こちらのページを参考にさせていただきました♪
https://note.com/purasu/n/nea63468d02a2
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こちらの台本を参考にさせていただきました♪
https://note.com/purasu/n/nea63468d02a2
本日は、いっぱいのお運び、誠にありがとうございます。
初の寄席でございますので、どうか、お手柔らかにお願い致します。
そんな素人の落語なんざ聞けるか、なんてケチつける方がいらっしゃいますが、そんな方とは、あまりお近づきにはなりたくないものでございますね。
今のご時世、何をやっても批判する方だとか、足を引っ張ろうなんた方がいらっしゃいますね。
そういう足を引っ張るような方々とは、あまりお近づきにはなりたくないもので。
まあ、お近づきになりたくないなんてものは、人に限らず、神様でもいらっしゃいます。
疱瘡神、貧乏神に厄病神、そして死神。
「おう、今帰ぇった」
「おかえり。で?どうだったんだい?」
「おう、貸してくれなかった」
「…呆れた。僅かばかりの金を算段に行って出来ずに、ぼんやり帰ってきてどうするんだい!」
「だって金がねえってんだからしょうがねえ」
「あんたぐらい意気地無しはないよホント……。あんたなんぞ豆腐の角に頭をぶつけて死んでおしまい!」
「もうやったよ」
「は?」
「ほら、あそこの角に豆腐屋あんだろ?あそこで転んで、豆腐の角に頭ぶつけた」
「あんたなんか、そのまま死んじまえばよかったんだよ!ばか!マヌケ!トンチキ!!」
散々悪態を吐かれた挙句、出てけー! ってんで、奴さん追い出されてしまいました。
「あんな凄いカカァてのはないね。昔はあんなんじゃなかったんだがね〜。お前さん、なんて、猫なで声で甘えてきたりよぉ。それが今となっちゃあ、家に居りゃぁ銭がねぇとギャーギャー言われるし、ありゃ、結婚詐欺だよ、まったく…はあ〜あ。何処行ったって金は貸しちゃくれねえし、もう生きてんのが嫌んなっちまう……そうだ、死んじまおう」
さて、どうやって死のうかと考えているうちに、いつの間にか橋の真ん中。
ふと、橋の欄干から川を眺めてみますが、
「身投げかぁ…いや、身を投げるのは嫌だな。七つん時に井戸に落っこった事があるんだ。あんな苦しい思いをするくらいなら生きてたほうがまだいいや」
と思い直してトボトボ歩いていると、目の前に樹齢数百年は経とうかという大きな木が立っております。
「お、こりゃぁ大きな木だね。おお、いい枝ぶりだ。そうだ、首を括って死のう。だけど、これまで首括った事なんざねぇしな。どうやりゃぁいいもんかな」
「お教え致しましょうか?」
「え!?」
びっくりして振り向きますと、木の陰から出てきましたのは二十代から三十代の男。
黒いシルクハットに、黒いタキシード。タキシードの中には黄昏れ時にもはっきりと見える程の真っ白なYシャツ。真っ赤なネクタイを締めた男でございます。
「お?お?お、ん??」
「どうされました?」
「いやいやいやいや!」
「何か不都合でも?」
「いやいや、普通、こういうのは、八十にもなろうかという歳の頃、頭に薄い白い毛がぽやっと生え、鼠の着物の前をはだけて、浮き出た肋骨(あばらぼね)は一本一本数えられるほど痩せっこけて、藁草履を履き、竹の杖を突くじいさん、なんてのが定番だろうが」
「ああ、そういうことでございますね。昨今は、私くしども死神もこういったスタイルでやらせていただいでおります。少し前に流行りましたマンガのお陰で、小学生の将来なりたい職業No.1に選ばれまして。それで、もっと憧れられるような格好をしようなんて話になりまして」
「あーあれか、千年とか血戦とかって…それだったら、黒い着物に刀差せよ」
「そうしてしまいますと、著作権の問題がございまして」
「世知辛いねぇ〜。てか、死神だあ? あー嫌だ。それまで死のうなんて思ったこともないのに、急に死にたくなったんだ。さては手前ぇの仕業だな?あっちいきやがれ!」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。それに、貴方には、まだまだ寿命が残っております。これなら折れそうにないななんて、立派な枝ぶりでありましても、ボキッと根元から折れて、死ねませんよ。私くしからも、少しお話もありますし、どうぞこちらへ」
「やだよ! 死神と話することなんぞねぇや」
その場から立ち去ろうとするのを、死神は慌てる風でもなく言います。
「まあまあ、落ち着いてください。それに、お逃げになろうとしましても、無駄でございますよ?私くしは、風に乗ってピューっと飛んで、あっという間に追いついてしまいます。まぁ、ほんの少しだけ、聞くだけでもお時間いただけませんか?」
「何言っていやがんだ、死神の話なんぞ、聞きたくもねぇや」
「まあそう邪険にされずに。私くしと貴方は、少こーしだけ因縁がございまして。それで、貴方、随分とお金に困ってらっしゃるようで」
「そそそそそそそれが、どうしたって言うんだよ!」
「うまい金儲けの話…でございます」
「金儲け?」
「はい。金儲け。ガッポガッポと儲かる」
「ガッポガッポと…」
「ええ、悪い話ではないかと」
「…いいいいいいや、そんなこと言いやがって、オレの寿命を削るとか、変な胸とかに穴の空いたバケモンと戦わせようって魂胆だろ!」
「マンガの読み過ぎでございますよ。いえいえ、そうではなくですね、熊五郎さん、貴方、医者やりましょう」
「は?何言ってやがる。オレぁ、脈の取り方も知らねぇってんだよ」
「いえいえ、脈なんて診る必要ありません。やり方は簡単でございます」
そう言うと、死神は、ニンマリと笑います。
「よろしいですか、長患いをしている病人には枕元か足元、どちらかに私くしども死神が憑いております。足元に座っております病人は、何とか脈がございます。逆に頭の方に死神が座っておりましたら、もうダメです。寿命がございません。決して、決して、手を出してはいけませんよ。もし、枕元に私くしどもがおりましたら、『寿命ですので、諦めください』と仰ってください。逆に、私くしどもが足元におりましたら、呪文を唱えてください。その呪文を唱えられますと、私くしどもは、消えなければなりません。そうすれば、病人は、ケロっと治ります。どうでしょう?どんなお医者さまも治せなかった病人を治せるんです。ガッポガッポ、儲けられると思いませんか?」
「そ、そりゃあ、確かに…そ、それで、まあ、念のため、念のため、その呪文ってえのは」
熊五郎がそう言うと、死神は我が意を得たりとばかりに、ニンマリとします。
「よろしいですか?決して人には言ってはなりませんよ?『アジャラカモクレン、セキグンハ、テケレッツノ、パ』と唱えてポンポンと二つ手を叩きます。そういたしますと、私くしどもは、その場から消えないといけない決まりになっております。どうぞ、お試しください」
「へえ、『アジャラカモクレン、セキグンハ、テケレッツノ、パ』で、手をポンポンでいいのかい?あれ、死神?死神さーん?…あぁそうか。呪文を唱えたから帰ぇったんだ。へへ、こりゃぁいい事を教わったぜ」
そう言って家に帰りますと、怖い怖いおカミさんが待っております。
「あんた!一体、どこほっつき歩いてたんだい!」
戸を開けた瞬間、おカミさんの怒号が響きますが、熊五郎の耳には入ってきません。
「なあ、おい、板あないか?板!」
「板?燃やすもんなんて、微塵もないよ!焚き付けだってないんだよ!」
「ギャーギャー吐かすんじゃねぇ!」
台所へ行きまして、何かないか、何かないかと、探しておりますと、昨日食べたカマボコの板がございました。そのカマボコ板に「いしゃ」と金釘流でもって表に引っ掛けるます。
漢字も書けない熊五郎の文字でございますから、「いしゃ」だか「いしや」だか分かりません。
そんな看板ではございますが、翌日になりますと人が訪ねて参りました。
「ごめんくださいまし、少々、物を伺いますが」
「来やがったね…米屋さんかい?もうしばらく待ってくれないかい?」
「米屋ではございません」
「酒屋さんかい?来月まとめて払うから、来月まで待ってくれ」
「酒屋じゃございません」
「乾物屋さんかい?すまねえ、今月は苦しいから、また今度に」
「この家は、随分借金があるんだね。そうではございません。あたくし日本橋の大宮の者でございます」
「日本橋の大宮…そんなご大家とは付き合いねぇけどな。なんかご用で?」
「こちらはお医者様でいらっしゃいますか?」
「なんでぇ、こんな長屋に医者なんぞいねえよ」
このオレが医者に見えるかと思ったが、死神との話を思い出します。
「 …そうそう思い出した。へえ、ここが医者ですけど、どうぞ、お入りください」
「どうも失礼致します。手前は日本橋の大宮の手代でございますが、 実は、主人が長病を患っておりまして、色々な先生方に診て頂きましたが、どうにも思わしくないと言うので当たると評判の易者に占って貰いましたところ、帰り道で初めて目に付いたお医者様にお願いすれば必ず病気は治ると言われまして、それでこちら様にお願いに上がった次第でございます」
「へえ、それでアタシんトコを最初に見つけて。そいつあ、たいした易者だ。へえへえ、よござんす。じゃぁ行きましょう」
「いえ、あの、先生は……」
「先生?先生オレ」
「あ、ああ、そうでございますか…」
身なりは悪いし、人相も悪い。とんでもない者に頼んだと思いましたが、手代は、しょうがないと諦めまして、店に連れて行くことに致します。
これが、大層立派な大店でございまして、番頭に話をすると「まぁまぁ診せるだけなら問題ないだろう。頼んだんじゃ仕方がない」と言うんで病人の寝ている部屋まで案内されます。
「へえへえ、失礼しますよ、と。え〜」
熊五郎、部屋に入りますと、ゆっくりと見渡します。
都合の良いことに、死神は足元。
「おほ、しめた、しめた」
しめしめと、ニヤつきが止まりません。
「先生、何かおっしゃいましたか?」
「あ、いや、入ってきて後ろを閉めたかなと」
「しっかりと閉めております」
「そいつぁ良かった。いや、どうにも気になりましてね。番頭さん、この病人は治りますよ」
「しかし、どの先生も、もう長くないと」
「いやいやいやいや、そいつぁ藪ですよ。アタシの見立てなら、ちゃあんと治りますよ。まあ、こいつあ、薬なんかじゃ治らねぇ。実はね、アタシはね、医者もやりますが、呪いもやるんですよ。ええ、ええ、そりゃあ効果てきめん、死人だって鼻血流しながら全力疾走するもんで」
「ほ、本当で?」
「そりゃあもちろん!…でえ、治ったら、そのぉ、もちろん、こう、あのぉ…ねえ?」
「そ、それはもちろん如何ほどでも!」
その返事を聞くと、顔が緩んで仕方ありません。
帰りに何を食べようか、何を飲もうか、なんてことで、頭がいっぱいでございます。
「先生?先生?」
「あ、ああ、ええ、ええ、ちゃんと診ますよ。しっかり診ますよ。番頭さん、この呪いはね、人に見られてたり、聞かれたりすると、治るもんもなおらない。すいませんがね、ちょいとばかり人払いをお願いしますよ」
そう言って、番頭を締め出しますと、死神を見て。
「へへへ。悪く思わないでくださいね、死神さんよ。オレもおマンマ食わねえと生きてけないんでね」
ニヤニヤ、ニヤニヤと言い訳を並べたてます。
「それじゃ、いきますよ。『アジャラカモクレンセキグンハテケレッツノパ』!」
熊五郎が、呪文を唱えて、ポンポンと手を二回叩きますと、死神がすっと消えていきます。
すると、今まで真っ青通り越して真っ白だった病人の顔色に、パッと血の気が戻ります。
「おーいお茶」
なんだか、聞いたことのあるようなフレーズでございます。
番頭さん、久しぶりに聞いた主人の声に、びっくり仰天、駆け足で部屋に入って参ります。
「いやあ、番頭さん、頭からスッと雲が晴れたようでお腹が減りました。何か食べる物はないかい」
「あ、あの先生、病人が何か食べたいと…」
「あーはいはい、何か食わしてやったらいい」
「やはり、重湯か何か…」
「重湯ぅ?いやいや、そんなんじゃ力出ませんよ!肉ですよ、肉!焼肉でも、ラーメンでも、ご主人の食いたいってモンを食わしておやんなさい。もう大丈夫だから」
「あの、では、お薬は…」
「薬?そんなもん、いらない、いらない。大丈夫だって」
「ですが、それだと、やはり安心出来ませんので」
「え、ああ……薬、薬ね。じゃぁ渡しますから家にいらっしゃい」
そう言って家に連れてきたはいいが何にもございません。
台所を見回すと萎びた大根の葉っぱがありましたので、トントントーンと小気味よいリズムで刻んで、紙っきれに包みます。
「はい、薬」
長屋についてきた手代さん、それをしげしげと見て、
「こちらは…煎じるんでございますか」
「煎じる?ん〜まあ、煎じてもいいよ」
「煎じても…いい?」
「まあ、煎じるより、お浸しにしたり、漬物にしたり…ああ!チャーハンにしても美味いね」
「チャ、チャーハン!?」
「うん、いっぺん試してみ?美味いよぉ〜」
「あ、あの、味は関係あるんでしょうか?」
「美味い方が、力湧くでしょ?」
手代さん、首を捻り捻り持ち帰りますが、言われた通り、お浸しにしたり、漬物にしたり、チャーハンにしたりと、主人に与えますと、ケロっと治っておりますから、「あの先生は名医だ」と評判が立ちます。
あっちからもこっちから引く手数多。西へ東へと、東奔西走。
しかも、いい塩梅に死神が足元にいるから、呪文を唱えて手を打つとスッと消えまして、患者はたちまち元気になります。
たまさか枕元に死神がいるときは、「これはもう寿命が尽きているからお諦めなさい」と言って、屋敷を出るかでないかの間に患者はコロリと逝ってしまうので、更に評判が上がる。
こうなりますと、もうガッポガッポ。
長屋なんぞ引き払いまして、表に立派な邸宅を構えて、いい着物を着て美味いものを食う。
衣食住が揃ってきますと、男の考えることなんて、一つだけでございますね。
別宅なんか用意しまして、そこにいい女を囲いまして、毎日、毎日、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。そうなりますと、家に帰るよりも別宅の方がいいなんて、帰るのは週に一回が、2週間に一回。2週間に一回が1ヶ月に一回なる。
たまに家に帰れば、ヤキモチ焼いた女房が、ギャーギャー責め立てる。そうしますと、もっと家に帰らなくなる。しまいには、カカァなんざいらねぇー、金渡しゃあいんだろと、金と息子を渡して別れてしまします。
「ねぇ先生ぇ、アタシ上方見物に一度行きたいと思っているんですよぉ」
「上方か。いいねぇ、オレも一度行ってみたいと思っていたんだ。じゃぁどうせだから家を畳んじまおう」
と、家も別宅も売り払って、金にしてしまいます。
金のあるのに任せてアッチで飲んで、コッチで騒いで、と贅沢三昧に歩きますが、看板も閉めておりますので、懐の中身は、どんどん無くなって参ります。
金の切れ目が縁の切れ目と申しますが、女の方はいつの間にかいなくなってしまい、仕方がないから一人江戸に戻り、残りの銭で一戸を構え、さぁ、オレが戻れば門前市を成すだろうと待ち構えます。
「先生、一つ診ていただきたい病人がおりまして」
「おう、行ってやろう」
と、行ってみますと、死神が、しーっかりと枕元に座っております。こいつはダメだと、別の病人の元へ行きますが、ぜーんぶ枕元。
ある時は、優雅にテーブルに椅子、ティーセットまで用意して座っております。ゆっくりと外の景色を楽しみながら、紅茶を啜る姿の、なんとも腹立たしいこと。
腹立ちまぎれに、死神を殴ったり、蹴ったり致しますが、見ることは出来ても、触れることは出来ない。
そんなことが続きますと、今度は、以前とは違った評判が立って参ります。
熊五郎が行くと、その病人が、コロッと逝きますので、厄病神だの死神だの、オマケに身なりも汚らしくなってしまい、貧乏神なんて呼ばれることも。
腕が悪い、薮医者だ、と呼ばれた方がよっぽどマシでございます。
こうなりますと、熊五郎、自棄になりまして、飲んだくれて参ります。
金はないが、飲んで食って、ツケも払えずに、周りは出禁ばかり。
「あ〜クソ!今まで散々、銭落としてやったってぇのに、不義理なヤツらだ」
なんて愚痴をこぼす日々。
そんな中、
「ごめんください。ごめんくださいまし」
久しぶりの客でございます。
「こちら、お医者さまでございましょうか?」
「ああ、もう医者は辞めたんだ。何遍行っても、どうせ枕元だ」
「枕元?」
「いい、いい、こっちの話だ。いいから、もう医者はやってねぇんだ。帰ぇってくれ」
「そこをなんとか…主人が長病を患っておりまして、どの先生にも診ていただきましたが、どうにも思わしくないと。藁にもすがる思いで、当たると評判の易者に占って貰いましたところ、帰り道で初めて目に付いたお医者様にお願いすれば必ず病気は治ると言われまして、それでこちら様にお願いに上がった次第でございます」
それを聞いて、熊五郎、ガバっと起き上がります。
「しょうがねぇなぁ〜、そんなに言うだったら、診てやっても」
「本当でございますか!?」
「それで、その、まあ、その、あれは…」
「あれ、と申しますと?」
「いや、ほらね、医者辞めたのに、せっかく腰上げるんだ。それに、他の医者が匙投げた病人でしょう?それを治したってなりゃあ…ねえ?」
そう言いながら、人差し指と親指で輪っかをつくって見せます。
「…あ?ああ、それはもちろん、五千両までご用意致しております」
「へ、へぇ〜、五千両?よし、それじゃあ、行こうか!」
「あ、あの、お医者様は?」
「医者?オレ医者」
いつぞやと同じ様な流れで、手代について行きますと、それはそれは大きなお店でございます。
「へへ、これでまた客が舞い込むぜぇ」
なんて、熊五郎は揉み手をモミモミ、部屋に案内されますと、まさかまさかの枕元に死神。
先程まで考えていた贅沢が、ガラガラと崩れていきます。
「…番頭さん、こいつぁ、ムリだ」
絞り出すように、声を出します。
「先生、そんな!?」
「こいつぁ、こいつぁ、ムリなんだ…」
「先生!そこを何とか!」
「…すまねぇ」
「曲げて!どうか曲げて!」
「オレだって、どうにかしてやりてぇよ!…だけどよぉ、ムリなものはムリなんだ」
「分かりました」
「すまねぇ」
「一万両、ご用意致します」
「い、いち」
「はい。すぐにご用意出来ますのは、最初の五千両でございますが、主人が治りましたら、わたくし共が主人に申し上げ、必ずご用意致します」
さあ、金に目が眩んだなんて言っても、一万両でございます。誰も責めることは出来ません。
どうにか方法はないかと、ウンウン唸って、考えておりますと、パッと閃きます。
「…そうだよ。触われねぇんなら、触われる方をどうにかすりゃあいんだよ」
そう呟きますと、番頭さんに声をかけます。
「番頭さん、ちょいと二人だけで話せる部屋ぁねぇかい?」
「あ、あります。どうぞこちらへ」
「番頭さん、あのよ、この屋敷に、腕っぷしの強ぇ若けぇ衆が四人いねえかい?」
「おります」
「よし!いいかい、良く聞いておくなまし。その四人を病人の寝ている四隅に置いて欲しいんだ。そんでよ、オレがポンと膝を叩いたら、一斉に布団を持ち上げて、クルッ回すんだ。そう、クルッと。いや、一回転じゃねぇ!こう、頭のあったとこに足を、足のあったとこに頭を持ってきて欲しいんだ。そう、180°な。いいかい?こいつぁ、一発勝負だ。もし失敗すれば、病人の命はねぇぞ?」
元々、人相の悪い上に、鬼気迫る気迫に押され、番頭は頷くばかり。
番頭さんは、若い衆を四人呼んできて、しっかりと言い聞かせます。
さあ、これから一回こっきりの大勝負。
熊五郎は、じぃーと死神を見ております。
番頭さんと若い衆は、熊五郎の膝をじぃーと見ております。
さて、熊五郎に見られております死神は、どこ吹く風。
テーブルと椅子を用意しまして、一人ティーパーティー。
鼻歌まじりで、どこから取り出したか、本まで読む始末。
それでも、じぃーと死神を見ております。
夜が更けると、病人がうーん、うーんと苦しむ。
熊五郎は、どうにかもってくれ、どうにかもってくれと念じます。
そのうち夜が開けてくると、死神は本にも飽きたのか外を眺めつつ、コックリコックリ船を漕ぎ出します。
それを見て、若い衆に目配せをしておいて、ここだなと思うところでポンと膝を打つ。
途端にクルッと半回転。
その途端に、熊五郎、
「アジャラカモクレンセキグンハテケレッツノパー」
と早口で唱えて手を二回パンパンと打ちます。
その音に、死神がパッと病人を見ますと、枕元にいた筈なのに、いつの間にやら足元へ。
あれ?という表情をしながら、すっと消えました。
すると病人はたちまち容態が変わりまして、
「ああ、番頭さん、お腹が空きました。何か食べる物を持ってきてくれないかい?」
「…旦那さま…先生、ありがとうございます…ありがとうございます…」
番頭さんも若い衆も泣きながら、熊五郎の手を取ります。
「番頭さん?番頭さーん?」
一人、当人だけ取り残して、涙、涙の感動劇。
さあ、一旦落ち着きまして、熊五郎、金を受け取って、そのまま居酒屋へ。良い気分で、夜道を歩きます。
「へっへっへ、ありがてぇありがてぇ。やっぱり人間てぇものは苦しい時は知恵が出るてぇ事を言うがまったくだね。あの死神の驚いた顔ったらフフフ…」
思い出し笑いをして夜道を歩いていると、後ろから、手を叩く音がします。
「(手を叩きながら)いやぁ、お見事でございますね。誠に見事でございました」
ふりむくと、そこには、いつぞやの死神の姿。
「あ、こりゃあ死神さん、どうもお久しぶりで」
「お久しぶりでございます、熊五郎さん。いやぁ、見事な知略でございました」
「お?なんでぇ、見てたのかい?なあ、よく思いついたもんだろ?じゃあ、あんたも見ただろ?あの死神の顔!何度思い出しても笑えるねぇ」
「見てたなんてもんじゃございません。先程の死神は、私くしでございます」
「へ?」
「先程、貴方に騙されて消えましたのは、私くしでございます」
「そ、そいつぁ、悪りいことしちまったな…で、でもよ、お陰で、また儲かったんだ。あんたにも分けてやるよ」
「いえいえ、それは、貴方のお金。受け取る訳にはいきません」
「へへ、そうかい?そんなら、まあ、遠慮なく」
「ですが、そのお金、使い切ることが出来ますでしょうか?」
「へ?」
「いえ、貴方は、二つも禁忌を犯しましたし…」
「ふた…つ?」
「一つ、『呪文を人に教えない』」
「ま、まあ、あれは、ほら、しょーがねぇだろ」
「一つ、『枕元に死神がいたら、手を出さない』」
「いや、あれだって、結果的には、足元に…」
「さ、というわけですので、ちょっとついてきてください」
「え、嫌だよぉ。着いてったら大勢の死神が待ち構えてて、吊し上げようってんだろ? 勘弁しとくれよ、ねぇ、金は出すからさ」
「いえいえ、お金は貴方の物でございますから」
そう言うと、死神は、熊五郎の腕を掴み、グイグイ引っ張って参ります。腕っぷしには自信がある熊五郎でございますが、死神の手を振りほどけません。
どうにかこうにか逃げようとしますが、ついには諦めて、仕方なくトボトボついていきます。
しばらく歩いてやってきたのは、いつか首を括ろうとした大きな木の根元。
見るとそこにはポッカリと虚のような穴が開いていて、下に向かって階段が続いておりました。
「さぁ、降りましょう」
「え、何だいこの穴は。嫌だよぉ、こんな気味の悪いところへ降りるなんて。 ねぇ、金は半分上げるよ。だからさ勘弁しとくれよ。あなたとは知らずにやったことなんだよ」
「いえいえ、お金は、貴方の物でございますから」
「降りろったって、中は真っ暗じゃないか。こんなところ歩いたら転んじまうよ」
「大丈夫ですよ。私くしがしっかりと捕まえておりますので」
「え、そんな、捕まえてって、ちょっとちょと待ってくださいよ。そんなに引っ張ったら危ない、危ないよ」
「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
死神の腕に引かれて、真っ暗な階段を下りていくと、やがて明るい場所に出ます。
「さあ、着きましたよ」
「ありゃ、随分ロウソクがたくさんあるね。何ですこりゃ」
「こちらは、全て、人の寿命です」
「なるほど、昔から人の寿命はロウソクの火のようだなんて例えはよく聞いたもんですが、随分とたくさんあるもんだな。長いのや短いのや色んなのが……、あ、ちょいとちょいと、ここにおそろしくロウが溜まって暗くなってるのがありやすね」
「ああ、そういうロウソクは、寿命が近い方のロウソクです」
「へー、なるほどねー……、お、ここに随分長くて威勢良く燃えてんのがありますね」
「それは貴方のご子息でございますね」
「奴ですか。奴ぁ随分長生きなんですね。その隣に半分位になってんのに、威勢よく燃えてんのがありますよ」
「そちらは、貴方の元奥方ですね」
「ああ、カカァですかい。やっぱり奴も長生きをするんですね。おや、ここに、随分短くなって今にも消えそうなのがありますね」
「そちらが、貴方のロウソクですよ」
「え?」
「貴方の寿命です」
「だ、だってこれ、今にも消えそうじゃないか」
「もちろんですとも。先程、枕元に私くしがいるのに、手を出されたじゃございませんか。枕元の死神に手を出すということは、その方とロウソクを交換する…そういう意味になりますので」
「そ、そんな」
「ああ、ちなみに、火が消えますと、死にます。ロウソクがなくなっても死にます」
「そ、そんな、だって、だって、お前さん!初めて会った時に言ったじゃねぇか!オレにはまだ寿命があるって!そう言ったじゃねぇか…」
「そう言われましても、こちらも決まりがございまして」
「なあ、あんた!どうにかなんねぇか?なあ?金なら全部やるから!なあ!死にたくねぇよ!死にたくねぇ…死にたくねぇ…死にたくねぇ…」
「ん〜、お金はいりませんが、まあ、裏技と言いましょうか、それもあって、貴方をお連れした次第でございます」
その言葉を聞いて、パッと顔を明るくします。
「本当か!?」
「ええ」
「本当に本当か!?」
「もちろん」
「あとで、嘘だなんて言わねえよな!?」
「ええ。最初に申し上げた通り、貴方とは因縁がございますので、少しばかり手助けを」
「…ありがてえ…ありがてえ…」
「方法は簡単でございます。他の方のロウソクと交換すれば良いんです」
「他の…ロウソク…と?」
「ええ。ほら、すぐそばに、手頃なロウソクがあるじゃありませんか」
「…え?」
「貴方と、奥方の間にある」
「せ、倅の」
「ええ。ほら、ご覧ください。とても長く、太く、力強い。貴方に相応しいと思いませんか?」
「い、いや、でも…」
「何を迷う必要があるのです?『七つまでは神のうち』なんて言うではありませんか。よくある話でございますよ?」
「で、でも…」
「それに、今日の一万両もですが、この先、生きていれば、もっと儲けて、もっと贅沢も出来ますよ?」
「……」
「子供だって、貴方が生きていれば、すぐに出来ます」
「け、けど、カカァが…」
「思い出してみてください。せっかく『貴方が』稼いできた金を、好きに使わせない女ですよ?」
「……」
「そんな女が悲しもうが、関係あるでしょうか?」
「……」
「ほら、どうします?貴方のロウソク、こんなに弱々しく、今にも消えそうですよ?早くしないと、消えちゃいますよ?」
「……す、すまねぇ!」
そう言いますと、熊五郎は、ボキッと子供のロウソクを折り、ドンッと自分の場所へ叩き付けます。
そうしますと、不思議なことに、一瞬消えたはずのロウソクが、またメラメラと力強く燃え上がりました。
その瞬間、メキメキと自分の中に活力が湧いてくるのを感じます。
「こ、こりゃあ」
「(拍手しながら)おめでとうございます。無事、寿命は延びましたよ」
「へ…へへ…へへへ…これで、また贅沢が出来らあ。やってやったぜ、やってやったぜ!!」
「ええ、ええ、これからもガッポガッポと稼いで、存分に贅沢できますよ。おや?もう朝のようですね。日差しがここまで。熊五郎さん、すいませんが、明るくなりましたので、そちらのロウソクを消してくださいませんか?」
「おう、もう朝か。そうだな、明るくなったことだし、もう明かりはいらねぇもんな。フッ、と…あ」
…ふふ…ふふふ…ふふふふはははははははははは!
あ〜、面白かった。
欲にまみれた人というのは、本当に面白いですねぇ。
自分の息子も、愛した女も犠牲にして、生にしがみつく…
これぞ、人間でございます。
おや?
どうしました?
死神には、占い師は二回も出てこない?
そりゃあそうですよ。
二回とも、私くしでございますから。
契約ですからねぇ、回収する為にも、私くしも働かないといけないんでございますよ。
なに?
さては、熊五郎に関わった死神は、全部お前だろう?死神は、そんなに暇なのか?
いえいえ、死神『は』、そんな暇ではありませんよ?
はい?
お前のその言い方、本当に死神か?
ふふふ…
面白い質問をされますね。
ええ、もちろん、死神でございます。
私くし、『あくまで』死神でございます。