると少しだけ顔が青ざめているが身体に変化は無い。
つまり賭けは俺の勝ちである。
「……最高の気分だ」
特級呪物を取り込んだことで俺の呪力量は確実に増えている。
純粋な総量だけなら五条先生を上回ったはずだ。
まあ先生の六眼は術式の発動に伴う呪力のロスを限りなくゼロに近づけられる。
実戦でのパフォーマンスまで上回ったわけじゃない。
「なんだぁ?」
不意に掌から口が現れて話し始めた。
どうやら向こうの意識も残っているらしい。
「やあ、血塗くん」
俺が選んだのは脹相でも壊相でもなく血塗だ。
彼は2人の兄と比べれば呪いとしての格は低い。
その分、取り込んだ際に身体を乗っ取られる危険も小さいはずだ。
実際、さっきはギリギリだった。
この選択は間違っていない。
それに脹相と壊相は単体でも普通に強い。
俺の中に取り込むよりも独立した存在として動いてもらった方が良いだろう。
「オマエは誰だぁ?」
「俺の名前は伏黒恵。この身体の主だ」
「兄者たちはどこだぁ?」
「呪物として保管されたままだ」
流石に全ての九相図を貰うことは出来なかった。
まあ1つだけで十分だろう。
というか何個も手に入れたところで持て余すだけだ。
「ところで加茂憲倫、現代では史上最悪の呪詛師と呼ばれている男は知ってるか?」
「……当たり前だぁ」
血塗は恨み骨髄な声色で返答する。
母親を弄び100年以上も苦しむことになった元凶。
その名を聞かされて穏やかでいられるはずもない。
「加茂憲倫は今も生きている」
「どういうことだぁ?」
「奴は他者の肉体を乗っ取る術式を持っている。本体は羂索と呼ばれる術師で、日本を滅茶苦茶にしようと企んでいる」
「なんで伏黒はそんなこと知ってんだぁ?」
「……それは言えない。だが信じてくれ」
血塗が悪気なく口を滑らせる可能性もあるからな。
俺の持つ原作知識については教えるつもりはない。
「話を戻そう。俺は羂索の企みを阻止したい。協力してくれるか?」
「いいぞぉ」
「もちろん成功報酬もあるぞ。俺たちが呪術師として活躍すれば立場も上がる。そうなれば残りの呪胎九相図も貰えるかもしれない」
「兄者たちに会えるのかぁ?」
「オマエの活躍次第だがな」
「頑張るぞぉ!」
なお彼らを受肉させるには人間を犠牲にする必要がある。
その辺りは死刑囚でも利用すれば何とかなるだろう。
「ところでオレは何をすればいいんだぁ?」
「難しいことはさせない。ただ呪詞を唱え続けてくれ」
「ジュシ?」
「術式の効果を高める詠唱だ」
呪術師の戦闘で呪詞が使われることは少ない。
なぜなら戦いながら詠唱するのは難しいからだ。
激しく戦えば口で呼吸する必要がある。
呪詞を唱えるには口で喋る必要がある。
両立させるのは至難の業だ。
だが俺には血塗がいる。
虎杖悠仁や来栖華のように呪物と共存している場合、呪物側が口を生やせる。
つまり俺が口で呼吸しながら血塗が生やした口で呪詞を唱える。
役割を分担することで戦闘中でも継続的に術式を強化できるわけだ。
「長い付き合いになると思うが頑張ろうな」
「よろしくなぁ」
これから先、血塗とは本当に長い付き合いになる。
原作の虎杖は呪胎九相図を取り込んだことで人間と呪霊の混血となった。
その影響で老化の速度も極端に遅くなっている。
おそらく俺も同じだろう。
津美紀と共に歳を重ねられなくなったのは残念だが仕方ない。
羂索を取り逃がした場合、寿命が尽きるまで姿を隠される可能性もある。
だったら俺も寿命を延ばして対抗するしかない。
後はシムリア星人への対処も必要だしな。
「頑張るぞッ!」
原作開始まで時間は残されていない。
ここが踏ん張りどころさんだ。
呪胎九相図の中から血塗を選んだのは最も可愛いからです。