『隣人GV ―もしもスパイディの影響を受けたGVなら―』   作:幸田市

42 / 42
番外編④「出会いと再会」

 

 

 卵。

 

 牛乳。

 

 食パン。

 

 あと、シアンが昨日から食べたいと言っていたプリン。

 

 スーパーの袋を右手に提げながら、GVは頭の中でもう一度だけ確認した。

 

 スマートフォンを取り出す。

 

『卵忘れないでよ』

 

 十分前に届いたメッセージが残っていた。

 

「……一回忘れただけなのに」

 

 返事はしない。

 

 もう買った。帰れば分かる。

 

 高校から自宅までの道は、すっかり身体に馴染んでいた。

 

 この時間なら商店街の惣菜屋が値引きを始める。一本裏へ入れば近道になるが、夕方は自転車が多い。公園を横切るルートは少し遠い。

 

 今日はスーパーに寄ったので、裏道を使う。

 

 それだけだった。

 

 角を曲がるまでは。

 

「――離してください!」

 

 女の子の声だった。

 

 GVの足が止まった。

 

 考えるより先に、買い物袋を見る。

 

 卵。

 

「……マジか」

 

 袋を道路脇の低い塀へ置いた。

 

 声のした方へ向かう。

 

 狭い路地だった。

 

 少女が一人。男が二人。

 

 一人は彼女の前を塞ぎ、もう一人は壁際へ追い込むように立っている。

 

 男の足元から、コンクリートを押し割って太い蔓が伸びた。

 

 第七波動。

 

 しかも妙だった。

 

 植物を操る能力そのものは珍しくない。問題は出力だった。細い路地いっぱいに根が広がり、アスファルトまで持ち上げている。

 

 男自身の呼吸は荒い。

 

 能力に身体が追いついていない。

 

「……ねえ」

 

 二人が振り向いた。

 

 GVは少女と男たちの位置を見る。

 

 右に塀。

 

 左は建物。

 

 頭上に配管。

 

 後ろには道路。

 

「二人がかりで何してんの」

 

「何だ、テメェ」

 

「いや、聞いてるの僕なんだけど」

 

 植物が動いた。

 

 だからGVも動いた。

 

 ダートは男へ撃たなかった。

 

 一発。

 

 右の壁。

 

 二発。

 

 左の排水管。

 

 三発目は、二人の背後にある電柱の根元。

 

「迸れ――」

 

 薄青い雷が三点を走った。

 

 男が腕を振り上げるより早く、路地を横切った雷線が蔓を絡め取る。そこからもう一発。足元。さらに壁。

 

 雷が線から面へ変わった。

 

 蜘蛛の巣のような光が、一瞬で狭い空間を塞ぐ。

 

「な――」

 

「そっち行くと感電するよ」

 

 男が反射的に逆へ飛ぶ。

 

 そこにも、もう線がある。

 

 逃げ道を失った二人を、最後の雷線がまとめて壁際へ縫い止めた。

 

 植物の根が暴れる。

 

 GVはその根元だけを見た。

 

 電圧を落とす。

 

 焼き切らない。動けなくなる程度でいい。

 

 数秒後。

 

 路地に残っていたのは、焦げた草の匂いと、地面へ伏した二人の呻き声だけだった。

 

「……まだやる?」

 

 返事はなかった。

 

 GVはダートを下ろした。

 

 そこでようやく、少女を見る。

 

「大丈夫?」

 

「……はい」

 

 長い髪の少女だった。

 

 制服は見覚えがある。

 

 ただ、今はそれより先に確認することがあった。

 

「怪我は?」

 

「ありません。あの……」

 

「よかった」

 

 遠くからサイレンが聞こえ始めた。

 

 通報した誰かがいたらしい。

 

 少女はまだGVを見ている。

 

「あの」

 

「ん?」

 

「どうして……助けてくださったんですか?」

 

 GVは少しだけ首を傾けた。

 

「どうして?」

 

「わたしとは、会ったことも……」

 

「ああ」

 

 そういうことか。

 

「手が届いたし」

 

 GVは答えた。

 

「それ以外に理由いる?」

 

 少女が何も言わなくなった。

 

 今度はGVの方が困る。

 

「……何?」

 

「いえ」

 

 ほんの少しだけ。

 

 少女が笑った。

 

「ありがとうございます」

 

   *

 

 同じ頃。

 

 アキュラの作業台に、見覚えのない通知が一件だけ表示された。

 

 いや。

 

 見覚えがないのは、送り主だった。

 

 形式には覚えがある。

 

「……何故だ」

 

『アキュラくん?』

 

 RoRoが端末上に顔を出した。

 

『どうしたの?』

 

「黙っていろ」

 

『はいはい――って、なにこれ』

 

 RoRoの声から軽さが少し消えた。

 

『暗号? すっごい古い規格だね』

 

「古いだけではない」

 

 アキュラは受信データを展開した。

 

 何重にも偽装された文字列。その奥に認証コードがある。

 

 見間違えるはずがなかった。

 

 幼い頃から何度も目にしたものだ。

 

 父が残した研究資料。

 

 その中でも、外部公開されていない記録にのみ使われていた方式。

 

『……これ、誰から?』

 

「分からん」

 

『分からない相手の呼び出しに行こうとしてる顔してるけど』

 

 アキュラは立ち上がった。

 

『やっぱり行くの!?』

 

「確認する」

 

『罠だったら?』

 

「潰す」

 

『もうちょっとこう、慎重に――』

 

「位置情報を出せ」

 

 RoRoが一瞬黙った。

 

 やがて小さく息を吐くような音がした。

 

『……分かったよ』

 

 表示された場所は、市街地から離れた旧研究区画だった。

 

   *

 

「すみません。送っていただいて」

 

「いいよ。近いし」

 

 警察への説明を終えた頃には、空が暗くなり始めていた。

 

 GVは少女――オウカと並んで歩いていた。

 

「オウカっていうんだ」

 

「はい。あなたは?」

 

「GV」

 

「じーぶい……?」

 

「変?」

 

「いえ。少し珍しいなと思って」

 

「まあ、よく言われる」

 

 スマートフォンが震えた。

 

 嫌な予感がした。

 

 見る。

 

『GV?』

 

 二文字だけ。

 

 シアンだった。

 

「……あ」

 

「どうしました?」

 

「帰るの遅いって怒られる」

 

「ご家族ですか?」

 

「まあ……そんな感じ」

 

 通話する。

 

『GV』

 

「はい」

 

『牛乳買うだけでどこまで行ってんの?』

 

「ちょっと人助け」

 

 数秒。

 

『……また?』

 

「またって言わないで」

 

『卵は?』

 

「買った」

 

『割れてない?』

 

 GVは立ち止まった。

 

 路地へ置いてきた袋を思い出した。

 

「…………たぶん」

 

『GV?』

 

「今確認する」

 

 電話を切る。

 

 オウカが口元へ手を当てていた。

 

「笑った?」

 

「い、いえ」

 

「笑ったよね?」

 

「すみません」

 

「そこ謝られる方が傷つくんだけど」

 

 今度ははっきり笑われた。

 

 不思議と嫌ではなかった。

 

   *

 

 旧研究区画は、記録上すでに閉鎖されている。

 

 それでも電源は生きていた。

 

 アキュラが通路を進むたび、一定間隔で天井灯が点いた。

 

『……嫌な感じ』

 

「何がだ」

 

『ちゃんと使われてるのに、人がいない』

 

「騒ぐな」

 

 奥の扉が開いた。

 

 アキュラの右手が反射的に銃へ伸びた。

 

 男が一人。

 

 白衣。

 

 眼鏡。

 

 記憶より老けているようにも見える。

 

 だが、顔は変わっていなかった。

 

 男はアキュラを見る。

 

 何秒か。

 

 どちらも動かなかった。

 

「……大きくなったな」

 

 先に男が言った。

 

「アキュラ」

 

 銃口が上がった。

 

「誰だ」

 

 男はそれを見ても動かなかった。

 

「随分な挨拶だな」

 

「答えろ」

 

「昔、私の研究室へ忍び込んで、試作部品を棚ごとひっくり返したことがあった」

 

 アキュラの指が止まった。

 

「片付けろと言ったら、お前は『配置が悪い』と言い張った」

 

「……」

 

「六歳だったか?」

 

「五歳だ」

 

「そうだったな」

 

 男が少し笑う。

 

「それで結局、配置を変えさせられた」

 

 アキュラの銃口が、数センチ下がった。

 

「……父さん」

 

「久しぶりだ」

 

 神園博士は、それだけ言った。

 

   *

 

 翌朝。

 

 GVは昇降口で足を止めた。

 

 昨日の少女がいた。

 

 向こうもこちらを見て止まる。

 

「……あ」

 

「昨日の」

 

 二人同時だった。

 

 オウカが制服を見下ろす。

 

「同じ学校だったんですね」

 

「僕も今気づいた」

 

「GV?」

 

 横からシアンが覗き込んだ。

 

「誰?」

 

「昨日助けた子」

 

「説明が雑じゃない?」

 

 オウカが慌てて頭を下げた。

 

「オウカです。昨日、GVさんに助けていただいて」

 

「ああ」

 

 シアンがGVを見る。

 

「人助けってそれ?」

 

「そう」

 

「卵は?」

 

「一個だけ割れてた」

 

「やっぱり」

 

「だから今日買うって」

 

 オウカがまた笑った。

 

 GVは気づいた。

 

「また笑った」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ほら、謝られた」

 

「GVが変なこと言うからでしょ」

 

 シアンはオウカへ向き直った。

 

「シアン。よろしく」

 

「はい。こちらこそ」

 

 それだけだった。

 

 少なくとも、その日は。

 

   *

 

「ミチルは?」

 

 再会して最初にまともに腰を据えた時、神園博士が聞いたのはそれだった。

 

「生きている」

 

「体調は」

 

「安定している」

 

「そうか」

 

 博士は椅子へ深く腰掛けた。

 

「ならばいい」

 

 アキュラは父親を見ていた。

 

 聞きたいことはいくらでもある。

 

 何故生きている。

 

 何故今まで姿を見せなかった。

 

 何をしていた。

 

 だが博士は先に続けた。

 

「……声は?」

 

 アキュラの目がわずかに細くなる。

 

「戻っていない」

 

「そうか」

 

 博士は、それ以上は聞かなかった。

 

 ほんの短い沈黙が落ちた。

 

「相変わらず、あの子のことばかり気にするな」

 

 アキュラが言う。

 

「娘だからな」

 

「オレも息子だが」

 

「お前は放っておいても勝手に生きる」

 

「……何だそれは」

 

「違うか?」

 

 アキュラは答えなかった。

 

 博士が少しだけ笑う。

 

「蒼き雷霆とは会ったか?」

 

 話題が変わった。

 

「何度かな」

 

「あれもまだ生きているのか」

 

「しぶとい男だ」

 

「そうか」

 

 博士は資料へ目を落とした。

 

「厄介なバケモノだな」

 

 昔と変わらない言葉だった。

 

「相変わらずだな」

 

「何がだ」

 

「能力者への言い草だ」

 

「変わる理由がない」

 

 博士はページをめくる。

 

「人間一人が持つには過ぎた力だ。力を得た者は、自分なら扱えると思い込む。自分だけは例外だとな」

 

「……」

 

「バケモノはバケモノだよ」

 

 声は穏やかだった。

 

 昔なら、その話を始めただけで部屋の空気まで変わった。

 

 アキュラはそこまで考えて、やめた。

 

 時間が経ったのだ。

 

 自分も子供ではない。

 

 父も同じだろう。

 

   *

 

 数日後。

 

 オウカの家へ招かれた。

 

 助けてもらった礼をしたい、と本人が譲らなかったためだった。

 

「……でか」

 

 門の前でGVが言った。

 

「普通だと思いますけど」

 

「普通じゃないと思う」

 

 シアンが即座に訂正する。

 

 屋敷へ入る。

 

 広い。

 

 広すぎる。

 

 玄関だけでGVの家のリビングより大きい気がした。

 

 なのに、静かだった。

 

 人の気配がない。

 

「ご家族は?」

 

 シアンが聞いた。

 

「ここにはいません」

 

「使用人さんとか」

 

「今はいませんよ」

 

「今は?」

 

 オウカは少し考えた。

 

「以前は、お世話をしてくださる方がいました。でも、三か月ほど前に亡くなって」

 

「……そっか」

 

「はい」

 

 オウカはいつもの調子で笑った。

 

「一人でも、だいたいのことはできますから」

 

 キッチンには一人分の食器。

 

 玄関には一足分の普段履き。

 

 リビングのテーブルも、大きさの割に使っている場所だけが妙に整っていた。

 

 GVは何も言わなかった。

 

 シアンも同じだった。

 

 帰り際。

 

 玄関まで見送りに来たオウカへ、シアンが振り返った。

 

「オウカ」

 

「はい?」

 

「明日、お昼一緒に食べない?」

 

 オウカの目が少し開いた。

 

「……わたしもですか?」

 

「他に誰がいるの」

 

「でも」

 

「嫌ならいいけど」

 

「いえ!」

 

 思ったより大きな声だった。

 

 オウカ自身も驚いたらしい。

 

「……行きたいです」

 

「じゃあ決まり」

 

 GVも靴を履きながら顔を上げた。

 

「うちの教室来ればいいよ」

 

「はい」

 

 オウカは今度は、小さく笑った。

 

   *

 

「覚えているか」

 

 神園博士が言った。

 

「何をだ」

 

「お前が研究室の部品を全部ひっくり返した日のことだ」

 

「さっきも聞いた」

 

「そうだったか?」

 

「再会した日に自分で話しただろう」

 

「ああ。そうだったな」

 

 博士は苦笑した。

 

「歳は取りたくないものだ」

 

 その日、アキュラは父の研究室にいた。

 

 昔の話などするつもりはなかった。

 

 いつの間にかそうなっていた。

 

「お前は昔から機械を触るのが好きだった」

 

「父さんの研究室にあれだけ置いてあれば誰でも触る」

 

「ミチルは触らなかった」

 

「あいつは俺が触ってるのを見てた」

 

「そうだったな」

 

 博士が少し目を細めた。

 

「一度、二人で小さな車を作ったこともあった」

 

「父さんも入れて三人だ」

 

「私も?」

 

「途中から一番夢中になっていた」

 

 博士の視線が、一瞬だけ止まった。

 

「……そうだったか」

 

「動かなくなったモーターを一時間かけて直した」

 

「……ああ」

 

 今度は自然に笑った。

 

「そうだったな。お前がどうしても諦めなかった」

 

「父さんが諦めなかったんだ」

 

「どちらでも同じだろう」

 

「違う」

 

「昔から細かいな」

 

 会話は普通に続いた。

 

 だからアキュラも、それ以上は気にしなかった。

 

   *

 

 昼休み。

 

 オウカは教室の入口で立ち止まっていた。

 

 中を覗く。

 

 知らない顔ばかり。

 

 当然だ。

 

「オウカ」

 

 奥からシアンが手を上げた。

 

「こっち」

 

 GVもいる。

 

 机が一つ、横に寄せられていた。

 

「本当に来た」

 

「来ますよ。約束しましたから」

 

「GV、それどういう意味?」

 

「いや、別に」

 

 席へ座る。

 

 オウカが弁当箱を開いた。

 

「自分で作ったの?」

 

 シアンが聞く。

 

「はい」

 

「すご」

 

「大したものでは」

 

 GVが横から覗く。

 

「美味しそう」

 

「食べますか?」

 

「いいの?」

 

「はい」

 

 オウカが卵焼きを一つ差し出した。

 

 GVが口に入れる。

 

「うま」

 

「よかった」

 

 シアンも手を伸ばす。

 

「わたしも」

 

「どうぞ」

 

 気づけば、昨日まで一人で食べていた弁当から二つ減っていた。

 

 オウカはそれを見ていた。

 

「……どうしたの?」

 

 シアンが聞いた。

 

「いえ」

 

 オウカは首を振る。

 

「なんでもありません」

 

   *

 

「見せろ」

 

「必要ない」

 

「アキュラ」

 

 父親の声だった。

 

 アキュラは舌打ちして顔を向けた。

 

 頬に薄い傷が残っている。

 

「これか?」

 

「それだ」

 

「擦っただけだ」

 

 博士が傷を見る。

 

「腕は」

 

「問題ない」

 

「肩」

 

「問題ないと言っている」

 

「それを判断するのは医者だ」

 

「医者の診察を受けに来たわけではない」

 

「父親が息子の身体を心配して何が悪い」

 

 アキュラは黙った。

 

 昔からこうだった。

 

 博士はアキュラの右腕を取った。

 

 肘。

 

 手首。

 

 指。

 

 動きを確認する。

 

「無茶をしたな」

 

「任務だ」

 

「任務なら壊れていいわけではない」

 

 博士が手を離す。

 

「身体は一つしかない。大事に使え」

 

「……父さんがそれを言うか」

 

「私だから言うんだよ」

 

 立ち上がる。

 

 机へ手をついた。

 

 右手の指が、一瞬だけ曲がったまま止まった。

 

「父さん」

 

「何だ」

 

「手」

 

 博士は自分の右手を見る。

 

 一度握る。

 

 開く。

 

 今度は何も起きなかった。

 

「古傷だ」

 

「事故の?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 博士は話を切った。

 

「それより、見せたいものがある」

 

   *

 

 エレベーターが地下へ降りていく。

 

『まだ下あるの?』

 

 RoRoが小さく言った。

 

「静かにしていろ」

 

『はいはい』

 

 扉が開く。

 

 その先は、廃研究施設ではなかった。

 

 白い通路。

 

 隔壁。

 

 医療区画。

 

 監視室。

 

 装備庫。

 

 人間が働いていた。

 

 アキュラの目が細くなる。

 

「これは」

 

「イージス」

 

 神園博士が歩き出した。

 

「第七波動による犯罪、事故、災害。保護が必要な者もいれば、制圧しなければならない者もいる」

 

 訓練区画の向こうでは、職員が避難誘導の確認をしていた。

 

 別室では医療スタッフが搬送訓練をしている。

 

 さらに先では拘束装備の試験。

 

「能力者を殺すための組織ではないのか」

 

 アキュラが聞く。

 

 博士は振り返った。

 

「私を何だと思っている」

 

「能力者嫌いの頑固親父」

 

「否定しづらいな」

 

 神園博士は苦笑した。

 

「嫌いだからといって、手当たり次第に殺せばいいという話ではない」

 

「……意外だな」

 

「社会はそんな単純な方法では維持できんよ」

 

 二人の前を、担架を押した職員が通り過ぎる。

 

 博士は邪魔にならないよう一歩避けた。

 

「救うべき者は救う。危険なら止める。事故が起きるなら防ぐ。分からないものは調べる」

 

「随分と手広い」

 

「一つの答えだけで第七波動を扱えるなら、組織など要らん」

 

 アキュラは何も返さなかった。

 

 父親が生きていた。

 

 しかも、ただ隠れていたわけではない。

 

 自分が一人でやってきたことを、もっと大きな形で続けていた。

 

 それだけで、何かが軽くなるような感覚があった。

 

「アキュラ」

 

「何だ」

 

「ここへ来ないか」

 

 アキュラが父を見る。

 

「オレを?」

 

「お前が私の研究を継いだことは見れば分かる」

 

 博士の視線が装備へ移った。

 

「一人でよくここまでやった」

 

「……当然だ」

 

「当然ではない」

 

 短い返答だった。

 

「子供一人に背負わせることではなかった」

 

 アキュラの視線が止まった。

 

 博士は先を歩いている。

 

「私が戻った以上、もう全部を一人でやる必要はない」

 

 追いつくまで待つ。

 

「いずれは、お前にここを託してもいいと思っている」

 

「オレに?」

 

「ああ」

 

 博士が笑った。

 

「そのためにも、ちゃんと育ってもらわないとな」

 

「子供扱いするな」

 

「親から見れば何歳でも同じだ」

 

『それはちょっと分かるかも』

 

 RoRoが口を挟んだ。

 

「貴様は黙っていろ」

 

『なんで!?』

 

 博士が笑った。

 

 アキュラはその声を聞いた。

 

 昔と同じだった。

 

   *

 

「また明日」

 

 放課後。

 

 昇降口でオウカが言った。

 

「うん」

 

 シアンが答える。

 

 GVも手を上げた。

 

「また明日」

 

 オウカは二人と別れて歩き出す。

 

 昨日までと同じ帰り道だった。

 

 途中でスーパーに寄る。

 

 一人分の食材を買う。

 

 同じ屋敷へ帰る。

 

 ただ、明日の昼に食べる卵焼きだけ、一人分多く作ろうと思った。

 

   *

 

「ミチルには、いつ会う」

 

 アキュラが聞いた。

 

「近いうちに」

 

「驚くぞ」

 

「そうだろうな」

 

 二人でエレベーターへ乗る。

 

 上へ向かう。

 

 しばらく無言だった。

 

「アキュラ」

 

「何だ」

 

 博士は前を向いたままだった。

 

「生きていてくれて、ありがとう」

 

 アキュラは父を見る。

 

「……急に何だ」

 

「言っておこうと思っただけだ」

 

「帰ってきたのは父さんの方だろう」

 

 博士が少しだけ目を細めた。

 

「そうだったな」

 

 扉が開く。

 

 アキュラが先へ出る。

 

『アキュラくん、ミチルちゃんに何て説明する?』

 

「そのまま言えばいい」

 

『絶対信じないと思う』

 

「なら本人を連れて行く」

 

『えぇ……』

 

 二人の声が遠ざかる。

 

 神園博士は少し遅れてエレベーターを出た。

 

 一人になった研究室で白衣を脱ぐ。

 

 机に置く。

 

 右手を握った。

 

 開く。

 

 薬指だけが遅れた。

 

 もう一度。

 

 今度は揃った。

 

 博士はしばらくその手を見ていた。

 

 それから端末を開く。

 

 いくつかの数値を確認する。

 

 表示を閉じる。

 

「……まだいい」

 

 独り言はそれだけだった。

 

 窓のない研究室で、照明だけが静かに点いていた。

爪PV 期待値調査

  • やったね君、最高!!
  • うーん...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる(作者:maki@)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼【 ――いいから黙って変身しろ! 俺の考えた最高のヒーローを見せてやる! ―― 】▼若い女性だけがその生命を燃やして戦う世界。▼『魔障対策局』の雑用係・神代蓮は、戦う力を持たない無力な男として、非日常を虚構に貶める日陰の仕事を淡々とこなしていた。▼だが、彼には誰にも言えない秘密があった。▼その脳内に人類の敵、【魔障】を飼っているということ。▼『戦う力』が欲…


総合評価:5163/評価:8.88/連載:25話/更新日時:2026年09月24日(木) 20:00 小説情報

日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです(作者:ken4005)(原作:MARVEL)

▼クウガとアベンジャーズのクロスです。▼マーベルは完全ににわかです。▼原作を Avengers から MARVEL に変えました。▼短編から連載に変えました。▼謝罪0906▼作品を読み直した所、時系列に誤りがありました。▼黒雄が2010年4月から2014年3月までの四年間高校に在籍していたことになっています。そこで、明記はしませんが、未確認生命体関係で高校を…


総合評価:10365/評価:8.18/連載:107話/更新日時:2026年10月04日(日) 00:17 小説情報

神座万象スレ民たちの集い(作者:ジロジロ)(原作:Dies irae)

神座万象シリーズ世界に転生してしまったスレ民が駄弁るだけ。▼なお時折人間関係の複雑骨折を起こすものとする。


総合評価:2382/評価:8.76/連載:5話/更新日時:2026年09月26日(土) 19:44 小説情報

大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか?(作者:御船上郎)(原作:スパイダーマン)

ピーター・パーカーに転生した男が四苦八苦しながら頑張る話▼尚、彼の知識と何かしらズレた世界の模様


総合評価:7504/評価:8.51/連載:14話/更新日時:2026年10月03日(土) 18:00 小説情報

スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女(作者:サイリウム)(原作:MARVEL)

スパイダーマンカッコよくて可愛くて素敵だなぁ……、せや!


総合評価:4708/評価:8.8/短編:9話/更新日時:2026年09月28日(月) 01:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>