「親方」
「なんだ」
「分解って、貫通の上位互換だと思ってたんですよ」
「大きく間違っちゃいねぇな。インセクトの外骨格……装甲を無視して中身にダメージを与えるって意味ではな」
「でもライフル弾にそれを付与する試みは無かったんですよね?」
「まぁ、技術的な問題でな」
「……思ってたんと違う結果になったな、と」
「別にいいじゃねぇか。傭兵のお嬢様方ぁ大喜びだぜ?」
本格的なプロトタイプ、全てのパーツをFメタルを使ったそれの威力を試すため、リットン親方が試験場の利用許可を手配してくれた。もちろん俺の名前では取れないので、今回の試験評価はリットン親方の名義による催しとなる。
いやぁ、見学人もチラホラおりますなぁ! 現状の戦力で安定しているのに時間と予算を使って新しい武器を作ろうとする物好きは極々少数ってことなんだろうね。安定して収入を得られる生活を手放す理由も無かろうよ。少なくとも俺はそれを停滞とは呼ばん。日常を護っているのだから。
さてさて。新開発の武器の評価試験が見物人、それも学園から学生の見学者がやってくるレベルで注目されるということは、メインディッシュとなる新型武器を託された傭兵たちにとっても新鮮なイベントってことでもあるワケさ。
「遠慮がちに受け取って慎重に試射をやってくれていたわりに、ブッ壊しても大丈夫って言った瞬間からはっちゃけましたね」
「たまにはガキの気分に戻りたいんだろ。それに、1番大事な分解砲撃の威力は確かめられただろう?」
「砲撃……まぁ、砲撃、ですねぇ……」
専用の石材ブロック、だいたい3メートル四方の立方体。
それが幾つも並べられているのを全部撃ち抜いちゃって、しかも穴が丁寧にドリルで加工したんかってくらい綺麗に空いてんのよ。
分解だからね。パラパラと石の粉と鉄の粉が散らばってるぐらいで、余計な力が加わってないんだから石材ブロックにはヒビひとつ入らないよね。
それは直径にして僅か2センチにも満たない通り道だが────いや人間が使う武器で弾丸2センチって相当デカいよな?
だって、20ミリよ? 槍を弾丸代わりに飛ばすアイスジャベリンはともかく、この世界の普通のライフル弾って直径5ミリから7ミリしかねぇから。
大口径にしようとは言ったが、まさかの2倍以上っていう。それとも俺が知らないだけで、地球の重火器にも20ミリなんちゃら弾みたいなのあったりしたのかな。ゾンビなハザードのおかげで9ミリってハンドガン用のサイズだけは覚えたけど。
「どうだ。高さを取って斜めに撃ち下ろして正解だったろ? 真横に撃ってたらどっか遠く……山のほうとかで事故が起きてたかもな」
「インセクトの巣穴で使えないじゃないですか、危険過ぎて」
「そこは心配いらん。胴体をブチ抜くときにインセクト側の魔力の影響を受けるからな、必ず威力は減衰する。ヘッポコが的を外して高純度の魔力石にブチ当てて連鎖反応が起きたら確実に巣穴は潰れるだろうが」
「やっぱり危険じゃないですかそれ……」
「そこはパイロット側の匙加減でもある。向こうは儂ら錬金術士と違って戦闘のプロだぞ? リスクの高ぇ稼ぎ場で特徴も把握できてねぇ武器を考え無しにブッ放すと思うか?」
「あー、はい。そうですね」
仕事には、適した道具を。
戦闘でなくても、ファンタジーでなくても、働いていれば当たり前に備わる考え方だ。危険な現場であれば尚更のこと。そりゃ傭兵なら武器の選択をそうそう間違えるようなことはしないか。
「それはそれとして、まさか飛行というか滑空というか、移動手段の踏み台にまでされるとは思いませんでしたけどね」
「どうやら装甲を展開して機体のコアと共鳴すると硬化の影響力も増幅されるようだな。装甲の脚部パーツから、いや、地面からか? 斜め上に構えた銃身までガッチリ固まってるとこを、バレルに装填された魔力を拾い上げながら大ジャンプってか。……ふむ、いいフライトユニット付けてるヤツがいる。試験場の壁越えて行っちまった」
鳥人間コンテストやってんじゃないよ、まったく。
でも魔力のオーバーロード起こした魔法文字から、外部から余剰を引っ張り出せるってのは面白い。なにかと悪巧みできそうじゃない?
▲▼▲▼
「素晴らしい武器だった、と言っておこう。さすがは名匠リットン殿、まだまだ若い世代には負けないということか」
メッチャ俺のこと見るやん。
俺のこと見ながら喋るやん。
「それで、具体的な感想は?」
「少なくとも学生パイロットに持たせるような代物ではない。城勤めの騎士にも過ぎた玩具だ。それに、運用方法についても……見ての通り、だ」
「ほぉ、硬化の適用空間を利用した弾幕か。武器本体が頑丈になるんだ、無茶な戦い方もできるってワケだ」
うん?
あれは……集団で固まって、硬化フィールドの中で一斉射撃?
「全力射撃の継続など、普通はしない。そんなことをすれば我々が息切れや魔力欠乏症を起こすより先に武器が先に破損する。優れたパイロットは武装全体の耐久力も考慮しながら戦うものだ。本来ならば、な」
「硬化の影響下であれば、その心配がいらない……ということでしょうか?」
「それを確かめるために私の部下たちがいま、試している。弾薬とてタダではないが、出費を承知で試す価値がある。いや、少し違うな。たったいま結論が出た。独立したコアを組み込んだ武器の有用性はこの私が、ブラックディンゴ隊の隊長イスベルグが認めよう」
「それをリットン親方でなく私に向かって言うのは何故なんですかねぇ……?」
「傭兵同士の横の繋がりは広い。国境を越えるほどに。友人からキミの話は聞いている。例のインセクトは、こうした武器でも無ければ手も足も出ないのだろう? コレオ・ホーエンハイム殿」
「……マジすか?」
「リットン殿を名匠と呼んだ言葉に嘘はない。が、武器そのものに独立したコアを内蔵するような御仁ではないことも知っている。なら誰のアイディアか? 推理するまでもない」
「騙すような形になってしまい申し訳ありません」
「気にする必要はない。正しい判断であり、賢い判断であり、それが限られた選択肢だった。それだけのことだ。しかし、そうだな……もう少し、それも、可能であれば実戦でのデータが欲しいだろう?」
「それは、まぁ。……え? 本気で言ってます?」
「私が冗談が得意な女に見えるか?」
「クールビューティーな女性が時折見せるオチャメって素敵だと思います」
「そうか。後ほどホーエンハイム領の傭兵たちに自慢してみよう」
「すみません、それはちょっと」
「そうか。取り敢えず5丁、いや10丁用意して欲しい。可能な限り早く頼む」
「親方ぁ〜」
「契約と報酬交渉に強かな傭兵を相手にして、話の続きを聞くより先に謝っちまったお前が悪い。少なくともインセクト相手に使っても良いって本職の人間に認められてんだからよ。それはそれで喜んでおけバカ弟子」
誠実さだけでは生きられない、って世知辛ぇなオイ。
仕方ねぇ。
表向きの名義として、師匠が矢面に立ってくれてるんだ。弟子としては気張ってクラフトして納品する場面だろう。メモリークラフトでコピーできるとはいえ、イメージがブレないよう名前も考えないとな〜。
まぁ……せっかくの新武器のお披露目を……石コロ相手で終わらせるのはね……違うよね……。