「実に素晴らしい、我々学生のために学びの場を用意してくれるとは。平民の子どもが血を流している間に貴族はテニスで汗でも流しますか? 紅茶に魔力石を入れる習慣はありませんし、物資の配給も滞ることはありませんね!」
「その通り。これは学生たちの能力を引き出す政策として大変効率的な美しい試みだよ。特に“セカンダリを中心に”という条件がとても面白いところなんだ。そう、中心に。つまりプライマリの生徒たちの枠も存在するという部分が面白くなる」
いきなり風向き変わったな?
父ロジャーのときと同じだ。
迂闊に許可を出せば、俺がなんでもやらかすと知っていて、それでも用件を聞くより先に許可を出したときのあの顔だ。この類友どもめ。
もしかしてアグラヴェイン様にも、未だにちゃんと挨拶できていないゲオルグ様にも、こういう黒い笑顔を見せるような部分があるのだろうか? そりゃあるか。貴族だもんな。
「まぁ、つまり、選別するのに丁度良いのだよ。貴族たちを平和的に間引くのにね、とても都合が良いんだ」
「間引く、とは穏やかではありませんね」
「まず純粋に国家のため、国民のため戦うことを望むプライマリの学生たちは、確実に我先にと志願するだろう。これについては説明は不要だね?」
「はい。上級生の⋯⋯パイロットたちではありますが、プライマリの生徒とも何度か会話をする機会がありましたので、それは存じております」
「彼ら彼女らは未熟ではあるが貴族として美しくあろうとする覚悟がある。平民出身の仲間たちが、後輩たちが、これから戦場に送り出されるというときに黙ってなどいられない。その沈黙は美しくないからね」
「貴族の血は平民の盾となり流れるから尊い、の精神ですか。そうですね、今回の政策に反対しつつ、自分たちでは政治に口出しできないからと怒り任せに名乗り出る姿が目に浮かぶようです」
「さて⋯⋯初動で全ての結論が出るようなものだけど、学生とは失敗を反省して次の機会が与えられる権利を持っているだろう? だから、機会を与える。残された枠を獲得するための機会を与えてやる。それも大人の務めだ」
「本人が希望するのであれば────」
「ひとつの部隊に複数の隊長は必要無い。少なくとも、自分たちにとって部下となる可能性があるセカンダリの生徒たちが死地に送り出されると知り、即座に動ける程度の判断すら出来ない指揮官などフォルティス王国軍に必要無い。そうは思わないか? なぁ、コレオ・ホーエンハイム」
出てます!
出てますよ貴族の冷徹な部分!
父ロジャーより何倍も笑顔怖ぇよランスロット様⋯⋯イケメンの善人だからこそ余計に迫力あるわ。
だろうな、とは思っていたけど上層部の決定に内心すげぇブチ切れてたな? 口振りからして会議にも参加していただろうし。
「平和的な手段だよ、これは、とても。自ら貴族としての義務を放棄してくれるなら、こんなに嬉しいことはない。我々の手間も減る。余計な犠牲も減らせる。信用を失った者たちが自滅する様子を眺めているだけでいい」
「親などの保護者が作戦行動に参加するよう指示を出す可能性もあると思いますが」
「良いことじゃないか。それもまた賢い判断だよ。人の本質が美しいなど幻想だろう? 醜いということを知らなければ、美しいということは理解できないのと同じさ。もっとも、出遅れた者たちに枠が残されているかは別の話だけれど。なにせプライマリコースには他国の貴族の子女たちも所属しているのだから」
「なにも知らないからこそ、能力を試す絶好の機会として当たり前のように志願する⋯⋯錬金術士の事情はともかく、パイロットであれば尚更のこと」
「我が友ヴィッシュの手際の良さは相変わらず美しい。公務で諸国を巡りながら余暇を利用して友人たちとの茶会を楽しんでいたようでね? 返礼にと、非公式ではあるが⋯⋯それぞれ信用できる者たちが手土産を持参してフォルティスまで足を運んでくれているよ」
根回しはちゃんと終わらせている、と。
たぶん戦闘行為で自分たちの子どもが負傷しても構わない、というところまで了承を得てるんだろうな。それが正当な理由かどうか見定めるための人員も既に派遣されているワケだ。
ゴメン、ヴィッシュおじさん。
そんな大事な仕事が始まるってタイミングで余計なことカミングアウトして。相当ノイズになったんじゃなかろうか? いつか必ず借りは返すから許してくださいなんでもはできませんけど。
「庭園を美しく保つためには適度な剪定が必要だ。特に、土壌の栄養条件が過多となって育ち過ぎてしまったときなどは⋯⋯丁寧に、丁寧に、枯れてしまわないよう丁寧に注意しながらも⋯⋯大胆な剪定が、必要となる」
「その庭園を美しいまま次の世代に託すために、ですか。しかしランスロット様、そう都合よく人は動くものでしょうか?」
「動くとも。最初のひとりが動けば、それに起点にして人の流れを動かすことは案外簡単なものだよ」
「その最初のひとりに心当たりが?」
「⋯⋯え?」
「⋯⋯へ?」
「コレオくん。最初のひとりなら驚くほど、それこそ天の思し召しとも思えるほどピッタリの生徒がいるじゃないか。枠を用意するまでもない、最初からセカンダリ生として所属している貴族の長男が。しかもその子は本物の戦場を知っているし、傭兵たちからの覚えも良いと、未来の指揮官候補として送り出すのに申し分ない実績の持ち主だ」
そうか。
これが────因果応報。
「あっはっは! その顔、本当に我が友ロジャーにピタリと重なるかのようだ! 理解はしているし、納得もできるが、それはそれとして不満はあるぞ、と⋯⋯そのまま親子で並んでいるところを、どうにか皆にも見せられないかな?」
「大変良い趣味をお持ちのようで」
「悪く思ってくれて構わないし、恨んでくれても結構。年長者としてあまりにも醜い、唾棄すべき手段だが、キミひとりを酷使することで国を護れるなら破格の条件だからね。それに、先に伝えたように政策そのものは会議の場で賛成多数となり国王陛下が正式に承認したものだから誰も逆らえない」
「最悪の状況で、限られた手段の有効活用」
「なにか美しい代案があるなら是非とも教えてくれたまえ」
あぁん?
ねぇよンなもん。
「それではコレオくん! キミに期待されている役割について、キミの言葉で美しく説明してくれるかな?」
「普段通りのコレオ・ホーエンハイム」
「できれば服装だけ軍人らしいコーディネイトを意識してくれると助かるよ」
主人公に活躍の場を与える前提でね、まずは理不尽を押し付けられるだけ押し付けちゃうよーん!
それはそれとして読者の皆さんの想像が作者より物騒で恐れ慄いています。
そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? ガンパレード・マーチよりは希望のある世界ですから。