店員「これシステムが破損してますね」
ワイ「(∵)」
店員「リカバリーも再起動もできませんね」
ワイ「(∵)」
店員「あとデータの移行も無理です。システム壊れてるので」
ワイ「(∵)」
本日の投稿はパソコンで執筆したので、もしかしたらいつもと間隔の取り方とかズレてるかもしれません。連続更新も途切れちゃいました。ん〜、残念!
インセクトとの戦いでは、環境すらも命を蝕む敵となる。
それはFAを展開したパイロットにとっても変わらない。
地上から地下100メートル降下するだけでも、魔力圧の変化により人体は少なくない影響が出てしまう。その程度は巣穴の規模によっては微々たるもので済むこともあるが、残念ながらフォルティス王国で主な脅威であるアリたちの巣穴はそれに当てはまらない。
そのため地下に人員を送り込むためには時間を消費して魔力圧への順応を完了させておく必要があった。それは深度が上がれば上がるほど、当然の権利のように要求される期間が増加する。深さを50メートルほど下げ、戦闘もせず数時間待機し、休息のため防衛拠点に戻る。それを数日、長ければ2週間も繰り返す必要があるのだ。
そうして丁寧に身体を環境に適応させた上で、専用の生命維持装置を装備することでようやく戦闘が可能に……つまりはスタートラインに立つ権利を得られる。
これが意味するところはパイロットの移動にも時間とコストを要求されて、という単純な話ではない。
地下深くの防衛拠点で緊急を要する事態が発生しても、即座に増援を送り込むことは不可能ということだ。
△▽△▽
「皆、マスクの隙間はしっかり確認するように。こうした当たり前を疎かにしたパイロットが永遠に地下に取り残されている事実を忘れるな」
『『『『了解』』』』
「……地下500メートル。拠点の移動だけで約2か月。気前の良い長期契約の支払いも、地上に戻れなければ無意味だ。それに、実戦でのデータを持ち帰ると約束している。優秀な錬金術士とは積極的に信頼関係を構築するべきだろう」
ペンライトに使用するバッテリーユニットほどの子どもの手の中にスッポリ収まるサイズの小さな管。パイロットたちがフェイスガードの内側で横向きに咥えたソレが無ければ、僅か数回の呼吸で人間は意識を失うことになる。
知識だけではない、経験としてそれを知るブラックディンゴ隊の隊長イスベルグが繰り返し部下に注意を促す。通路が狭く空気の循環が不十分な地下深くでは、呼吸ひとつにも慎重にならなければ生き残ることができない。
イスベルグも、部下たちも、慎重に丁寧にブレスユニットの装着を完了し、そして。
「メルティナ様。ブラックディンゴ隊、準備完了です」
「あらあら、相変わらず手際がいいのね~。久しぶりの深層でのお仕事だから緊張してるかもしれない、なんて言ってたけれど。全然大丈夫そうで安心だわ~」
「はい、いいえメルティナ様。戦闘の感覚は数日でも鈍ります。もちろん全力は尽くしますが、万が一のときは“適切な”判断をお願いしたく思います」
「あら、それぐらいは心得てるわよ〜? 指揮官、任されちゃったもの。ちゃ〜んと責任は果たすから安心してね〜♪ さて、みんな、準備は終わってるわね? オレガノ、アニス、ウォータークレス。各小隊、私に続け。素人がクラフトした武器など
『『『『了解ッ!!』』』』
ブラックディンゴ隊が展開しているキャノン砲を息子が考案・錬成した武器と知りながら、一切の私情を挟むことなく素人の武器として信用していない。
それは戦場の指揮官として正しい判断であり、メルティナ・ホーエンハイムであれば如何なる状況でも間違えることがないだろうと部下たちを勇気づける姿であった。
但し。
「⋯⋯さすがの氷の剣も、これが人の限界か。悪く思うなよメルティナ・ホーエンハイム殿。あとでどれだけ羨んだとしてもコレは私が任された武器だ。指揮官の命令だろうと決して貸し出したりはしないからな?」
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
「メルティナ様。反応を確認しました。やはり【キバアリ】の数が増加しています」
「そうか。アカアリの数が減っている原因を突き止められたのは朗報だが、それ以上に厄介なインセクトが増えているのでは素直に喜べんな。⋯⋯あ、でも、候補生の子たちの安全を考えるなら悪くないのかしら〜?」
機体の肩を夫ロジャーがクラフトした専用ツーハンドソードでトントンと軽く鳴らしながら、メルティナはのんびりとした口調に全く似合わない絶対零度の視線を暗闇の先に向けていた。
通常のクロアリやアカアリより大型で耐久力も高く、なにより大きく発達した牙による攻撃はFメタルの装甲を容易く切断する。
その危険性から軽度の閲覧制限が設定されいるインセクトであるが、強力な個体であるからこそ基本的に魔力濃度の高い地底深くから出てくることは無い。
その生態から自惚れた未熟なパイロットが無謀な挑戦を試みて無駄死にする事態は滅多に起きることはなく、むしろクロアリやアカアリを捕食してくれる益虫として扱うことを上層部も検討しているほどだ。
当然、領主貴族の妻であり二つ名を持つエースパイロットであるメルティナはそのことを把握している。
故に、キバアリたちが多少増えたところで直ちに危険は無く、防衛拠点に接近する個体を適度に駆除していれば充分だと考えていた。
「皮肉ですね。我々フォルティスの戦力が充実し、浅層でのインセクト駆除が安定した結果、より危険な個体が深層から出てこようとしているのですから」
「でも仕方ないのよね〜。キバアリちゃんたちは生きるためにご飯が必要で、ご飯を探して歩き回った結果として、浅いところまで出てきちゃったんだもの。生存競争ってそういうモノよね〜。総員、戦闘用意」
メルティナの合図に合わせてホーエンハイム領の精兵たちがコアの出力を高める。
本来ならば自分自身の腕さえも視認できるか怪しい暗闇の中でも、魔力強化により金色に輝くパイロットの瞳には昼の明るさと変わらない光景がそこにあった。
「散開せよ」
『『『『了解ッ!!』』』』
キバアリは頭部だけで人間の背丈ほどもある。その気になれば牙で砕くまでもなく、齧り付くだけで上半身が綺麗に無くなってしまうだろう。
だが、その巨体こそがパイロットたちにとって活路となる。
頭部が大きいということは、牙と牙それぞれの付け根も離れているということ。
先端は交差できても、構造的に根元は交差できない。
ならば。
「遅いよ、アリさんッ!」
「────、────ッ?!」
熟練のパイロットであれば、前に踏み込むことで容易くカウンターが狙えるだろう。
牙による攻撃は恐るべき破壊力を生み出すが、充分な可動域を確保するため付け根は外骨格に覆われていない。
餌となるクロアリやジグモを一方的に喰い荒らしていたキバアリたちは、その明確な弱点を克服する必要が無かったのだ。
もちろんキバアリも大事な牙を斬り落とされて黙ってはいない。残されたもう一本の牙を武器のように振るいパイロットを叩き潰そうとするが⋯⋯。
「おいおい。余所見すんなよつれねぇな?」
「残念無念、また来週〜」
二の太刀、残る牙が斬り落とされ。
三の太刀、残る首が斬り落とされる。
メルティナ率いるホーエンハイム領の精兵たちは、それぞれが単独でキバアリを討伐できるだけの実力がある。それでも彼女たちは決して連携を崩さない。
地底での戦いは個人の戦闘力だけでは生き残れないことを彼女たちは知っている。例えば、それがほんの偶然だとしても。フェイスガードが弾き飛ばされブレスユニットが外れてしまえば、次の瞬間には死が待ち構えていることを知っているのだ。
丁寧に。
慎重に。
確実に。
油断なく。
慢心せず。
ただただそれを目的とした機械のように、彼女たちはキバアリの駆除を続ける。
▲▼▲▼
「⋯⋯キバアリの駆除は順調に進んでいるのだけど、どうしてかしらね〜。なんだか嫌な予感がするわ〜」
それぞれの分岐路で戦闘を続けている部下たちの魔力に注意を割り振りながらも、メルティナはさらなる奥へと続く洞窟から視線を外せずにいた。
最高戦力であるからこその、不測の事態に備えた後方待機。余程のことが無ければ振るうこと無く終わると思っていた大剣だが、それを握る手には自然と力が込められる。
「潮時か。みんな〜、そろそろ基地に戻りますよ〜!」
迷いは無い。
進軍の判断は慎重に、撤退の判断は大胆に。それが指揮官としてのメルティナの基本である。
当然、彼女の部下たちもそれを知っている。命令から行動までのタイムラグなど存在しない。
どのみち1度の交戦でキバアリの数を決定的に減らせるはずもなく、無事に帰還できれば次があるのだ。ならばここで無理を通す必要はない。
魔力を3割消費したら撤退も視野に入れるという3割ルールにはまだ早いが、余力を残したぶんはそのまま次の出撃に回せる。地上からの支援が難しいことも合わせて考えれば、戦力の無駄遣いは避けるべき。
誰もがメルティナの判断を正しいものだと信じた。
そしてそれは間もなく確信となった。
「メルティナ様」
「ブラックディンゴ隊が構築したキルゾーンまで撤退する。道を間違えるな。殿は私が引き受けた」
部隊の統率を維持するための指揮官が殿軍として残る。
英雄譚としては広く大衆に好まれる愚策の見本。
たがメルティナの判断を咎める部下は誰もいなかった。
我らが指揮官殿が防げないほどの危機であれば、ほかの誰が残ろうと防げないことを彼女たちは知っているのだから。
ここは迅速に、脇目も振らず尻尾を巻いて逃げ出すのが正解の場面。そうすればメルティナもまた逃げられる。あくまで部下を逃がすための行動であって、そこに自己犠牲の精神など欠片も存在しないのだ。
「キバアリの大群、圧巻の⋯⋯まるで魔力の津波だな。これはこれで面白いアトラクションではあるが、私だけが対処していたのでは先が無い。いいだろう、ここは我が子の出来栄えを確かめてみるか」
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
「隊長。メルティナ様の部隊、戻ってきましたね」
「レーダーの反応は?」
「できれば故障であって欲しかったですよ」
「そうか。コレオ殿に有効なデータを提出できそうでなによりだ。ブラックディンゴ隊、射撃用意。直掩隊、側面や後方の警戒も怠るな」
イスベルグの動作に続くように、インパクトキャノンを担当するブラックディンゴ隊のメンバーがボルトを引いてバレルに魔力を送り出す。
機体のコアと共鳴するソレから瞬間的に魔力を叩き込まれた魔法文字が洞窟の中を明るく照らし、それはまるで獲物の到着を歓迎しているようにも見えた。
「フッ⋯⋯」
「むぅ⋯⋯」
この瞬間を、待っていた。
そう言わんばかりに微笑んで、メルティナの後退を見送るイスベルグ。
こうした心の余裕も地底での戦闘には必要不可欠なのである。
「総員、待機を維持せよ。まずは私が効果を確かめる」
金色の両目がキバアリの群を、その動きを、最も多くターゲットが重なるタイミングを。
銃口とリンクする視界には一切のブレは無い。硬化フィールドによる狙撃補助は完璧に機能している。
「さて、こうした遊びは私には似合わないのだが⋯⋯多少の茶目っ気も悪くないと言われてしまったからな。武器に込められた想いを汲み取るのもパイロットの務めだろう。覚悟はいいな? キバアリども。────有象無象の区別なく、私の弾頭は許しはしない」
タァン、と。
魔力が弾ける音がした。
ただそれだけ。
たったそれでけである。
それの進路を妨害するものは全て分解されてしまうのだから、衝突という現象が起きないのだから、それが無音だとしても不思議なことはなにもない。
それは魔力の流れすらも例外では無いのだろう。穿たれた穴からは体液が勢いよく噴出し、キバアリたちは全身から急激に魔力を奪われる。生命力を失いゆっくりと崩れ落ちる姿は、まるで眠りにつくかのように穏やかですらあった。
「ふむ。この結果をどう言葉として説明し伝えればいいのか、難儀しそうではある。まぁいい。第二射、用意」
▲▼▲▼
「ねぇねぇイスベルグちゃん?」
「お断りします」
「⋯⋯まだなにも言ってないのに〜」
「素人がクラフトした武器など、氷の剣には相応しくありませんので。そもそもメルティナ様、射撃は苦手でしょう? フェンサーフレームを装備なさっていますし。ストレスにしかなりませんよ」
「⋯⋯ねぇねぇ、イスベルグちゃん?」
「お断りします」
「まだなにも言ってないでしょ〜!」
「母と息子なんですから、私のような他人を通さずに普通に依頼すればよろしいでしょう」
「むぅ。今度、パパにも相談してみようかしら⋯⋯」
「それがよろしいかと」
1度だけ、キバアリの亡骸で埋め尽くされた通路に視線を向ける。
威力は充分。
問題は消耗。
インパクトキャノンを使用したパイロットたちはイスベルグを含め数日は使い物にならない。
これも正直に報告するべきか?
報告するべきか。
コレオ・ホーエンハイムは無難な褒め言葉よりも欠点の指摘を喜ぶだろう。パイロットの能力不足、などという言葉は絶対に出てくることはあるまい。
さて、どう報告をまとめたものかと考えながら基地に向かい始めたそのとき。
「⋯⋯ん? 風の流れ? いったい────メルティナ様?」
「ちょっと、ね。さぁ、帰りましょ〜」
身の丈ほどもある大剣を片手で一閃。
ただそれだけの動作。
戦いの終わりに特定の所作を決めているパイロットは珍しいものではないし、二つ名を持つほどの実力者であればそうした儀式を大事にしていても不思議ではない。
まぁ、そういうこともあるだろう。
わざわざ追求するほどのことではない。いまは次に備えて充分な休息を取ることが必要なのだから。
あるとき、ひとりの少女が言った。
目で見えないほど遠くのインセクトも斬れるような剣が欲しい、と。
そのとき、ひとりの少年が言った。
光も届かないほど地の底に隠れたインセクトも斬れるような剣を作ろう、と。
それからずっと、ひとりのパイロットと“それ”の奇妙な会話は続いている。餌を求めて“それ”が風の手を伸ばすたびに、少女はここに求める餌は無いと返答する。
いつか、役目を引き継げる者が現れるその日まで。
現れなければそれまでのこと。
ただ、それが。
その役目を引き継いでくれるのが、自分たちの子どもたちなら少しだけ嬉しいとは⋯⋯思っているが。
規格外の存在を許されるのはインセクトだけである、と。
そのような無法を黙って受け入れるほど、人間の尊厳は甘くない。