スケート女子達は怖い 作:タリーズさん
でも仕方ないよね……設定諸々超大変そうだなとは思ってたし、ゆっくり休んで欲しいものです。
次のオリンピックは4年後。
俺はきっとラストチャンスだと考えているし、ダリアちゃんもそうだと思う。
アンニュイなビジュアルと独特な世界観のスケーティングで人気な、
来年の春で大学卒業。同世代の岡崎いるか選手は今年のオリンピックで銀メダルを獲得し、4年後は考えてないと話している。彼女はこれまで、度重なる故障と戦い続けてきた。ここから更に4年やる気力は残っていないようだ。
「悪かったよ。すみませんでした。余計なこと言わないで流せばよかったね。発言を切り抜かれたり捏造されたりは前にもあったんだし、もう少し考えて喋るべきだったよ」
我がスターフォックスFSC────フィギュアスケートクラブ────専用リンクの談話室。
俺は押しかけダリアちゃんに平謝り。悪質な記者の切り抜きだろうが捏造だろうが、そもそも答えなきゃ良かった話だ。次からはほんと気をつけようと思う。
「いえ……すみません。貴方に怒るつもりではなかったのですが……自分でも引いてしまうほどカッとなってしまったというか、冷静さを、逸してしまったと言いますか……」
ダリアちゃんは顔を合わせた瞬間、落ち着いた。
ライリー先生の話だとめちゃくちゃキレてるってことだったけど、一瞬で我に返ったみたいだ。ひとまず安心だけど、東京まで来る前に電話くらいしろ。
こういう時、やっぱり岡山に戻ればよかったかなぁ、と考えてしまう。
俺は15歳までは岡山で活動していた。
しかし、中三の後半で大怪我を負ってシーズン全休。高一に上がるタイミングで親と一緒にアメリカに移住し、大学に上がると同時に日本に戻ってきた。
ちなみにダリアちゃんと同じクラブ。
昔、告白してフラれた苦い思い出がある──けど関係性は良好だと思う。
きっとメイビー、そうであって欲しい。
「勢い任せにこのような行動に出てしまうなど、お恥ずかしい限りです……」
「うん、まあ、そういうこともあるよ。俺は気にしてないんで大丈夫。気にしなくていいから、帰ったらちゃんと休みなよ? ファイナルの時もそうだったけど、あんまり眠れてないでしょ」
元々睡眠不足なことが多い彼女ではあるが、最近は特に酷い感じがする。体重も落ちてるって話だ。無理な減量してるとかじゃなく、増やそうとしても逆に減ってしまって困ってるみたい。
「体のケアは入念にしているつもりなのですが、睡眠は上手くコントロールできません。難しいものですね」
「寝れないのに横になってるのもしんどいしね」
「ええ、そうですね。そういえば、狼嵜光はどうしています? 本日は姿が見えないようですが」
「悟りを開いた賢者みたいになってるから、とりあえず今日まで休ませてる。年末の全日本選手権はどうなるかはわからないな」
「そんなに悪いのですか?」
「どう見ても悪いでしょ。シニアに上がっても勝ち続けてきたとはいえ、ずっと良くはなかったよ」
出場した大会全てで金メダルを取り続けた伝説の男、
「あの子は心配ない。ダリアちゃんも俺も、自分のことだけ考えていよう? お互いになかなか上手くいかないけど、やるしかないんだからさ」
「お互いに、ですか。そちらは見事に復活を遂げて、順調に結果も出ていますよね?」
「いつダメになるかはわからないよ。爆弾持ちは日々恐怖との戦いなの」
「そうですよね。すみません、軽率でした」
「謝らないでよ。結果が出てるのは本当の話だし、俺の言い方も良くなかったんだから」
俺は古傷持ち。両足首と腰だ。もちろん医者からオッケーは貰ってるし、今は競技に影響はない。でもいつ再発するかはわからないし、その状態で4年は長い。今ならまだいいけど、オリンピック前年に競技中断とかになったら完全にアウトだ。
「全日本選手権が終わったら、一度岡山に行くよ。久しぶりに一緒に滑ろ」
「いきなりどうしたんですか?」
「出身地じゃないけど恋しいんだよ。岡山時代がいちばん楽しかったからさ」
夢と希望が沢山あって、心身共に充実していた。
今も競技自体は好きだけど、もう後に引けないって気持ちが大きすぎて……楽しむって感覚じゃないんだよな。スポンサー様のためにも結果出さないといけないから、潰れるわけにはいかない。やるしかないってしがみついてる感じだ。
「私も……そうですね。あの頃は良かった」
「おばあちゃんみたいなこと言い出したな……「……おばあちゃん、老婆」うそうそ睨まないで。こんな可愛いおばあちゃんいないから」
たぶん、後に引けないのはお互い様。
俺はライリー先生はじめ、コーチ達に恩返ししなきゃいけない。本当なら競技再開できなかったところ、色んな面から援助してもらったから、やらせてもらえる以上はしがみつくしかない。
「はぁ……いつからそんな風になったんですか? 発言が軽薄です。昔は恥ずかしがり屋だったくせに、変われば変わるものですね」
「そりゃ多少は変わるよ。でも、チャラ男にはなってないから、そこは勘違いしないでよ……」
ダリアちゃんは呆れ笑いを浮かべた。少し、声のトーンも上がってきたような気がする。
報道とか色々テンション下がることが多いだろうから、こういう時くらいは肩の力を抜いて欲しい。
「こんな形になっちゃったけど、顔見られてよかったよ。特効薬だからさ、ダリアちゃんの笑顔」
「あの……なんだか振り切れてませんか? まさか、恥じらいをアメリカに忘れてきたとか……」
「我慢し続けてた反動かも。ライリー先生にも言われたよ。抑圧されてきた人って、どこかで反動が来るんだってさ」
大切なことだからもう一度伝えておく。「俺はチャラ男にはなってないからね」と。
無言で疑いの目を向けられたが、本当だ。嘘じゃない。胸を張って事実だと言える。
まあ、普段よりも饒舌になっていることは否めないけど、それは肩の力が抜けているからだ。落ち着くんだよ、この人と喋ってると。