もし、ムコーダ御一行が銀河お嬢様たちとバーベキューしたら?

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第1話

 

「……は、は、はっくしょーん!!!」

伝説の魔獣フェンリル――フェルのくしゃみは、単なる生理現象ではない。それは天災であり、空間すらも歪める概念的な暴力だった。

「ぬおおおおっ!? な、なんだぁぁぁぁっ!?」

ムコーダ(向田剛志)の悲鳴が、グラグラと揺れる視界の中に消えていく。

足元にあった平穏な異世界の草原が、まるで水面に投げ込まれた小石の波紋のように歪み、次の瞬間にはドス黒い次元の亀裂へと飲み込まれていた。

「ぶはっ!? 苦しいのだー!」

「うおっ、急に景色が変わったぞ! フェル、お前何してくれたんだよ!」

「ふん……鼻がムズムズしたのだ。致し方なかろう」

首から下げた魔法の鞄を必死に抱え直しながら、ムコーダは地面へとしこたま腰を打ち付けた。

青々とした草原……ではない。目の前に広がっているのは、金属の光沢を放つ地面と、見たこともない巨大な高層建造物が立ち並ぶ、あまりにも近未来的な都市の風景だった。空を見上げれば、見慣れた二つの月ではなく、巨大なリングを纏った未知の惑星が浮かんでいる。

「ここ……どこだよ……。異世界放浪中に、さらに別の異世界(しかもSF)に飛ばされるとか、聞いてないぞ!?」

頭を抱えるムコーダの耳元で、神界からの「念話」が脳内に響いた。声の主は、いつも甘いものばかり要求してくる風の女神ニンリルだ。

『む、ムコーダよ……聞こえるか? いやぁ、フェルのあのくしゃみ、まさか次元の結界を突き破るほどの威力だったとはなぁ……。ち、ちょっとワシの管轄外の星に落ちちゃったみたいなのじゃ!』

「ニンリル様!? ちょっと待ってください、管轄外ってどういうことですか! すぐに戻してくださいよ!」

『そ、それがの……異空間の座標を特定して元の世界を引き戻すには、神界のパワーを集中させねばならんのじゃ。えーと……そうじゃな、こちら(神界)の時間でちょっとした作業が必要でな。そちらの感覚だと、数日……いや、一週間くらいはかかるかもしれん!』

「一週間!? こんな宇宙都市みたいなところで、一週間も路頭に迷えって言うんですか!?」

『ま、まあ待つんじゃ! その代わりと言ってはなんじゃが、ワシの権限で君の【ネットスーパー】の機能を一時的に大幅拡張しておいたぞ! 次元を超えた特別アクセス権限じゃ! これでなんとか食いつなぐのじゃぞ! ……あ、あとで元の世界に戻ったら、甘い洋菓子をいっぱい献上するのじゃぞ! じゃな!』

「あっ、逃げたなニンリル様ー! 責任取ってくださいよー!」

プツリと念話が切れる。ムコーダは深々と溜息をついた。

だが、嘆いていても始まらない。フェル、スイ、ドラちゃんの三匹は、早くも新しい環境に興味津々……というか、お腹を空かせた顔でムコーダを見つめていた。

「主ー、お腹すいたー! ごはんー!」(スイ)

「おいムコーダ、ここは美味い魔獣がいるのか? 匂いがちっともしねぇぞ」(ドラちゃん)

「む……腹が減ったぞ。ムコーダ、肉だ。異世界の肉を出すのだ」(フェル)

「お前らなぁ……こんな未来都市で魔獣狩りなんかしたら即逮捕されるわ! はぁ、まあいいや。まずはニンリル様が言ってた『拡張機能』を確認してみるか」

ムコーダは空中をフリックし、固有スキル【ネットスーパー】の画面を起動した。

すると、いつも見慣れた画面の横に、見慣れない巨大な新しいタブが追加されているのに気づいた。

「え……なにこれ? 【コストコ(Costco)コーナー】……!? さらに【角上魚類コーナー】だと!?」

目を疑うムコーダ。コストコといえば、あの会員制倉庫型卸売店だ。大容量の肉や惣菜、海外の珍しい食材が手に入るパラダイス。そして角上魚類といえば、圧倒的な新鮮さと種類を誇る首都圏最強の魚介専門店ではないか!

「マジかよ!……あ、でもコストココーナーに入るには『年会費』が必要……えっ、10年分一括払い!? どんだけ取られるんだ……いや、背に腹は代えられない! 金貨なら売るほどあるんだ、払ってやる!」

ムコーダはジャリンと金貨を画面の投入口(魔法の光)へ投げ込んだ。

さらに画面を操作すると、もう一つの恐ろしいアイコンが目に入った。

「【Amazonプライム会員 10年分一括プラン】……!? これを登録すると、翌日配達どころか『即時配送&あらゆるサブスク見放題(ただし観てる暇はない)』……よし、これも10年分払っちゃえ!」

チャリンチャリンと金貨が吸い込まれ、ネットスーパーの全機能が完全開放された。

画面には、圧倒的ボリュームの肉類、新鮮すぎる海鮮、そして世界各国の珍しい調味料やドリンクがズラリと並ぶ。

「よし……! これで食糧問題は完全に解決だ。とりあえず、長旅(?)の喉の乾きを癒やすために……お、これだ。『タマリンドジュース』!」

甘酸っぱく、どこかスパイシーでオリエンタルな味わいのタマリンドジュース。東南アジアや南米で親しまれるこの果汁ドリンクをカートに入れ、大量に購入。

そして肝心の「肉料理」だ。

「フェルたちのお腹を満たすには、やっぱりドカンとデかい肉だな。アイテムボックスに残ってた【ブラッディーホーンブル】の極上モモ肉を使うか。コストココーナーで買った大量のスパイスと、角上魚類で何故か隠し味用に売ってた隠し出汁、そしてAmazonプライム限定の最高級カレールー……これらを組み合わせて、特製ビーフカレーを作るぞ!」

 

ムコーダは未来都市の片隅、誰もいない公園の広場(のような金属のデッキ)に携帯用マジックコンロを設置した。

「まずは、ブラッディーホーンブルの肉を豪快にサイコロ状にカット!」

ジャキッ、ジャキッと包丁が躍る。魔獣ブラッディーホーンブルの肉は、サシが綺麗に入った極上の赤身肉だ。これを大鍋で表面がこんがりするまで炒め、肉汁を閉じ込める。

次に、コストコで購入した大量の玉ねぎみじん切りを、飴色になるまでじっくりと炒めていく。甘い香りが周囲に漂い始める。

「ここで、タマリンドの果汁を隠し味に少し……甘みと酸味が加わって、コクが一気に深まるんだよな」

大鍋に水と炒めた肉、玉ねぎ、スパイスを投入し、ぐつぐつと煮込む。

仕上げに数種類のカレールーを割り入れ、丁寧に混ぜ合わせると――。

ドロッとした深みのある褐色の黄金律。立ち上るスパイスの香気が、金属的な未来都市の空気を一変させた。

「できた! ブラッディーホーンブルの濃厚特製ビーフカレーだ!」

「ぬおおおおおっ! これだ! この香り、たまらんのだー!」

「わーい! カレーだー! スイ、カレーだいすきー!」

「へへっ、今日も美味そうじゃねぇか!」

フェル、スイ、ドラちゃんが勢いよく深皿に盛られたカレーに飛びつく。

ガツガツ、ゴクゴクと、恐ろしい勢いで平らげていく三匹。

ムコーダはほっと一息つき、キンキンに冷えたタマリンドジュースをグラスに注ぎ、自分もカレーを一口口に運んだ。

「う~ん! スパイスの辛さと、ブラッディーホーンブルの肉の旨味、そしてタマリンドの甘酸っぱさが完璧にマッチしてる……! これを冷たいタマリンドジュースで流し込むのが最高なんだよな……」

ゴクッ、ゴクッ。爽快な甘酸っぱさが喉を駆け抜ける。

「ふぅぁぁぁ……生き返る……」

その時だった。

「――ねぇ、ちょっとそこのあなた!!」

甲高くて、だけど透き通るような美しい声が、公園の入口から響いた。

ムコーダが振り向くと、そこには驚くべき人物が立っていた。

鮮やかなピンク色の髪に、未来的なのにどこか可愛らしい衣装を着た少女――。

「な、なにこの芳醇な香りは~っ!? カレー……? でも、普通のカレーじゃないわ! 宇宙中のどの高級レストランでも嗅いだことがないような、とんでもないスパイスと肉の香りがするんだけど!!」

「えっ……あ、あの……?」

「私、神楽坂ユナ! 銀河お嬢様よ! ちょっとあなた、その手に持ってる飲み物と、そのお鍋の中身……一体何なの!?」

現れたのは、全宇宙にその名を轟かせる銀河お嬢様――神楽坂ユナだった!

 

「え、えーと……僕はムコーダと言いまして……これは、その……ただの自家製ビーフカレーと、タマリンドジュースですけど……」

「ただのカレー!? そんなわけないでしょ! 私の『お嬢様センサー』がバリバリ反応してるんだから! お願い、一口……一口でいいから私にも舐めさせて……! ううん、一口と言わず一杯頂戴!!」

ユナの目が完全に本気(マジ)だった。キラキラと輝く瞳で迫られ、ムコーダは思わず後ずさりする。

「お、おいムコーダ。この人間は誰だ? 我らの肉を狙っているのか? 斬り捨ててよいか?」(フェル)

「ダメダメダメ! フェル、物騒なこと言わないの! ……あー、はいはい、分かりましたよ! お皿、用意しますから落ち着いてください!」

ムコーダは急いで新しいお皿を取り出し、熱々のビーフカレーとご飯を盛りつけ、冷えたタマリンドジュースをグラスに注いでユナに手渡した。

「はいどうぞ、熱いから気をつけて……」

「ありがとう! いただきますっ!」

ユナはスプーンを手に取ると、躊躇なくカレーをすくい、口へと運んだ。

モグ……モグモグ……。

次の瞬間、ユナの身体から眩いばかりのオーラが吹き出した!

「〜〜〜〜〜〜っっっっっっ!!!!?????」

声にならない絶叫。ユナの目が大きく開かれ、手にしたスプーンがカタカタと震える。

「な、なにこれぇぇぇぇぇっ!? 肉が……肉が口の中でほどけて、濃厚な旨味がジュワ~って広がるの! そしてこのスパイスの深み! 後から追いかけてくる爽やかな酸味と甘み……なにこの黄金のハーモニーは!? 宇宙広しといえど、こんなに美味しい食べ物、見たことも食べたこともないわーっ!!」

「あ、やっぱり口に合いました?」

「合いましたなんてレベルじゃないわよ! 脳みそがトロけそう! そしてこの茶色いジュース……タマリンド? ゴクゴク……うわぁぁぁっ! 甘酸っぱくて、カレーのスパイスと完璧な相性! お互いを高め合ってる! まるで銀河の二重奏(デュエット)よ!!」

夢中でカレーをかき込み、タマリンドジュースを飲み干すユナ。

しかし、異次元の絶品グルメが発する「香り」は、静かな未来都市の空気をに乗って、遥か彼方まで拡散していたのだ。

「あら? ユナ、こんなところで何をコソコソ食べているのかしら?」

「ん……? この匂い、ただ事ではないな……」

「わぁ~! なんかすご~く美味しそうな匂いがする~!」

「ゲッ……!? みんな!?」

振り返るユナの視線の先に、次々と姿を現す少女たち。

コスモライナーに乗って駆けつけたユーリィ、白鳥のポリナ、さらには他の銀河お嬢様たちが、鼻をピクピクさせながらゾロゾロと集まってきたのだ!

「ちょっとユナ! 一人だけそんな美味しそうなものを独り占めしようだなんて、ずるいじゃない!」

「ふふ、お嬢様たるもの、美味しいものを目の前にして退くわけにはいきませんわ」

「お兄さん! わたしにもそれちょうだい!」

「ええええええっ!? ちょっと待ってください、こんなに大勢!?」

押し寄せる美女(しかも銀河級のお嬢様たち)の波に、ムコーダはタジタジだ。

「ムコーダ! 奴らに我らの飯を奪わせるな! もっと肉を寄こせ!」(フェル)

「スイももっと食べるー!」(スイ)

「俺の分も残しておけよー!」(ドラちゃん)

「ああっ、もう大混乱だー! 分かりました、分かりましたから並んでください! 順番に作りますからーっ!!」

ムコーダは悲鳴を上げながら、【ネットスーパー】のコストココーナーから大容量の米とルー、そして角上魚類コーナーから何故か大人気だった「エビのトッピング」を追加発注し、大鍋をフル稼働させてカレーを振る舞い続けた。

 

「ふぅ……美味しかったぁ……ごちそうさまでした……」

「まさか、こんな辺境(?)の広場で宇宙最高の美食に出会えるなんて……」

「お腹いっぱい……幸せぇ……」

数十人の銀河お嬢様たちが、公園のベンチや芝生の上に幸せそうに倒れ伏している。

ムコーダは大鍋を洗い終え、荒い息をつきながらその場にへたり込んだ。

「死ぬかと思った……異世界でも飯炊き係、宇宙に来ても飯炊き係かよ……」

そこへ、お腹をぽんぽんと叩きながら、満足気な笑顔を浮かべた神楽坂ユナが歩み寄ってきた。

「ムコーダさん! 本当にごちそうさま! あなた、ただの旅人じゃないわね……天才シェフよ! 宇宙第一位の料理人(ハイパー・グルメ・マスター)だわ!」

「いや、だから僕はただのネットスーパー持ちの冒険者で……」

「そんな謙遜はいらないわ! ねぇ、ムコーダさん。私、閃いちゃったの!」

ユナはバッと両手を広げ、満面の笑みで告げた。

「今夜、私の邸宅で『銀河お嬢様大パーティ』が開催される予定なの! 宇宙中からVIPや他のお嬢様たちがたくさん集まるんだけど……そこで出す料理、**全部あなたに頼みたいの!!**」

「……はい? 今なんて?」

「パーティの料理よ! あなたのその異次元の料理と、あの不思議なドリンク(タマリンド)を、パーティのメインディッシュとして振る舞ってほしいの! もちろん、報酬は弾むわ! 宇宙クレカのゴールドカードでも、レアな宇宙鉱石でも、望むものを何でもあげる!」

「えええええっ!? いやいやいや! 何十人、何百人も集まるパーティの料理なんて、素人の僕にできるわけないでしょ! 断ります!」

「ぬ? ムコーダよ、受けるのだ」(フェル)

「えっ、フェル!?」

フェルは口元に付いたカレーをペロリと舐めながら、ドヤ顔で言い放った。

「この女子(おにご)の言う報酬とやら、なかなか魅力えではないか。それに、もっと美味い肉や、あの『こすとこ』なる店の巨大な肉を腹一杯食わせてくれるのだろう?」

「スイもー! パーティの大きいごはん食べたいー!」(スイ)

「俺も賛成! 面白そうじゃねぇか!」(ドラちゃん)

「お前たち……! 人の苦労も知らないで……!」

頭を抱えるムコーダ。しかし、ユナは逃がさないとばかりにムコーダの手を固く握りしめた。

「決まりね! さあ、そうと決まれば私の家へ行きましょう! 厨房は最高級のものが揃ってるわ! コストコも角上魚類もAmazonプライムも、使いたい放題使ってちょうだい!」

「ああっ、ちょっと待って! まだ引き受けるなんて言って……うわぁぁぁっ!?」

ユナの強引な誘導(という名の拉致)により、ムコーダ御一行は銀河お嬢様・神楽坂ユナの大豪邸へと連行されることになってしまったのだった!

 

送迎用の超光速フライング・リムジンに乗り込み、辿り着いたのは雲を突くような巨大な大理石の城。

通された厨房は、最新鋭のプラズマ調理器や分子分解調理器が並ぶ、まるでSF映画の研究所のような場所だった。

「ここが……ユナさんの家の厨房……!? デカすぎるだろ……!」

「ふふん、すごいでしょ! さあムコーダさん、パーティ開始まであと3時間よ! 宇宙中のお嬢様たちの胃袋を掴む、最高に贅沢で、最高に美味しい料理を作ってちょうだいね!」

ユナはウィンクを残し、ドレスに着替えるために控室へと消えて行った。

静まり返る巨大な厨房に残されたのは、ムコーダと、お腹を空かせた三匹の従魔たち。

「……はぁ。やるしかないのか……」

ムコーダは腹を括り、画面に【ネットスーパー】を呼び出した。

「こうなったら、僕の持てる全戦力を投入してやる! 【コストコ】のドデカいUSAプライムビーフ塊肉! 【角上魚類】から直送される、超新鮮な本マグロにボタンエビ、生牡蠣! そして【Amazonプライム】で即時注文した、地球の最高峰調味料セット……!」

画面を高速でタップし、金貨を惜しげもなく投入していくムコーダ。

厨房の調理台の上に、次々と出現する地球と異世界の超一級食材たち!

「フェル、スイ、ドラちゃん! 今夜は試食(という名の夕飯)も兼ねて、特大のパーティー料理を作るぞ! 宇宙のお嬢様どもに、地球と異世界の旨いものの神髄を叩き込んでやる!」

「うむ! 期待しているぞ、ムコーダ!」

「スイ、お手伝いするー!」

「よーし、焼き物は俺に任せろ!」

ネットスーパーのパワーを全開にし、角上の鮮魚が舞い、コストコの巨大肉が踊る!

果たしてムコーダは、宇宙最高峰の「銀河お嬢様パーティ」を成功させることができるのか!?

そして、タマリンドジュースに続く、新たなる驚愕の地球ドリンクとは……!?

銀河を揺るがす大饗宴の幕が、今、静かに切って落とされようとしていた――!

 

「……よし、準備完了だ!」

神楽坂ユナの大豪邸、その最上階に広がる巨大な空中庭園。

夜空には幾重もの環をもつ未知の惑星と、星くずをちりばめたような銀河が美しく輝いている。だが今、この広大なデッキを支配しているのは、静寂な星空の情景ではなく、立ち上る激しい炎と、人類の食欲を根底から揺さぶる恐ろしいほどの香気だった。

「ぬおおおっ! ムコーダよ、この匂いは何だ!? 昼間のカレーも凄まじかったが、今度の肉と魚は香りの質がまるで違うぞ!」

巨大なフェンリルの姿をしたフェルが、尻尾をブンブンと振り回しながら鉄板のすぐ脇で身構えている。スライムのスイは「ごはん! ごはんー!」とプルプル揺れ、ピクシードラゴンのドラちゃんは煙を避けるように空中を旋回しながら、焼き網の上の食材を凝視していた。

「ちょっと待てってお前ら! これはパーティの料理なんだから、客の前でつまみ食いするなよ! ……まあ、お前らの分はちゃんと別に確保してあるから落ち着けって」

ムコーダは汗を拭いながら、網と鉄板、そして特大のダッチオーブンが並ぶ特設バーベキューコンロの火力を調整する。

【ネットスーパー】の「コストココーナー」と「角上魚類コーナー」、そして「Amazonプライム即時配送」をフル回転させてかき集めた、地球と異世界の奇跡の食材たち。

「ユナさーん! いつでもいけますよー!」

ムコーダが声を張り上げると、庭園の豪華な扉が左右に開き、煌びやかなドレスや戦闘アーマー(お嬢様仕様)に身を包んだ銀河お嬢様たちが、ぞろぞろと雪崩れ込んできた。

「みんな、いらっしゃい! 今夜のパーティのメインディッシュは……なんと! ムコーダさんによる『異次元ハイパー・アウトドア・バーベキュー』よーっ!」

ユナの宣言とともに、集まった銀河中のお嬢様たちから歓声が上がる。

「あら、バーベキュー? 野蛮な焼き肉かと思いましたけれど……なんですのこの香りは!?」

「ただ焼いただけじゃないわ……スパイスと出汁の香りが複雑に絡み合って、鼻腔が弾け飛んでしまいそうよ!」

「へへ、驚くのはまだ早いですよ! さあ、焼き立てからどんどん持っていってください!」

ムコーダの号令とともに、銀河を揺るがす伝説のBBQ宴が幕を開けた!

 

「まずは魚介から! **『北陸産のどぐろの炭火焼き』**です!」

角上魚類コーナーから直送された、まるま々と太った北陸産の高級魚・のどぐろ。

職人技の塩振りで炭火にかざされたその体からは、上質な脂がジュワジュワと溢れ出し、落ちた脂が炭に触れて香ばしい煙を立ち上らせている。

「な、なんですのこのお魚……! 箸を入れた瞬間に、白い身から脂のジュースが溢れ出てきますわ!」

「パクッ……ん、んんんん~っ!! 皮目はパリッパリなのに、身は口の中でふわっと消えて、極上の旨味が広がる……! 宇宙中のどの海鮮料亭でもこんな『白身のトロ』食べたことないわ!」

「次はこれ! **『ホタテとたこのカマンベールチーズアヒージョ・ほりにしのスパイス仕立て』**!」

グツグツと煮立ったオリーブオイルの中に、プリプリのホタテとタコ、そして丸ごとぶち込まれたカマンベールチーズ。そこに『アウトドアスパイス ほりにし』が惜しげもなく振りかけられている。

「このスパイス……ニンニクと和風出汁のパンチが効いてて、とろけるチーズとホタテの出汁に絡んで悪魔的な美味しさよ!」

「バゲットに乗せて食べたら止まらない……! 誰か、誰か私からこのパンを遠ざけてぇぇ!」

さらにムコーダの手が止まらない。

「どんどん行くぞ! 鉄板焼きの真骨頂、**『ほりにしのスパイスで仕上げた鉄板焼ガーリックシュリンプ』**!」

巨大なエビがガーリックとほりにしのスパイスでカリッと焼き上げられ、香ばしい殻の香りが食欲を暴走させる。お嬢様たちが指をオイルまみれにしながら、なりふり構わずエビにしゃぶりついた。

「そして、スープ代わりにどうぞ! **『かごしま黒豚のタマリンドスープ・キャンプスペシャル』**!」

黒豚の上質な甘みのある脂と、タマリンドのキュッと爽やかな酸味が溶け合った温かいスープ。脂っこくなった口の中を、一瞬で爽快リセットする魔法の一品だ。

「はぁぁぁ……♡ 濃厚な肉料理の合間にこの酸味……永遠に食べ続けられるシステムが完成しているわ……!」

 

「さて……ここからは本番、ガッツリ肉料理と未知の味覚です!」

ムコーダが巨大な中華風鍋のフタを開けると、赤く澄んだスープから熱気とともに、強烈なスパイスの香気が噴き出した。

「これは**『夏野菜のマーラータン・アウトドア仕立て』**です!」

「マーラータン……? 赤くて綺麗なおスープね。いただきます……モグ」

一口食べたお嬢様の一人が、ピクッと動きを止めた。

……そう、銀河お嬢様たちの住む宇宙には「甘味」「旨味」「塩味」「酸味」はあっても、「花椒(ホアジャオ)の痺れ(麻)」と「唐辛子の激辛(辣)」という概念が存在しなかったのだ!

「ん……? なにか唇が……ピリピリ……? あ、あら……? 舌が、舌が痺れて……熱い……熱いのに……っ!」

「大丈夫ですか!? 辛かったら無理は……」

「……美味しいいぃぃぃぃぃっ!!!」

「ええっ!?」

「なにこれ!? 舌がビリビリ痺れるのに、野菜の甘みと旨味が爆発して、汗がブワッと吹き出して……快感が止まらないの!! もっと! もっと痺れをちょうだい!!」

「痺辛(シビカラ)」という未体験の味覚に目覚めてしまったお嬢様たちが、汗を流しながらマーラータンに行列を作る!

そこへ追い打ちをかけるように、ムコーダの最高傑作が投入される。

「コストコ特選! **『叙々苑のタレに漬け込んだプライムビーフのテキサス風ブリスケット』**!」

「そして炭火でじっくり煽った**『あぐー豚のシカゴ風炭火焼きスペアリブ』**!」

「仕上げは、**『さくらどりの炭火焼きケバブレッグ・砂漠の虎風ヨーグルトソース添え』**だーっ!」

「きゃあああああっ! 肉! 肉の暴力よーっ!」

叙々苑の秘伝のタレが染み込んだブリスケットは、ナイフがいらないほどホロホロに柔らかく、あぐー豚のスペアリブは噛みしめるたびに甘い肉汁が溢れ出す。ケバブレッグにかけられた爽やかなヨーグルトソースは、スパイスで焦がされた鶏肉の旨味を極限まで引き立てていた。

「美味い……美味すぎるぞムコーダ! 骨の真髄まで美味いのだ!」(フェル)

「スイ、お肉もエビも全部だいすきー!」(スイ)

「このケバブってやつ、酒に合いすぎるだろー!」(ドラちゃん)

従魔たちも大興奮で肉を食らい、会場の熱気は最高潮(ボルテージ・マックス)に達していた。

 

「ふぅ……みなさん、宴もたけなわですが、締めの汁物とデザートの登場です!」

ムコーダが持ち出したのは、角上魚類で余った高級魚のあらを豪快に煮込んだ大鍋。

「締めはこれ、**『角上魚類で仕入れたアラ汁』**です」

お椀に注がれた白濁したスープ。のどぐろ、鯛、ブリなどの濃厚な出汁が凝縮された温かいアラ汁を飲んだお嬢様たちは、思わず「はぁぁぁ……」と熟練のおじさんのような吐息を漏らした。

「染みる……胃袋の隅々にまで、魚の優しさが染み渡っていくわ……」

「そして! デザートはこちら! **『ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜』**!」

贅沢に真っ二つにカットした完熟メロンの種をくり抜き、そこにシュワシュワのサイダーと濃厚なバニラアイス、チェリーを乗せた豪快すぎるデザート!

「きゃーっ! かわいい! メロンを丸ごと器にするなんてなんて贅沢なの!」

「スプーンでメロンの果肉を削りながらアイスと一緒に食べると……お口の中が天国ですわ!」

「そして最後! このドリンクで乾杯しましょう! クランドの**『紫コーラ』**です!」

ムコーダがグラスに注ぐのは、怪しくも美しい鮮やかな紫色のクラフトコーラ。

「紫の……コーラ……? なにこれ、すっごくキレイ!」

ユナがグラスを受け取り、一口飲む。

「……ッ!? なにこれ! スパイスの香りと、華やかなハーブの風味がしゅわしゅわ弾けて……後味がとってもエレガント! まさに銀河の夜空にぴったりなコーラだわ!」

「美味いーっ! ムコーダ、アンタ最高よーっ!」

「今夜のパーティ、宇宙歴史に残るわ!」

銀河お嬢様たちの拍手と歓声が響き渡り、ムコーダは誇らしげに胸を張った。

……そう、この時までは完璧だったのだ。

 

**ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!**

突如、空中庭園の真上の空間が歪み、ドス黒い雷光が迸った!

「な、なに!? 敵の襲撃!?」

「宇宙海賊!? 迎撃システム起動!!」

混乱するお嬢様たちを余所に、空中に巨大な「ホログラムのような次元の裂け目」が炸裂した。

そこに現れたのは――涙と鼻水で顔をグチャグチャにした、風の女神ニンリルを筆頭とする異世界の女神たち(と、ちゃっかり混ざっている鍛冶神・神様たち)だった!

『むーこーだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!』

空間を揺るがすニンリルの絶叫!

「ニ、ニンリル様!? それに他の女神様たちまで全員!? どうしたんですか急に!?」

『「どうしたんですか」じゃないのじゃぁぁぁ! ワシらが必死こいて異空間の座標を計算して、お前を連れ戻そうと苦労しておるというのに……! お前は何をしておるのだぁぁぁ!』

次元の画面の向こうで、ニンリルがぷんぷんと拳を振り回す。

『コストコ10年分!? 角上魚類!? Amazonプライム10年分だとぉ!? ワシらにすら見せたことのないような豪華な食材をフル活用して……見たこともない紫のコーラやら、メロン丸ごとクリームソーダやら……!』

『ムコーダ……ずるいぞ……。あの「ほりにし」のアヒージョと、ブリスケット……我らにも寄こすのだ……!』(土の女神キシャール)

『ちょっとムコーダちゃん! あのガーリックシュリンプとシカゴ風スペアリブ、酒の肴に最高じゃない! なんでワシらを置いて宇宙のおねーちゃんたちとパーティ開いてるのよーっ!』(火の女神アグニ)

『水のアラ汁……美しい出汁の香り……我、許さない……ムコーダ、許さない……』(水の女神ルサールカ)

女神たちの凄まじい執念と嫉妬の念に、ムコーダはヒッと首をすくめる。

「い、いや! これは成り行きで! ユナさんたちに料理を頼まれてですね……!」

「ちょっと待ちなさいよ!」

そこに割って入ったのは、宴の主催者である神楽坂ユナだった!

ユナは腰に手を当て、空中のニンリルたちを指さす。

「何なのよあなたたち! ムコーダさんは今、私たちの『専属ハイパー・シェフ』としてこの宴を盛り上げてくれてるのよ! 割り込んで文句を言うなんて、お行儀が悪いわ!」

『なにをなぁぁぁっ!? たかが人間の小娘(お嬢様)が生意気な! ムコーダはワシら異世界の神々に甘味と飯を捧げる契約の信徒なのじゃぞ!』

「契約だかなんだか知らないけど、ムコーダさんの料理を一番正当に評価して、楽しんでるのは私たち銀河お嬢様よ! あなたたちみたいに上から目線で要求ばっかりするなんて、神様失格ね!」

『な、な、な……生意気なーっ! ワシは風の女神ニンリルなるぞ! どら焼きと洋菓子と、あの紫のコーラを全量献上させないと絶対に許さんからのーっ!』

「渡さないわよ! 紫コーラもメロンソーダも、このパーティのお客さんのものなんだから!」

『キーッ! 許さん! 座標特定完了! 異空間の結界を力ずくでこじ開けて、そのパーティ会場の肉とスイーツを全部奪い取ってやるのじゃぁぁぁっ!』

「来られるものなら来てみなさいよ! 銀河お嬢様隊、全軍突撃(チャーシュー)よーっ!」

「「「おーっっっっ!!!」」」(ノリノリの銀河お嬢様たち)

画面越しにバチバチと火花を散らす、異世界の女神たちと銀河のお嬢様たち!

ニンリルは次元の壁をドカドカと殴りつけ、ユナはお嬢様たちを率いて謎のポーズで戦闘態勢に入る。

「あ、あの……みなさん落ち着いて……! 料理ならまだ残ってますし、追加で作りますから……!」

ムコーダの声など、もはや誰の耳にも届かない。

「ぬはははは! 賑やかでよいではないか! ムコーダ、ワシはあぐー豚のスペアリブをあと十本追加だ!」(フェル)

「スイもー! 紫のしゅわしゅわおかわりー!」(スイ)

「おい、あっちの神様たちが来たら肉の奪い合いになるぞ! 今のうちに食い溜めだー!」(ドラちゃん)

「お前らまでノリノリで食ってんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

空中庭園で繰り広げられる、女神vs銀河お嬢様の果てしなき「食い意地大戦争」。

大鍋から立ち上る煙と、紫コーラの泡、そして爆食従魔たちの歓声に包まれながら、ムコーダの胃痛と異世界(+宇宙)放浪の旅は、まだまだ終わらないのだった――!

 

 


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