Dクラス「ドッ!ワハハ」 綾小路「wwww」 オリ主「あ、綾小路くんも笑ってるよw」 綾小路「」   作:ホモガキ

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第16話 友達としてダブルデート

 

 

 

 

 ダブルデートという言葉を、俺は知識としては知っている。

 

 二組の男女が連れ立って出かけること。一般的には、それぞれが恋人同士である場合に使われる言葉だ。

 

 だから。

 

「莉愛、今度の日曜空いてる?」

 

「空いてるよ」

 

「じゃ、ダブルデートしよ」

 

「いいよ」

 

 昼休み。

 

 軽井沢の誘いに一秒で答えた黒瀬を見て、少しだけ疑問が生じた。

 

 黒瀬に恋人はいない。

 

 少なくとも、俺の知る限りでは。

 

「じゃ決まりね」

 

「おー」

 

「……」

 

「……」

 

 軽井沢が黒瀬を見る。

 

 黒瀬も軽井沢を見る。

 

「何?」

 

「いや」

 

 軽井沢が眉を寄せた。

 

「あんた、相手誰にするつもり?」

 

「相手?」

 

「ダブルデートの」

 

「……」

 

 黒瀬が止まる。

 

「恵と二人で遊ぶんじゃないの?」

 

「それダブルデートって言わないから!」

 

「あ、そういうやつ?」

 

「どういう意味だと思ってたの!?」

 

「じゃあ、四人くらいで遊ぶやつw」

 

「人数だけ合ってる!」

 

 軽井沢がダブルデートの意味を説明する。

 

 黒瀬は納得したように頷いた。

 

「じゃ恵は平田くん?」

 

「そりゃそうでしょ」

 

「俺どうすんの?」

 

「それを今聞いてんだけど」

 

「んー」

 

 黒瀬が教室を見回した。

 

 特に真剣に探している様子はない。

 

 その視線が、俺のところで止まる。

 

「あ」

 

 嫌な予感がした。

 

 黒瀬がこちらへ歩いてくる。

 

「清隆♡」

 

「断る」

 

「まだ何も言ってないじゃん!」

 

「お前の顔を見れば大体分かる」

 

「エスパーじゃんw」

 

「違う」

 

 黒瀬は俺の机の横まで来ると、楽しそうに笑った。

 

「清隆、日曜デートしよ」

 

「断る」

 

「二回目!」

 

「内容が予想通りだったからな」

 

「恵と平田くんもいるよ」

 

「それならダブルデートじゃないか」

 

「そうらしい」

 

「なおさら断る」

 

「なんで!?」

 

「俺たちは付き合ってない」

 

「友達として行けばよくない?」

 

「ダブルデートという名称と矛盾している」

 

「細けえなぁw」

 

 細かい問題ではないと思う。

 

 少なくとも、恋人ではない男女が恋人同士と一緒に出かけるなら、それは単に四人で遊びに行くだけだ。

 

 わざわざダブルデートと呼ぶ必要はない。

 

「ね、行こうよ」

 

「他の男を誘え」

 

「誰?」

 

「知らない」

 

「池くん?」

 

「いいんじゃないか」

 

「なんかずっと喋ってそう」

 

「山内」

 

「池くんと大体同じじゃん」

 

「須藤」

 

「途中で何かにキレそう」

 

 本人たちが聞いたら怒るだろう。

 

「幸村」

 

「休日に勉強の話されそう」

 

「平田は既に相手がいる。高円寺でも誘え」

 

「絶対俺ら置いてどっか行くじゃん」

 

「なら諦めろ」

 

「やだ」

 

 即答だった。

 

「清隆がいい」

 

「……」

 

「一番楽だし」

 

 理由まで付いた。

 

 予想していたものとは少し違ったが。

 

「俺を何だと思ってる」

 

「一緒にいて楽な友達」

 

「褒めているのか?」

 

「めっちゃ褒めてるよ?」

 

 悪意がないのは分かる。

 

 黒瀬は机へ手をつき、少し身を乗り出した。

 

「頼むって清隆ぁ〜。四人で遊んだ方がおもろそうじゃん」

 

「日曜くらい一人で過ごしたい」

 

「予定あんの?」

 

「ない」

 

「じゃ暇じゃん」

 

「予定がないことと暇であることは同義じゃない」

 

「何すんの?」

 

「本を読む」

 

「暇じゃん」

 

「帰れ」

 

「清隆ぁ〜」

 

 声を伸ばしても意味はない。

 

 意味はないはずだった。

 

「……何時だ」

 

「え?」

 

「集合時間」

 

 黒瀬の顔が明るくなる。

 

「十時!」

 

「そうか」

 

「来る?」

 

「行かなければ、月曜まで言われそうだからな」

 

「分かってんじゃんw」

 

 黒瀬が満足そうに笑う。

 

 少し離れた場所でこちらを見ていた軽井沢が、何とも言えない顔をしていた。

 

「何だ」

 

「別に?」

 

 軽井沢はそう言うと、なぜか少し笑った。

 

 ◇

 

 日曜日。

 

 約束より五分ほど早く、けやきモールの入口へ向かった。

 

 平日とは違い、休日のモール内は朝から生徒が多い。

 

 集合場所には、まだ誰も来ていなかった。

 

 少し待つ。

 

「清隆ー!」

 

 聞き慣れた声がした。

 

 振り返る。

 

 黒瀬がこちらへ歩いてきていた。

 

 普段の制服ではない。

 

 明るい色のトップスに、動きやすそうなボトムを合わせている。長い髪も普段より少し手をかけているらしく、いつもの髪飾りも服装に合わせていた。

 

 学校で見る黒瀬とは、少し印象が違う。

 

「おはよ」

 

「ああ」

 

「待った?」

 

「今来たところだ」

 

「模範解答じゃんw」

 

「事実だ」

 

 黒瀬は俺の前で一度止まった。

 

 そして、なぜか両手を少し広げる。

 

「どう?」

 

「何がだ」

 

「今日の俺」

 

「……」

 

「昨日さ、服選ぶのに一時間くらいかかったんだけど」

 

「そんなにかける必要があるのか」

 

「そこじゃないじゃん!」

 

「何を聞きたい」

 

「可愛くない?」

 

 またか。

 

 以前、教室でも似たような質問をされた。

 

 答え自体は難しくない。

 

「似合ってるんじゃないか」

 

「お」

 

 黒瀬が少し目を丸くした。

 

「今日素直じゃん」

 

「聞かれたから答えただけだ」

 

「その言い訳好きだねw」

 

「言い訳じゃない」

 

「はいはい」

 

 機嫌が良さそうだった。

 

「清隆も今日いいじゃん」

 

「何がだ」

 

「私服」

 

「普通だろ」

 

「そういうのでいいんだって。褒められたらありがとって言っとけば」

 

「そうか」

 

「ありがとは?」

 

「必要あるのか?」

 

「めんどくさ!」

 

 そこへ、別の声が飛んできた。

 

「朝から何やってんの、あんたたち」

 

 軽井沢だった。

 

 隣には平田もいる。

 

「おはよう、綾小路くん。黒瀬さん」

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

 平田はいつも通り穏やかだった。

 

 一方、軽井沢は俺と黒瀬を交互に見ている。

 

「何?」

 

 黒瀬が聞く。

 

「いや別に」

 

「恵さっきからそればっかじゃん」

 

「莉愛が朝から綾小路に『今日の私可愛い?』とか聞いてるから」

 

「私じゃなくて俺ね」

 

「そこ?」

 

「大事でしょ」

 

「もっと大事なとこあるでしょ!」

 

 平田が苦笑する。

 

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 

「最初どこ?」

 

「ボウリング」

 

 軽井沢が言った。

 

「お、いいじゃん!」

 

 黒瀬がすぐに食いつく。

 

「俺結構上手いよ?w」

 

「そうなの?」

 

「多分」

 

「多分なんだ」

 

 その言葉を、俺は覚えておくことにした。

 

 ◇

 

「レーン傾いてない?」

 

「傾いてない」

 

「いや絶対傾いてるって」

 

「お前が真っ直ぐ投げてないだけだ」

 

「そんなはずないんだけどなぁ」

 

 三投連続でガーターを出した黒瀬が、本気でレーンを疑っていた。

 

 先ほどの「結構上手い」という自己評価は、やはり根拠がなかったらしい。

 

「莉愛、下手すぎない?」

 

 軽井沢が笑う。

 

「うるさいって! 今調整中だから!」

 

「何を?」

 

「フォーム」

 

「三回全部違ったけど」

 

「試行錯誤ってやつw」

 

「それ迷走って言うんじゃない?」

 

「恵、今日敵ね?」

 

「最初からチーム別だから敵でしょ」

 

 チーム分けは、軽井沢が当然のように決めた。

 

 平田と軽井沢。

 

 俺と黒瀬。

 

 ダブルデートだから、という理由らしい。

 

 俺としては誰と組んでも構わない。

 

「清隆」

 

「何だ」

 

「ちょっと耳貸して」

 

「聞こえてる」

 

「作戦会議」

 

「作戦が必要な競技じゃない」

 

「恵たちに負けたらジュース奢りなんだよ」

 

「お前が勝手に決めただろ」

 

「だから清隆、頑張って」

 

「自分で頑張れ」

 

「俺の分まで」

 

「逆だ」

 

 黒瀬は俺の肩を軽く叩く。

 

「俺たち相性いいからいけるって」

 

「どこで判断した」

 

「清隆が俺の失敗をカバーしてくれる」

 

「それを相性がいいとは言わない」

 

「言うって」

 

「言わない」

 

 平田が投げる。

 

 綺麗に中央へ入り、八本倒れた。

 

「洋介うまっ」

 

「たまたまだよ」

 

「清隆、負けてるよ!」

 

「俺ではなくお前が負けている」

 

「チーム戦なんだから俺らの負けじゃん」

 

「都合のいい時だけ共同体になるな」

 

 黒瀬が笑った。

 

 俺の番になる。

 

 目立つ必要はない。

 

 適当に投げても問題ないが、黒瀬がこのままなら少しは点を取らなければ一方的になる。

 

 球を投げる。

 

 九本。

 

「おー!」

 

 黒瀬が拍手する。

 

「清隆やるじゃん!」

 

「普通だ」

 

「もう一個倒せよ!」

 

「お前はまず一本倒せ」

 

「言ったな?」

 

 黒瀬は次の自分の番になると、妙に真剣な顔でレーンへ向かった。

 

 助走。

 

 投げる。

 

 球は中央から少し左へ逸れた。

 

 それでも今回は倒れた。

 

 六本。

 

「よっしゃあ!」

 

 黒瀬が両手を上げる。

 

「見た!?」

 

「見てた」

 

「六本!」

 

「ああ」

 

「成長!」

 

「比較対象がゼロだからな」

 

「褒めろよ!」

 

 軽井沢が横で笑っている。

 

「莉愛、六本でそんな喜ぶ人初めて見た」

 

「最初ゼロだったんだから六倍だぞ?」

 

「ゼロは何倍してもゼロだよ」

 

 平田が珍しく正確な指摘をした。

 

「平田くんまで!?」

 

 その後、黒瀬は少しずつまともに投げられるようになった。

 

 最終的には、俺たちのチームが僅差で負けた。

 

「清隆ぁ……」

 

「何だ」

 

「あとちょっとだったじゃん」

 

「原因の大半はお前だ」

 

「でも最後俺結構倒したじゃん」

 

「前半の借金が大きすぎた」

 

「言い方が金融なんよ」

 

「はい、ジュースね」

 

 軽井沢が手を出す。

 

「清隆、頼んだ」

 

「なぜ俺が払う」

 

「チームメイトじゃん」

 

「都合のいい時だけ共同体になるなと言ったはずだ」

 

「じゃ半分ずつ?」

 

「最初からそうしろ」

 

「清隆、細けえなぁw」

 

 結局、一人一本ずつ買うことになった。

 

 黒瀬は自分の分まで当然のように選んでいる。

 

 さっきまで負けた罰ゲームだったはずだが、本人が一番楽しそうだった。

 

 ◇

 

 昼食はモール内のカフェに入った。

 

 四人用の席。

 

 平田の隣に軽井沢。

 

 俺の隣に黒瀬。

 

 これも軽井沢が自然に決めた。

 

「ダブルデートっぽいでしょ?」

 

 そう言われても、よく分からない。

 

「莉愛何食べる?」

 

「これ」

 

「即決なんだ」

 

「飯は迷わない」

 

「服は一時間迷うのに?」

 

「それとこれ別じゃん」

 

 黒瀬はメニューを指差した。

 

 俺も適当に決める。

 

 注文を済ませてしばらくすると、軽井沢が黒瀬を見る。

 

「そういえば莉愛」

 

「ん?」

 

「柴田くんとはどうなったの?」

 

「柴田くん?」

 

「この前ご飯行ったんでしょ」

 

「あー」

 

 黒瀬は水を飲む。

 

「普通に友達」

 

「それだけ?」

 

「それだけって?」

 

「また誘われてないの?」

 

「誘われてるよ」

 

 俺は水へ手を伸ばした。

 

「へえ。行くの?」

 

「まだ分かんない」

 

「なんで?」

 

「今週ちょい予定あるし」

 

「何?」

 

 黒瀬が指を一本立てる。

 

「今日」

 

「今日?」

 

「だって清隆と遊ぶ予定入ってたじゃん」

 

 軽井沢が一瞬だけ黙った。

 

「……私と洋介もいるけど?」

 

「いるね」

 

「そこ忘れてない?」

 

「忘れてないってw」

 

 黒瀬は笑った。

 

「別に柴田くんとの飯はいつでも行けるし」

 

「ふーん」

 

 軽井沢が今度は俺を見る。

 

「何だ」

 

「何も?」

 

「なら見るな」

 

「見てないけど?」

 

「今見てただろ」

 

「自意識過剰じゃない?」

 

 黒瀬が横から笑う。

 

「清隆、自意識過剰なん?」

 

「違う」

 

「モテ始めたから?」

 

「何の話だ」

 

「俺とか柴田くんとか?」

 

「なぜ柴田が俺を好きになる」

 

「そっち!?w」

 

 平田まで笑った。

 

 料理が運ばれてくる。

 

 軽井沢と平田は、少なくとも周囲から見れば自然な恋人同士だった。

 

 軽井沢が平田の皿を見て、

 

「洋介、それ美味しい?」

 

「うん。食べる?」

 

「一口」

 

 平田が少し皿を寄せる。

 

 軽井沢が食べる。

 

「美味しい」

 

「よかった」

 

 普通のやり取りだ。

 

 黒瀬がそれを妙に興味深そうに見ていた。

 

「何?」

 

 軽井沢が気づく。

 

「いや」

 

「いや、絶対何かあるでしょ」

 

「付き合うってこんな感じなんだなと思って」

 

「何それ」

 

「俺彼氏いたことないし」

 

「柴田くんがいるじゃん」

 

「だからまだ友達だってw」

 

 軽井沢がため息をつく。

 

「莉愛って意外とそういうとこ慎重なんだ」

 

「慎重?」

 

「告白されたらノリで付き合いそうなのに」

 

「失礼じゃね?」

 

「でも言いそうじゃん。『いいよw』って」

 

「いや、好きでもないのに付き合うの変じゃない?」

 

 黒瀬は何でもないことのように言った。

 

「友達なら友達でよくない?」

 

「……まあ、それはそうだけど」

 

「好きになったら付き合えばいいじゃん」

 

 単純な答えだった。

 

 ただ、黒瀬にとっては本当にそれだけなのだろう。

 

 人間関係に、必要以上の名前をつけない。

 

 友人なら友人。

 

 恋人なら恋人。

 

 相手がどう見えるかより、自分がどう思っているかの方を優先している。

 

「じゃあさ」

 

 軽井沢が少し楽しそうな顔をした。

 

「綾小路は?」

 

「清隆?」

 

「うん」

 

「友達」

 

「即答」

 

「だって友達じゃん」

 

 黒瀬がこちらを見る。

 

「ね?」

 

「俺に確認するな」

 

「違うの?」

 

「否定はしてない」

 

「じゃ友達じゃんw」

 

 満足したらしい。

 

 軽井沢はまた俺を見た。

 

「何だ」

 

「ほんと何でもない」

 

「さっきからそればかりだな」

 

「気にしすぎじゃない?」

 

 軽井沢の方が楽しんでいるように見えた。

 

 ◇

 

 昼食後はゲームセンターへ移動した。

 

 最初は軽井沢がやりたいと言った音楽ゲーム。

 

 次に黒瀬が見つけたエアホッケー。

 

 その後、平田が全員で遊べそうなゲームを探す。

 

 四人で来れば、時間を潰すものには困らない。

 

「清隆!」

 

「何だ」

 

「見て!」

 

 黒瀬がUFOキャッチャーの前から手招きしていた。

 

 中には丸い動物のぬいぐるみが置かれている。

 

「これ欲しい」

 

「取ればいい」

 

「取れない」

 

「何回やった」

 

「五回」

 

「諦めろ」

 

「あと一回でいけるって」

 

「それは四回前にも思っていただろ」

 

「なんで分かんの?」

 

「お前の性格ならそう言う」

 

「エスパーじゃん」

 

「違う」

 

 黒瀬はもう一度ポイントを入れる。

 

「今度こそ」

 

 アームが下りる。

 

 ぬいぐるみを掴む。

 

「来た!」

 

 持ち上がる。

 

「清隆見て!」

 

「見てる」

 

 出口直前。

 

 落ちた。

 

「…………」

 

「惜しかったな」

 

「今の絶対店側なんかやっただろ」

 

「何もしてない」

 

「遠隔操作」

 

「そんなことをする理由がない」

 

「くそー」

 

 黒瀬は財布代わりの端末を見る。

 

「もう結構使ってんじゃん……」

 

「最初から買った方が安かった可能性があるな」

 

「夢ないこと言うなって」

 

「事実だ」

 

「清隆やって」

 

「なぜ俺が」

 

「俺もう冷静じゃない」

 

「それは見れば分かる」

 

「一回だけ!」

 

 黒瀬から場所を譲られる。

 

 配置を見る。

 

 正面から持ち上げるより、少しずらした方がいい。

 

 一回目。

 

 位置が変わる。

 

「あ、上手くね?」

 

「まだ取れてない」

 

「いや今めっちゃいい位置行った」

 

 二回目。

 

 アームを少し奥へ入れる。

 

 ぬいぐるみが転がる。

 

 出口へ落ちた。

 

「……」

 

「取れたぞ」

 

 黒瀬が無言で俺を見る。

 

「何だ」

 

「清隆」

 

「何だ」

 

「俺、お前と結婚した方がいいかもしれん」

 

「ぬいぐるみ一個で人生を決めるな」

 

 後ろで軽井沢が盛大に吹き出した。

 

「莉愛、安すぎ!」

 

「だって俺千ポイント以上溶かしたのに、清隆二回だよ?」

 

「二回やってるじゃん」

 

「そこじゃないって!」

 

 平田も笑っている。

 

 景品を黒瀬へ渡す。

 

「ほら」

 

「マジでもらっていいの?」

 

「お前が欲しがってたんだろ」

 

「やった!」

 

 黒瀬は嬉しそうにぬいぐるみを抱えた。

 

「ありがと清隆」

 

「ああ」

 

「これ部屋飾るわ」

 

「好きにしろ」

 

「名前何にしよ」

 

「必要なのか?」

 

「いるでしょ」

 

「知らない」

 

「清隆二号」

 

「やめろ」

 

「じゃ清隆Jr.」

 

「もっとやめろ」

 

「清ちゃん」

 

「俺から離れろ」

 

「注文多いなw」

 

「莉愛」

 

 軽井沢が笑いながら口を挟む。

 

「もう綾小路って名前つければ?」

 

「それだ」

 

「採用するな」

 

 結局、名前は決まらなかったらしい。

 

 少なくとも俺の名前が採用されなかったことだけは確認した。

 

 ◇

 

「次、プリ撮ろ」

 

 軽井沢の提案に、俺はすぐ答えた。

 

「俺はいい」

 

「出た」

 

「何がだ」

 

「男子のプリ嫌がるやつ」

 

「嫌というより必要性が分からない」

 

「記念じゃん」

 

「写真ならスマートフォンで撮れる」

 

「分かってないなぁ」

 

 軽井沢が呆れる。

 

 横を見る。

 

 黒瀬も何故か呆れた顔をしていた。

 

「清隆」

 

「何だ」

 

「行くぞ」

 

「嫌だ」

 

「逃がすか」

 

 袖を掴まれる。

 

「離せ」

 

「四人で来たんだから四人で撮るの!」

 

「俺が写る必要はない」

 

「ある!」

 

「根拠は?」

 

「ノリ!」

 

「根拠になってない」

 

「いいから!」

 

 黒瀬と軽井沢に押される形で、結局入ることになった。

 

 平田は特に抵抗していない。

 

「平田、お前は嫌じゃないのか」

 

「僕はみんなで撮るならいいかな」

 

「裏切り者」

 

「ごめん」

 

 謝る必要はない。

 

 機械の前へ四人で並ぶ。

 

「もっと寄ってー」

 

 軽井沢が指示する。

 

「これ以上必要か?」

 

「綾小路だけ離れてんの!」

 

「画面には入っている」

 

「そういう問題じゃないから!」

 

 黒瀬が俺の腕を引いた。

 

「ほら清隆、こっち」

 

「近い」

 

「プリクラなんだからこんなもんでしょ」

 

「そうなのか」

 

「多分」

 

「お前も知らないのか」

 

「俺もあんま撮らんw」

 

 一枚目。

 

 軽井沢と黒瀬は慣れたように表情を作る。

 

 平田も笑う。

 

 俺だけ普通だった。

 

 二枚目。

 

 黒瀬がピースを出す。

 

 三枚目。

 

 機械の画面に指示が出る。

 

『次はカップルで2ショット♡』

 

「……」

 

「お」

 

 黒瀬が画面を見る。

 

 軽井沢がニヤッとした。

 

「はい、分かれて」

 

「必要あるのか」

 

「そういうコースなんだから!」

 

 平田と軽井沢。

 

 俺と黒瀬。

 

 黒瀬は何の抵抗もなく俺の隣へ来る。

 

「清隆、もっと寄って」

 

「十分だろ」

 

「半分切れてるってw」

 

「ならお前が寄れ」

 

「おっけ」

 

 あっさり距離を詰めてきた。

 

 肩が触れる。

 

「はい、ピース」

 

「俺もか?」

 

「当たり前じゃん」

 

「なぜ」

 

「ノリ!」

 

「またそれか」

 

 結局、ピースはしなかった。

 

 撮影が終わる。

 

「清隆顔死んでんじゃんw」

 

 完成した写真を見た黒瀬が笑う。

 

「普通だ」

 

「俺めっちゃいい顔してんのに、隣これだぞ?」

 

「なら捨てればいい」

 

「やだよ」

 

「なぜ」

 

「せっかく撮ったじゃん」

 

 黒瀬は何でもないことのように言った。

 

「記念でしょ?」

 

「……そうか」

 

「うん」

 

 プリクラを四人分に分ける。

 

 黒瀬は自分の分をスマートフォンケースの中へ入れた。

 

 俺の分も渡される。

 

「いらないと言ったはずだ」

 

「もう撮ったんだから持っとけって」

 

「どうしろと」

 

「財布とかに入れれば?」

 

「入れない」

 

「じゃ机」

 

「飾らない」

 

「部屋」

 

「もっと飾らない」

 

「じゃ好きにしてw」

 

 そう言われると、逆に処分する理由もなかった。

 

 とりあえずポケットへ入れる。

 

 それを見た黒瀬が満足そうに笑った。

 

 ◇

 

 夕方になり、少し休憩することになった。

 

「莉愛、ちょっと飲み物買いに行こ」

 

「いいよ」

 

 軽井沢が黒瀬を連れて離れていく。

 

 ぬいぐるみは黒瀬が俺たちのところへ置いていった。

 

「綾小路くん」

 

 平田が声をかけてくる。

 

「何だ」

 

「今日は来てくれてありがとう」

 

「なぜ平田が礼を言う」

 

「軽井沢さん、結構楽しみにしてたみたいだから」

 

「そうか」

 

「黒瀬さんも楽しそうだね」

 

「そうだな」

 

 否定する理由はない。

 

 今日の黒瀬は朝からずっと機嫌がいい。

 

 ボウリングでガーターを出しても。

 

 ゲームでポイントを無駄にしても。

 

 プリクラで俺がまともな顔をしていなくても。

 

 全部笑っていた。

 

「綾小路くんも」

 

「何がだ」

 

「楽しそうに見えるよ」

 

「そう見えるか?」

 

「うん」

 

 平田は穏やかに笑った。

 

「普段よりよく話してるからかな」

 

「黒瀬が喋り続けているだけだ」

 

「そうかもしれないね」

 

 否定しないのか。

 

 平田はそれ以上何も言わなかった。

 

 俺も話題を続ける必要はない。

 

 少し離れた場所を見る。

 

 黒瀬と軽井沢が、自動販売機の前で何か話していた。

 

 軽井沢が黒瀬へ何か言う。

 

 黒瀬が笑う。

 

 今度は黒瀬が何か返す。

 

 軽井沢が呆れたような顔をする。

 

 内容までは聞こえない。

 

 ただ、二人の距離も以前より近くなっているように思えた。

 

「綾小路くん」

 

「何だ」

 

「見てるね」

 

「何を」

 

「いや、何でもない」

 

 軽井沢と同じことを言う。

 

「平田」

 

「うん?」

 

「お前たちは今日、何か示し合わせているのか?」

 

「何もないよ」

 

「そうか」

 

「本当に」

 

 平田が少し笑う。

 

 信用していいのか分からなかった。

 

 ◇

 

 日が傾き始めた頃、四人でモールを出た。

 

「楽しかったー」

 

 黒瀬が大きく伸びをする。

 

 片手には、さっき取ったぬいぐるみ。

 

「莉愛、途中から完全にぬいぐるみ抱えて歩いてるじゃん」

 

「いいでしょ。俺のだし」

 

「綾小路に取ってもらったやつね」

 

「そう」

 

 黒瀬は普通に頷く。

 

 軽井沢が俺を見る。

 

「だから何だ」

 

「何も言ってないけど?」

 

「顔が言ってる」

 

「何を?」

 

「知らない」

 

「じゃ言ってないじゃん」

 

 面倒になってきた。

 

 寮へ戻る途中で、軽井沢と平田が別れる。

 

「じゃ私たちこっちだから」

 

「ああ」

 

「また明日ね、莉愛」

 

「おー」

 

「綾小路」

 

「何だ」

 

「莉愛、ちゃんと送ってきなよ」

 

「なぜだ」

 

「ダブルデートなんだから」

 

「もう終わっただろ」

 

「細かいなぁ」

 

 黒瀬と同じことを言う。

 

「じゃあね」

 

「また明日、二人とも」

 

 平田と軽井沢が去っていく。

 

 残ったのは俺と黒瀬だけだった。

 

「行こっか」

 

「ああ」

 

 二人で歩き始める。

 

 昼間より人は減っている。

 

 黒瀬は隣で、ぬいぐるみを持ち直した。

 

「今日楽しかったね」

 

「そうだな」

 

「……」

 

 黒瀬がこちらを見る。

 

「何だ」

 

「いや」

 

「何だ」

 

「清隆が普通に楽しかったって認めた」

 

「聞かれたから答えただけだ」

 

「またそれw」

 

「何がおかしい」

 

「今日何回目?」

 

「知らない」

 

「俺、数えとけばよかった」

 

「無駄だ」

 

「じゃ次から数える」

 

「もっと無駄だ」

 

 黒瀬が笑う。

 

「でもダブルデート結構おもろいね」

 

「四人で遊んだだけだろ」

 

「それ言ったらデート全部二人で遊んでるだけじゃね?」

 

「……」

 

 言葉の定義としては間違っていない。

 

「またやろ」

 

「相手が必要だぞ」

 

「恵たち誘えばいいじゃん」

 

「そういう意味じゃない」

 

「?」

 

 黒瀬が首を傾げる。

 

 説明する必要もないだろう。

 

「いや、いい」

 

「なんだよw」

 

 少し歩く。

 

 黒瀬が思い出したように口を開いた。

 

「てか清隆」

 

「何だ」

 

「今日さ」

 

「ああ」

 

「俺らデートしたことになる?」

 

「……」

 

「ダブルデートなんでしょ?」

 

「お前は最初から友達として行けばいいと言っていただろ」

 

「じゃ友達としてデート?」

 

「そんな言葉は知らない」

 

「友達デート」

 

「今作っただろ」

 

「今日からあるってことでw」

 

「勝手にしろ」

 

「じゃ今日は清隆と友達デートした日ね」

 

「好きに解釈しろ」

 

「おー」

 

 黒瀬は満足したらしい。

 

 それから少しして、寮へ着く。

 

「じゃまた明日」

 

「ああ」

 

「ぬいぐるみありがとね」

 

「二回目だぞ」

 

「何回言ってもよくない?」

 

「別に構わない」

 

「じゃ三回目。ありがとw」

 

 黒瀬は笑いながら手を振った。

 

「おやすみ清隆」

 

「ああ」

 

「また明日」

 

 黒瀬が自分の寮の方へ歩いていく。

 

 俺も部屋へ戻った。

 

 ◇

 

 夜。

 

 着替えるため、ポケットの中身を机へ置く。

 

 スマートフォン。

 

 財布。

 

 そして。

 

 一枚の小さな写真。

 

 今日撮ったプリクラだった。

 

 平田と軽井沢を含めた四人のもの。

 

 もう一枚。

 

 俺と黒瀬だけが写っている。

 

 黒瀬は笑顔でピースをしている。

 

 隣の俺は、本人が言っていた通り、ほとんど普段と変わらない顔だった。

 

『清隆顔死んでんじゃんw』

 

 思い出す。

 

 捨てる必要はない。

 

 だからといって、飾る必要もない。

 

 机の引き出しを開ける。

 

 以前、黒瀬からもらったハイチュウが目に入った。

 

 食べる機会を失ったまま、まだ残っている。

 

「……」

 

 プリクラをその横へ置いた。

 

 深い意味はない。

 

 どちらも、今すぐ処分する必要がないだけだ。

 

 引き出しを閉じる。

 

 その時、スマートフォンが震えた。

 

 黒瀬からだった。

 

『今日マジ楽しかったわw』

 

 続けて一枚の写真が送られてくる。

 

 今日取ったぬいぐるみ。

 

 既にベッドの横へ置かれていた。

 

『こいつの名前決まった』

 

 嫌な予感がする。

 

『きよぬい』

 

「……」

 

 すぐに返信する。

 

『変えろ』

 

 既読。

 

『もう決定事項でーすw』

 

『俺の名前を使うな』

 

『清隆じゃないよ』

 

『じゃあ何だ』

 

『きよぬい』

 

『同じだ』

 

『別人です』

 

 数秒。

 

 追加で写真が来る。

 

 ぬいぐるみの横に、今日のプリクラが置かれていた。

 

『ほらツーショットw』

 

『寝ろ』

 

『照れんなってw』

 

『寝ろ』

 

『はいはい』

 

 その後。

 

『おやすみ清隆』

 

 少し間を置いて。

 

『また明日ね』

 

 画面を見る。

 

 今日の朝から、何度同じような言葉を交わしただろう。

 

 また明日。

 

 学校にいれば、明日も会う。

 

 わざわざ確認する必要のないことだ。

 

 それでも。

 

『ああ。また明日』

 

 そう返してから、スマートフォンを置いた。

 

 

 

 

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