果たしてヴァーチェは、長きにわたる一族の因縁に決着をつけられるのか。
アギト神殿遺跡へ到着した私は、遺跡の中心部にある玉座の間へと足を踏み入れた。
そこには、一人のアギトが待っていた。
現アギト族の族長。
四つの部族が代々守ってきた原初のアギトたちから原初のワイズマンモノリスを奪い、さらに自ら新たな進化を遂げたことで、もはやグランド族をはじめとする既存の系統からも外れた異形のアギト。
その姿を見ただけで分かる。
この男こそ、私がずっと憎み続けてきた存在だ。
「来たか。ギルス族の族長ロムと、グランド族直系の次女マオ。その二人の娘――ヴァーチェよ」
族長は玉座から私を見下ろす。
「お前が新たに覚醒させたアギトの力。そして、お前の両親が持ち出したグランド族の原初のワイズマンモノリス。それらを私に返してもらおう」
「嫌だ」
私は即答した。
「あなたは力が欲しいというだけの理由で一族に内乱を起こした。そして、代々短命だったギルス族を集落の辺境へ追いやった」
怒りが込み上げてくる。
「ギルス族の原初のワイズマンモノリスが存在することも。それによってエクシードギルスへ至れる可能性があることも。全部、私たちには隠していた」
私は拳を握り締めた。
「私は母さんから聞くまで、そんなものがあるなんて知らなかった。エクシードギルスの存在だって、母さんから教えられるまで知らなかった」
あの日のことを思い出す。
私の力を奪おうとした族長。
そのために殺された父と母。
そして、私たちに味方してくれた人たち。
「母さんの血を受け継いだから、私はエクシードギルスになれた。だからあなたは私を奪おうとした。そして――父さんも母さんも殺した」
声が震える。
それでも、私は目を逸らさなかった。
「私たちに味方してくれた人たちも、あなたは皆殺しにした」
私は胸元へ手を当てる。
「だから、あなたに渡すものなんて何もない」
「そうか」
族長は笑った。
「ならば、力ずくで奪うまでだ」
族長の周囲に、いくつものワイズマンモノリスが浮かび上がる。
「私にはすでに三つの原初のワイズマンモノリスがある。それだけではない。バーニングへ目覚めたアナザー族やグランド族からも力を奪い、さらに死んだ者たちから集めた力を統合している」
その身体から凄まじい力が溢れ出した。
「その力に対して、お前が持つ原初のワイズマンモノリスと、今覚醒したばかりの力だけで勝てると思うか?」
「勝てるかどうかなんて、どうでもいい」
私はシャイニングカリバーを構える。
「私はあなたを殺す」
一歩、前へ出る。
「そして、死んだ皆の力を解放する」
族長を睨みつける。
「原初のワイズマンモノリスも壊す」
私ははっきりと言い切った。
「私が、この世界で最後のアギトになってやる」
「……滑稽だ」
族長の声から笑みが消える。
「だが、不快でもある。思い上がるな、小娘!」
その瞬間、族長の腕から大量のギルスの触手が伸びた。
視界を埋め尽くすほどの触手が、一斉に私へ襲い掛かってくる。
私は二本のシャイニングカリバーを振るい、迫る触手を次々と切り落としていった。
一本。
二本。
十本。
斬っても斬っても、次が来る。
私は身体を捻り、頭上から落ちてきた触手を避ける。そのまま一歩踏み込み、横薙ぎにカリバーを振り抜いた。
すべての触手が切断される。
――その瞬間だった。
目の前にいた族長が消えた。
「……!」
横からストームハルバートが突き出される。
私は片方のカリバーで受け止めた。
直後、背後からフレイムカリバーが迫る。
もう一本のカリバーで受け止める。
「分身?」
「正解だ」
前後に立つ二人の族長が同時に笑った。
「だが、二人で終わりじゃない」
さらに左右から別の二人が現れる。
ギルスヒールクロウとギルスクローが、私の胴体を左右から挟み込むように迫った。
「っ!」
私は片方のカリバーを手放し、身体を捻る。
同時にもう一本のカリバーを横へ投げた。
回転する刃が一体の分身を切り裂き、私は空いた手で別の分身の腕を掴む。
「せぇっ!」
そのまま身体を回転させ、分身を別の分身へ叩きつける。
二体がぶつかり、その姿が霧のように消えた。
「なるほど」
私は周囲を見回した。
「分身しても、全部が同じように動くわけじゃない」
「……」
族長の笑みが僅かに消える。
「本体と同じ力を持つ以上、多少は差が出るということかしら」
私は落ちていたカリバーを拾い上げる。
「だったら――見分ければいい」
族長の姿が一斉に増えた。
十。
五十。
百。
玉座の間が族長で埋め尽くされていく。
「ならば、見分けられるものなら見分けてみろ!」
無数の族長が一斉に動いた。
だが、今度は先ほどまでのように全員が同じ攻撃をしてくるわけではない。
ある者は正面から。
ある者は天井を蹴って頭上から。
別の者は触手を伸ばし、さらに別の者は距離を取って属性攻撃を放つ。
まるで百人の戦士が、それぞれ別の意思を持って私を攻撃しているようだった。
「くっ……!」
私はカリバーで一体を切り伏せ、直後に背後から迫った触手を身体を沈めて避ける。
頭上から炎が降ってくる。
私は床を蹴って横へ飛ぶ。
着地した瞬間、そこへハルバートが突き刺さった。
休む暇などない。
「これが……本当の数の暴力ってわけね」
私は歯を食いしばる。
けれど、攻撃を受け続けながらも、少しずつ違和感に気づいていった。
分身の攻撃には、ほんの僅かな遅れがある。
こちらへ近づいてくる速度。
攻撃を繰り出すタイミング。
そして、他の分身との距離。
完全に同じではない。
(……そういうこと)
私は一体の攻撃を紙一重で避ける。
そのまま別の分身の懐へ入り込み、カリバーを叩き込む。
消える。
また一体。
さらに一体。
私は分身そのものを相手にするのではなく、分身同士の位置関係を利用し始めた。
私を狙った攻撃が、別の分身の動きを邪魔する。
そこへ別の一体を誘い込む。
互いの攻撃がぶつかり、二体が消滅する。
「なるほど……」
私は笑った。
「数が多いから強いんじゃない」
迫ってきた触手を切り飛ばす。
「数が多すぎるからこそ――邪魔し合う」
私は一気に踏み込んだ。
左右から迫る分身を互いにぶつけ、その隙間を抜ける。
正面の分身を切り裂き、その後ろにいた二体を蹴り飛ばす。
そして、開いた道の先へ視線を向ける。
そこには――一体だけ、こちらを追ってこない族長がいた。
「見つけた」
私は一直線に駆ける。
「……!」
族長が初めて後退した。
「そこが本体ね!」
「違う!」
族長が叫ぶ。
その瞬間、私の左右から二体の分身が襲い掛かってくる。
私は咄嗟に身体を止めた。
違う。
あの一体は本体ではない。
むしろ――私をそちらへ誘導するために、わざと目立つように動いていた。
「……引っかけね」
私は口元を吊り上げた。
「だったら、全部まとめて潰す!」
私はシャイニングカリバーを振り上げる。
周囲の分身が一斉に距離を詰めてくる。
私はあえて逃げなかった。
分身たちが私を取り囲む。
「今!」
カリバーを地面へ突き立てる。
同時に全身から力を解放した。
衝撃が円形に広がり、周囲にいた分身たちをまとめて吹き飛ばす。
何十体もの分身が壁へ叩きつけられ、その姿が次々と消えていく。
そして――。
静かになった玉座の間に、族長が一人だけ立っていた。
「……ようやく、一対一か」
族長はシャイニングカリバーを取り出す。
シングルモード。
私も二本のカリバーを構えた。
「そうね」
私は笑う。
「ここからが本番よ」
族長が踏み込む。
刃と刃が激突する。
一撃。
二撃。
三撃。
族長の剣技は凄まじかった。
触手。
遠距離攻撃。
属性攻撃。
分身。
これまで見せてきた能力を、今度はすべて一人で繋げてくる。
私はそれらを一つずつ捌いた。
そして、ついに族長の懐へ入り込む。
「ここ!」
カリバーを振り抜く。
だが、族長は紙一重で避けた。
反対側から触手が伸びる。
私は身体を捻って避ける。
その瞬間、族長が私の背後へ回り込んだ。
「捕まえたぞ」
触手が私の身体へ絡みつく。
「お前の力を貰う」
そこからエネルギーが流れ込んできた。
シャイニングアギトとしての力が、急速に吸い上げられていく。
「ハハハハッ!」
族長が笑う。
「ついに手に入れたぞ! これで私は無敵の力を――」
その身体に変化が起きる。
「……なんだ?」
私の身体が変わっていく。
アギトの姿が崩れ――ギルスへと戻っていく。
「馬鹿な!」
族長が叫ぶ。
「お前にはもうギルスへ変身する力など残っていないはずだ!」
「……ふん」
私は笑った。
「私を拘束するために、ギルスの触手を使ったのが間違いだったわね」
私は身体へ流れ込んできたエネルギーを感じ取る。
「他のアギトの力の扱いなら、あなたの方が上かもしれない。でも――ギルスに関するエネルギーの扱いなら、私の方が圧倒的に上よ」
族長の表情が変わる。
「吸収効率の差は、ポカリと点滴くらい違う」
私は拘束されたまま笑った。
「今、あなたから全部もらったのよ」
「何を……!」
「ギルスの力も」
胸の奥が熱くなる。
「原初のワイズマンモノリスの力も」
私は族長を睨む。
「全部、私の支配下よ」
次の瞬間、私は拘束を引き千切った。
そして、族長へ手を向ける。
「返してもらうわ」
族長の身体へ埋め込まれていたワイズマンモノリスの一つが、強引に引きずり出された。
「なっ……!」
そのまま私の胸部へ吸収される。
力が身体中を駆け巡る。
ギルスクロウ。
ギルスヒールクロウ。
肩にも、肘にも、新たなクロウが展開される。
背中からは二本のギルススティンガーが伸びた。
そして、胸部には新たなワイズマンモノリスが浮かび上がる。
かつてのエクシードギルスとは違う。
金色だった部分が、赤へ変わっている。
「……すごい」
私は自分の身体を見つめる。
「これが……本当のエクシードギルス」
「舐めるな……!」
族長が激昂する。
「私を舐めるなァッ!」
五つのワイズマンモノリスが宙へ浮かぶ。
そして、玉座の後ろに並んでいた五つの棺が開いた。
その中には、かつて死んだはずのアギトたちが眠っていた。
族長はワイズマンモノリスを彼らの身体へ埋め込む。
すると、死体がゆっくりと立ち上がった。
グランドフォーム。
アナザーアギト。
ミラージュアギト。
バーニングアギト。
バーニングアナザーアギト。
「どうだ!」
族長が叫ぶ。
「原初のアギトたち。そして、バーニングへ目覚めた者たちだ!」
五体のアギトがこちらを向く。
「その力を私へ献上し、死してなお私の敵を撃つのだ!」
私は拳を握った。
「……なんてこと」
怒りよりも、悲しみが込み上げてくる。
「ここまでの外道を生み出した我らの一族は――」
ギルススティンガーが展開される。
「滅びるべきね」
背中から伸びた二本のスティンガーが、一斉に放たれた。
その一本がアナザーアギトの胸部を貫く。
ワイズマンモノリスごと貫かれた身体は、まるで最初から存在しなかったかのように灰となって崩れ落ちた。
「やっぱり……」
私は確信する。
(ワイズマンモノリスを破壊すれば、こいつらは倒せる)
私は敵から奪った武器を利用しながら、残るゾンビアギトへ立ち向かった。
ミラージュアギトが放った攻撃を受け流し、その隙に背後へ回る。
ギルススティンガーが胸部を貫く。
ミラージュアギトが崩れ落ちた。
続けてバーニングアギトが炎を纏って突進してくる。
私は真正面から受け止めず、攻撃の勢いを利用して身体を逸らす。
そのまま背後へ回り込み、ギルスクロウをワイズマンモノリスへ突き刺した。
灰が舞う。
最後に襲い掛かってきたグランドフォームも、ギルススティンガーでワイズマンモノリスを貫いた。
五体すべてが消滅した。
残されたのは、族長ただ一人。
「……これで終わりよ」
私はギルススティンガーを展開する。
族長もまた、最後の力を振り絞って構えた。
「まだだ!」
族長の身体から無数の触手が伸びる。
私は避ける。
一本。
二本。
十本。
その全てをかわしながら、私は族長との距離を詰めていく。
「私を止められると思うな!」
族長が再び分身する。
だが、今度は違った。
私は分身の数を見ない。
音。
気配。
攻撃の間隔。
そして、父さんから教わった「攻撃範囲」。
全部を感じ取る。
「もう、あなたの分身には騙されない」
私は一体の分身を囮に利用し、別の分身の攻撃を誘う。
攻撃がぶつかる。
そこへギルススティンガーを突き刺す。
一体が消える。
続けて別の一体。
また一体。
数が減るたびに、本体へ近づいていく。
「なぜだ……!」
族長が叫ぶ。
「なぜ私の動きが読める!」
「何度も見せてもらったからよ」
私は最後の分身を蹴り飛ばした。
「あなたの戦い方をね!」
分身が消える。
そして、そこに残った族長へ、二本のギルススティンガーが伸びた。
四肢を拘束する。
「終わりよ」
族長が必死に抵抗する。
だが、もう逃がさない。
私は全身へ力を集中させた。
そして――。
「これで、全部終わらせる!」
渾身の一撃を叩き込む。
凄まじい衝撃が玉座の間を揺らす。
族長の身体が砕けていく。
そして最後に――。
その力の核となっていた原初のワイズマンモノリスへ、亀裂が走った。
パキン。
一つ。
また一つ。
そして最後の一つが――砕け散った。
静寂が訪れる。
私は変身したまま、その場に立っていた。
もう、族長の姿はどこにもない。
残ったのは、崩れ落ちた玉座と、静まり返った遺跡だけ。
「…………終わった」
私は小さく呟いた。
長かった。
父さんと母さんを奪われた日から、ずっと胸の中にあった憎しみ。
それが、ようやく終わった。
私はゆっくりと空を見上げる。
「……パパ、ママ」
もう、私を縛るものはない。
これでようやく――前へ進める。
今回はヴァーチェと族長の決着回です。
アギトの力を巡る一族の因縁も、ここで大きく動きました。次回からは、戦いの後に残されたものにも触れていきたいと思います。
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