Dクラス「ドッ!ワハハ」 綾小路「wwww」 オリ主「あ、綾小路くんも笑ってるよw」 綾小路「」   作:ホモガキ

18 / 18
第18話 必要になったら開けろ

 

 

 

 迫真勉強部が、設立以来初めてまともに勉強してから数日。

 

 夏休みが近づいていた。

 

 その日の夜。

 

「……これ邪魔だなぁ」

 

 莉愛はクローゼットの奥に押し込んでいたキャリーケースを引っ張り出した。

 

 高度育成高等学校へ入学する時に使ったものだ。

 

 衣類や日用品を詰めて持ち込み、それ以来一度も使っていない。

 

 在学中、生徒が自由に敷地外へ出ることはできない。

 

 実家から好きに荷物を送ってもらえるわけでもなかった。

 

 必要な物は、基本的に学校内で揃える。

 

 ……となると。

 

「三年間これ使わなくね?」

 

 普通に邪魔だった。

 

 とはいえ。

 

 このキャリーケース自体そう安いものではない。

 

 おそらく買えば80万は下らない。

 

 捨てるわけにもいかないので、もう少し奥へ押し込もうと蓋を開く。

 

 中は空だった。

 

 少なくとも、そう思っていた。

 

「ん?」

 

 内側のポケット。

 

 何かが入っている。

 

 白い封筒だった。

 

「……なんだこれ」

 

 取り出す。

 

 表面には莉愛の名前。

 

『莉愛へ』

 

「……」

 

 字には見覚えがあった。

 

「海斗?」

 

 そして、その下。

 

『必要になったら開けろ』

 

「必要になったら……?」

 

 莉愛は封筒を裏返す。

 

 何も書かれていない。

 

 入学前に荷造りしていた時、勝手に突っ込まれたらしい。

 

「何入れたんだよ。あいつw」

 

 金。

 

 連絡先。

 

 何かあった時の書類。

 

 ……もしくは。

 

「食い物とかじゃないといいけど……」

 

 数ヶ月経っている。

 

 海斗ならやりかねない気がした。

 

 軽く振る。

 

 軽い。

 

 少なくともエビフライではなさそうだった。

 

「……」

 

『必要になったら開けろ』

 

「いや、今開ければよくね?」

 

 必要になるまで待つ理由もない。

 

 莉愛はその場で封を切った。

 

「……」

 

 中を見る。

 

「…………」

 

 一つ取り出した。

 

「…………は?」

 

 コンドームだった。

 

「……」

 

 封筒の中を見る。

 

 もう一個。

 

 さらにもう一個。

 

「いやいやいや」

 

 奥には、小さく折られた紙まで入っていた。

 

「……」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 開く。

 

『避妊しろ』

 

「……」

 

 莉愛は五秒ほど黙った。

 

「あいつふざけんなw」

 

 耐えきれず笑った。

 

「何が『必要になったら開けろ』だよ!」

 

 必要になる前提なのも腹が立つ。

 

「高校入る奴の荷物に何仕込んでんだって!」

 

 しかも数ヶ月越しだ。

 

 今まで存在すら忘れていたであろう悪ふざけに、時間差で引っかかったことになる。

 

「……」

 

 紙を見る。

 

『避妊しろ』

 

「うるせえw」

 

 そういえば。

 

 あいつ。

 

 家を出る日の朝も、似たようなことを言っていた。

 

 莉愛はベッドへ腰を下ろした。

 

 紙を指先で摘まんだまま。

 

 数ヶ月前。

 

 高度育成高等学校へ入学した日の朝を思い出した。

 

 ◇

 

 入学当日の朝。

 

 黒瀬邸は、普段と変わらず早くから動いていた。

 

 家族の居住区。

 

 複数の食堂。

 

 来客用の応接室やサロン。

 

 会食用の大広間。

 

 使用人や警備担当者が使う区画。

 

 そして、本館の規模に合わせて造られた巨大な厨房。

 

 日本のホテル事業の大半に、何らかの形で関わっている。

 

 外ではそんなことまで言われる黒瀬グループの本邸だった。

 

 もっとも。

 

 莉愛にとっては、生まれた時から住んでいる家でしかない。

 

 広い。

 

 豪華。

 

 そう言われればそうなのだろう。

 

 普段は気にしたこともなかった。

 

 その朝。

 

 母親との出発を前に、莉愛はキャリーケースを引いて一階へ下りてきた。

 

 正面車寄せへ向かう途中。

 

「……」

 

 足を止める。

 

 少し考え。

 

 そのまま厨房側の廊下へ曲がった。

 

 朝食時を過ぎても厨房は忙しい。

 

 料理人やスタッフが行き来している。

 

 その脇。

 

 スタッフ用のダイニングスペース。

 

 一人だけ、どう考えても仕事中には見えない男がいた。

 

「……いた」

 

「ん?」

 

 男が顔を上げる。

 

 朝霧海斗。

 

 二十五歳。

 

 黒瀬家に雇われている人間の一人。

 

 肩書きだけなら護衛。ボディーガード。

 

 だが莉愛にとっては、そんな肩書きより先に海斗だった。

 

 物心がついた頃には、もう近くにいた。

 

 父親ではない。

 

 兄でもない。

 

 使用人と呼ぶには距離が近すぎる。

 

 本人に聞いたところで、

 

『知らねえよ』

 

 で終わるだろう。

 

「おはよ」

 

「おう」

 

 海斗が軽く手を上げる。

 

 もう片方の手には。

 

 エビフライ。

 

「……」

 

 莉愛はテーブルを見る。

 

 山になっていた。

 

「またコック長脅して作らせたの?」

 

「朝っぱらから人聞きの悪い話するんじゃねえよ」

 

 もぐもぐ。

 

 飲み込む。

 

「お願いしたんだ」

 

「海斗のお願いは世間じゃ恫喝だからね?」

 

「失礼なガキだな」

 

「どうせ『エビフライ食いてえな』って怖い顔で言ったでしょ」

 

「言った」

 

「ほら!」

 

「何がだよ」

 

「それお願いじゃないから!」

 

「希望を伝えた」

 

「拒否権は?」

 

「知らねえ」

 

「なかったんじゃん!」

 

「朝からうるせえな」

 

 海斗は気にも留めず、次の一本を取った。

 

 莉愛は厨房の奥を見る。

 

 料理長がいた。

 

「コック長ー」

 

「おはようございます、莉愛様」

 

「海斗に脅された?」

 

「……」

 

 料理長の手が一瞬だけ止まった。

 

「いえ。そのようなことは」

 

「ほら」

 

 海斗が言った。

 

「間あったじゃん!」

 

「忙しいんだよ」

 

「絶対違うってw」

 

 料理長は苦笑し、そのまま仕事へ戻っていった。

 

 莉愛は海斗を見る。

 

「かわいそ」

 

「誰が」

 

「コック長」

 

「喜んでたぞ」

 

「恐怖で笑ってただけじゃない?」

 

「知らねえ」

 

「無責任すぎん?」

 

「俺は食う側だからな」

 

「最低w」

 

 莉愛は向かいへ座った。

 

 皿を見る。

 

「一本ちょうだい」

 

「嫌だ」

 

「いっぱいあるじゃん」

 

「俺のだ」

 

「じゃコック長にもう一回お願いしてきてよ」

 

「……」

 

「ほら」

 

「……」

 

 海斗が一本差し出した。

 

「最初からそうしろってw」

 

「うるせえ」

 

「いただきまーす」

 

 一口。

 

「うま」

 

「だろ」

 

「コック長やっぱすごいね」

 

「ああ」

 

「お礼言った?」

 

「言った」

 

「なんて?」

 

「美味かった」

 

「ならいいか」

 

「なんでお前の許可が要んだよ」

 

「家主側だから?」

 

「こういう時だけ家柄使うな」

 

「便利じゃんw」

 

「性格悪いな」

 

「海斗にだけは言われたくない」

 

 海斗が鼻で笑った。

 

 そこで初めて、莉愛の横に置かれたキャリーケースを見る。

 

「今日からか」

 

「うん」

 

「なんだっけ。あの学校」

 

「高度育成高等学校」

 

「長え」

 

「普通だって」

 

「三年間出られねえんだろ?」

 

「そうみたい」

 

「家にも帰ってこねえ?」

 

「多分」

 

「最高だな」

 

「何が?」

 

「静かになる」

 

「おいw」

 

「三年間お前の声聞かなくて済む」

 

「絶対寂しくなるからね?w」

 

「ならねえ」

 

「一週間でなる」

 

「ならねえ」

 

「一ヶ月」

 

「ならねえ」

 

「半年」

 

「しつけえ」

 

「一年後とか俺の写真見ながら泣いてるよ?w」

 

「なんでそんな気色悪いことしなきゃなんねえんだよ」

 

「海斗ならやりそうw」

 

「お前、俺のことどう見えてんだ」

 

「エビフライ好きのチンピラ」

 

「犯すぞ」

 

「ほらチンピラじゃん!」

 

「だったら何だ」

 

「認めんなってw」

 

 海斗は面倒そうに次のエビフライを食べる。

 

 莉愛は笑った。

 

「でも三年って長いよね」

 

「そうか?」

 

「俺、十八になるんだよ?」

 

「歳くらい取るだろ」

 

「そういう話じゃなくて」

 

「じゃあ何だよ」

 

「高校終わるじゃん」

 

「終わるな」

 

「……」

 

「何だ」

 

「別に」

 

 三年後。

 

 卒業。

 

 ──その先。

 

 考えれば、何も知らないわけではない。

 

 黒瀬家の娘として。

 

 黒瀬グループに連なる人間として。

 

 いずれ自分に何を求められるのか。

 

 何をしなければならないのか。

 

 ぼんやりとは分かっている。

 

 ……ただ。

 

「まあ、いっか」

 

「何が」

 

「三年後のこと、今考えてもしょうがなくない?」

 

「……」

 

 海斗が一度だけ莉愛を見る。

 

「何その顔」

 

「別に」

 

「絶対なんかあるじゃん」

 

「ねえよ」

 

「怪し」

 

「お前が考えねえなら、今言っても無駄だろ」

 

「何を?」

 

「知らねえ」

 

「自分から言ったんじゃん!」

 

「面倒くせえな」

 

 会話を切るように、海斗はエビフライを食べた。

 

「まあ好きに遊んでこい」

 

「言われなくても」

 

「友達は」

 

「余裕w」

 

「勉強」

 

「……ほどほど」

 

「赤点取んなよ」

 

「海斗が勉強の心配してるw」

 

「俺を何だと思ってんだ」

 

「さっき言ったじゃん。エビフライ好きのチンピラ」

 

「帰れ」

 

「今から出るんだって!」

 

 莉愛が笑う。

 

 海斗も一瞬だけ口元を緩めた。

 

「あと」

 

「ん?」

 

「変なのに引っかかんなよ」

 

「何が?」

 

「男」

 

「……」

 

 莉愛は海斗を見る。

 

「親父?」

 

「やめろ。気色悪い」

 

「自分から言い出したじゃんw」

 

「一般論だ」

 

「俺そんな心配?」

 

「お前は人見る目ありそうでねえからな」

 

「どっち?」

 

「ねえ」

 

「即答すんな!」

 

「変な奴ほど面白がって近づくだろ、お前」

 

「海斗みたいなの?」

 

「俺みたいなのはやめとけ」

 

「自覚あるんだw」

 

「ある」

 

「偉いじゃん」

 

「上から言うな」

 

 少し間が空く。

 

 海斗が水を飲んだ。

 

 そして。

 

「つーか」

 

「何?」

 

「学園でガキ作って出戻りとかはやめろよ」

 

「ぶっ!」

 

 莉愛がむせた。

 

「げほっ……ちょっ、お前!」

 

「汚え」

 

「お前のせいだって!」

 

「食ってる時に喋んな」

 

「高校入る女の子に言うことそれ!?」

 

「三年もありゃ分かんねえだろ」

 

「ないから!」

 

「そうか」

 

「反応軽っ!」

 

「じゃ安心だな」

 

「絶対思ってないじゃん!」

 

「親父さん真っ青になるぞ」

 

「俺も真っ青になるわ!」

 

「なら避妊しろ」

 

「話飛びすぎだって!!」

 

 海斗は真顔だった。

 

「大事だろ」

 

「今日の門出の話で一番いらない助言なんだけど!」

 

「覚えとけ」

 

「覚えたくねえよ!」

 

「知らねえ」

 

「言い逃げすんな!」

 

 海斗はエビフライを食べる。

 

 完全に楽しんでいる。

 

 顔にはほとんど出ていないが、莉愛には分かる。

 

「あのさ」

 

「あ?」

 

「なんで三年間でそこまで行く前提なの?」

 

「彼氏くらいできんじゃねえの」

 

「できるかもしんないけどさ!」

 

「じゃ問題ねえだろ」

 

「あるわ! 彼氏から子供までの間全部飛ばしただろ!」

 

「途中は勝手にやれ」

 

「最低w」

 

「興味ねえし」

 

「だったら最後にも興味持つなって!」

 

「最後は俺に関係ある」

 

「なんで?」

 

「お前、三年後に旦那とガキ連れて出てくんなよ」

 

「だからなんでそうなんのw」

 

「そん時ゃ俺が」

 

 海斗はエビフライを摘まんだ。

 

「力づくで連れ戻さなきゃなんねえからな」

 

 もぐ。

 

「面倒くせえ」

 

「……」

 

 莉愛は数秒黙った。

 

「なんで海斗がやんの?」

 

「仕事だからだよ」

 

「最悪じゃんw」

 

「だから俺の仕事増やすな」

 

「待って待って」

 

「何だよ」

 

「俺が結婚して帰ってきただけで、なんで力づくで連れ戻されるの?」

 

「お前んちに聞け」

 

「ここ俺んちだけど」

 

「じゃ親父さんに聞け」

 

「海斗も黒瀬家側じゃん」

 

「俺は金もらって働いてるだけだ」

 

「じゃその仕事断ってよ」

 

「嫌だ」

 

「即答!?」

 

「金になる」

 

「俺より金!?」

 

「当たり前だろ」

 

「最低すぎるってw」

 

「お前が金くれんのか?」

 

「いくら?」

 

「高いぞ」

 

「じゃ無理」

 

「ほらな」

 

「そこは情でなんとかしてよ!」

 

「知らねえ」

 

 莉愛は笑いながら少し考える。

 

「じゃあさ」

 

「あ?」

 

「海斗より強い男連れてきたら?」

 

「……」

 

 海斗の手が止まった。

 

「何だそれ」

 

「だって力づくで連れ戻すんでしょ?」

 

「ああ」

 

「海斗に勝てれば連れてかれなくない?」

 

「お前な」

 

「理屈合ってるじゃんw」

 

「頭悪いくせに、くだらねえ時だけ回るな」

 

「今褒めた?」

 

「貶した」

 

「海斗ってどんくらい強いの?」

 

「普通」

 

「嘘つけ」

 

「普通よりちょっと強い」

 

「もっと嘘っぽい」

 

「じゃ聞くな」

 

「俺、海斗が負けてんの見たことないけど」

 

「お前の前で負けてねえだけだ」

 

「負けることある?」

 

「あるんじゃねえの」

 

「誰に?」

 

「知らねえよ」

 

「自分の話だろ!」

 

「しつけえな」

 

 海斗が露骨に面倒そうな顔をする。

 

「じゃ、本当に海斗より強い奴いたら連れてきていい?」

 

「何を」

 

「将来の旦那」

 

「高校行く前から旦那探すな」

 

「海斗が始めたんじゃん!」

 

「そうだっけ?」

 

「五分前だぞ!?」

 

「忘れた」

 

「早すぎるって!」

 

 莉愛が笑う。

 

「ねえ、いい?」

 

「勝手にしろ」

 

「海斗に勝ったら認める?」

 

「認めねえ」

 

「なんでだよ!」

 

「俺に勝てるのと、お前と一緒になっていいのは別だろ」

 

「じゃ海斗が面接して」

 

「断る」

 

「なんで!」

 

「面倒だから」

 

「俺の未来かかってるんだけど!」

 

「お前の男だろ」

 

「うん」

 

「お前が選べ」

 

「……」

 

 莉愛が止まった。

 

 海斗は気にせずエビフライへ手を伸ばす。

 

「海斗」

 

「何だ」

 

「今ちょっといいこと言った?」

 

「言ってねえ」

 

「言ったってw」

 

「気のせいだ」

 

「『お前が選べ』って」

 

「聞き間違い」

 

「無理あるだろ!」

 

「エビフライ取ってくれ」

 

「目の前にあるじゃん!」

 

「遠い」

 

「二十センチだよ!」

 

「面倒だ」

 

「どんだけ動きたくないんだよ!」

 

「取らねえならいい」

 

「取るよ!」

 

「取るのかよ」

 

「なんなんだよお前!」

 

 莉愛は笑いながら一本取って渡した。

 

「ほら」

 

「おう」

 

「ありがとうは?」

 

「……」

 

「海斗?」

 

「俺のを勝手に取るんじゃねえ」

 

「お前が取れって言ったんだろ!w」

 

 もぐ。

 

「うまい」

 

「知ってるって!」

 

 その時。

 

 廊下の向こうから声が聞こえた。

 

「莉愛?」

 

「あ」

 

 母親だった。

 

 そろそろ出発する時間らしい。

 

「はーい!」

 

 莉愛は立ち上がる。

 

「じゃ行ってくる」

 

「おう」

 

「……」

 

 海斗はエビフライを食べている。

 

「それだけ?」

 

「あ?」

 

「三年間会えないかもしんないんだよ?」

 

「聞いた」

 

「寂しくないの?」

 

「全然」

 

「かわいくねえなぁ」

 

「お前に可愛がられる気はねえよ」

 

「なんかないの?」

 

「勉強しろ」

 

「他」

 

「面倒起こすな」

 

「他」

 

「避妊しろ」

 

「お前ほんと最低だな!?」

 

「大事だぞ」

 

「もういいわ!」

 

 莉愛はキャリーケースの取っ手を握った。

 

「じゃね」

 

「おう」

 

 二、三歩。

 

 そこで立ち止まる。

 

 何となく。

 

 振り返った。

 

「海斗」

 

「何だよ」

 

「三年後さ」

 

「あ?」

 

「迎え来てよ」

 

 海斗の手が止まった。

 

「卒業式」

 

「なんで俺が」

 

「海斗がいいから」

 

「親父さんに頼めよ」

 

「やだ」

 

「何で」

 

「卒業した瞬間に将来の話始まりそうじゃん」

 

「……」

 

「高校終わったその日に現実戻るの嫌なんだけど」

 

「いつか戻るだろ」

 

「その日じゃなくてよくない?」

 

「知らねえ」

 

「だから海斗来て」

 

「面倒くせえ」

 

「いいじゃん」

 

「三年後なんて覚えてねえよ」

 

「絶対覚えてる」

 

「どっからその自信出てくるんだ」

 

「海斗、俺のこと好きじゃん」

 

「死んでも認めねえ」

 

「ほら好きじゃんw」

 

「何がほらなんだよ」

 

「じゃ三年後ね」

 

「決めんな」

 

「忘れんなよー」

 

「はいはい」

 

「絶対だよ!」

 

「さっさと行け、ガキ」

 

「行ってきまーすw」

 

 莉愛は笑いながら廊下を歩いていった。

 

 今度は振り返らなかった。

 

 後ろで海斗が何をしていたのかは知らない。

 

 ……多分。

 

 最後までエビフライを食べていた。

 

 ◇

 

「……」

 

 莉愛は現実へ戻った。

 

 寮の自室。

 

 手には。

 

『避妊しろ』

 

 とだけ書かれた紙。

 

「……」

 

 あの野郎。

 

「絶対あの日入れただろ、これw」

 

 最後にまで同じ話をしていた。

 

 偶然とは思えない。

 

 莉愛は封筒を見る。

 

 入っているものを見る。

 

 もう一度、手紙を見る。

 

『避妊しろ』

 

「しつけえよw」

 

 捨てようかと思った。

 

「……」

 

 やめた。

 

 別に取っておく理由もない。

 

 ……でも。

 

 捨てる理由もなかった。

 

「まあいいか」

 

 コンドームも紙も封筒へ戻す。

 

 机の一番下の引き出しを開けた。

 

 一番奥へ突っ込む。

 

「三年後ねぇ」

 

 入学して、まだ数ヶ月。

 

 清隆。

 

 鈴音。

 

 桔梗。

 

 恵。

 

 平田。

 

 池。

 

 須藤。

 

 幸村。

 

 学校に来る前には知らなかった名前が、もうこれだけ増えた。

 

 三年あれば。

 

 確かに色々あるのかもしれない。

 

「でもまあ……旦那と子供はないわw」

 

 自分で言って笑う。

 

 そもそも。

 

「海斗より強い男とかいんのかな」

 

 天井を見る。

 

 海斗が本気で戦っているところを。

 

 莉愛は何度か見たことがある。

 

 詳しいことは知らない。

 

 海斗も話さない。

 

 ただ。

 

「……無理じゃね?」

 

 あれに勝てる人間なんて。

 

 そう簡単にいるとは思えなかった。

 

「まあ、いっか」

 

 三年後のことは。

 

 三年後に考えればいい。

 

 海斗自身も言っていた。

 

 自分で選べ。

 

「……」

 

 莉愛は少しだけ笑う。

 

「今度言ったら絶対『言ってねえ』って言うんだろうな」

 

 ほぼ間違いない。

 

 ベッドへ倒れ込む。

 

 今はまだ。

 

 高校一年の夏休みすら始まっていない。

 

 明日は清隆でも捕まえて、何か食べに行こう。

 

 そんなことを考えながら。

 

 莉愛は目を閉じた。

 

 机の一番下。

 

『必要になったら開けろ』

 

 そう書かれた白い封筒をしまう。

 

 三年後。

 

 本当に海斗が約束通り迎えに来ることも。

 

 その時、莉愛の隣に誰が立っているのかも。

 

 この時は、まだ誰も知らなかった

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ようこそぬくぬく至上主義の教室へ(作者:棚木 千波)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

とある理由で高度育成高等学校に入学したオリ主が、高校生活を満喫する物語。▼ただし原作知識なしのTS転生者で長身巨乳美少女であるとする。


総合評価:1325/評価:7.46/連載:9話/更新日時:2026年08月31日(月) 00:00 小説情報

兄が愛を知ってしまった件(作者:匿名みー)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

主人公、綾小路清隆の家族として転生した少年は深い悩みを抱えている。▼原作知識など余計なことを教えた結果、兄が天使至上主義になってしまった。はじめて友達になってくれた女子に手を出したら学校を滅ぼすとか言い出した。▼原作は崩壊。推しカプは消滅。兄は天使の守護者と化した。


総合評価:2089/評価:8.51/連載:7話/更新日時:2026年08月16日(日) 05:33 小説情報

仏の口にも刃(作者:こたつでみかんを食べる)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

 Fateのカルナさんみたいな子がいる、よう実が見たかった。▼ ...なかった。ので書いた


総合評価:2328/評価:8.09/連載:12話/更新日時:2026年08月27日(木) 18:00 小説情報

憑依八神君がどうにか綾小路を退学にさせようと奮闘する話(作者:pastel color)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

憑依、転生要素は共に激薄。八神君を綾小路に対して憎悪の感情を抱かず、彼に立ち向かう勇気を少しだけ出せるような性格にしたかっただけ。▼


総合評価:2720/評価:8.8/完結:10話/更新日時:2026年09月05日(土) 20:35 小説情報

ようこそ財力至上主義の教室へ(作者:ウメSUN)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

金で買えないものはない......少なくとも、この高度育成高等学校では。▼金に強い固執を持つ少女、辰見鱗(たつみ りん)。彼女は龍園率いるCクラスと共に、プライベートポイントを以て、この学校を攻略し、8億ポイントを目指していく。


総合評価:1822/評価:8.45/連載:19話/更新日時:2026年09月09日(水) 12:25 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>