伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
これで2体目。
呪力の消費も最低限に抑えられている。
この調子なら何とかなりそうだな。
「モォーッ!」
地面を揺らすような雄叫びと共に巨大な牛の式神が姿を現す。
コイツの名前は貫牛。
十種随一の走力を駆使した突進攻撃が持ち味だ。
直線でしか動けない代わりに相手と距離を取るほど威力が増す特性を持つ。
「満象」
「ぱおーん!」
「水流で地面をドロドロにしろ!」
俺は玉犬を影へ戻して代わりに満象を顕現させる。
鼻を振り上げた直後、大量の水が放たれたことで乾いた地面が一気に泥濘へと変わった。
「モ?」
あの突進を正面から受けるのは危険だ。
ならば持ち味そのものを潰してしまえばいい。
足場をドロドロにすれば思うように踏み込めなくなる。
「シャーッ!」
大蛇が泥濘の上を滑るように進んで貫牛へ襲い掛かる。
長い身体を活かして泥へ沈むことなく移動できるのはアイツの強みだ。
そのまま相手の脚へ噛みついて牙から毒を流し込む。
貫牛は純粋なパワータイプ。
円鹿のように毒を処理する能力はない。
後は逃げ回って毒が回るのを待てば勝利である。
そう考えた瞬間だった。
「ブモォーッ!」
「うおっ!?」
貫牛が泥を盛大に跳ね上げながら突っ込んできた
紙一重で横へ飛び退く。
割と危なかったな。
足場が悪いというのに何という速度だ。
そう簡単に逃がしてくれるつもりはないらしい。
であるなら更に妨害を重ねるだけだ。
「鵺+蝦蟇……不知井底!」
満象を影へ戻し続けて影絵を結ぶ。
すると影から羽の生えた小さな蝦蟇が次々と飛び出した。
「「「ケロケロ!」」」
五条家の古文書によれば。玉犬・渾のように破壊された式神の能力を継承した式神は、不知井底のように合体しただけの式神よりも強いらしい。
例えるなら前者が掛け算で後者が足し算だ。
その代わりに合体しただけの式神は破壊されても再び顕現できるという利点がある。
「足止めしろ!」
そう言うと不知井底の群れが一斉に貫牛へ殺到する。
鵺を素材としているだけあって全身には電撃が迸っていた。
1匹を躱しても直ぐに次の1匹が飛び掛かる。
相手は絶え間なく雷撃を浴びて思うように身動きが取れない。
仮に電撃が効かなかったとしても問題ない。
もう1つの素材である蝦蟇の油の呪力特性によって身体は滑り、まともに踏み込むことすら難しくなるからだ。
そんな式神が集団で襲い掛かるのだから逃げ出すのは不可能である。
ここまで来れば後は仕上げだ。
「大蛇、戻れ」
大蛇を影へ戻す。
既に毒は十分に叩き込んだ。
ここから先まで付き合わせる必要はない。
続けて影絵を結ぶ。
「玉犬!」
「ガルルルッ!」
すると唸り声を上げて玉犬・渾が飛び出した。
何が起こるか分からないので早いとこ高火力で叩き潰す。
「総攻撃!」
その号令と共に式神たちが一斉に襲い掛かる。
もちろん俺も見ているだけではない。
影から呪具化した1丁の銃を取り出す。
こいつはニューナンブM60。
警察にも採用されている回転式拳銃だ。
鵺との戦いで使った散弾銃のレミントンM870とは違い反動が小さい。
小学生の俺でも呪力で身体を強化すれば十分に扱える。
「反撃する隙を与えるなッ!」
引き金を引くと銃声が響き、弾丸が貫牛へ飛んでいく。
今の俺はまだ小学生。
呪力で身体を強化しているとはいえフィジカルは発展途上。
パワータイプの相手と近距離で戦うのは危険だ。
泥濘、猛毒、電撃、油、斬撃、銃撃。
これだけの攻撃を重ねれば流石の貫牛も耐え切れない。
「ンモーッ……」
相手の巨体が黒い影へと変わっていく。
そして、そのまま地面へ溶けて消えた。
つまり連続調伏に成功した。
「……っしゃあ!」
思わず力が抜けて、その場に背中から倒れ込む。
地面は泥まみれなので服は汚れてしまう。
だが、そんなことはどうでもいい。
今は成功の余韻を噛み締めたかった。
「しんどっ……」
今回だけで6回も式神を顕現させた。
浴で呪力量を底上げしていなければ途中で呪力切れを起こしていた可能性もある。
虎葬まで相手にしていたら失敗していたかもな。
アイツは後日だな。
嵌合獣・顎吐を完成させる為にも絶対に調伏しておきたい。
「いやぁ、恵も強くなったねぇ」
そう言って五条先生が拳を差し出す。
なので俺はグータッチした。
「今なら1級術師とも互角に戦えると思うよ」
「そりゃどうも」
五条先生から見ても今の俺はそこまでの評価らしい。
これは個人的な考察だが本来の伏黒は原作開始時点で2級呪術師。
交流会の頃には渾を生み出し、満象を調伏したことで準1級相当に。
そして八十八橋で不完全ながら領域展開を習得して1級相当の実力になった。
そんなイメージである。
対する今の俺はまだ小学生。
フィジカルは発展途上で領域展開も使えない。
その代わりに呪力量は膨大。
更に円鹿と貫牛まで調伏済みで式神の性質にも色々と手を加えている。
差し引きすれば五条先生の評価通りなのだろう。
たぶん扇には勝てるけど甚壱には苦戦しそうだ。
というか小学生なのに1級相当って強すぎないか?
呪術師の実力は才能が8割とは良く言ったものである。
まあ式神の性能に頼っている部分が大きいわけだが。
「将来的には魔虚羅を調伏するつもりです!」
「……そうなったら面白くなりそうだね」
五条先生がニヤリと笑う。
俺も負けじと口角を上げた。
単なる花で終わるつもりはないぞ。
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