Dクラス「ドッ!ワハハ」 綾小路「wwww」 オリ主「あ、綾小路くんも笑ってるよw」 綾小路「」 作:ホモガキ
黒瀬相談部には、恋愛相談も来る。
むしろ、相談内容としては多い部類に入るらしい。
好きな相手とどう話せばいいのか。
連絡先を聞きたい。
返信が遅い。
脈があるのか知りたい。
告白するべきか迷っている。
俺からすれば、本人に確認しなければ分からないことまで相談されているように思う。
それでも黒瀬は、この手の相談を嫌がらない。
「好きな人いんの? いいじゃんw」
大体、そこから始まる。
本人にどれほど恋愛経験があるのかは知らない。
少なくとも、他人の恋愛へ首を突っ込むことに抵抗がないのは確かだった。
その日の放課後もそうだった。
「黒瀬さん、相談いい?」
「いいよ。百ポイントね」
「最初に金の話するんだ」
「大事だからねw」
教室へ入ってきたのは、Bクラスの柴田颯だった。
以前、一之瀬と行動しているところを何度か見たことがある。サッカー部に所属しており、クラスでも比較的交友関係が広い男子だ。
黒瀬とも顔見知りではあるらしい。
「柴田くんじゃん。どしたん?」
「ちょっと恋愛相談」
「お」
黒瀬が露骨に食いついた。
「いいじゃん。座って座って」
机を一つ挟み、柴田が腰を下ろす。
俺は少し離れた自分の席で本を開いていた。
相談部員ではない。
何度言っても黒瀬はその主張を聞き入れないが、少なくとも正式な部員ではない。
「で、好きな子いるの?」
「いる」
「同じクラス?」
「違う」
「何組?」
「そこ言うとすぐバレそうだから、まだ秘密」
「そんな特徴あんの?w」
「結構あると思う」
「じゃ、どんな子?」
柴田は少し考えてから話し始めた。
「明るい」
「うん」
「誰とでも普通に話せる」
「いいね」
「見た目もかなり可愛い」
「ほう」
「料理もできるらしい」
「強いじゃん」
黒瀬は完全に他人事だった。
俺は本へ視線を落としたまま、二人の会話を聞く。
「ただ」
「ただ?」
「勉強はあんまり得意じゃない」
「ちょっと待って」
黒瀬が眉を寄せる。
「それ悪口入ってない?」
「違う違う。そこも含めていいっていうか」
「勉強できないのが?」
「そうじゃなくて、一生懸命やってるところ」
「へえ」
黒瀬は感心したように頷いた。
この辺りで。
俺には何となく予想がついた。
だが、本人はまだ気づいていない。
「あと距離感が近い」
「距離感?」
「男とか女とか、あんまり気にしてない感じ」
「それは危ないね」
お前が言うのか。
「友達多いし、人が困ってたら放っておけないし」
「いい子じゃん」
「でも自分のことになると結構雑」
「ん?」
黒瀬が少し首を傾げた。
「あと、思ったことすぐ口にする」
「それくらい普通じゃない?」
「授業中でも」
「授業中は駄目だね」
「昨日も急に変なこと叫んで廊下に出されたらしい」
「へえ。何言ったの?」
柴田が僅かに笑った。
「なんか……枕がどうとか」
「……」
ようやく。
黒瀬の動きが止まった。
「黒瀬」
「待って」
「多分お前だ」
「待ってって」
黒瀬は柴田を見る。
柴田も笑いを堪えながら黒瀬を見ている。
「……俺?」
「うん」
「マジ?」
「マジ」
「最初から?」
「最初から」
「言ってよ!」
「途中で気づくかなって」
「もっと早く気づけよ俺!」
そこは同感だった。
「じゃ何?」
黒瀬が自分の胸元を指差す。
「好きな人って俺?」
「うん」
「マジで?」
「そう」
「へえー……」
数秒。
黒瀬は柴田を見た。
照れた様子はない。
むしろ、珍しいものを見るような顔をしている。
「趣味変わってんなぁw」
「本人が言う?」
「いや、俺だよ?」
「そこも含めて好きなんだけど」
「マジ?w」
黒瀬は笑った。
柴田の方が少し困ったような表情をする。
「黒瀬さん、こういう時もうちょっと照れたりしないの?」
「え、した方がいい?」
「いや、別に」
「じゃいいじゃん」
「自由だなぁ」
「よく言われるw」
そう言いながら、黒瀬は机へ肘をついた。
「で?」
「ん?」
「相談内容は?」
「いや、今言ったけど」
「好きなのは分かった。何に困ってんの?」
「……黒瀬さんと付き合いたい」
「うん」
「どうしたらいい?」
「俺に聞く?」
「相談部でしょ?」
「そうだけど、好きな子の攻略法を本人に聞く奴初めて見たわw」
「本人に聞くのが一番早いかなって」
「合理的だねえ」
黒瀬がこちらを見る。
「清隆みたい」
「俺を見るな」
「褒めてんじゃん」
「褒めてない」
柴田が笑う。
「綾小路って、いつもここにいるよね」
「たまたまだ」
「副部長だから」
「違う」
「参謀?」
「違う」
「顧問?」
「全部違う」
「清隆?」
「それは合ってる」
「何そのやり取り」
柴田がまた笑った。
黒瀬は満足そうだった。
「まあでも、付き合うって言われてもなぁ」
「うん」
「俺、柴田くんのことまだそんな知らないじゃん」
「それはそうだよな」
「だから、まず普通に友達からでよくない?」
「友達から?」
「うん。喋ったり、飯行ったり」
「じゃ」
柴田が少しだけ姿勢を正した。
「今度、二人で飯行かない?」
「いいよ」
返答は早かった。
「……」
ページをめくる。
何も問題はない。
黒瀬自身が言った通り、友人として食事をするだけだ。
「マジ?」
「飯くらいいいでしょ」
「じゃ今週どっかで」
「いいよ。空いてる日送って」
「了解」
黒瀬がスマートフォンを取り出す。
柴田も同じように取り出した。
連絡先を交換するらしい。
「柴田くーん」
その時、教室の入口から声がした。
「あれ?」
一之瀬が顔を出した。
黒瀬を見つけると、そのまま教室へ入ってくる。
「莉愛ちゃんもいたんだ」
「帆波じゃん」
「何してるの?」
「恋愛相談」
「柴田くんが?」
「そう」
一之瀬が興味深そうに柴田を見る。
「へえー。好きな人いるんだ?」
「一之瀬、声でかいって」
「ごめんごめん。それで誰?」
柴田が言葉に詰まる。
その代わり、黒瀬があっさり答えた。
「俺」
「……え?」
「柴田くん、俺と付き合いたいらしいw」
「黒瀬さん!」
「ええっ!?」
一之瀬の声が教室に響いた。
「ほら声でかいって!」
「ご、ごめん! でも本当に!?」
「本当」
「いつから!?」
「一之瀬!」
「だって全然気づかなかった!」
「俺も今知ったw」
「莉愛ちゃんまで!」
相談内容が一瞬でBクラスのクラスメイトに漏れた。
柴田にとって、黒瀬相談部を選んだのは正しい判断だったのだろうか。
「でも」
一之瀬は少し落ち着くと、黒瀬の隣へ来た。
「柴田くん、いい人だよ?」
「何その紹介w」
「本当だよ。サッカー部もちゃんと頑張ってるし、友達も多いし。誰か困ってたら普通に手伝ってくれるし」
「へえ」
「クラスでも結構頼られてるよね」
「一之瀬、それ恥ずかしいって」
「事実だもん」
黒瀬が柴田を見る。
「帆波がそこまで言うなら、マジでいい奴じゃん」
「まあ……悪い奴ではないと思う」
「自分で言う?w」
確かに。
柴田に特別な問題があるようには見えない。
交友関係も広く、運動能力も高い。周囲からの信頼もある。
黒瀬と性格的に合わないとも思えない。
むしろ。
客観的に考えれば、相性は悪くない部類だろう。
「じゃ、まず友達からなんだね?」
一之瀬が言う。
「うん」
黒瀬が頷く。
「今度飯行く」
「二人で?」
「そう」
「おー」
一之瀬が楽しそうに笑った。
「デートだ」
「いや友達からだからw」
「でも二人でご飯行くんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃデートじゃない?」
「違くね?」
「違わないと思うけどなぁ」
「友達として食事をするだけだろ」
気づけば。
俺が口を挟んでいた。
「……」
三人がこちらを見る。
黒瀬が瞬きをする。
「清隆?」
「何だ」
「なんでお前が訂正すんの?w」
「今の話を聞けばそういうことだろ」
「まあそうだけど」
柴田が笑う。
「綾小路の言う通り。俺もいきなりデートって思ってもらうつもりはないよ」
「ほら」
「なんで清隆が勝ち誇ってんの?」
「勝ち誇ってない」
「そう?」
「ああ」
一之瀬が。
なぜか俺を見ていた。
「……」
「何だ」
「ううん」
少し笑う。
「そっか。友達としてね」
「ああ」
「綾小路くんが言うなら、そうなんだね」
「なぜ俺基準なんだ」
「なんとなく」
意味が分からない。
黒瀬も特に気にした様子はなく、柴田と予定を調整している。
「じゃ木曜?」
「俺その日部活遅いかも」
「なら金曜」
「金曜なら空いてる」
「決まり」
「楽しみにしてる」
「俺も飯は楽しみ」
「飯は?」
「そこ大事じゃんw」
「そこだけ?」
「まだ友達からなんでしょ?」
「そうだけどさ」
柴田が苦笑する。
一之瀬も笑った。
それで話は終わったらしい。
「じゃ俺、部活行くわ」
「おー」
「黒瀬さん、金曜よろしく」
「よろしくー」
柴田が教室を出る。
その後ろ姿を見送ってから、黒瀬が手を差し出した。
「柴田くん」
柴田が振り返る。
「何?」
「百ポイント」
「この流れで取るの!?」
「相談したじゃん」
「本人に告白して、本人から友達からって言われて、最後に百ポイント取られるの?」
「めっちゃ濃い相談だったでしょw」
「料金に内容の濃さ関係ある?」
「ない」
「じゃ言うなよ!」
柴田は笑いながらポイントを送った。
「はい、ありがと」
「金曜の飯代から百円分引いていい?」
「せこ!w」
「黒瀬さんが言う?」
「これは商売だから!」
「はいはい」
今度こそ柴田は出ていった。
一之瀬はまだ残っている。
「莉愛ちゃん」
「何?」
「柴田くん、結構いいと思うよ?」
「またそれ?」
「彼氏として」
「もうそこまで行く?w」
「だって莉愛ちゃん、彼氏いないんでしょ?」
「いないね」
「だったら、仲良くなってから考えてみてもいいんじゃない?」
「まあ」
黒瀬は少し考えた。
「普通に好きになったらね」
「うんうん」
「でも今はまだ柴田くんって感じ」
「どういう意味?」
「柴田くんは柴田くん」
「ふふっ。そっか」
一之瀬は楽しそうだった。
「綾小路くんはどう思う?」
「なぜ俺に聞く」
「だって二人、仲良いじゃん」
「黒瀬が決めることだ」
「まあ、そうだね」
それ以外に答えようがない。
一之瀬は一度黒瀬を見て。
次に俺を見る。
「……そっか」
何か含みがあるように見えた。
「何だ」
「何でもないよ?」
笑っている。
やはり意味が分からなかった。
◇
金曜日。
放課後。
教室から出たところで、廊下の向こうに黒瀬がいた。
柴田もいる。
「ごめん、待った?」
「全然」
「部活大丈夫?」
「今日は早く終わったから」
「ならよかった」
自然に会話をしている。
黒瀬はいつも通りだった。
柴田も特に緊張しているようには見えない。
そういう意味では、確かに相性は悪くないのかもしれない。
「綾小路くん」
隣から声がした。
一之瀬だった。
「ああ」
「今から二人、ご飯みたいだよ」
「聞いている」
「そっか」
一之瀬も二人を見る。
「柴田くん、いい人だよ」
「そうだろうな」
「サッカー部でも人気あるし。女の子からも結構モテると思う」
「そうか」
「莉愛ちゃんとも話合いそう」
「そうだな」
否定する材料はない。
一之瀬の評価も妥当だろう。
少しして。
一之瀬がこちらを見る。
「じゃあ安心だね」
「……」
「ん?」
「何がだ」
「莉愛ちゃんがご飯行く相手として」
「俺が安心する必要はないだろ」
「あ、そうだよね」
一之瀬は笑った。
「ごめんごめん」
「……」
何だったんだ。
「帆波ー!」
黒瀬がこちらに気づいた。
「清隆もじゃん」
「うん。これから帰るところ」
一之瀬が答える。
「二人ともこれからご飯?」
「そう」
「楽しんできてね」
「おー」
一之瀬が少し悪戯っぽく笑う。
「デート楽しんでね」
「だから友達からだって!w」
「はいはい」
柴田も苦笑した。
「じゃ行こうか」
「うん」
二人が歩き出す。
黒瀬が途中で振り返った。
「清隆、また明日ね」
「ああ」
それだけ。
二人は廊下の向こうへ消えていった。
「……」
「綾小路くん?」
「何だ」
「行こっか」
「ああ」
一之瀬と途中まで同じ方向へ歩く。
特に問題はない。
柴田は信用できる人間だ。
黒瀬も本人の意思で食事に行った。
俺が何かを気にする必要はない。
「綾小路くん」
「何だ」
「さっきから静かだね」
「普段からこんなものだ」
「そう?」
「ああ」
「そっか」
一之瀬はそれ以上何も言わなかった。
ただ。
少しだけ楽しそうに見えた。
◇
翌朝。
「清隆」
教室へ入ってすぐ。
黒瀬が俺のところへ来た。
「何だ」
「昨日柴田くんと飯行ってきた」
「ああ」
「普通に楽しかったわ」
「そうか」
「サッカーの話とか聞いてさ。あいつ結構おもろいね」
「そうか」
「あとめっちゃ食う」
「運動部だからな」
「俺より食ってた」
「それは普通だろ」
「何だよw」
黒瀬は笑う。
「またどっか行こって言われた」
「そうか」
「……」
黒瀬が黙る。
「何だ」
「清隆、さっきから『そうか』多くない?」
「そうか?」
「ほら!」
「気のせいだ」
「いや絶対多いってw」
「そうか」
「わざとやってるだろ!」
黒瀬が笑いながら俺の肩を軽く叩いた。
「まあいいや」
「そうか」
「もうやめろw」
少しして。
「今日飯行こ」
「……」
「何?」
「柴田は?」
「え?」
黒瀬が瞬きをする。
「今日はサッカー部じゃない?」
「そうか」
「てかなんで柴田くんの予定気にしてんの?」
「気にしてない」
「今聞いたじゃん」
「今日一緒に行かないのか確認しただけだ」
「なんで?」
「……」
理由。
特にない。
「相談部の経過確認だ」
「何その言い訳w」
「言い訳ではない」
「副部長じゃん」
「違う」
「参謀?」
「違う」
「顧問?」
「違う」
「じゃ清隆?」
「それは合ってる」
「じゃ飯」
「どこに行く」
「ラーメン」
「またか」
「いいじゃんw」
「ああ」
「奢りね」
「それは断る」
「そこは断るんかい!」
黒瀬は笑いながら自分の席へ戻っていった。
俺はその背中を見る。
柴田との食事は楽しかった。
また誘われている。
それでも今日は。
黒瀬から俺を誘った。
「……」
別に。
そこに特別な意味があるわけではない。
黒瀬は誰とでも食事へ行く。
困れば誰にでも頼る。
その中の一人が俺というだけだ。
そう考えるのが自然だった。
なのに。
今日は柴田ではなく、俺と食事に行く。
その事実を確認した時。
昨日から残っていた何かが、少しだけ消えた。
安心する理由はない。
そもそも。
俺が安心する必要など、どこにもない。
……それなのに。
気分は、昨日より少しだけ良かった。