第一期長期休業を終え、リットン親方の下宿に帰還してしばらくしたころ。
⋯⋯と、言うとでも思ったかッ!
時は流れ流れていつか、消え行くとしなくても第二期長期休業の半ば。特に面白いことはなにひとつ起きていない第二期そのものなんて語ることねぇから。
だってねぇ? 事務局の職員さんから同じ注意を受けないように、そして教師の方に失礼の無いように、ちゃんと本心から興味を惹かれた講義を受けてただけだし。
あ、でも面白い話は聞けたよ〜。
考古学の教授は物知りなんだよ〜。
ファンタジーの古代遺跡といえば、やはり現代の技術では再現はもちろん解析すら難しいトンデモ性能のお宝が眠ってるって相場が決まってるじゃないですか。
ちゃんと、あります。この世界にも。いや、噂話のレベルであって、教授も実物を発掘できたとかそういう話ではないんだけど。転生者特有のメタ知識が俺に“あるよ”って囁くんだから仕方ないじゃん?
もしかした大インセクトを薙ぎ払うために建造された巨大陸上戦艦が暴走して無差別に破壊を繰り返しながら広大な砂漠を彷徨い続けているかもしれない。
もしかしたらその内部には美少女型のアンドロイド兵器が誰かに起動してもらうのを眠ったままずっと待っているかもしれない。
もしかしたら残された旧時代のログからは、何故兵器を美少女にする必要があるのか派と何故兵器を美少女にしてはいけないのか派による内部抗争の記録が見つかるかもしれない。
う〜ん、ロマンですねぇ〜!
いうてなんかあるだろ、負の遺産。美少女アンドロイドだと思ったら本物の人間を改造した禁忌の兵器とかいうオチも。
だって人類そのものが危ないって大義名分があるんだぜ? 正義ほど簡単に人を狂気に走らせる麻薬なんて存在するかよ。
ま、そのうちね。
探検に行くなら傭兵との護衛契約も必要だし、いまのうちからしっかり積み立てしておかんと。
そのためにも俺には錬金術の技を磨く必要があるのだ!
そして都合の良いことに、俺の下宿先にはパイロット候補生がふたりもいるんです!
2倍だよ、2倍。
▲▼▲▼
「親方、ダブルチェックをお願いします」
「⋯⋯良し。問題ねぇ。かなりギリギリまで装甲を削ったが、よくバランスを保てたな?」
「誰もやろうとしなかっただけで、理屈の上では可能だった。それだけのことでしょう。ギフトも関係ない、錬金術士個人の技量に依存する部分ですから」
「汎用性を重視するフォルティスでは絶対に支持されない設計思想だな。しかしパイロットの希望に合わせてチューニングするのは錬金術士として当たり前の仕事だ。悪くねぇ」
「ねぇ、ディア。アナタのときも、こんな感じの、えーと⋯⋯いや、ちょっと。目の前で自分用の機体を組んでるの見てると、ホントにパイロットとして始まるのを意識して⋯⋯えっと」
「ちなみにわたくしの機体もコレオ様にクラフトしていただきました。先立つモノがありませんでしたので、出世払いという形になってしまい⋯⋯申し訳なく思っています」
「出世払い?」
「インセクトの討伐と外骨格の回収。その許可が得られたら、ジャンジャンバリバリ稼いで返済する予定です」
「どこで覚えたのそんな表現」
「商店街の御婦人の皆さまからですが⋯⋯もしかして、使い方を間違えてしまいましたでしょうか?」
「いや合ってるけど! うぅ⋯⋯お嬢様に変な言葉を教えちゃったって、あとでトラブルにならないかしら⋯⋯」
なにやらお客様が賑やかでいらっしゃるが、作業に集中しなければ。
ナージェンダが夏休み(仮)で稼いだアルバイト代だけでは残念ながら機体一式を揃えるには足りなかった。
では足りないぶんはどうするか? 答えは簡単、材料費をケチってクラフトすればいい。使用するFメタルの量をギリギリまで減らすことでお値段相応の機体に仕上げるだけ。
命を預ける装備を安く仕上げるとか、普通なら絶対にやってはいけないことだし、俺だってそんな依頼を引き受けたくない。これは様々な要因が都合よく重なった結果に過ぎないのだ。
ナージェンダが遠距離主体の戦闘スタイルであること。
インパクトキャノンの副次効果で防御力は補強されること。
リットン親化によるプロの厳しい審査が受けられること。
接近戦に特化したディアさんという相棒がいること。
まだまだ候補生の間は撤退が容易な戦場しか許可されないこと。
これだけの理由が重なったからクラフトできた。そうでなければ本人もまた安く買い叩くような真似はしなかっただろう。
いうてインパクトキャノンだけでエチュード一式より相場はヤバいってリットン親方には言われちゃったけど。コアを1基積載してんだから安いワケないっていうね。
だけどプロの世界でも理由付けによって無料で提供することは普通にあるのでセーフだって教えてもらってるから。あとはディアさんみたいに装備を渡してからの後払いとか。
なんかそれ、場合によっては踏み倒されるリスクもありそうだけど⋯⋯それが普通にまかり通るということは、傭兵が逃げ得にならないような仕組みや風習があるのかもしれない。
「よし。それじゃあ最後の仕上げといくか。ナージェンダ」
「う、うん⋯⋯」
パイロットスーツ姿のナージェンダに、ひとつひとつ装甲パーツを取り付ける。なんかプラモデル組み立てるみたいな気分だが⋯⋯どちらかといえば、メタルヒーロー系のパワーアップイベントのほうがしっくりくるか? もしくは工具で戦うエンジニアのお色直しとか。
しかしどうにも、なんか緊張してんなコイツ。
いや、ディアさんのほうが慣れていただけか? パンタシアの王族なら自国の機体のひとつぐらい装備したことあるだろうし。
丁寧に〜。
丁寧に〜。
そういえばいままで意識して無かったけど、パイロットにとってFA関連の装備を渡すのってアレじゃね? ファンタジー世界で騎士が初めて自分の剣を手にする儀式みたいな側面もあったりするのでは?
だとすればナージェンダが緊張するのも当然か。
俺だって初めて運転免許を手にしたときは感動したし、初めて自分の車で公道を走ったときは死ぬほど緊張したもんな。助手席に親父がいなかったら心臓が破裂してたかも。
「ナージェンダ、利き腕を。飾り気が無いのは勘弁な」
「いいわ。ちゃんとお金を貯めてから、改めてアンタに依頼するから。ディアもそうする予定なんでしょ?」
「もちろんです。オーダーメイドであるのですから、展開キーのデザインには妥協などできません。パイロットであれば当然のことです」
最後に展開キーである腕輪を利き腕に錬成して終わり!
そりゃデザインも大事だよな。常に誰かに見られるアクセサリーみたいもんだし。逆にね、飾り気のほぼほぼ無い必要最低限で渡すことになったのは逆にね、本人たちにデザインを決めてもらうって意味で良かった可能性もあるから。
「お疲れさん。あとはこれと同じことを、儂の監督無しで出来るようになれば上等だな」
「そこはまだまだ甘いから調子に乗るなよバカ弟子、って釘を刺すところじゃないんですか?」
「お前はそういうタイプじゃねぇだろ。テメェの能力をテメェで恐れているウチは心配いらねぇよ」
「俺だって必要ならギフト使ってやりたいことやりますよ」
「あぁ? なに言ってんだお前、ギフテッドがギフト使ってなにが悪いってんだ? ただ早熟なだけのがガキじゃなくて本物なら、堂々と使いこなしてやりゃいいんだよ」
急に哲学始まったか?
しかし、ギフテッドの定義がホントようわからんよな。昔、誰かに似たようなこと教えてもらった気もするが。
基本的には早熟で能力の高い子どもをギフテッドと呼んでいるけれど、たまに本物が混ざってるって。
そういう意味ではディアさんも本物ではないギフテッドの可能性がゼロではないのか。接近戦と雷属性の扱いが天才的に飛び抜けているだけで、特別な技術とは違うのかもしれない。いや充分過ぎるほど凄かったけどね?
⋯⋯⋯⋯。
どうでもいいか。
これは俺が悩むことじゃない。
こんなもんは戦場とは無縁の暇人に任せときゃいいんだよ。
そんなことよりこれからのことを考えよう。具体的にはイスベルグさんが実戦データを持ち帰ってくれたら、インパクトキャノンの運用について問題点が無いかしっかり聞き取りしないと。
きっとね、ルカニも行儀見習いから帰ってきたら大きく成長しているだろうし。お兄ちゃんとしても常に前進を続ける姿を見せてあげないと、僕はこんな人の弟なのかってガッカリさせちゃうからね。
そういえば春休み(仮)にはルカニも帰ってくるんだよな。一応、プライマリコースで入学する予定なんだっけ。
さすがに学生寮からは出られないだろうし、なにかと気苦労も多くなるだろうし。なんだかんだ面倒を押し付けることになっちゃったな〜。
世の中には、反省したところで取り返せないこともある。犠牲になった弟のためにも、錬金術士として常に高みを目指していこう。さて、次はなにを作ろうかな〜?
年代ジャンプ発動中⋯⋯。