なんだかんだで男女ですので 作:タリーズさん
自分のために滑ろう。
自分の人生のために勝ちに行こう。
自分が悔いを残さないために、できる限りの事はやり切ろう。そういう風に考えてはみるものの、ふと気がつくとブレている自分がいる。
「ふ──っ」
跳んでいる時は光の線しか見えない。
グッチャグチャな景色がすごくいい。自分が自分じゃなくなるような変な感覚が、とても好きだ。
4回転はそれぞれ違う。サルコウ、トウループ、ループ、フリップ、ルッツ、そしてアクセル。アクセルは4回転ではなくて4回転半だけども。俺には絶対に無理な超高難易度な神業だけども。
「うん。いいわよ。頭を振りすぎなのは個人的には気にはなるけど、その方がノれるならいいわ。ちゃんと
ジャンプは好きだし得意だ。若妻コーチの亜子ちゃんママもジャンプは得意な選手だった。でも、スケーティングの方が好きだったらしく、俺と同じだ。
若妻コーチって響きはあまりよくないな。うっかり口に出さないよう気をつけよう。マジで。今後の関係にヒビが入りかねないから。
「やっぱりフリップは無理ですね。どうしても感覚が合わない。ルッツは昔は超得意だったんですけど、今はちょっと怖い。中々戻らないですね」
「それはまあ、3回転時代とは違うわよ。4回転ルッツはできる人自体が限られてる超難関だし……練習での成功率は7割くらい。胸を張っていい、上出来だと思うよ?」
リンクサイドで映像を見ながら確認。横顔が大学にいる先輩みたい。つまり二十代なんだが、高校生の娘がいるってどういうことだ。アニメや漫画の世界じゃないんだからさぁ。
「ライリー先生が帰ってきたら、共有しておくね」
「はい。よろしくお願いします」
「うん。今日も頑張ったね。えらいえらい」
「大学生にその褒め方はどうなんですか……」
なでなでが襲ってきたので回避する。
ボディタッチはよくないですよ亜子ちゃんママ。自分の見た目をもう少し考えて欲しいものだ。男子選手の何人かは密かに狙ってるって話も聞くし、美魔女であることを自覚した方がいいと思う。
「なんで避けるのよ……」
「綺麗なお姉さんに頭撫でられるのはちょっと……」
「またまたぁ、褒めても何も出ないわよ」
写真よこせと要求してくる男子選手もチラホラ。あげるわけがないけど、そういう方々からすればナデナデは夢のひとつだろうな。
あわよくばハグもしたいと思うだろう。
真面目にスケートやりなさい。
「はぁ……胡荒さんが姉だったら良かったのになぁ。実の姉は知っての通りなんで」
「あぁ……ホストクラブにハマってるんだっけ?」
「はい。金銭トラブルって迷惑なんですよ、知ってます?」
「うん……厄介よね、金銭トラブル。次にお金を要求されたら、ちゃんと私かライリー先生に相談するのよ」
大丈夫だ次はない。半年前に貸した20万は戻ってこないものと思っているから、
「次は無視するんで大丈夫です。そうだ、亜子ちゃんにも言っておこうかな。ホストはいけないことだって」
「もう教えてあるから大丈夫よ。君は自分の心配だけしていなさい」
「はーい」
気の抜けた返事になってしまったが、叱られることはない。亜子ちゃんママは優しいのだ。
「そうだ、ご飯はどうするの?」
「ダリアちゃんと食べます。その足で見送ってくるんで、帰りは遅くなると思います」
「ちゃんとマスクはしていくのよ。二人共。大事な時期なんだから」
「ダリアちゃんは二枚つけてましたね、マスク……」
「それ、効果あるの……?」
「わかりません。可愛いからほっといていいかなって……」
ライリー先生がいない時は、この人に見てもらうことがほとんど。そのライリー先生だが、今頃は光ちゃんと面談しているはずだ。生まれてはじめての惨敗を経験したにも関わらず、のほほんとしすぎてるって心配してたけど、俺も同じ感想。ちょっと怖い。