ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
注意
・ポケモントリオン兵の破壊描写があります
・第二次大規模侵攻におけるボーダーや王子隊の動きを、大きく捏造しています
(王子視点)
「カシオ、あとどれくらいかかりそう?」
『あと15分ぐらいです!』
「分かった。じゃあ羽矢さんに、そろそろ隊室に移動するように伝えておくよ」
大規模侵攻が始まった。事前に迅さんの予知を元にして通達されていたから、それほどの驚きはない。でも僕たちにとってはあまりにタイミングが悪かったのも事実だった。
空に大量のゲートが現れたのは平日の午後だった。防衛任務が入ってなかった僕とクラウチはそれぞれ学校にいたし、カシオに至っては生徒会の業務の一環として市外に出ていた。
しかも忍田本部長からの指示は「B級部隊は隊員が全員揃ってから出撃すること」「隊員が揃うまでは戦力維持に努めること」。急いで換装して学校を飛び出したものの、設定された合流ポイントでたまに寄ってくるトリオン兵を撃破しながら、ひたすらカシオを待つことになってしまった。
僕らの合流に時間がかかると踏んだ羽矢さん(たまたま本部に詰めていた)は待つ時間が惜しいと言って通信室の補助に入ってしまったし、B級合同部隊は既にトリオン兵の掃討を始めている。仕方がない事だけど、どうしても焦ってしまう。
「こちら王子。羽矢さん、そろそろ隊室に入ってもらえるかい?カシオがあと20分ぐらいで合流ポイントに着きそうだ」
『分かったわ。この通信が終わったらすぐに移動を始めるつもりよ。みんなは本部には寄らないで、そのままB級合同部隊に合流するってことでいいのよね?』
「そのつもりだよ。こっちにもトリオン兵が来てるし、ボーダーに行く時間はないかな」
「合同部隊は南部地区の、えーと王子隊の合流ポイントから西に2kmぐらい離れた地点にいるわ。北に向かって端からトリオン兵を掃討してる感じね。さっき人型ネイバーを撃破したけど、そこでかなりベイルアウトしたし、掃討ペースも落ちてる。樫尾君が着いたら、急いで合流してね」
「王子了解。カシオが来たら、また連絡入れるよ」
羽矢さんとの通信を終えるとクラウチが声をかけて来た。
「合同部隊、今どの辺だって?」
「ここから西に2kmだってさ。カシオが来たら合流目指して全力疾走だ」
「そうか。だとするとルカリオは連れて来れないな」
「仕方ないね、今日それでやるしかない。この状況でボックスを取りには行けないし」
今、僕らのポケモンであるリオル/ルカリオはここにいない。定期点検のために開発室に預けているからだ。本当にタイミングが悪い。誰に似たのか真面目な子だし、運動機能特化型だからトリオン兵相手なら十分以上に戦える。いてくれればとても助けになったはずだけど、いないものはどうにもならない。
「点検は異常無し。ボックスは羽矢さんが受け取ってるそうだよ。お守りがわりに持っとくってさ」
「なら安心だな」
そうやってしばらく待っていると、遠くにカシオが見えた。
羽矢さんももう隊室で待機しているはずだ。内部通信で連絡しようとして気がついた。繋がらない。何度か試したが、羽矢さんの応答はない。
「遅くなって申し訳ありません!樫尾、現着しました…あれ、王子先輩?何かあったんですか?」
「王子、どうした?」
2人が訝しげな顔をしているが、応える余裕がなかった。
通信室を出て、まだ隊室に着いてない?そんなはずはない。通信室と隊室は多少離れているけど、歩いたって10分はかからない。
じゃあ、何で?
イヤな予感がする。ボーダー本部の方を見た。あちこちから上がる煙に遮られて、ほとんど本部は見えない。…本当に?戦闘区域や市街地からの煙だけか?本部から出火してるんじゃないか?
トリオン体なのに、急速に口の中が乾いていく気がした。
「王子?」
「…本部が襲撃を受けたかもしれない。羽矢さんと連絡がつかないんだ」
クラウチとカシオの顔が強張る。
「そんな…!本部が!?」
「急ごう!」
「ダメだ、本部には行かない」
「王子先輩!?」
カシオが信じられないと言わんばかりの顔で僕を見てる。
でも僕らが今すべきことは、本部に向かうことじゃない。警戒区域外にいる僕たちがボーダー本部に到着するよりも、本部の戦力が侵入者を撃退する(あるいは考えたくないけど、本部が壊滅する)方が間違いなく早いんだから。
「動揺させてごめん。でもたぶん、本部は大丈夫なはずだ。本部長やエンジニアの人がいるから、どうにでもなる。それに羽矢さんにはルカリオがいる。もし会敵してたって、ルカリオが時間を稼いでる間に忍田本部長か寺島さんが来てくれるさ」
僕の判断は間違ってなかったと思う。それに早くから戦闘に入っていた隊が損耗しつつある一方で、市街地に流入するトリオン兵は増え続けていた。無傷の僕たちが合同部隊に合流できれば、町への被害をより抑える事ができるはずだ。
実際、合流した合同部隊の方には「侵入したネイバーは対応済み、作戦を続行せよ」と指示が出ていた。正直な話、内心では半信半疑だったけど。でもその後すぐに通信が来て、羽矢さんのサポートも受けられるようになった。「ルカリオが守ってくれたから無事だった」と言う羽矢さんの声はいつも通りだった。だから安心していたんだ。本部は大きな被害も無く、ネイバーの襲撃を乗り越えたんだろうって。
それが間違っていたと知ったのは、全てが終わって本部に戻った時だった。
封鎖された通信室。目元を赤く染めた生身の羽矢さん。砕けたボックスの破片。そして、肩口から引きちぎられたルカリオの腕。
羽矢さんが通信室を出ようとしたちょうどその時、人型ネイバー、それも黒トリガーの侵入があったのだという。ネイバーが通信室のオペレーターを手にかけようとするのを見て、羽矢さんは咄嗟にリオルを呼び出し、ルカリオに進化させて応戦。ネイバーの攻撃を止めようとして、けどすぐルカリオは弾き飛ばされ、同時に羽矢さんのトリオン体は破壊されたのだそうだ。
傷ついたルカリオは、それでも生身になってしまった羽矢さんを部屋から押し出して逃した。そしてそのまま、オペレーターを守りながら、黒トリガーを相手に時間を稼ぐように最期まで戦った、とのことだった。
亡くなってしまった方もいるのだと聞いた。でも「おかげで命が助かった」「生きているのは橘高さんとルカリオのおかげだ」と、ボーダーのあちこちでオペレーターの人達に声をかけられた。ルカリオがそういう行動ができる子であるのはとても誇らしい。でも、全く嬉しくはない。
オペレーターのトリオン体にはベイルアウト機能はない。そもそも戦闘員じゃないので、羽矢さんはボックスをトリオン体に取り込むことすらできない。なので羽矢さんは、ボックスを手に持ったままルカリオを戦わせた。そうするしかなかった。だからネイバー攻撃を受けた時、トリオン体と同時にルカリオのボックスまで破壊されてしまっていた。
ポケモンは一定以上の損傷でボックスに戻り、その際に破損したパーツが全て自動的に回収されて、ボックス内部で修復が行われる。
でも、そのボックスが無かったら?壊れていたら?
ボックスが壊されてしまえば、ポケモンは破壊されても回収されない。パーツも飛び散ってしまうし、当然ポケモン本体の修復だってされない。そしてパーツは、戦場にそのまま放置される事になる。
ボックスもルカリオも開発室の設備なら修復はできると思う。でもそれはパーツが揃っていればの話だ。今あるのは、部屋から逃がされた時に羽矢さんが咄嗟に掴んだ、引きちぎられた腕が一本だけ。残りは封鎖された通信室の中で、瓦礫に埋もれているか、粉々に砕け散ってしまっているだろう…回収はできない。僕たちのルカリオは直らない。
力及ばなかったとしてもルカリオは正しいことをした。たくさんの命を救った。でも僕は戦功の通知を受け取ってからずっと、叫び出したいようなモヤモヤとしたものを抱えていた。
B級5位 王子隊:一級戦功
・警戒区域内外のトリオン兵掃討に尽力した
・情報が錯綜する中でも適切な行動で戦線を支えた
・ネイバー襲撃時に際してポケモントリオン兵を適切に運用、非戦闘員の保護に尽力した
通信室オペレーター:3名死亡
C級隊員:28名行方不明