「……と、いうことで今度はアルドルという国に狙われることになりました。どんな手段で私を連れ出そうとするのか、いまから楽しみですね!」
「もしかして私の知らないところで私の息子を景品にしたビンゴ大会でも開催しているのか? それも国家レベルの規模で」
「国内と国外で評価が面白いほど反転していますね。父様、わりと冗談抜きで当主の座はルカニに任せて自分は外交に専念したほうがホーエンハイム領にとって最良の判断な気がします」
「父親としても領主としても、そこで家ではなく領地にとって最良だという言葉が自然に出てくるところは実に惜しいのだがね」
「公務員は市民に尽くすのが仕事ですから」
「本当にお前は軸が振れんな。良いことではあるが。それで……あぁ、アルドルか。あの国は……なんと言うべきか」
「父様は実際に足を運んだことが?」
「20歳になったころ、軍の輸送任務でな。地上はなにもしなくても汗ばむほど火の魔力で満ちているが、その地下からは上質で高純度の天然の水の属性石が採掘できる。各種武装や食料、医薬品と交換している国はフォルティスだけではない」
「水源の確保ができるなら、農業もできるように思えます」
「主食として豆がある。野菜もある。果実もあるし、アルドル牛のミルクは加工には不向きだが美味いし栄養価も高い。が、どうしても気候の関係で資源には偏りがな。こればかりは努力で解決できん。悪態をついて曇り空が晴れるなら苦労はしないだろう」
ふむふむ。
お互いに必要な物資を融通し合う外交関係。
そこだけを聞いているぶんには良さげに思えるが。
「なにか気になることがあるのですか?」
「あー、なんだ……。アルドルの女性たちは、こう、情熱的というか、積極的というか、当時は純粋に歓迎されているものだと思っていたのだが……」
珍しいな、父ロジャーが言葉を濁すとは。
俺がけっこう遠慮しない物言いだから、というのもあるだろう。アホな言動に対して呆れて言葉が遅れる、みたいなことは多々あった。けれど、ここまで態度がなんというか……気まずそうな……。
…………。
まて。
え?
いや、まさか……。
でも。
だって、父親がさ、息子の前でそういう……。
情熱的で、積極的な女性って……。
えぇ……?
うん、まぁ。
確認するだけならタダだから。
「父様」
「なんだ」
「本人も、本当に知らないままで、アルドルに子どもがいる軍人というか、錬金術士がいる可能性もある……という話でよろしいですか?」
「アルドル戦士たちの名誉のために捕捉しておくが、決して彼女たちは品性が欠けているワケではない。当時、すでにメルティナと婚約していた私に対しては実に淑女らしい対応をしてくれた」
「……足りない物資とやらには、男性まで含まれていましたか」
「いやぁ……どう? なんだろうな? 私も向こうの……アルドルの、社会の仕組みについて理解しているワケではないから……あまり、滅多なことを言うワケにも……まぁ」
そりゃ言い難いわな……。
下ネタで笑うにはTPOが大事って、ハッキリわかんだね。
▲▼▲▼
「そういえばヴィッシュおじさんのほうですが」
「私もそれなりに人生経験を積んでいるが、13歳の息子に下世話な話題の微妙な空気について気遣われる日が来るとは夢にも思わなかったな」
「さては父様、けっこう余裕がありますね?」
「この程度で動揺しているようでは領主など務まらんよ。それで? あの阿呆がどうかしたか?」
「閲覧制限のあるインセクトは、接触が制限されている。あまりにも危険過ぎるから。この認識は合っていますか?」
「うむ、間違いない」
「では、今回の一件は大陸条約に反する話になると思うのですが」
「つまり大陸条約そのものを書き換えようという試みになる。難しいが不可能ではない。ミツバチと完全な共存に成功しているパンタシアでも意見は割れていると聞くし、なんならパンタシアそのものを憎んでいる国すらあるだろう。それでいてハチミツはしっかり輸入しているのだから自分勝手なものだ」
「ちなみにですが父様。私は接触禁止の条約が書き換わる可能性は高いと思っています」
「ほぅ? 理由を聞こうか」
「外れて欲しい予感ほど的中しますので」
「フフッ、困ったものだな」
「ヴィッシュおじさんは……ヴィッシュ様は、テナクスを説得できますか?」
「説得する必要など無い。いや、正確には説得しようなどとヤツは考えていないだろう。……お前にとって、愉快ではない話になるが」
「聞きます」
「つまり人々が、いや、上に立つ者たちが脅威を正しく認識すればいい。それを証明する役目をフォルティス以外の国に押し付けられれば外交としては成功と言える。人類共通の脅威に対して高みの見物を決め込もうという最低最悪の生存戦略を成そうとしているのだ」
やるかやらないかで言えば、ヴィッシュおじさんは確実にやる側の人間だろう。なにせ人類では確実に勝ち目がないであろうヨロイムカデが、実は成虫ではなく幼体でした〜ってカミングアウトされてんだからな。
現状維持こそが最善策であり、唯一の生存策であると認めさせる。そのために国家のひとつやふたつ、人間ごと滅んでも構わない。人類そのものが大陸から消えてしまうよりは。そして、残るのが自国であれば最高だ……と。
「父様」
「良い。
「まだなにも言ってませんが」
「そうだな。まだなにも言われていない」
そこで悪い笑顔を見せるのは反則だろ。
もしかしなくてもこの世界、頼りになる大人が大勢いるから転生先としてはベリーイージーかもしれん。