『隣人GV ―もしもスパイディの影響を受けたGVなら―』 作:幸田市
アメノサカホコの昇降機が停止した時、最初にGVが意識したのは、音ではなく静けさだった。
オノゴロフロートを叩いていた雨も、海面を巻き上げていた暴風も、ここまでは届かない。重い隔壁の向こうでは、空調と機械設備の低い駆動音だけが、巨大な施設そのものの呼吸のように絶え間なく続いている。
短い電子音の後、扉が左右へ開いた。
白い照明に照らされた通路が、真っ直ぐ奥へ伸びている。
GVは敷居を跨ぐ前に、耳元の通信機へ指を当てた。
「……モニカ?」
ノイズすら返らない。
「ジーノ」
数秒待ったが、やはり同じだった。
分かっていたことだ。高度が上がれば通常通信はいずれ成立しなくなる。アメノウキハシへ到達してからは、フェザーの支援を直接受けることはできない。
理解していたはずなのに、実際に二人の声が消えてみると、目の前の通路がひどく長く見えた。
GVは一度だけ振り返った。
閉じた昇降機の扉がある。
あの向こうにはモニカがいる。ジーノがいる。今どこにいるのか分からないアシモフも、地上のどこかで動いているはずだ。
「……一人、か」
呟いてから、首を振った。
「違うな」
目を閉じる。
電波でも音でもない、微かな感覚が施設の奥から伝わってくる。
何度も触れてきた第七波動だった。柔らかく、それでいて一度解き放たれれば途方もない規模へ膨れ上がる力。
「シアン」
いる。
この先に。
捕まって、何もせず待っているわけではない。モルフォと一緒に情報を残し、搬送経路を探り、帰るために動いていた。
なら、自分も行けばいい。
「……よし」
GVは通路へ足を踏み出した。
初めから全速力では走らない。天井の監視設備を確認し、分岐の表示を読みながら、床下を走る太い電力線の方向を追う。軌道施設である以上、大電力を消費する中枢設備ほど供給系統も太い。シアンの第七波動を利用する設備があるなら、その先にある可能性が高い。
角を二つ抜けたところで、歩調が速くなる。
そのまま駆け出しかけた右足が、わずかに鈍った。
脳裏を蒼い閃光が横切った。
メラクへ向けたVOLTIC CHAIN。
止めろという声は聞こえていた。
それでも、自分は止めなかった。
「……」
GVは右手を開く。
指の間に青白い電光が弾け、皮膚を這うように走った。意識を切り替えると、雷はすぐに消える。
力そのものが使えなくなったわけではない。
オノゴロフロートでも戦った。皇神兵を助けた。大型無人兵器にはLIGHTNING SPHEREも使えた。
それでも次に人へ向ける時、自分が必ず止まれる保証などない。
「……今は」
そこまで口にして、GVは顔を上げた。
今ここで答えを作る必要はない。
ただし、考えないことと同じではない。
そう整理した直後だった。
通路の照明が一斉に明滅した。
GVは考えるより早く膝を落とした。
白光が頭上を薙ぎ、遅れて鋭い衝撃音が通路を走る。数メートル先の壁面に一直線の焦げ跡が刻まれた時には、GVの手にはすでにダートが握られていた。
照準を上げる。
そして、その先に立つ男を認めた瞬間、引き金へ伸びた指が止まった。
白い装甲。
規則正しく展開されたフォトンビット。
その中央で、男は以前と変わらぬ硬い眼差しをGVへ向けていた。
「……イオタ」
「久しいな、ガンヴォルト」
低く、無駄のない声だった。
再会を懐かしむ様子など欠片もない。
「退け」
イオタの周囲でフォトンビットが位置を変える。
「この先は皇神の最重要区画だ。貴様を通すわけにはいかん」
「シアンがいる」
「承知している」
「だったら――」
「だから何だ」
返答に迷いはなかった。
「私がここに立つ理由は以前と変わらん。この国の秩序を守る。そのために必要なら貴様を止める。それだけだ」
「……相変わらずだね」
「貴様こそ、そのような感想を述べるためにここまで来たわけではあるまい」
「そうだね」
GVはダートを握り直した。
「通して」
「断る」
「じゃあ――」
銃口を上げる。
だが、引き金が落ちるより早く、イオタの姿が白い残光へ変わった。
「っ!」
左。
GVは光を認識した瞬間にカゲロウを発動し、照射線を抜ける。
着地点へ二射目が来る。
再びカゲロウ。
さらに正面からフォトンビットが光を放つ。身体を捻ってかわし、壁へ片足をついた。
ここなら撃てる。
銃口はすでにイオタを捉えていた。
だが、指先に力を込めた瞬間、別の考えが割り込んだ。
もし、ここから雷撃を流して。
想定以上の出力になったら。
その一瞬でイオタは射線から消えた。
次に感じたのは肩への衝撃だった。
「ぐっ……!」
身体が床を滑る。
GVは片手をついて勢いを殺し、すぐに立ち上がった。
「カゲロウに頼るだけか」
「……そんなつもりじゃ」
「ならば撃て」
イオタは追撃せず、正面からGVを見据えていた。
「私は敵だ。貴様はここを通りたい。ならば戦え」
「排除しろって?」
「言葉遊びをしている暇があるのか」
フォトンビットが二方向へ散った。
射線が交差する。
GVは後方ではなく前へ出た。一射目の下を潜り、二射目が収束する前に右へ身体を滑らせる。
イオタの側面が開く。
撃てる。
また、指が止まった。
今度はイオタの方が動かなかった。
「……何?」
「こちらの台詞だ」
フォトンビットまで静止する。
イオタの声音に、初めて苛立ちが混じった。
「貴様は何をしている」
「戦ってるよ」
「これを戦っていると呼ぶつもりか」
「慎重になってるだけだ」
「違うな」
即座に切り捨てられた。
「貴様は私の攻撃を見切っている。今も反撃する機会があった。それを自ら捨てた」
「……」
「私の速度について来られぬのなら理解できる。だが今の貴様は、見えているものから目を逸らしただけだ」
「逸らしてない」
「ならば何故撃たん」
GVは答えなかった。
数秒の沈黙の後、ようやく銃口を少し下げる。
「……間違えたくないんだよ」
「何?」
「僕が撃ったら、それを選んだのは僕になる」
「当然だ」
「それが本当に必要だったのか。もっと別の方法があったんじゃないか。僕がそうしたせいで、誰かが――」
「くだらん」
言葉を断ち切られた。
GVが顔を上げる。
「……くだらないって」
「貴様は以前より愚かになったのか?」
「何だよ、それ」
「私は貴様に結果を考えろと言った」
イオタの目が細くなる。
「選択の結果を誰が負うのか。それを考えず、自分の善意だけを正義として振りかざすな。確かにそう問うた」
「……覚えてるよ」
「ならば思い出せ」
イオタが一歩前へ出る。
「私はいつ、何も選ぶなと言った?」
GVの目がわずかに開いた。
「責任を恐れて決断そのものを放棄する。それで何かが良くなるとでも思っているのか」
「放棄なんて」
「している」
硬い声が重なる。
「貴様がここで私を傷つけぬ方法を考え続けている間にも時間は過ぎる。救おうとしている少女の状況も変化する。それもまた、貴様が選んだ結果だ」
反論が出てこなかった。
イオタはそんなGVを数秒見つめると、意外なほどあっさり続けた。
「戦えと言っているのではない」
「……え?」
「退却しても構わん」
「……」
「戦力差を見て退く。別の経路を探す。目的そのものを変更する。それも判断だ。私は撤退を恥とは思わん。生きて戻るべき時に戻らぬ兵の方が、余程役に立たん」
フォトンビットが再び展開される。
「戦うか。退くか。別の道を探すか。好きにしろ」
イオタはその中央で構えた。
「だが、決めろ」
その言葉を聞いて、以前の記憶が蘇った。
正しい答えなど分からなかった。
それでも、自分は言った。
分からないなら、その時また考える。
分かったふりをするよりは、その方がいい。
「……そうだった」
「何?」
「僕、答えがないから考えるって言ったんだった」
「そうだ」
「なのにいつの間にか……答えがないなら、動かない方がいいって思ってた」
「ようやく気付いたか」
「言い方」
「慰めてほしいのか?」
「君に?」
GVの口元がわずかに上がる。
「遠慮するよ」
「ならば構えろ」
フォトンビットの配置が変わった。
白光が一点へ集束していく。
それを見た瞬間、GVの笑みが消えた。
右足が無意識に半歩下がる。
「……それ」
「ゼロブレイド」
あの時と同じ光だった。
一度、自分を帰れなくした一撃。
記憶だけで身体が強張る。
「退くなら今だ」
イオタは出力を落とさない。
「昇降機へ戻れ。私は追わん」
「……」
「どうした、ガンヴォルト」
GVは一度だけ息を吐いた。
「……怖いよ」
「そうか」
イオタは笑わなかった。
馬鹿にもしない。
ただ、待っていた。
選ぶのは自分だ。
シアンはこの先にいる。
迎えに行くと決めて、ここまで来た。
GVは下がった右足を元の位置へ戻した。
「……やる」
ダートを構える。
「僕は行く」
「ならば来い」
ゼロブレイドが解き放たれた。
白光そのものは追わない。
速すぎるものを目で追っても間に合わない。
見るのは、その直前。
イオタの肩。
腰。
そしてフォトンビットの配置。
一基だけ、角度が変わった。
GVは白光が放たれるより先に左へ踏み込み、床を蹴った。直後、右半身があった空間をゼロブレイドが貫いていく。
「何?」
イオタの眉が動く。
GVはもう着地を待っていなかった。
身体を捻りながらダートを三発放つ。二発は残光を抜けたが、最後の一発が白い装甲へ食い込んだ。
「捕まえた!」
ロック。
雷撃鱗。
青白い電流がダートを伝ってイオタの装甲へ流れ込む。
「くっ……!」
イオタが即座に距離を取った。
「やっと撃ったな」
「うん」
「その程度で満足するな!」
「分かってる!」
再び残光が走る。
今度は追わない。
光が生まれる前の動きを見る。
フォトンビットが開けば射線を外し、イオタ本人が踏み込めば逆側へ身体を滑らせる。射線が重なる瞬間だけ壁を蹴り、空いた角度からダートを返す。
一発外す。
二発目も弾かれる。
三発目がフォトンビットへ刺さった。
雷を流す。
白い光が一つ消える。
イオタが即座に別のビットを前へ回した。
その移動で生じた死角へ、GVは床すれすれまで姿勢を落として潜り込む。
照準。
発射。
今度は迷わない。
二基目が床へ落ちた。
「……!」
「まだ!」
イオタがゼロブレイドを再形成するより早く、GVは正面から距離を詰めた。
白光が膨らむ。
胸が縮む。
怖さは消えていない。
それでも足は止めなかった。
撃つ。
かわす。
位置を変える。
次の動きを見る。
その一つ一つを、自分で選ぶ。
最後のダートがイオタの装甲へ刺さった。
「これで……!」
雷撃鱗が走る。
警告音が連続して鳴り、白い装甲から光が失われた。イオタの片膝が床へ落ちる。
GVは反射的にもう一度銃口を上げ――そのまま、指を止めた。
数秒見る。
フォトンビットは沈黙している。
ゼロブレイドも形成されない。
そこで銃口を下ろした。
「何故止めた」
「もう必要ないから」
「私が再び立つかもしれんぞ」
「その時はまた戦う」
GVはダートを下げたまま答えた。
「でも今は、君の装備が止まってる。これ以上撃つ理由はない」
イオタは何も言わなかった。
やがて、ゆっくり息を吐く。
「以前より多少はましになったらしい」
「それ、褒めてる?」
「好きに受け取れ」
「じゃあ褒められたことにするよ」
「勝手な男だ」
GVは少し笑ったが、すぐに表情を戻した。
「イオタ」
「何だ」
「……あの時の問い」
「答えが出たか」
「まだ」
「そうか」
「今でも分からないよ。一人を助けたせいで別の誰かが困ったらとか、僕の選択が間違ってたらとか」
「ならば考え続けろ」
「……それだけ?」
「出せぬ答えを今出せと言って何になる」
イオタは壁へ手をつき、身体を起こした。
「ただし、考えることと立ち止まることを混同するな」
「……うん」
「行け」
「いいの?」
「私は敗北した」
イオタは故障したフォトンビットへ一瞥をくれた。
「敗者が見苦しく道を塞ぎ続ければ、護国の兵の名折れだ」
「君、本当にそこは変わらないね」
「貴様もな」
「え?」
「余計なことまで気にするところだ」
「……それは」
「早く行け」
「はいはい」
「返事は一度でいい」
GVは苦笑しながら走り出した。
数歩進んで、一度だけ振り返る。
「イオタ」
「今度は何だ」
「……ありがとう」
「礼を言われる筋合いはない」
「そう言うと思った」
今度こそ背を向ける。
答えが出たわけではない。
ただ、答えがないことを理由に足まで止める必要はない。
それだけで、さっきより踏み込みが軽くなった。
◇
次の区画へ続く角を抜けた瞬間、赤い光が視界いっぱいに膨れ上がった。
「遅ェぞォォォォッ!!」
「うわあっ!?」
GVは考えるより先に床を蹴、爆炎の下へ身体を投げ出した。前転して勢いを逃がした直後、背後の壁が炎に包まれる。
警報灯が赤く明滅した。
「ちょっと待って! 何!?」
「何じゃねェ!」
炎を蹴散らすように男が飛び出してくる。
熱を帯びた装甲。
長い脚。
見間違えようがない。
「オレを散々待たせやがって!」
「……デイトナ」
「ようやく来やがったか、ガキ!」
「第一声それ!?」
「他に何があんだよ!」
「久しぶり、とか!」
「戦場でテメェと挨拶してどうすんだ!」
返事と同時に蹴りが飛んできた。
GVは上体を反らして一撃目をかわしたが、デイトナは着地せず腰を回し、そのまま逆脚を振り抜く。
「話を――!」
「あとだ!」
「シアンが!」
「知るかァ!」
「知ってよ!」
蹴りの軌道から爆炎が噴き出した。
GVは反射的に雷撃鱗を展開しかけ――出力を落とす。
蒼雷が炎を削ったものの、消し切れなかった熱が袖を舐めた。
「熱っ!」
GVが飛び退く。
追撃しかけたデイトナが、そこで足を止めた。
「……あ?」
「何?」
「テメェ、今何してやがった」
「何って」
「消せただろ」
「……」
「前ならオレの炎くらい、普通に散らしてたじゃねェか」
「それは」
「もう一発いくぞ!」
「ちょっ――!」
再び炎が走る。
今度は正面から受けず、GVは壁際へ身体を滑らせた。熱風が頬を掠める。
すぐにダートを構える。
デイトナの胴体が照準へ入った。
銃口をずらす。
肩。
そこからさらに外し、床へ撃つ。
デイトナの顔が険しくなった。
「おい」
「何?」
「さっきから何ナメた真似してやがる」
「ナメてないよ」
「じゃあ何で撃たねェ」
「……」
「オレ相手に手ェ抜いてんじゃねェぞ」
「違う」
「違わねェ!」
デイトナの声が通路へ響いた。
「今、撃てただろうが!」
GVは銃口を下げる。
「……また傷つけたくないんだよ」
「は?」
「前にも戦った。君は怪我した。それなのにまた僕が――」
「はァ!?」
怒声が一段高くなり、GVが思わず肩を引いた。
「何だよその話!」
「いや、だから」
「テメェ、オレがそれ引きずってるとでも思ってんのか!?」
「そうとは言ってない」
「言ってんだろうが!」
デイトナが自分の胸を指差す。
「オレがいつ『前に負けたから手加減してください』っつった!?」
「そんな言い方してないよ!」
「同じだ!」
床を強く踏む。
「勝手にオレの気持ち決めてんじゃねェ!」
GVの呼吸が止まった。
口調も、言葉もまるで違う。
それなのに、以前シアンから言われたことと妙に重なった。
『わたしが心配するかどうかまでGVが決めないで』
「……」
「何だその顔!」
「いや」
「まさか忘れてねェだろうな」
「何を」
「恨みっこなし!」
GVが目を見開く。
「……覚えてるよ」
「じゃあ何だ!」
「でもあれ、ミニ四駆の――」
「その前もだ!」
「え?」
「戦う時ゃ戦う! 終わったら終わり! 次会ってまた戦うなら、そこでまた始めりゃいい!」
デイトナは本気で理解できないという顔をしていた。
「テメェ、いちいち全部持って歩いてんのか!? 前にオレを倒したことも、オレがテメェに助けられたことも、一緒に人助けしたことも、シアンちゃんに何度もフラれたことも!」
「最後は僕関係ないでしょ」
「うるせェ!」
「そこは僕に怒らないでよ」
「だったらいつもの調子で返せるじゃねェか!」
「あ」
GVが止まった。
デイトナも一瞬止まる。
「……チッ」
「今の、わざと?」
「んなわけあるか!」
顔を背けた。
本当に違うらしい。
思わずGVの口元が緩む。
「……何笑ってやがる」
「いや、別に」
「その腹立つ感じ、戻ってんじゃねェか……!」
「褒められてる?」
「褒めてねェ!」
「だと思った」
デイトナは苛立たしげに指を突きつけた。
「それと、何でアレ使わねェんだ」
「アレ?」
「雷の丸いやつ!」
「説明が雑」
「オレが食らったやつだよ!」
GVの表情が止まった。
「……LIGHTNING SPHERE」
「そう、それだ!」
「別に、使わなくても」
「テメェ、アレ何のために作った」
「……相手を必要以上に傷つけないため」
「なら使えや!」
「簡単に言わないでよ!」
思った以上に強い声が出た。
デイトナが黙る。
GVは握ったダートへ視線を落とした。
「僕は止まれなかったんだ。相手がいなくなればいいって思って、みんなの声も聞こえてたのに無視した。VOLTIC CHAINを……本当に消すつもりみたいに使った」
デイトナは何も挟まない。
「だから怖いんだよ。またそうなったらって。LIGHTNING SPHEREだって力は力だ。僕が――」
「知るか」
「……知るかって」
「オレはその場にいなかった。何があったかも知らねェ。だから『大丈夫だった』なんて言う気もねェよ」
デイトナは腕を組んだ。
「やらかしたなら、やらかしたんだろ」
「……」
「でもよ」
真っ直ぐGVを見る。
「一回やらかしたからって、テメェが今までやってきたことまで勝手になかったことにしてんじゃねェ」
GVが顔を上げた。
「オレは覚えてんぞ。テメェがオレを止めるためにあの技を使ったことも、その後オレの上にヤベェのが落ちてきた時、助けたこともな」
「……そこにいたから」
「そうだよ!」
「何で怒るの!?」
「テメェはそういうクソ面倒くせェヤツだったろうが!」
「絶対褒めてないよね、それ」
「褒めるわけねェだろ!」
「だと思った」
「でも今のテメェはもっとムカつく!」
「何で!?」
「オレまでテメェの後悔の材料にしてんじゃねェ!」
デイトナの脚へ炎が巻きついた。
「テメェが勝手に悩むのは好きにしろ! でもオレがテメェをどう思ってるかまで、テメェが決めんな!」
床が爆ぜた。
炎を推進力に変えたデイトナが、一息で間合いを潰す。
GVは蹴りを紙一重でかわした。
今度は退かない。
捻った身体を戻しながらダートを一発放つ。
肩へ刺さった。
「やっと撃ちやがった!」
「うるさいな!」
「もっと来い!」
「急いでるって言ってるでしょ!」
「だったらさっさとオレを倒せ!」
「無茶苦茶だ!」
「それでいいんだよ!」
赤い炎が弾けた。
GVは出力を落とさない。
雷撃鱗が正面からぶつかり、青と赤の光が狭い通路を二分した。
「ハハッ! それだよ、それ!」
「何が!」
「知らねェ!」
「今言ったじゃん!」
「戦ってる最中に細けェこと聞くな!」
「君が言い出したんだろ!」
デイトナが炎を纏ったまま踏み込み、右脚を振り抜く。
GVは沈み込んでその下を抜け、すれ違いざまに二発撃った。デイトナは一発を腕で弾き、もう一発を炎で焼き落とす。
振り返るより先に次の蹴り。
GVは壁を蹴り、斜め前へ飛んだ。
追ってくる炎へ雷撃を返す。
相殺。
着地と同時に走る。
デイトナも笑いながら追ってくる。
呼吸が速くなる。
それでも、さっきまでの息苦しさとは違った。
相手が何を考えているか、想像して決めつける必要がない。
本人が目の前で怒鳴っている。
笑っている。
来いと言っている。
なら、その相手を見ながら戦えばいい。
「オラァ!」
デイトナが大きく踏み込んだ。
炎が足元から円を描いて広がり、通路の幅いっぱいまで膨れ上がる。
一瞬だけVOLTIC CHAINが頭をよぎった。
胸が強張る。
だが、すぐに消えた。
今、それを使う理由はない。
使えるかどうかを試す必要もない。
「これで終わりにする!」
GVの両手の間へ蒼雷が収束する。
雷光が球体を形作り、迫る炎の中心へ撃ち出された。
「LIGHTNING SPHERE!」
雷球と爆炎が正面から衝突した。
赤い炎が一度大きく膨らみ、次の瞬間には青白い電光に呑み込まれる。デイトナの足元を覆っていた熱が乱れ、第七波動の出力が急速に落ちていった。
「うおおおおっ!?」
勢いを失ったデイトナが着地し、そのまま片膝をつく。
GVは追わなかった。
数秒、状態を見る。
立ち上がってくる気配がないことを確認してから、ダートを下ろした。
「……大丈夫?」
「その顔やめろ!」
「ええ!?」
「何でまた申し訳なさそうな顔になってんだテメェ!」
「だって痛くなかった?」
「戦ってんだから多少は痛ェに決まってんだろ!」
「それはそうだけど」
「恨みっこなしっつったろ!」
GVは一瞬黙り、それから肩の力を抜いた。
「……うん。そうだった」
「忘れんな!」
「忘れてないよ」
「忘れてた顔してただろ!」
「それは認める」
「チッ」
デイトナは壁へ背を預けた。
「次は負けねェからな」
「次?」
「ミニ四駆だよ!」
「そっち!?」
「そっちもだ!」
「戦闘まで含まれてる!」
「当たり前だ!」
「出来ればそっちは回数減らしたいんだけど」
「知るか!」
「知ってよ」
デイトナが鼻を鳴らした。
「さっさと行け」
「……うん」
「シアンちゃん待たせてんじゃねェぞ」
GVが目を丸くする。
「何だよ」
「いや、君から言うんだと思って」
「オレだって心配くらいするわ!」
「そうだよね」
「だからその顔やめろ!」
「ごめん、ごめん」
「謝んな!」
「難しいなあ!」
「テメェが面倒くせェんだよ!」
GVは笑いながら駆け出した。
「次は絶対オレが勝つからなァ!」
背中から怒鳴り声が追ってくる。
GVは振り返らずに手だけ上げた。
「じゃあセッティングちゃんと考えなよ!」
「テメェに言われなくても分かってるわァ!」
声が遠ざかっていく。
GVは走りながら気づいた。
今のやり取りでは、謝るより先に言い返していた。
それだけのことなのに、少しだけ呼吸が楽だった。
◇
中枢へ近づくにつれ、アメノウキハシの構造は露骨に変わっていった。
居住区や作業区画らしい扉は消え、壁面には太い電力管と冷却系統が走っている。一定間隔で並ぶ制御盤の表示値も、それまでとは桁が違う。
そして何より、シアンの第七波動が近い。
もう方向を探る必要もなかった。
「もう少し……」
GVは速度を上げた。
イオタとデイトナを続けて相手にした身体は重い。呼吸も完全には戻っていない。
それでも、前へ出る足は止まらなかった。
やがて大型隔壁を抜けると、視界が一気に開けた。
細い通路の先に、巨大な円形区画が広がっている。
GVは数歩入ったところで足を止めた。
「……まさか」
中央に、大柄な男が一人立っている。
両腕には巨大な装備。
その姿を見間違えるはずがなかった。
「待ちわびたで候!」
「カレラ……」
「いかにも!」
カレラは満足そうに胸を張った。
「再び相見える時を、どれほど待ち望んだことか!」
「……」
GVは思わず周囲を見回した。
広い。
人はいない。
大型設備も円形区画の外周へ退避され、中央には戦闘の邪魔になるものがほとんど残っていない。
「もしかして」
「何で候?」
「ここ、わざわざ選んだ?」
「無論!」
即答だった。
「以前、貴殿より『戦うならば場所を選べ』との忠言を受けたゆえ!」
「律儀!」
「約束は守るものに候!」
「そこだけ聞くと、すごくいい人なんだけどなぁ……」
「故に!」
カレラが両拳を構えた。
「存分に戦えるで候!」
「やっぱりそうなるの!?」
「当然!」
「僕、シアンを助けに来てるんだけど!」
「承知!」
「承知してるの!?」
「されど、小生と貴殿が再び出会ったのであれば、やることは一つ!」
「デイトナと同じこと言ってる……」
「デイトナ?」
「いや、何でもない」
カレラは首を傾げたが、すぐに豪快な笑みを戻した。
「何やら以前より顔色も良くなった様子! 結構!」
「え?」
「ならば遠慮は無用で候!」
「待って、その言い方だと――」
「参る!」
「やっぱり!」
床が低く鳴った。
巨体からは想像しにくい加速で、カレラが一息に間合いを潰す。
GVは横へ身体を投げた。
拳が床へ落ちる。
以前なら区画全体へ広がっていた磁力の衝撃が、今度はGVの着地点へ細く集中した。
「っ!」
靴底が床へ引かれる。
体勢が崩れるより早く、カレラの二撃目が迫った。
「そこに候!」
「うわっ!」
GVは空中で雷撃を一瞬だけ噴かせ、強引に軌道をずらした。
拳が脇を抜ける。
着地してすぐ距離を取ったGVは、思わずカレラを見直した。
「……今の」
「如何した!」
「前より細かい」
「気付かれたか!」
カレラは嬉しそうに笑った。
「小生も鍛錬を怠ってはおらぬ!」
「いや、それは分かるけど」
「力とは、ただ大きければ良いものではない!」
両腕の周囲で磁場が歪む。
「扱えぬ力など、真の強さにはあらず!」
GVが瞬いた。
「それ……」
「貴殿との戦いから得た答えの一つで候!」
「……覚えてたんだ」
「当然!」
次の瞬間、磁界拳が展開された。
GVの周囲にあった雷撃鱗が一気にカレラの腕へ引かれる。
以前と同じ――ではない。
吸収量が一定ではなかった。
GVが出力を下げれば磁場も弱まり、逆に上げようとすれば即座に吸引力が増す。
「面倒になってる!」
「誉め言葉として受け取るで候!」
「絶対そう言うと思った!」
GVは雷撃を切り、すぐダートへ持ち替えた。
三発。
カレラは一発目を左腕で弾き、二発目を右腕で受け、三発目には身体ごと踏み込んで射線を潰した。
「それも承知!」
「うわ、本当に研究してる!」
「小生は貴殿を越えたいので候! 以前と同じ小生で挑む道理はない!」
「嬉しいような、迷惑なような!」
「何故迷惑で候!?」
「急いでるから!」
「ならば早く小生を倒されよ!」
「今日それ二回目だよ!」
「む?」
「何でもない!」
カレラの拳が迫る。
GVは右へ回り込みながらダートを返した。
磁力が射線を僅かに歪める。
外れる。
すぐに次の一発を撃てる位置へ移る。
だが、カレラが磁場を強めた瞬間、GVの指が止まった。
「……」
低出力の雷だけを流す。
吸われる。
カレラが追ってくる。
もう一度。
今度はGVが雷そのものを切った。
カレラの拳が止まった。
「何故止める」
「吸われるから」
「嘘で候」
「え?」
「以前の貴殿も、同じ状況で雷を捨てた」
カレラは真正面からGVを見た。
「されど、その時は迷っておらなんだ。雷撃が小生の利になると知るや、即座に別の手段へ切り替えた。実に見事であった」
「……」
「今は違う」
「何が」
「貴殿は、小生へ雷を使うべきか否かを迷っているのではない」
カレラが拳を握る。
「雷そのものを使うことを恐れている」
イオタのような冷たい分析ではない。
デイトナのような苛立ちとも違う。
ただ、本気の相手と戦うためにここへ来た男として、それが気に入らないのだ。
「違うで候か?」
GVは少し黙った。
「……違わない」
「なるほど」
カレラは頷いた。
それだけだった。
「聞かないの?」
「何を?」
「理由」
「必要で候か?」
「普通は気になると思うけど」
「小生が知りたいのは、今の貴殿が如何なる強さを見せるか。それのみ!」
「相変わらずだなぁ……」
「されど、このままでは困る!」
「何で君が困るの」
「小生が待ち望んだ勝負ではないからに決まっている!」
「そこ!?」
「他に何がある!」
カレラは堂々と胸を張った。
「小生は強きガンヴォルトと戦うため、ここまで来た! 力を恐れ、出すべき時に出さぬ貴殿と戯れるためではない!」
「簡単に言うなよ」
GVの声が低くなった。
「一度、止められなかったんだ」
カレラが黙る。
「相手を傷つけるのを止められなかった。頭では分かってたし、止めろって声も聞こえてた。それでも」
「うむ」
「だから……またなるかもしれない」
「なるほど」
カレラは顎へ手を当てた。
数秒、本当に考える。
「ならば、今度は止めれば良い」
「……」
GVは瞬いた。
「それだけ?」
「それ以外に何が?」
「いや、もうちょっとこう……」
「一度出来なかったのであろう?」
「うん」
「ならば次は出来るよう鍛える」
「……」
「何かおかしいで候か?」
あまりにも単純だった。
だが、カレラは本気だった。
「小生も以前は、力さえ大きければ勝てると思っていた」
自分の拳を見る。
「されど貴殿に敗れた。貴殿は小生より非力であったが、力を使う時と止める時を見誤らなかった」
GVの胸が僅かに痛んだ。
「故に、小生は学んだので候」
「僕から?」
「左様!」
「……それを本人が忘れてるって?」
「実に困る!」
「やっぱり怒るところそこなんだ」
「小生が貴殿を越えるために学んだものを、当の貴殿が捨ててどうする!」
本気で怒っている。
そのあまりの真っ直ぐさに、GVは少しだけ笑った。
「……確かに」
「何がおかしい」
「いや」
GVは右手を開いた。
指先に蒼い雷が灯る。
胸はまだざわつく。
それでも、消さなかった。
「試してみる」
「その意気!」
「ただし」
「何で候?」
GVはダートを構えた。
「僕も本気でやるからね」
カレラの顔が一気に明るくなった。
「待っていたで候!」
「本当に嬉しそうだなぁ……!」
「参る!」
今度はGVから床を蹴った。
走りながら二発撃つ。
カレラが腕を上げた瞬間、ダートの後を追うように低出力の雷撃を流した。
磁場がそれを吸い込む。
カレラの腕へ光が集まった瞬間、GVは出力を切った。
吸引力が落ちる。
その隙に右側へ抜ける。
振り向きざまにもう一発。
「む!」
カレラが磁場を強めた。
今度は切らない。
GVはさらに一段だけ出力を上げる。
磁場がそれへ合わせて強くなる。
その変化を見る。
限界を探る。
「おおおお!」
「喜んでる場合!?」
「良い! 実に良いで候!」
「こっちは必死なんだけど!」
磁界拳が一気に膨れた。
雷撃が腕ごと引かれる。
身体から力が抜けた。
「しまっ――」
「もらった!」
巨大な拳が迫る。
GVは床へダートを撃ち込んだ。着弾の反動と同時に身体を捻り、拳の正面から半身だけ逃がす。
衝撃が肩を掠めた。
「ぐっ!」
床を転がる。
すぐに片膝を立てる。
第七波動はまだ戻らない。
それでもカレラは止まらない。
磁力加速で一気に距離を詰めてくる。
GVはその巨体ではなく、踏み込む直前の肩を見た。
わずかに左が落ちる。
「そこだ!」
右へ切り返した。
「何!」
カレラの拳が空を切る。
背後へ抜けながら三発撃つ。
一発。
二発。
三発。
「雷がなくても!」
「それでこそ!」
「喜ばないでよ!」
指先に感覚が戻る。
青白い電光が再び灯った。
カレラが振り返る。
GVは撃った。
雷が走る。
磁場がそれを受け止める。
今度は止めない。
一段。
さらに一段。
カレラの装備が唸りを上げた。
「おおおおおおっ!」
GVは出力を上げながら、相手から目を逸らさなかった。
磁場の揺れ。
装備の警告灯。
足元。
呼吸。
まだ立っている。
まだ戦える。
もう少し。
胸の奥から、嫌な感覚が這い上がってくる。
もっと。
もっと流せる。
相手が動かなくなるまで。
「……違う」
小さく呟いた。
カレラの装備から警告音が鳴った。
膝が揺れる。
そこでGVは右手を閉じた。
雷が消えた。
青白い光に満たされていた円形区画へ、機械設備の駆動音だけが戻ってくる。
カレラが片膝をついた。
GVは自分の右手を見た。
何もない。
誰にも止められていない。
モニカも、ジーノも、アシモフもいない。
自分で相手を見て。
必要なところを決めて。
自分で消した。
「……止めた」
「む?」
「僕……」
息が少し震えた。
「止められた」
カレラはそんなGVを数秒見つめた後、突然豪快に笑った。
「ハッハッハ!」
「何?」
「見事!」
「……それだけ?」
「他に何が必要で候?」
GVは堪えきれず吹き出した。
「本当に君は変わらないなぁ」
「小生は以前より強くなっている!」
「そこじゃなくて」
「む?」
「いや、いい」
カレラはゆっくり立ち上がった。
もう構えない。
「本日のところは小生の敗北!」
「潔いね」
「敗北は敗北! されど!」
人差し指を立てる。
「次に相見える時、小生はさらに強くなっているで候!」
「またやるの?」
「無論!」
「……せめて次も場所は選んでよ」
「心得た!」
「あと出来れば、僕が急いでない時」
「承知!」
「本当に?」
「善処するで候!」
「それ、守らない人の言い方じゃない?」
「何を言う! 小生は約束を守る男!」
「じゃあ信じる」
GVが笑うと、カレラも満足そうに頷いた。
「行かれよ、ガンヴォルト」
「うん」
「次の勝負まで、勝手に弱くなることは許さぬ!」
「それは君に決められることじゃないよ」
「む」
「でも」
GVは一度だけ右手を握った。
「出来るだけ、そうする」
「結構!」
カレラが道を開ける。
GVはその横を抜けた。
「ガンヴォルト!」
数歩進んだところで呼び止められる。
「何?」
「次は今日以上の強さを見せるで候!」
GVは少し考え、肩越しに答えた。
「じゃあ僕も、今日よりちょっとはマシになってるようにするよ」
「楽しみにしている!」
「ほどほどにね!」
今度こそ走り出した。
◇
円形区画を抜けてしばらく進んだところで、GVは壁へ片手をついた。
「……さすがに、三人はきついな」
大きく息を吐く。
肩が重い。
脚にも疲労が溜まっている。
イオタもデイトナもカレラも、誰一人としてこちらの事情を理由に手加減してはくれなかった。
「ほんと、容赦ないなぁ……」
それでも、昇降機を降りた直後とは何かが違っていた。
GVは壁から背を離した。
海底基地で起きたことは消えていない。
自分が何を思い、何をしたのかも、これから考え続けなければならない。
だが、その一度だけで、その後の自分まで決める必要はなかった。
イオタには、自分で戦うと決めた。
デイトナとは、相手の言葉を聞いて本気でぶつかった。
カレラには雷を使い、自分の意思で止めた。
それで全部解決したわけではない。
ただ。
「あれだけが、僕じゃない」
口にしてみる。
今度は、それを打ち消す声が出てこなかった。
GVは目を閉じた。
電子の謡精の反応が、もうはっきり分かる。
近い。
「シアン」
すぐに目を開けた。
休んでいる場合ではない。
壁から身体を離し、走り出す。
さっきまでより身体は疲れているのに、足取りはむしろ素直だった。
前方の角を曲がる。
巨大な隔壁が見えた。
その向こうから、これまでとは比較にならないほど強い第七波動が伝わってくる。
GVの表情から笑みが消えた。
ダートを握る。
指先から蒼い電光が走り、腕を伝って全身を包んでいく。
強く。
必要なだけ。
その出力を決めているのは、今度は間違いなく自分だった。
「今、行く」
床を蹴る。
身体が前へ出る。
蒼雷が残光となって白い通路を駆け抜けた。
答えはまだない。
それでも、立ち止まらない。
その先にいるシアンへ向かって、GVは一直線に走った。
三人の好敵手を越え、蒼き雷霆は再び前を向いた。
「……今度こそ、行ける」
シアンの反応は、もう近い。
だが。
その道の先で待っていたのは、皇神でも、七宝剣でもなかった。
「何故貴様がここにいる、ガンヴォルト」
白き影。
能力者を狩る者。
セブンス・スレイヤー――アキュラ。
「シアンには手を出させない」
「電子の謡精は危険な第七波動だ。例外などない」
思想は交わらない。
譲る理由もない。
だから――戦う。
「穿て――アロガントファング!」
「それ、今本人とやったばっかりなんだけど!」
光。
爆炎。
磁界。
かつて戦った能力者たちの力を、白鋼の宿敵が次々と再現する。
「貴様……ここまで何人と戦ってきた」
「だから三人だって!」
戻った軽口。
戻った判断。
戻った力。
それでも。
「何故、決められる場面で止まる」
「……」
「自分自身だけを信用していない」
最後に残った迷いを、最も容赦のない男が見抜く。
「オレは貴様の正義など認めん」
「知ってるよ」
「それでも貴様は、今まで好き勝手に押し通してきた」
否定する。
認めない。
それでも、誰より蒼き雷霆を見てきた宿敵。
「さっきから好き勝手言いすぎなんだよ、君!」
「ようやくその顔か」
そして。
「一度の失敗でマシンごと捨てたか?」
「この場面でミニ四駆持ち出す!?」
戦場に響く、最悪に相性のいい口喧嘩。
最後に立ちはだかるのは、白き分身の群れ。
「LUST DOPPLER!」
「……VOLTIC――」
蒼雷が揺れる。
だが。
「……いらない」
怖いから使わないんじゃない。
今、必要じゃないから選ばない。
次回、第二十八話。
「セブンス・スレイヤー」
「僕がどうするかは――僕が決める」
蒼き雷霆と白き宿敵。
決して分かり合わない二人が、互いを最も深く知る。
次回も、グッドラック