大人にだって、どうにも出来ないことがある。
駅のホームから出てくる新品の学生服を着用した少年少女たち。
実に初々しくて良い。
去年は俺も向こう側だったなぁ⋯⋯という気持ちが溢れるのと同時に、卒業していったパイロットの先輩に言われた“自分がされてイヤなことは、自分もしなければいい”という言葉を思い出す。
置き忘れた素材を隠す伝統行事を受け継ぐつもりはないが、逆に良かれと思ってを押し付けてしまうことのないよう気をつけなければならない。俺のことを知っている友人たちと、俺のことを知らない後輩たちの違いを忘れてはイカンのだ。
言うて俺も普通の学生生活とちゃうからな⋯⋯必要最低限の授業にだけ出席して、残りはほとんど学園紹介のアルバイトばっかりやってたし。
あとは空き時間にスキルツリーを育ててインベントリ容量をガッツリ鍛えたりとか? それこそ後輩の手伝いなんてなんもできんわい。そもそも俺が銀鉱石を求めて右往左往してる身分だし。
やっぱり、こう⋯⋯運命の輪のスキルツリーが動かないと大きな変化も無くてですね⋯⋯。
なんでよりにもよって平和か成長かの二択なんだよ。チートスキルをノーリスクで使えるんだからそれぐらいは受け入れろってことか? おっしゃる通りですとしか言えねぇだろ。
貴族的に考えよう。
人々は平和に暮らしている。
だからヨシッ!
うむ。不満が三行で解決したぞ。これも父ロジャーの教えの賜物だな。
こういう余計な不満を抱え込むのはストレスで精神が不安定な証拠だ。また素材の錬成と変換を連打して数値が増える様子をニヤニヤ眺めて解消しよう。
▲▼▲▼
「やぁやぁお久しぶりでございますリットン氏! 麗しき月の魔術士であるこの私、ランスロット・ブラヴァツキーがご挨拶に参りました!」
「げっ」
いまリットン親方の口から飛び出たとは思えない感嘆詞が聞こえたな?
っていうか、ランスロットって。
そういえば、入学式の映像で父ロジャーの近くに座っていた人が⋯⋯そういうこと?
「おぉ! リットン氏! 相変わらず美しい手をしておられますな! ひとりの錬金術士として心からの称賛の言葉を贈らせていただきます」
「褒め言葉は素直に受け取っておくが野郎に手を握られて喜ぶ趣味はねぇ。さっさと離せ気色悪ぃ」
「そして⋯⋯いやぁ、会いたかったよコレオくん! 我が友ロジャーの息子であるキミにも是非とも挨拶がしたいと思っていた!」
「あ、はい⋯⋯どうも、コレオ・ホーエンハイムです。はじめまして」
「うん、はじめまして。本当ならもっと早くに挨拶を済ませたかったのだが、学園生活に慣れるのに忙しいと思ってね。自我を優先して相手側の事情を蔑ろにする行為は美しくないだろう?」
「儂に対する配慮はどうした」
「はっはっは! 弟子が師匠に遠慮するような気遣いは美しくないと教えてくださったのはリットン氏ですよ! 私は師の教えをいまでも大切にしているのです。己を見失い初心を忘れてしまうのは美しくありませんからね」
これが父ロジャーの友人にして領主のひとり、ランスロット・ブラヴァツキー様の正体か。
賑やかな言動に目が眩みそうになるけれど、喋っている内容からは領民の生活を守る領主貴族としての人間性が感じられる。
「まぁ⋯⋯。ランスロット様、お久しゅうごさいます」
「おぉ! このような場所でお会いすることになるとは。ディアマンテ嬢もお元気そうでなによりだ!」
「ディアさん、ランスロット様と面識が?」
「はい。もっとも、迎賓館でご挨拶さていただいた程度のことでしかありません」
あぁ、迎賓館ね。
知ってる知ってる、なんか外国から人を招いて大事な会食とか会議とかするヤツでしょ。これでも貴族だからね、それぐらいは常識だよね。
じゃあ俺がディアさん連れて帰ったときも父ロジャーは絶対もうイロイロわかってて黙ってたってことじゃん。くそぅ、我が父親ながらイイ性格してるぜ!
「そして⋯⋯こんにちは、お嬢さん。キミも学生寮ではなくここで生活をしているパイロット候補生かな?」
「お初にお目にかかります。グランマガザン学園セカンダリ2年生、ナージェンダと申します」
「ほぅ。美しい所作だ。私をひとりの年長者として受け入れてくれるとは、なかなかの胆力だね」
「貴族とは立場による区別でしかなく、人の価値を決定するものではないと⋯⋯そう、態度で教えてくれる友人に恵まれましたので」
いやぁ、俺はちゃんと初対面のときから貴族だって名乗ってましたけどね? やっぱり日頃の行いって、大事なんだなって。
「本当であればリリーとマリーネも連れてきたかったんだが、入学式の準備で少々忙しくてね。ただの賑やかし要員として美しく座っているだけの私のように暇ではないのだよ」
「その理屈で言うと、私の父ロジャーも賑やかし要員になると思うのですが」
「はっはっは! むしろ我が友ロジャーであれば確実にそう思っているに決まっているじゃないか! もっとも、今年はキミの弟であるルカニくんが出席しているからね。多少は、なにか感じるところもあるだろう」
「その辺りの事情については父に対して悪いことをしてしまったな、とは思っています。思うだけで本人の前でそれを声にするつもりはありませんが」
「良い。その沈黙は美しい。キミは我が友ロジャーとは価値観が離れているようで、柔軟な頑固者という部分は実に似ている」
「褒め言葉として受け取らせていただきます」
「はは! そういうところだよ! ⋯⋯うん、これならば問題ないだろう」
「急にそのような領主の顔をされますと、不安しかないのですが」
「その予感は正しい。私はこれからキミに対して、大人たちによる美しくない決定をこっそり伝えるつもりだからね」
「それだけで内容の方向性がある程度絞れるのは楽でいいですね」
「キミの行儀見習い先であるテナクス戦闘国家のように、危険区域と接している地域では12歳から正式なパイロットとして戦闘に参加することは珍しくない。もちろん、必要な訓練を終えていることが条件であると信じたいところだ」
残念だったなランスロット様。
未熟なパイロット候補生に戦える手段を与えた大戦犯が貴方の目の前にいるぞ。
「スタンライフルとアイスジャベリンの話は聞いているよ。正義が人を動かすことは事実だが、人が正義だけでは動かないことも事実。貢献の実感は成長と団結力に繋がるからね、決して悪いことではないさ」
「父様はまだしも、ランスロット様にまで思考を読まれるとは思いませんでした」
「我が友ロジャーから聞かされていたが、キミは隠す気が無い相手に対しては本当に空け透けだね。その堂々とした図々しさは美しくすらある。さて、コレオくん。大陸各地、各国から学びを求めて若者が集うグランマガザンで、実戦経験が不充分では学園都市としての面目が立たないと思わないか?」
「思いません。戦える大人がいるのですから、子どもは学習に専念するべきです。その権利を保証するのが学園都市としての存在意義であり名誉であると考えます」
「そうだな。私もそう思う。キミと同じ考え方を、美しき価値観を共有できることに感謝を。しかし多数決という絶大な破壊力を誇る武器の前では個人の正義など無力でね。────今年から、フォルティス王国ではセカンダリコースの学生を中心に、より積極的にインセクト駆除の経験を積ませるため、戦場に送り出す条件を大きく緩和することが決定された」
さっさと学園編を終わらせてコレオ君にガンガン機体や武器をクラフトさせたいという気持ちと、学生という失敗が許される環境で可能な限り敗北フラグを潰しつつ武器の試作をさせておきたいという気持ちがぶつかりあってヨルシカ眠れない。(あぶく推し)