残酷な世界に生まれたけれど、幸せです 作:虫ケラ盆暗ノロマの腑抜け……役立たず!!
『この世はありとあらゆるものが美しい。
この世界に生まれ落ちることができただけで、幸福だと思う』
────僕にとって誰かと力を合わせて戦うなんて、久しくなかったことで。
あるいは。
父と兄たちと戦場を共にした日は、ただ庇われていただけだとしたら、これが初めてのことで。
その日の僕は、
何しろロスさんは、転移が完了してからほとんど間を置くことなく、僕たちという救援戦力の存在を全戦域に通知して。しかもそれを受け入れさせてしまった。*1
その後もロスさんの独擅場で。僕は後方から援護砲撃をしているだけで、戦闘が終結してしまう。
もちろん
けれど、戦いがこうもスマートな経過を辿ったことは僕にとって初めての経験で。
都市の武芸者達から、経験を積む機会を、可能な限り奪わずに済ませられたのも同じく初めてで。
その時になってやっと、僕はノアが言っていたこと*2の正しさを理解したのである。
それに、戦いがこういった形で終わったものだから。
僕たちは都市の住民の前に姿を晒すことなく済んでいた。*3
だからだろう。
僕が、ロスさんの「少し散歩してから帰りませんか」という言葉に頷くことができたのは。
そして雪が舞い散る小
「今、ツェルニは夏季帯を移動していますから。こうして冬の街を観光できるのは私達だけです。
こんな報酬なら……アークライトも受け取っても良い、そう思いませんか?」
そう言って。ほんの微かに
きっと永遠に忘れられないのだろうな、と僕は思った。
──静寂都市ネリーにて。
二度目の汚染獣戦を、ロスさんと共にした日のこと。
◆
僕が、原子の塵へと還って逝った、
"エスペリアの子よ。あなたの献身に感謝します"
"ふむ、
不意にそんな声が、両隣から聞こえてくる。
この都市の電子精霊だろう。二つの尾を持つ かわいい 猫とノアが、いつの間にか僕の左右に姿を顕していた。
なんとなくだけど、こういう時のノアはドヤ顔をしているような気がする……。
いや、僕にフクロウの表情を見分けるなんてできないから本当になんとなくなんだけどね。
二人……二体(?)の言葉に応えようとして、『そう言えばこの
まあそれに、僕がやったことなんて大したことじゃないんだ。
都市が救われたのは、誰もが為すべきことを為した結果で、僕が果たした役割はその一部分。
そもそも。この都市の
そして都市の電子精霊が救援を求めるのは、いつだって都市の住民と
この都市が滅びの淵から救われたのは、この都市の住民が自分たちの手で、その
だから。お礼を言いたいのは僕の方だった。
面映ゆくて、「助けさせてくれてありがとう」なんて大上段の言葉。僕にはとても口にできないのだけど。
そんなわけで、このまま何も言わずに
今回に限っては
僕はオーラフォトンを身に纏い、光を屈折させて周囲から姿を隠し。その上で殺剄で気配を断って。それから可能な限り
──案の定と言うべきか、『外の様子はどうなっている』と市民に詰め寄られ、困っていた
僕は……僕たちは、ツェルニへと
◆
ツェルニに到着した僕は無作法を謝罪して、すぐにでも抱えていたロスさんを下ろそうとしたのだけれど。
ロスさんの「どうせ帰る場所は同じなのですから、このまま送って行ってください」という要求に屈して、僕たちの住むアパルトメントまでロスさんを抱えて移動することになった。
よくよく考えればもう良い時間帯なので、あそこでロスさんを下ろしていても解散するという展開にはならなかっただろうし、二人で時間をかけて歩いて帰ってくるというのも間抜けな話だ。
ロスさんはそこまで見通していたのだろう。こういうところで、僕は機転が利かない。
そして特に何の障害もなくアパルトメントまで到着して、ロスさんを下ろすと。今度は「早くあがってください。お茶を出します」と断定的な口調で、誘われた。*4
そうして僕はロスさんと生徒会長さんの部屋にお邪魔させてもらい。*5
その適度な生活感がありつつも、豪華で上品なリビングの雰囲気に、思わず圧倒されてしまう。同じ物件のはずなのに不思議な話だ。
落ち着かない気分で僕がキョロキョロしている間に。ロスさんがティーカップを載せたトレーを持って、リビングへと戻ってきた。
「有り物ですが」
「ありがとう」
謙りの言葉を添えてロスさんが供してくれた紅茶は、中々に良い茶葉を用いているようだった。*6
僕は早速と言わんばかりに口を付けて、格調高い……けど強烈すぎる
ロスさんがキッチンで
ティーカップに口を付けたロスさんが(何ですか、これ……)とショックを受けたような表情をしているのを横目に、僕はゆっくりと紅茶を楽しんで彼女が口を開くのを待った。
今日、ノアに言われるがままにロスさんを振り回して、迷惑をかけ通しにかけ続けたのは僕の方だと。そんな自覚はあったから。
それでもこうしてお茶を振る舞ってくれているわけだから、この場が単なる社交辞令の所産ではなく、ロスさんに何か話したいことがあって設けられたことは明白だった。
(むむむ……これは上手に淹れたら、すごくトロッとしたコクが楽しめそうだよね。
こんなに良い茶葉は、自分で購ったことも
僕はのんびり、『かつての世界で言えば、アッサムのかなり高級なやつ?』と頭の中で紅茶のテイスティングノートを付けながら。ロスさんの言葉を待つ。
きっと
もしも今日、初めて都市の存亡を懸けた戦いに参加したのなら、それは仕方がないことだ。
僕だってあの日は、
「何のため……。どうして、あんな
ようやく出てきた言葉に、僕は無言で一つ頷いて。ロスさんに続きの言葉を促した。
彼女の目線は未だ忙しなく動いていて、本当に言いたいことは、それではないことを示していると思ったから。
「アークライトにとって、一体どんな利益があるのですか?
死ぬのが、怖くないのですか?
……それとも、ノアから強要されているのですか?」
ロスさんは次々に疑問を僕へぶつけて。
最後に「
ここで僕が彼女の発した質問に一つ一つ答えていくのも、それはそれでコミュニケーションとして間違いではないのだろう。
けれど、彼女の赤心は。一番最後の"そんな生き方、理解できません"という一節にこそ、凝集されているように感じられた。
それに、人生というものそれ自体に疑問を感じて悩むのは、いかにも
同時にそうした悩みを抱くのは、彼女のような子どもにとっての特権でもある。
こんな具合にもっともらしく分析してみてはいるものの。
僕は今、何を言えばいいのか割と困っている。僕の対人経験の貧しさを舐めないでほしい。
『──人生とは、死に方がわかれば、生き方がわかるようにできている』
まず僕の頭の中にパッと思い浮かんだのは、そんな昔見た映画のセリフだった。
けれどこれは、自分へ言い聞かせる分には良い言葉でも、目の前の小さな子にかける言葉としては。どうにも説教臭すぎるように感じられた。
「こうするのが、僕は好きなんです」
沈黙に耐えかねた僕の口から、不意に
発言をしてしまった直後にもう僕は(あっ、これは失言だ)と悟って。慌てて言葉を補う。
「ええと、その、別に戦うのが好きってわけじゃなくて……。
僕は汚染獣を
ヒューマン・エラーは外部からの
僕の発言は、自分以外の存在に対する破壊衝動をたっぷりと滲ませた、
あわあわと口を震わせ、(どうしよう……)とパニック状態へと陥った
しかし、残念ながらロスさんの親切心は僕にとっては逆効果だった。
僕の心の触れられたくない部分へ、切り込まれてしまったからだ。
「アークライトは汚染獣を撃退した後、まるで逃げるようにしてツェルニへ帰ってきました。*7
何故、報酬を受け取らなかったのですか」
「それは……あの都市は大きな被害を受けていただろう?*8
これから復興のためにどれだけ大変な苦労があるのか僕にはわからないけれど、
それでもそんな都市から報酬を毟り取るなんて……」
この僕の返答は嘘だ。いや、嘘ではないけれど、誤魔化しの言葉だ。
ロスさんが"まるで逃げるようにして"という比喩を用いたのは、偶然だろうけれど、正しい。
そうだ、僕は逃げてきた。汚染獣の犠牲になった人の姿を見たくなかったから。たとえそれが
知ってしまえば『どうしてもっと早く来てくれなかったんだ』という声なき声に、僕は苛まれることになる。
それに僕を呼んだのは都市の
僕は、都市の住民の前に姿を現したくない。報酬も、感謝の言葉も、何も要らない。僕は彼らと会話をしたくないんだ。
「そう、ですか……
それではアークライトは都市にとって、どこまでも都合の良い武芸者ですね」
「……そうかもね」
どこか怒ったような口調で、僕という存在を評価するロスさんに。僕は力なく頷き同意する。
実際は別にそんなことはない。僕には僕の
けれど一度ロスさんに対して誤魔化しを行ってしまった僕は、薄っぺらな誤魔化しを続けるしかない。
──ロスさんはそんな僕のことを、気味が悪いものでも見るかのような目で、じっと見つめてきた。
◆
「ああぁぁ……」
ロスさんとの気まずいお茶会が終わって。僕は寝室のベッドに腰掛けて頭を抱えていた。
お茶会での僕の発言の数々は問題があったなんてものじゃない。
最初から最後まで、問題しかなかった。
僕は、自分のポンコツぶりをひたすらに呪った。
「絶対、気持ち悪いって思ってたよね……」
ロスさんの向ける目線が徐々にそういう性質を含んだものに変化していくのを、僕はきちんと感じとっていた。
もし僕の妹が無事に生を受けていれば、今頃はロスさんのようなかわいい子に成長して、僕のことを『お兄ちゃん大好き』と慕ってくれたに違いないけれど。*9 そんなロスさんから向けられる冷たい目線は、僕に対して格別の威力を誇っていた。
でも、あの時の僕は一体何を言えばよかったのだろう。
あるいは、戦う理由を問われた時に「人類が汚染獣に脅かされることのない、恒久平和を実現するために」なんて……青臭い理想論で答えるべきだったのか。
それも悪くなかったのかも知れない。丸っきり嘘ではないのだし。
僕だって、本心では「そうなればいいな」とは思っている。でも、同じくらい「それは無理だろう」とも思ってしまっている。
別に、汚染獣との戦いが終わった後には人類同士の争いが始まる……なんて安い
もっと単純に。人類は汚染獣に対して劣勢すぎるのだ。
汚染獣は、あまりにも強すぎる。
何百・何千という武芸者を
しかもその老生体は、一度脱皮する毎に爆発的にその脅威度を上げていく。
その上、恐ろしいことに。あいつらの成長に
成り立ての老生体一期ですら、平均的な都市にとっては
もちろん僕にだって、自分自身の実力には相応の自負というものがある。
でもさ。結局のところ僕の自負は、
今、この瞬間にも。僕の知らないところで、僕を超える脅威が生まれ育っているのかも知れないじゃないか。*11
その上でノアが僕に教えてくれた『決戦』について考えを巡らせると、ひどく憂鬱な気分になる。
だって『決戦』は、『この世界』を滅ぼそうと侵攻してくる『脅威』に対して行われるものらしい。つまり、防衛戦なんだ。
人類が『決戦』に勝利したところで汚染獣に対して決定的に優位に立てるのかと言えば、そんな確信、僕は持てない。*12
こんな有様で「世界の恒久平和」なんて夢を口にしても、虚しいだけだ。
そしてこういった赤裸々な事情を、自らの人生に悩む
そんなの、お互いに傷付けあって不幸になるだけだ。
確かに僕はロスさんへ、妹の幻影を重ねて勝手に庇護欲みたいなものを抱いてはいるけれど。
客観的に見れば、僕とロスさんは
……つまり、単なる顔見知りの他人なのだ。僕とロスさんは。
「うぁぁあぁぁ……」
"アークライト"
「んぇっ?!」
グダグダと考えても意味がないことで、意識の中をいっぱいにして。
ついにはベッドの上にうずくまって呻くだけの存在と化していた僕の頭上から、急にロスさんの声が降ってくる。
慌てて見上げれば、そこにはロスさんの花びらのような念威端子が在った。
こんなことは
こうした僕の混乱と衝撃など知ったことではないとばかりに、ロスさんは淡々と言葉を続ける。
"今日は、アークライトに迷惑をかけました"
「い、いや……」
"次は……"
「え?」
"いえ、次もアークライトに付いて行きます。
……私の知らないところで、あなたが戦っているのは、腹が立ちますから"
「ちょっ……」
"ノアに呼ばれたら、必ず私に知らせるように"
迷惑をかけたのは僕の方なのにとか、次も来るってどういうことなのかとか、僕がそういった当然の言葉を返す隙を全く与えないまま。
ロスさんは"必ずですよ"と念を押して、一方的に会話を切り上げた。
僕が再び頭を抱えることになったのは、言うまでもないことだろう。
「僕は汚染獣と戦うために、天から特別に強い肉体を与えられて生まれてきたんじゃないかと思う。
だけど、僕は失敗した。大切な
後年になって私は、
その時ようやく。どうして彼が汚染獣と戦い続けるのかを理解できました。
彼は戦狂いの武芸マニアなんて卑俗な存在でなければ、復讐鬼でもありませんでした。
もちろん、死に場所を求めていたなんて理由でもありません。
アーくんにとって、自分の人生を生きることと、汚染獣に勝利し続けることは。同義だった。
きっとただ、それだけだったんです。
……とても悲しい人ですね。
要するに私は、致命的な喪失というものを知らない、どこまでも温室育ちのお嬢様でした。
これまで彼と私の関係が破綻しなかったのは、彼が底抜けに
当時、私は彼に何と言葉を返したのでしたか。
「アーくんは本当に馬鹿ですね」とか、そんな憎まれ口だったように思います。
私に向う脛を蹴飛ばされて情けない顔をするアーくんの姿は、とても鮮明に記憶しているのですが。
きっと私という人間は、根っこの部分で性格が善くないのでしょう。
だから今でも。彼の心へ深い傷を遺して逝った、彼の家族を。私は少しだけ恨んでいます。
そして同時に、
本当に、本当に、心の底から腹立たしく思っているんですよ。わかっていますか? アーくん?
◆
「そこ、間違ってますよ」
「あ……えっと」
フェリの白く長い指先が、ノートの一箇所を指し示した。
指摘を受けてうろたえるアークライトに、フェリは淡々と指示を出す。
「わからなくなったら、周期表を確認しに戻ってください。
……まず、このページまでは見ながら解いて。最後にこのページだけは見ずに解いてください」
「う、うん」
二人は現在、ツェルニに数あるファミリーレストランの片隅で、勉強会を開いている。
とは言え、アークライトが一方的に教えられる側なのだが。
なお二人は既に食事を終えて、ドリンクバーだけで居座っている状態である。
まあ、ツェルニは学園都市であるからして。ピークタイムを過ぎた飲食店は往々にしてこうした様相を呈するのであるが。
そうならないのは回転率重視の格安店くらいのものである。*14
アークライトが初めて
アークライトの一般教養科への編入から起算すると、一月と半分弱。
そんな比較的に長い時間が流れて、今でこそ定番となっている二人の勉強会だったが。
当初は同じ
ところが一度それをやった結果。
激しく鬱陶しそうな顔*16をしたフェリの一声で、ファミレスでの開催に切り替わったという次第である。
とは言え、アークライトは奨学金こそAランクと最高の待遇ではあるものの、根っからのお嬢様育ちであるフェリと異なり、実家からの仕送りなどないので。
必然的にファミレスでの食事代は全てフェリが負担している。
ちなみに……フェリから「アークライトは家に帰っても
今ではひっそりとバイトを探しているようだが、
(……少しは、健康そうな体つきになってきましたか)
目の前でうんうん唸りながら科学の基礎問題を解いているアークライトをじっと見つめながら、フェリは内心で思う。
勉強会の開催場所が家からファミレスに移ったのは、放っておくと文字通り飲まず食わずで平然と過ごしているアークライトへ食事を強要するため……という『真実』はフェリだけの秘密だった。
しかもこの
フェリが『これを食べたいです。あれも食べたいです』と、わがままいっぱいに注文して。それから届けられた大量の料理をちょこちょこつまみ、『もう食べられません』と残りをアークライトに押し付ける……そんな流れが二人の間では
なお、このやり取りが周囲からどのように見える類のものなのか、二人は全く気付かずにいる。
このようにして少なくない金銭を費やし、アークライトを肥えさせようと密かに努力しているフェリだったが。悲しいかな、彼の体重はほとんど全く増えていない。
基礎代謝がありえないほど高いので、食事からのカロリー摂取では肉体を維持できないのだ。*18
仮に肉付きがよくなったように見えているとしたら、それは餌付けしているフェリ本人の『これだけ食べて太らないわけがない』というバイアスによるものだった。
じろじろと無遠慮に
アークライトはフェリが指示した範囲の半分も解けないでいる。
フェリの
そうして──ぺらり、ぺらり、と。週刊誌のページをめくっていたフェリの手が、ピタリと止まる。
(は……? なんですか、この下劣な記事は……!)
そこには『ツェルニで噂のシンデレラ・ボーイ! アークライト・エスペリア氏の素顔を追う!!』という見出しの下に、
読者の皆様は一月半ほど前、ツェルニが移動を停止した事件を記憶に留めていらっしゃるだろうか?
あの事件の真相は未だ公表されておらず、謎に満ちている。
しかしルックン編集部はこの度、匿名の情報源から「事件時に都市の外部で遭難者が救護された」という情報を得ることができた。
しかもその遭難者の正体が、ほぼ同時期にツェルニの一般教養科へと編入してきた、アークライト・エスペリア氏だというのである。
そのエスペリア氏は現在、同級生のフェリ・ロス嬢と共に過ごしている姿がツェルニの各所で度々目撃されている。
そして、そう! このフェリ・ロス嬢こそが注目のポイントなのである!!
なにしろ入学初年度の1年生にして今年のミス・ツェルニ優勝候補最右翼とされる、あのフェリ・ロス嬢である。*19
二人が出会って間もないことは、エスペリア氏の編入時期から明らかだろう。
それもかかわらず二人は、既に何度も
編集部には「食事の代金はフェリ・ロス嬢が全て支払っていた」という目撃情報も寄せられており、もしこれが事実ならば、恋愛感情の矢印はフェリ・ロス嬢からアークライト・エスペリア氏へ向けられていることは、ほとんど明らかだ。
故にフェリ・ロス嬢からぞっこんに惚れ込まれているエスペリア氏こそ、まさしくツェルニのシンデレラ・ボーイと称されるに相応しい存在だと言える。*20
おそらく読者の皆様が気になって仕方がないだろう二人の関係性は、今後ともルックン編集部は高い関心を持って追いかけていくつもりだ。
来週以降の記事にもご期待いただければ幸いである。
またルックン編集部は読者の皆様からの情報提供も、広くお待ちして──
(は? ……は? …………は???)
ぐしゃり、と。
フェリの手元で哀れな悲鳴を上げて、週刊ルックンが握り潰される。
(根暗っぽいヒョロガリ男……ですか。
何も、何一つとしてアークライトの事情を知らないくせに。
よくもこうまで、好き放題に書き立ててくれたものです)
みるみるうちに不機嫌そうな
「……ロスさん?」
「アークライト。あなたがツェルニに編入学してから、一ヶ月以上が経ちましたね?」
「う、うん」
「それで、アークライトは。私以外に友人はできましたか?」
「えっ……。えと……。ロスさんだけ、かな」
「そうですか。私以外の友人を作ろうという努力はしたのですか?」
「……してません」
フェリの中では『アークライトに自分以外の友人がいないから、こんな記事が書かれる』ということで筋が通っているのだが。
アークライト目線だと何の脈絡もなく突然に
度重なる調教の成果だろうか? アークライトは開始早々にして涙目状態だ。
もしもここが
「なぜ、友人を作る努力をしないのですか?」
「それは……その。ロスさんと友人になれただけで、十分というか……。
もう、僕は。それで幸せだから……」
「ん゛っ……」*22
アークライトの返答を耳に入れる前から、「アークライトは人間関係を最初から諦めているのではないですか?」と
なお、中立的・客観的な視点から評価をするならば、人間関係の狭さでは二人はいい勝負をしている。もともと両者ともに『友人は多ければ多ければいい』という価値観を有していないので。
「……………………ハァァ。なるほど、わかりました」
アークライトの返答をじっくりと
そして、神々の山嶺に咲く一輪の白百合がごとき美しく儚げな容姿……のみならず、容姿に一切劣らぬほど優れた知性を誇る超秀才美少女は、アークライトに友人を作ってあげるための。
とても素晴らしいアイディアを閃いたのである。
閃いてしまったのである。
「アーくん」
「えっ、と……?」
「だから、これからはアークライトのことを、アーくんと呼んであげます。
私がこうして親しげに呼んであげていれば……
ダメダメなアークライトにも、少しは友達ができやすくなるかもしれません」
フェリは朝露のように清らかな
何ということでしょう。
それはあたかも万年雪から溶け出した清水のように。フェリ・ロスという少女は性格まで美少女だったのである。*23
「それで、どうするんですか、アーくん?
私以外に友人のいない、情けなくてかわいそうなアーくん?
当然アーくんは、私から親しげに呼んでもらえて嬉しいですよね、アーくん???」
「うんっ……! ぅ、嬉しい……!!」
ぼっちのアークライト*24に新たに友人を作るための愛称呼び……という主張だったはずが、何故か論点が『愛称呼びされて嬉しいか否か』にすり替わっていることに……。
幸いにしてアークライトは気付かなかった。
何しろこのポンコツは、たった一人の友人*25との関係が深まったことに、震えるほど喜び。心の底から浮かれていたので。チョロ。
そして長年にわたるぼっちを拗らせ過ぎたアークライトは嬉しさのあまり、もじもじしながら「ぼ、僕もリーちゃんって呼んでいい?」と、不当に過大な要求を突きつけてしまう。
だがこの残酷な世界では、フェリのような超秀才念威操者系神秘的美少女の愛称呼びと、アークライトみたいな10年物ぼっちの愛称呼びは、等価値ではないのだ。
当然そんな不等価交換が成立するはずもなく。
「…………………………駄目、です。
……その呼び方は子ども扱いされているみたいで、不服です」
故に。
フェリはたっぷりと数十秒ほど悩んだ末、そう断った。
内心で勝手にフェリを亡き妹に重ねて見ている*26
しかし性格まで美少女だったフェリは「これからは私のことをフェリと呼んでもいいですよ」と。
なお、この時のフェリは『週刊ルックンへこれ以上ネタを提供したくないという』思いから
◆
「失礼します」
音量に気を配ったノック、応答するまで回されることのなかったドアノブ、入室の際のきびきびとした動き。そういったものから彼の生真面目さを感じ取ったカリアンは、努めて柔らかい笑みを浮かべて来客に応じた。*27
「そこに掛けて楽にしてくれたまえ。今お茶を用意しよう」
カリアンは執務机を離れ「い、いえ。お構いなく」という背後からの声を華麗に聞き流して、部屋の片隅にある給湯スペースへ向かう。そしてそこで濃いめに抽出していた紅茶をサーバーからカップへ移し、それを熱湯で割った。
「今日は呼び出してしまってすまないね。ちょっとした話をしたかっただけなんだが、私の立場では、こんなことですら人を呼び出さないといけない」
「は……」
応接スペースのソファに自身も腰掛けたカリアンは、ティーカップに口を付けて「うん」とひとつ頷き、対面に座るゴルネオ・ルッケンスにも目で促した。ゴルネオが慣れない手付きでティーカップを持ち上げ、ソーサーに戻すのを確認したカリアンは早速とばかりに本題を切り出す。
「今日はゴルネオ君に聞きたいことがあってね。君の出身都市のことなんだが」
「……グレンダンの、ですか?」
「ああ。グレンダンでは特に優れた武芸者のことを天剣と呼ぶ制度があるだろう?」
「はい」
天剣という単語に触れ、少し体を固くしたゴルネオの様子に構うことなく、カリアンは会話を続ける。
「それでだ。武芸者は活剄という技を用いれば、文字通り寝食を忘れて不眠不休で活動できるそうだが……天剣ともなれば、どれほど長くその状態で活動できるものだろうか?」
「……は? あ、いえ、失礼しました。その……私などでは天剣の皆様の実力を、それもその限界を推し量ることなど、到底できません。申し訳ありませんが、わかりかねます」
「そうか……では、少し質問を変えよう。ゴルネオ君の予想で良い。
「……おそらく、不可能ではないかと」
「それは、10歳で天剣になった、かのヴォルフシュテイン卿でも同じだろうか?」
ヴォルフシュテインという具体的に個人を指す名前が出てきたことに、疑問の色を浮かべるゴルネオに対して。カリアンは「私は過去に偶然、彼が天剣を授受するところを見ていてね」と言葉を補う。
「そうでしたか。確かに、ヴォルフシュテイン卿は若干10歳で
「なるほど……いや、ありがとう。ああ、良いお茶菓子もあるんだ。無理にここで食べず、そのまま持って帰ってくれても構わないよ──」
──とある日の。生徒会室での一幕。
・感想・評価ありがとうございます。大変励みになっています。
今回は前回と随分毛色の違う内容になってしまったので、満足していただけるか不安です……。
・フェリの曇らせが目的で筆を執ったはずなのに、コイツラ普通に青春し始めて困惑。
悔しいけど『ボーイミーツガール』タグを付けました。
・武芸科逝きの刑を受けてないのでフェリは原作ほどひねくれてない……という想定だったり。
・『ファミリーレストラン』とか『シンデレラ・ボーイ』みたいな表現は、学園都市のツェルニ、あるいはレギオスの世界観そのものにそぐわないかもしれませんが、便宜的に使用しています。
・週刊ルックンの記事の背景色は、イエローペーパーの暗示としてこの色にしています。
目にうるさかったら申し訳ありません。
あと今更ですが本作は特殊タグを使っているので、推奨の閲覧環境はブラウザです。
・前書きのセリフはみんな大好き縁壱さん。
兄上が居なかったら人の世に心を定着させられなかった説のある人です。かわいいね。
・冒頭の汚染獣戦でのフェリはアークライトに認めさせるため限界までパワを振り絞りました。
これで今後もアークライトに同行して他の都市に行く権利をゲット。
もともと、こっそり念威を使って都市外を観察するような好奇心はある娘なので……。
これくらいやるんじゃないかなーと。解釈違いだったらゴメンなさい。
当小説のフェリはこんな娘です。
・次の汚染獣戦はダイジェストで済ませず、フェリとの連携技を出したいと思ってます。