魔法先生ギルガメッシュ   作:長LAVA

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第12話

 

 

 

 前夜祭はすでに終了し、麻帆良祭本祭の1日目が幕を開けた。

 

 教師用の宿舎を出てみれば、見慣れた学園都市は完全に姿を変え、巨大な祭りの景色が広がっていた。歩道にはみ出すほどの飾り付けや、行き交う人々の熱気で、都市の輪郭そのものが一回り膨れ上がっているように見える。

 

 ただ、それを見ても過剰に驚くことはなかった。

 

 ウルクにおいても、都市を挙げた祭儀そのものは珍しくなかったからだ。神殿への奉納や、豊穣を祝う大祭。人が集まり、熱気を帯びる光景は、いつの時代もそう変わるものではない。

 

 明確に違う点があるとすれば、自分がこの祭りの責任者ではないということくらいだ。

 

 王であった頃ならば、これだけの人が集まれば、まず警備の配置を考えた。物資の流通、食料の確保、神殿の儀式の進行、行列の順路。そういうものを先に把握し、統治者として目を光らせる必要があった。

 

 だが、今の立場は一介の英語教師にすぎない。

 

 今日は「昼に何を食うか」を先に考えられる。その気楽さが、少しだけ心地よかった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 少し歩き回ってみた結果、麻帆良祭に対する第一印象は「随分と妙な祭りだな」というものに落ち着いた。

 

 最初に目に入るものは、ごく普通だ。飲食の屋台、派手な看板、衣装を揃えた学生たちの呼び込み、あちこちに設けられた特設舞台。

 

 ところが、少し細部を観察すると、段々とおかしなことに気付く。

 

 例えば、広場の一角に陣取っていた料理研究会。

 

「世界最大級ジャンボオムライス制作」という横断幕が掲げられ、巨大な鉄板の周りで学生たちが必死に卵を焼いている。何十人分どころではない。スコップのようなヘラで大量のチキンライスをひっくり返す姿は、もはや土木工事だ。

 

 その鉄板の横には、「失敗した場合、本日の昼食になります」と書かれた札が立っていた。

 

「成功しても昼食ではないのか?」

 

「成功したら記録なんです!」

 

「……食え」

 

 そんな無駄な熱量は、他の場所でも同じだった。

 

 普通に作品の展示をしているのかと思った書道部では、校舎の壁ほどもある巨大な紙に向かって、丸太のような筆で一文字を書く実演が行われていた。筆が重すぎるのか、3人がかりで抱え込んでいる。

 

 書かれた文字は、力強い「祭」の一文字。

 

「その大きさで書く必要はあったのか」

 

「大きい方がすごいので!」

 

「理由になっておらんな」

 

 それでも、周囲の観客は拍手喝采で盛り上がっているのだから始末に負えない。

 

 陸上部の出し物に至っては、「校内100m走」と銘打たれていた。

 

 しかし、どう見ても普通の100m走ではない。コースの途中に、パン食い、三輪車への乗り換え、借り物競走、平均台の通過などが全て詰め込まれている。もはや「100mとは何か」という哲学的な問いすら浮かんでくる。

 

「先生もどうですか! 飛び入り参加歓迎ですよ!」

 

「断る。何故100mの途中で三輪車に乗らねばならんのだ」

 

「学園祭だからです!」

 

「随分と便利な言葉だな」

 

 歴史研究会の教室を覗いた時は、なぜか入った瞬間に裁判が始まっていた。

 

「織田信長は本当に悪人だったのか」というテーマで、学生たちが信長弁護側、信長糾弾側、さらには当時の証人役に分かれて、異様なまでに本気で舌戦を繰り広げている。客は陪審員役として札を持たされていた。

 

 かと思えば、その隣の教室では「源義経逃亡経路再現すごろく」なるものが床一面に広げられている。

 

「歴史を遊ぶことに一切の遠慮がないな」

 

 呆れ半分、感心半分で歩みを進める。

 

 生物部の展示は珍しい動物かと思いきや、入口に「人間観察コーナー」という札が下がっていた。

 

 来場者の行動パターンを学生が物陰から記録しているらしい。

 

 背後からそっと手元のノートを覗き込んでやると、「派手な服装の男性は看板を読む時間が長い。立ち止まる確率70%」などと書かれている。

 

 視線に気付いた学生が、こちらを見て慌てて紙を背中に隠した。

 

「気にするな。続けよ。我も貴様らの生態には興味がある」

 

 そう言ってやると、学生は余計に困った顔をして固まってしまった。

 

 文芸部の企画は、一見すると普通の喫茶室だった。

 

 しかし、席に案内されてコーヒーを飲んでいると、突然奥の席で学生が倒れた。

 

「きゃあああっ! 被害者が出ました!」

 

 入った客を全員、即興ミステリーの容疑者に仕立て上げるという企画らしい。エプロン姿の探偵役が、客席を回ってアリバイを確認し始める。

 

「そこのあなた! あなたは15時10分、どこにいましたか?」

 

「今、この店に入ったばかりだが」

 

「……一番怪しいですね!」

 

「貴様の事件、最初から破綻しておるぞ」

 

 どうやらこの学園祭の基準は、「無駄な本気」にあるらしい。

 

 高度な科学技術を披露するのではなく、普通の題材へ異常な労力を投入する。巨大将棋、人間チェス、校舎を丸ごと使った迷路、何故か1000個も積み上げる紙コップ競技。巨大カルタに、大人数でやる伝言ゲーム。

 

 科学系の展示もあるにはあったが、背景の1ジャンル程度に収まっていた。

 

 工学系の研究室が展示していたのは「全自動たこ焼き機」だった。

 

 確かに動きは滑らかで、焼き加減も完璧に近い。技術力は高いのだろう。

 

「たこ焼きを自動化する研究へ、何故これだけの時間と技術を使ったのだ? もっと他に用途があっただろうに」

 

「でも、どうしてもたこ焼きが食べたかったので」

 

「……なら仕方ないな」

 

 技術力をどうでもいいことへ浪費するその頓珍漢さに、こちらもつい納得してしまった。

 

 魔法や超科学といった大仰なものは表に出さず、あくまで普通の学生たちが「異常な規模と熱量」で遊んでいる。それが、この麻帆良祭というものの正体らしかった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 もちろん、遊んでばかりいるわけではない。

 

 午前中は教師としての巡回と案内の業務が入っていた。指定された区域を歩き、迷っている来場者がいれば的確に案内してやる。

 

「Excuse me, could you tell me where the main stage is?」

 

「It's straight down this path. Turn right at the clock tower, and you'll see it immediately.」

 

 流暢に道を教える姿を見て、近くの屋台にいた生徒が目を丸くする。

 

「ギル先生、英語すごい!」

 

「我が何の教師だと思っておるのだ」

 

 いつものように軽口を叩きつつ、巡回を続ける。

 

 その途中、しずなと二ノ宮に遭遇した。

 

「あ、ギル先生。お疲れ様です」

 

「なんだ、貴様らも巡回か」

 

「ええ。……先生、今日は人が多いから、余計にそっち系の人に見えますね」

 

「人が増えた程度で、何故我の職業がマフィアに変わるのだ」

 

「ふふっ。ちゃんと職員証、見せて歩いてくださいね」

 

「これ以上見せびらかすように歩いたら、ただの歩く看板になるぞ」

 

 

 

     ◆

 

 

 

 午前中の勤務を終えると、自由時間がやってきた。

 

 前日に作った予定表は一応あるが、最短効率で回るつもりは毛頭ない。面白そうなものがあれば、適当に寄り道をするつもりだった。

 

 まずは、2年生の喫茶店へ向かう。前日に看板作りを手伝わされたクラスだ。

 

 廊下に立てかけられた看板には、綺麗に「Come and visit us!」の文字が残っていた。

 

 教室に入ると、エプロン姿の生徒がこちらを見つけて歓声を上げる。

 

「あっ、ギル先生来たー!」

 

「約束通り、客として来てやったぞ。席へ案内――」

 

「先生、ちょうどよかった! その机、ちょっと奥に運ぶの手伝ってください!」

 

「……やはりか」

 

 結局、席に座る前に机を運ばされる羽目になった。

 

 それでも、ひと仕事終えて出された手作りの焼き菓子と紅茶は、悪くない味だった。

 

 周囲を見渡せば、慣れない接客で右往左往する生徒や、友人同士でふざけ合いながら店番をする姿がある。麻帆良祭の頓珍漢な催しの中で、こうした普通の学校らしい日常の風景が、良いアクセントになっていた。

 

「い、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか……?」

 

 注文を取りに来た生徒が、妙にガチガチに緊張している。

 

「普段、我に対して遠慮なく話しかけてくる態度はどこへ消えた」

 

「そ、だって、先生は先生だから!」

 

「今は客だぞ」

 

「でも先生は先生ですー!」

 

 どうやら、分類は変わらないらしい。

 

 その直後、英語の看板を見て入ってきたらしい外国人客の対応で、生徒たちがパニックに陥った。

 

「ど、どうしよう! 先生、助けて!」

 

「我は客だぞ。それに、昨日授業でやった表現だろう。思い出しながら自分で聞いてみろ」

 

 全部を代行してやることはせず、横から少しだけ助け舟を出してやる。通じた時の生徒の嬉しそうな顔を見て、少しだけ教師らしい仕事をした気分になった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 店を出た後は、3年生の展示へ足を運んだ。

 

「先生、本当に来てくれた!」

 

「来年は高等部からまた呼ぶのであろう?」

 

「あ、それはそれです!」

 

「やはり最後ではないではないか」

 

「このクラスでやるのは最後なんですー!」

 

「言葉を足せばよいと思っておるな」

 

 そんなやり取りを交わしつつ、手作りの展示物を眺める。写真や絵を切り貼りしただけのものではあるが、費やした時間は十分に伝わってきた。

 

 そうして女子中等部の敷地内を歩いていた時だった。

 

 人の流れから少し離れた場所に、いつもの少女がぽつんと立っているのが見えた。

 

 相坂さよ。

 

 もちろん、初見ではない。普段の授業中にも、教室の隅にずっと見えていた。幽霊であることも最初から分かっている。

 

 ただ、特に害をなすわけでもなく、本人も静かに授業を聞いているだけだったため、今までわざわざ声を掛ける理由がなかったのだ。

 

 今日も彼女は、賑わう祭りの輪には入らず、少し離れた端の方から眺めているだけだった。

 

 生徒たちは店番をし、呼び込みをし、友人同士で連れ立って遊びに行っている。彼女だけが、その輪の外にいる。

 

 迷うことなく、そちらの方へ歩み寄った。

 

「相坂」

 

 声を掛けると、さよの肩がびくっと跳ねた。

 

 恐る恐る、といった様子で振り返る。

 

「貴様は祭りに参加せんのか」

 

「……私、ですか?」

 

「ここに相坂は貴様しかおらんだろう」

 

 そこで初めて、目の前の教師が『本当に自分を見て話している』ことに気付いたらしい。

 

「えっ!? 先生、私見えるんですか!?」

 

「ああ」

 

「い、いつから!?」

 

「最初からだが」

 

「最初から!?」

 

「授業の時も、そこにおっただろう」

 

「いましたけど! 普通は見えないんですよ!」

 

「我に普通を求めるな」

 

 驚きで目を丸くするさよに、事も無げに返す。

 

「それで、祭りには参加せんのか」

 

 本題に戻すと、さよは少しだけ落ち着きを取り戻し、寂しそうに笑った。

 

「私は……いいんです」

 

「何故だ」

 

「見えないし、物にも触れないので」

 

 賑わう教室の方へ視線を向ける。

 

「店番も出来ないし、買い物も出来ないし。何か手伝おうとしても、何も出来ませんから」

 

 そして、淡々とした声で付け加えた。

 

「だから、参加しても意味ないかなって」

 

 悲劇ぶるわけでもなく、ただ長年の経験から導き出された結論として、彼女はそう言った。

 

「でも、見てるのは好きですよ」

 

 さよは少しだけ表情を明るくする。

 

「毎年、変なの増えるし。去年なんて、教室全部使って巨大なすごろく作ってましたし」

 

 同情するような言葉は掛けないでおいた。

 

 少しだけ顎に手を当てて考える。

 

「なら、我と回ればよかろう」

 

「……え?」

 

「我も今は、ただ見て回っているだけだからな」

 

「でも私、本当に何も出来ませんよ?」

 

「喋れておるではないか」

 

「それだって、先生にしか聞こえませんよ?」

 

「我には聞こえる。何か問題があるか」

 

 さよの中では「全員に見えないから参加不可能」という論理だった。

 

 しかし、こちらにとっては「1人に見えているなら、その1人と回ればいい」という極めて単純で明快な判断だった。

 

「でも、先生が独り言言ってるみたいになっちゃいます」

 

「構わん」

 

「怪しいですよ……?」

 

「既に散々怪しいと言われておる」

 

「……マフィアみたいって?」

 

 沈黙が落ちた。

 

「……貴様まで知っておるのか」

 

「女子中等部で有名ですよ、その噂」

 

「幽霊の耳にまで届く噂だったとはな」

 

 小さく溜息をつき、再びさよへ目を向ける。

 

「貴様、麻帆良祭には詳しいのか」

 

「まあ……毎年、ずっと見てるので」

 

「なら、案内出来るだろう」

 

「……案内?」

 

「我はこの時代の祭りは初めてだ。我より詳しいのであろう? 面白いところへ連れていけ」

 

 それは、さよにとって初めて与えられた「祭りで自分にも出来ること」だった。

 

「私が、案内するんですか?」

 

「他に誰がおる」

 

「先生、さっきからそれ多くないですか?」

 

「貴様が毎回答えを分からぬ顔をするからだ」

 

 少しずつ、ごく普通の会話のテンポになっていく。

 

「さあ、行くぞ。どこがお勧めだ」

 

 

 

     ◆

 

 

 

 さよの案内で回る麻帆良祭は、やはりと言うべきか、頓珍漢な催しのオンパレードだった。

 

「ここ、毎年結構頑張ってるんですよ」

 

 最初に案内されたのは、学生手作りのお化け屋敷だった。

 

 何十年も学園に居座っている本物の幽霊が、お化け屋敷を案内するという図式がすでに面白い。

 

 薄暗い教室の中へ足を踏み入れる。

 

「うわああああっ!」

 

 物陰から、血糊を付けた学生が飛び出してきた。

 

 こちらは無反応だ。

 

 その横で、さよが冷静に呟く。

 

「去年もその場所でした」

 

「配置まで覚えておるのか」

 

「ずっと見てますから」

 

 少し進むと、今度はゾンビのような歩き方で別の学生が近づいてきた。

 

「あの歩き方、あんまり幽霊っぽくないですね」

 

「本人が言うと妙な説得力があるな」

 

「私を基準にしないでください!」

 

 お化け屋敷を出た後、受付の学生に声を掛けられた。

 

「先生、怖くなかったですか?」

 

「うむ。なかなか面白かったぞ」

 

 嘘ではない。怖くはなかったが、横で本物の幽霊が演出へ駄目出しをしている光景は十分に面白かった。

 

 次に案内されたのは、体育館だった。

 

「巨大カルタ大会です!」

 

 体育館の床一面に、畳ほどもある巨大なカルタの札が並べられている。

 

 読み手がマイクで上の句を叫ぶと、参加者たちが一斉に札へ向かって全力疾走を始めた。カルタというより、完全に運動競技だ。

 

「何故、札を取るだけで全力疾走せねばならんのだ」

 

「大きくしたら、自然とこうなったらしいです」

 

「大きくした者は、途中で気付かなかったのか」

 

「多分、気付いてからの方が面白くなったんじゃないですか?」

 

「なるほど、それなら納得だ」

 

 さらに歩き、今度は校舎の一角を丸ごと使った「巨大迷路」へ。

 

 段ボールと机で複雑な順路が作られているが、何故か途中にクイズコーナー、ボール投げ、暗号解読、スタンプラリーなどの要素が詰め込まれている。

 

「最初はただの迷路だったらしいんですけど、毎年何か足してたら、こんなになっちゃいました」

 

「増築を繰り返して原型が消えた都市のようだな」

 

 迷路に挑戦してみたものの、物理的な壁など関係ないさよが、すり抜けて先を見てきてしまう。

 

「先生、こっちが正解です!」

 

「貴様が案内すると、迷路が迷路にならんだろう」

 

「……あっ、すみません」

 

 結局、さよは道を教えないことにしたらしい。

 

 しかし、少し進むと、段ボールの壁からさよの首だけがすっと生えてきた。

 

「先生、そっちは行き止まりです」

 

「言わぬのではなかったか」

 

「見てられなくて……」

 

 その後は、料理研究部が主催する謎の大食い大会を見物した。

 

 タワーのような巨大パフェに、数人の学生がスプーンで挑んでいる。

 

「毎年、誰か倒れそうになるんですよね」

 

「なら、何故毎年やる」

 

「人気だからですかね?」

 

「人間という生き物は、時折、全く意味の分からぬところで勇敢になるな」

 

 呆れつつも、どこか楽しくその様子を眺めてしまう。

 

 廊下を歩いていると、突然「今年一番○○な先生ランキング」という模造紙の掲示が目に入った。

 

 カテゴリーがどうにもおかしい。

 

「一番頼れそう」「一番怒らせたくない」「一番無人島で生き残りそう」「一番秘密が多そう」。

 

 そして。

 

「一番映画の悪役っぽい先生」

 

 そこには、見事にこちらの名前が1位として輝いていた。

 

 さよが、隣で必死に吹き出すのを堪えている。

 

「笑うな」

 

「だって……っ!」

 

 完全にマフィアネタの発展系だった。

 

 ただ、「一番頼れそう」の項目でも上位に入っていたため、少しだけ機嫌を直しておいた。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 最初は「私は参加しても意味ない」と言っていたさよだったが、時間が経つにつれ、目に見えて活気づいていた。

 

「あっ、先生! 次あっち行きましょう!」

 

「先生、こっちの展示面白いですよ!」

 

 本人はまだ「参加している」という意識はないのかもしれない。それでも、ただの傍観者ではなく、確実に祭りの輪の中にいた。

 

 屋台の並ぶ通りで、こちらが串焼きを買って食べている時だけは、少しだけ羨ましそうな顔をした。

 

「おいしそうですねえ……」

 

 だが、すぐにいつものように笑う。

 

「食べられないのだけは、どうしようもないですけどね」

 

 それには何も言わなかった。

 

 今は解決しない。だが、霊体でも味覚を得られるような宝具が『王の財宝』の中にあったはずだ。後で探しておくか、と記憶の片隅に留めるにとどめた。

 

 ふと、ポケットから予定表の紙を取り出す。

 

 さよの案内に付き合ったせいで、元々の予定は完全に崩れ去っていた。

 

「えっ、先生、予定あったんですか!?」

 

「あったな」

 

「ご、ごめんなさい! 私が勝手に引っ張り回しちゃって……!」

 

「構わん。次の仕事にはまだ間に合う」

 

 紙を四つ折りに畳み、ポケットに仕舞う。

 

「祭りまで予定通りに動く必要もないだろう」

 

 その言葉に、さよはホッとしたように胸を撫で下ろした。

 

 時計を見ると、午後の勤務時間が迫っていた。

 

「そろそろ戻る」

 

「あ……はい」

 

 さっきまで元気に笑っていたさよが、瞬間的に、昔からの「1人で見ている側」の顔に戻ろうとする。

 

 歩き出しながら、何気ない風を装って声を掛けた。

 

「明日はどこへ行く」

 

「……え?」

 

「祭りはあと2日あるのだろう」

 

「はい」

 

「なら、明日も続きを案内せよ」

 

 さよが、数秒間だけぴたりと動きを止めた。

 

「また、一緒に回っていいんですか?」

 

「何故、案内役が我へ許可を求めるのだ」

 

 少しの間。

 

 やがて、さよの顔に今日一番の明るい笑顔が浮かんだ。

 

「じゃあ、明日は今日より変な展示を探しておきますね!」

 

「普通のものでも構わんぞ」

 

「ふふっ。麻帆良祭で普通なのを探す方が大変ですよ!」

 

 どうやら、この学園祭の「変さ」の基準は、明日以降も揺るぎそうになかった。

 







 途中の英文、作者は読めてません。AIサイコーw
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