ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
(荒船視点)
隊室の床一面に砂がぶちまけられていた。
砂の真ん中に加賀美が座り込んでいる。悲しい事に割といつもの風景だ。俺が隊室を出る前からなので、かなりの時間そうしているはずだ。
「戻ったぞ」
「お邪魔しま、砂?」
「おかえり。注意しろよ、足元。鋭意作成中だ、加賀美が」
「まだやってたのかよ。あ、鋼も気を付けろよ。踏むと怒られるからな」
「荒船…これまさかスナバァか?」
「おしい。シロデスナだ。スナバァじゃ大作作るのに砂の量が足りないんだと。見るの初めてだったか?ウチの隊室じゃ、ポケモンは加賀美の制作材料だ」
隊のポケモンを決める時、俺達が求めたのは汎用性だった。
当時の俺は攻撃手だったが、完璧万能手育成のメソッドの完成目指すため、ポジション変更が発生することは確定事項だった。そうなると「今の荒船隊」にあったポケモンではなく、この隊がどう変化しても活用できるポケモンが必要になる。
そこで紹介されたのが、スナバァ/シロデスナだったわけだ。
スナバァ/シロデスナ
・必要トリオン6
・特殊型
・技なし
・スナバァは70kg、シロデスナは250kgの砂で身体が構成されており、砂は自在に操作可能
・弱点の核(直径3cm)を損傷すると破壊扱いとなり、ボックスへ強制収容される
「確かに高いな、汎用性は」
「パッと思いつくだけでも、盾、足止め、目潰し、陽動、潜入…」
「いや、絶対訓練ダルイっすよ。どの場面で何をするかとか、全部は仕込めませんって」
「だよなぁ」
何枚か渡された仕様書の内の1枚。新技術を使用したポケモントリオン兵なのでデータ収集のためにも是非、と言われたものの、必要トリオンも少なくはなく採用するかと言われれば難しい所だった。
そんなわけでその仕様書は選外に置き、他の候補の確認していたが、加賀美はずっとスナバァ/シロデスナの仕様書を見つめていた。
「気になるのか?シロデスナが」
「うん。でも実際にポケモンを使うのは荒船くん達だから、みんなが決めるべきだと思う」
そんな殊勝な事を言う割に、加賀美の目はずっとスナバァ/シロデスナの仕様書に向けられ続けている。何がそんなに加賀美を惹きつけたのか分からなかったが、他にピンとくる候補があったわけでもない。そこで開発室に確認を取り、新トリオン技術の実験と運用データの収集という名目で、運用できなければポケモンの交換を許可すると確約をもらい、スナバァ/シロデスナを仮採用とした。
そうしてスナバァ/シロデスナのボックスが荒船隊に届けられて、その翌日にはポケモン製砂像が完成していた。
「話が急展開過ぎないか?」
「仕方ねぇだろ。事実なんだから」
鋼に茶を出しながらこれまでの経緯を話してやると、案の定ツッコまれた。
俺だって驚いたんだ。隊室に行ったらテーブルの上に独創的な塔の形になったスナバァが、呆然とした顔でいたんだから。無機物系のポケモンは表情が分かりにくいと聞いてたが、あれ見て絶対嘘だと思った。あまりにも分かりやすく「どうしたらいいんだ?」と全身で訴えてた。しかも加賀美は俺やスナバァの様子なんか気にもしないで、パシャパシャ写真撮ってるし。
そう、加賀美は自分の創作の材料として、スナバァを欲しがっていたのだ。砂でできているのに水も使わずに形状の固定が可能で、何回でも作り直せて、しかも材料費無料、自分で動けるから運ぶ必要もないし、ボックスに入れればどこへでも連れて行ける。加賀美にとっては本当に理想的な材料だったわけだ。
一応、加賀美本人はシロデスナを選んだ理由を「隊の方針に一番合うと思ったから」と言っているし、俺も加賀美そう思って選んだのだと信じている。…が、あまり細かく聞かないことにしようと穂刈や半崎と話して決めた。藪を突いて蛇を出したくはない。
そうして加賀美は暇さえあればスナバァを捏ね回すようになった。そして、それほど時間が経たないうちにシロデスナに進化させてまで捏ね回すようになった。「進化させとくトリオンがもったいない」っつたら、「私が責任持って充電する!」って即言い切られた。進化状態を維持する程度のトリオンなら、加賀美でも足りるからな。
しかも加賀美の捏ね回しは、シロデスナの育成において非常に役に立っていた。明らかにシロデスナの形状変化の速度とか砂の動かし方とか上達してるんだ。俺たちは、加賀美を止める理由を完全に失ってしまった。
「スナバァ、最初は呆然としてたんだろ?嫌がってないのか?」
「後ろ見てみろ。大人しく捏ねられてるだろ。3回目ぐらいには慣れてたな。適応が早いみたいだ」
「自分が考えもしなかった形になるのがおもしろいみたいだぞ、スナバァも」
「勉強熱心なんだな。だからあんなに強いのか」
納得したような鋼を見て、何とも言えない気持ちになった。
当初の心配をよそに、シロデスナの訓練は非常に順調に進んだ。香取隊のレパルダスやカゲの所のタイレーツのように、完全にポケモンの自己判断で戦場を動き回る事はまだ難しい。だが隊に迎え入れたばかりの頃のように、俺達が側で付きっきりになる必要はもう無い。ある程度の方針さえ示せば、シロデスナが自分で適した形状に変化して行動する事ができるようになっている。…俺達もしっかり訓練はつけているつもりだが、たぶんこれも加賀美の功績が一番デカい。ランク戦や防衛任務の後に、「あそこは、広がって足取った方が良かったかも」とか動きの振り返りや反省をしながら捏ね回してるからな、アイツ。
そうして加賀美に捏ねられながら話を聞いて学習したシロデスナは、あらゆる隙間に潜み、相手の足を取り、目を潰し、時には壁になる、非常に頼りになるポケモンになった。そのためだろう、最近のランク戦ではガッツリ警戒されて、どこの隊もメテオラを持ち込むようになった。シロデスナがいると見るや、即爆破。砂を散らし、あわよくば核も壊そうって寸法らしい。
「よしできた。シロデスナ、もうちょっとじっとしててね」
「加賀美、お疲れ。…これは、何を表現してるんだ?」
「あ、村上くん来てたんだ。これはねー、生命のしぶとさ」
「しぶとさ…、そうか。よく分からないけど、すごいな」
「鋼、無理すんな。分からないなら分からないでいい。俺も分からん」
「俺たちには解説すらしないからな、加賀美はもう」
隊室の床の上でシロデスナは歪な蜘蛛の巣みたいに広げられ、あちこちからバラみたいなトゲのある蔓が天井に向かって伸ばされてる。毎度ながらどうやって作ってるんだろうな。形状の固定はシロデスナだが、成形自体は加賀美がしてるはずなんだが。
正直芸術はよく分からないので、砂像が完成したらとりあえずシロデスナの顔を探すようにしている。…あった、見つけた。
同じく顔を見つけたらしい鋼が、声をひそめて聞いてきた。
「俺にはシロデスナが『虚無』って感じの表情をしてるようにしか見えないだが、あれは本当に嫌がってないのか?」
「何言ってんだ、満足げな顔してるぞアイツ。さっき穂刈も言ってたろ。シロデスナも色んな形になるの、気に入ってんだよ」
「…そうか。荒船が言うんなら、そうなんだろうな」
結構分かりやすいと思うんだが、俺がシロデスナに慣れただけなのかもしれない。まぁ任務やランク戦を考えれば、表情が読まれにくいのはいい事か。
初めはどうなるかとも思ったが、ありがたい事に強くて頼りになるポケモンに育ってくれた。「素晴らしい運用データをありがとうございます」とか開発室に礼を言われてるが…加賀美だよな、成功要因。再現性あるのか、これ?他の隊が育成・運用するの、相当難易度が高いんじゃないか?
とりあえず育成記録だけはいつでも提出できるように形式を整えておこうと心に決めた。