『隣人GV ―もしもスパイディの影響を受けたGVなら―』 作:幸田市
ベラデンの格納庫へ輸送艇が滑り込んだ時、待っていた面々の視線は自然と開いたハッチへ集まった。
先に降りたのは回収班の兵士だった。その後ろから、右腕を固定具で固め、コートの裾を焼け焦がしたアスロックが姿を見せる。担架は使っていない。足取りこそいつもより鈍いものの、自力で歩ける程度には処置を終えているらしい。
それを確認した瞬間、壁際で待っていたジブリールが鼻を鳴らした。
「ハッ。ずいぶん派手にやられたじゃねぇか」
「……うるさい」
「ガレトクローネは?」
アスロックの足が止まった。
ほんの一瞬。
「……聞くな」
「あっ、そこNGワードなんスねw」
テセオが端末から顔も上げずに割り込む。
「愛機ロスト、グラントルタもロスト、ついでにピースまでロストとか、今回のリザルト画面ヤバくないッスか? 赤字まみれなんですケドww」
「……貴様から先にコンポートにしてやろうか」
「リアル調理宣言キタコレw テセオさん非食用なんで遠慮しときまーす」
「BODYはDAMAGE、でも無事にBACK。帰って来たならまずはGOODだろ」
ガウリが軽く手を上げる。口調はいつも通りだったが、視線はアスロックの固定された腕から足元までを一度なぞっていた。
少し離れた場所ではニケーが静かに立っている。しばらくアスロックを眺めた後、胸元で指を組んだ。
「星ハ……まだアナタの道が終わっていないと告げていまス」
「……占いを頼んだ覚えはない」
「そうデスか」
ニケーはそれ以上言わなかった。
誰も大げさに迎えなかったし、アスロックも礼など言わない。
ただ、そこにいる全員が、ハッチから本人が歩いて降りてきたことだけは確かめていた。
それでよかった。
アスロックが医療区画へ連れて行かれた後も、ベラデンの日常は続いた。テセオは回収部隊から届いた戦闘ログを勝手に覗いて怒られ、ジブリールは「負けた本人が戻るまで先に見て何が悪い」となぜか便乗し、ガウリはその横で適当な韻を踏んでいた。
夕食の時間になれば、負傷したアスロックも食堂へ顔を出した。
「お前、ケガ人用のメシじゃなくていいのかよ」
「……胃まで壊されたわけではない」
「つーか食う量いつも通りじゃん」
「傷を治すにも栄養はいる……当たり前だ」
「パティシエじゃなくて急に保健体育なんスけどw」
「黙って食え」
いつもの会話だった。
ジブリールが皿を引き寄せ、ガウリが飲み物を配り、テセオが食卓でも端末を触ってニケーに画面を覗き込まれる。
その途中で、ガウリの手が止まった。
ボトルが一本、多かった。
「……」
誰も何も言わなかった。
ガウリもすぐに気づき、余った一本を冷蔵庫へ戻した。
テーブルの端には、いつからか誰も座らなくなった席がある。
大きな声で笑い、細かいことにはこだわらず、それでいて仲間の面倒はよく見る男が使っていた場所だった。
ニムロドが海へ落ちてから、その椅子だけは自然と空いたままになっている。
食事が終わる少し前、全員の端末へテンジアンから招集が入った。
会議室へ集まる頃には、食堂での軽さはほとんど消えていた。
大型モニターには夢の島周辺の地図と、回収部隊が持ち帰った戦闘記録が表示されている。パンテーラは最奥の席に座り、その隣でテンジアンが立っていた。
「慎始敬終。まずは今回の報告から始めよう。アスロック」
「……見れば分かるだろう」
「結果はね。経緯を聞きたい」
アスロックは椅子へ深く座り直した。
「夢の島で白い旧人類(オールドマン)と接触した。ガレトクローネを破壊され……グラントルタも落とされた」
「うわぁ……改めて聞くとフルコース敗北なんですケドw」
「テセオ」
「はい黙りますw」
テンジアンは視線を外さない。
「ミラーピースは?」
「……奪われた」
空気が一段沈んだ。
ジブリールは舌打ちし、ガウリの表情からも笑いが消える。
パンテーラだけは穏やかな顔のままだった。
「そうですか」
責めるでもなく、慰めるでもない。ただ事実だけを受け取る。
テンジアンが続けた。
「回収班の到着時には戦闘は終了していた。キミは戦闘不能。アキュラは目前にいた。それなのに、キミは生きている」
「……」
「何があった?」
アスロックは眉間へ皺を寄せた。
「銃を向けられた」
「じゃあ撃ち損ねたのか?」
ジブリールが身を乗り出す。
「違う」
アスロックの返答は短かった。
「……撃とうとしていた」
「だったら同じだろ」
「指が止まった」
ジブリールの口が閉じた。
テセオも端末から顔を上げる。
「……止まった?」
「引き金へ指を掛けていた。照準も外れていない。あの状況で、あの旧人類(オールドマン)が外すとも思えん」
アスロックは、あの時の白い銃口を思い出すように目を細めた。
「だが……撃たなかった。いや、撃てなかったように見えた」
「甘ぇな」
最初に切り捨てたのはジブリールだった。
「敵をぶっ倒して、トドメのところで止まるとか何考えてんだ」
「フィニッシュ直前で入力受け付けなくなる系バグっスかw 致命的すぎワロエナイ」
「LAST STEPでSTOP。そいつは戦場じゃBADだな」
ガウリも腕を組む。
ニケーは少しだけ首を傾げた。
「迷い……だったのでしょうカ」
「知らん」
アスロック自身は吐き捨てるように返した。
「旧人類(オールドマン)の内側など、オレに分かるものか」
テンジアンは短く考え、端末へ一行だけ記録を残した。
「……今は観測事項として扱う」
「それだけかよ」
「原因も分からない。再現性も不明。そんなものを作戦へ組み込めないよ」
「用心堅固ってヤツっスねw」
「そういうことだ」
そこでテセオの目が、隣のジブリールへ向いた。
「でもまあ、甘ちゃんムーブ自体は初見じゃないッスよねぇ?」
「……あ?」
「いやいや、別に誰とは言ってないんですケドw」
ジブリールの眉が跳ね上がる。
「テメェ」
「青くてビリビリしてる人とかぁ?」
椅子が派手な音を立てた。
「殺す!!」
「うわ図星判定出たww」
「待てテセオォ!!」
「退避ィ!!」
テセオが椅子ごと横へ滑り、ジブリールが机越しに身を乗り出す。
テンジアンはしばらくその光景を眺めた後、静かに咳払いした。
「……終わったかい?」
「終わってねぇ!」
「なら後にしてくれ」
「チッ……」
ジブリールは舌打ちしながら腰を下ろした。
その顔には、単なる苛立ちだけではないものが残っていた。
ガンヴォルト。
自分を真正面から打ち負かした少年。
《IRON MAIDEN》まで使って食らいついた自分を、それでも殺さなかった。
あの時の雷も、声も、目も、やけにはっきり覚えている。
「……甘ぇんだよ、アイツ」
無意識に漏れた声へ、テセオが反応しかける。
ジブリールは即座に睨んだ。
「次なんか言ったらマジで殺す」
「テセオさん、賢明なるログアウトを選択するんですケドw」
モニターの表示が切り替わった。
日本列島。
皇神の主要拠点、防衛圏、警戒区域が重ねて表示される。その上へ、これまでエデンが活動した地点が一つずつ追加されていった。
一見すると散らばっている。
しかし皇神の防衛網と重ねれば、規則はすぐに見えた。
どの地点も、防衛の密度が比較的薄い。
「本題だ」
テンジアンが地図を拡大する。
「僕らがこの国で大規模な活動を避けてきた理由は、今さら説明する必要もないだろう」
「皇神だろ」
ジブリールが答えた。
「ああ」
テンジアンが一つの主要都市を選択した。
「軽慮浅謀。この国の中心部へ入り、主要施設を占拠し、好き勝手に戦う。それが可能なら、僕らはとっくにやっている」
シミュレーションが始まる。
能力者による襲撃を検知。
封鎖線形成。
民間人の退避。
近隣部隊の展開。
数分もしないうちに複数方向から皇神戦力が集中し、さらに後方から高位能力者戦力が投入される。
侵入側の表示は、あっという間に包囲された。
「うっわ、改めて見るとクソゲーっスね」
「正面からFIGHTすれば、そのままNIGHTになる前にDOWNってワケか」
「……旧人類(オールドマン)の軍事組織としては、出来が良すぎる」
アスロックまで嫌そうに呟いた。
「問題は戦力だけじゃない」
テンジアンが通信中枢を指した。
「テセオ。落としてみて」
「了解っスw」
画面上で通信施設が侵食され、対象区域が黒く染まる。
「はい鯖落ちィ――」
次の瞬間、周辺三拠点へ通信が自動で迂回した。
「……はい?」
「次」
「じゃあ電力CUTでw」
主要電源を停止。
数秒後、独立電源が起動した。
「……」
「次」
「司令系統そのものを掌握するとか?」
施設へ侵入。
直後、皇神側から該当区画そのものが切断される。
指揮権が別拠点へ移った。
テセオの笑顔が少しずつ消える。
「ちょっと待ってほしいんですケド」
「まだあるよ」
「まだあんの?」
今度は一つの主要施設を完全破壊。
施設が消えた直後、周辺拠点が分担して機能を引き継ぐ。
ガウリがモニターへ近づいた。
「ONEをBREAKしてもNEXT、NEXT、またNEXT……しつこいSYSTEMだな」
「アイツの仕業か?」
ジブリールが露骨に顔をしかめる。
「紫電」
「ああ」
「本人いねぇのにムカついてきたんだけど」
「用意周到」
テンジアンは黒くなった施設を指でなぞった。
「紫電は、一枚の壁を絶対に突破されないようにしているんじゃない」
次々に切り替わる代替系統を示す。
「突破されても、全体が死なないようにしている」
「……性格悪くないッスか、この設計」
「防衛としては正しい」
「それが一番ムカつくんですケドw」
パンテーラが愉快そうに微笑んだ。
「以前よりも、随分と愛のある守り方になりましたね」
「なんで褒めてんだよ」
「敵を正しく理解することも、愛の一つですよ?」
「何でも愛でまとめんな」
ジブリールが即座に切った。
テンジアンは地図を元へ戻す。
「だから、僕らは皇神の薄い場所を選ぶ」
夢の島。
郊外。
廃棄区域。
主要防衛圏から外れた地点が順に表示される。
「皇神本隊が来る前に目的を達成して撤収する。それが基本だ」
「NO LONG BATTLE。必要なところだけTOUCHしてRUNってワケだな」
「ところが」
テンジアンが新たな表示を加えた。
AEGIS。
テセオが露骨に顔をしかめた。
「出た」
「皇神が薄い場所ほど、能力者事件への現地対応で彼らとぶつかる可能性が上がる」
画面上に四つの対応パターンが展開される。
保護。
封鎖。
調査。
排除。
やっていることはまるで統一されていない。それでも、発生した事件がそのまま放置されるケースだけは存在しなかった。
「何なんスかあの組織。方向性バラバラなのにレスポンスだけ異様に早いんですケド」
「それより面倒なのは、能力者だ」
テンジアンが一人の無名能力者を表示する。
「本来なら、旧人類社会から弾かれた能力者は、僕らの同志になり得る」
表示上で、その人物からエデンへ経路が伸びる。
途中でイージスが割り込み、経路を遮断した。
保護。
管理。
治療。
研究。
「先に拾われる、と」
アスロックが低く言った。
「そうだ」
「だったら奪えばいいじゃねぇか」
ジブリールの提案へ、テンジアンは首を横に振った。
「そのたびにイージスと戦うのかい?」
「……」
「僕らの目的は小競り合いを増やすことじゃない」
地図の上で、複数の能力者がそれぞれ違う経路を選んでいく。
「彼らが厄介なのは、単純な戦闘力だけじゃない」
テンジアンはそこで言葉を切った。
「能力者へ、エデン以外の選択肢を与えている」
誰も茶化さなかった。
パンテーラが席を立つ。
「だからこそ、わたし達には《電子の謡精》が必要なのです」
中央へ九つのミラーピースが表示された。
現在の保有状況が、その下へ並ぶ。
エデン、五。
アキュラ、三。
ガンヴォルトとシアン、一。
「全てを一つへ」
パンテーラの背後に、仮想上の《電子の謡精》が形成される。
「完全な力を得たわたしが、皇神の防衛線を突破する」
シミュレーション上のパンテーラが、皇神の防衛圏へ侵入した。
迎撃部隊が動く。
警報。
戦力集中。
「その瞬間に、僕らが動く」
テンジアンが操作を引き継いだ。
通信。
電力。
交通。
兵站。
監視。
指揮。
複数の主要機能へG7の名前が配置される。
「一つずつでは、紫電の切り替えに追いつかれる。なら同時に落とす。パンテーラへ対応している間に、防衛機能そのものを麻痺させる」
「ALL AT ONCE。ようやく俺らのSHOW TIMEってワケだ」
「そのためには」
テンジアンの手が止まった。
作戦配置の一ヶ所。
そこだけ、名前がなかった。
NIMROD。
その下には一語だけ表示されている。
EMPTY。
誰も口を開かなかった。
ほんの少し前まで、その位置には一人の男がいた。
海を好み、豪快に笑い、何だかんだで仲間の面倒を見る男だった。
テンジアンは数秒だけ空欄を見た。
それからアスロックへ視線を向ける。
「ニムロドで十分だ」
「……」
「これ以上、欠員は出せない」
アスロックも反論しなかった。
「今回、キミの回収班を即座に出したのもそのためだ。勝てないなら退け。ピースを取れなくても、生きて戻れ」
「……随分と甘いルセットだな」
「そう思うかい?」
「いや」
アスロックは空欄へ一度だけ目を向けた。
「……合理的だ」
ジブリールがそこで身を乗り出した。
「で?」
「何だい?」
「結局、そのピースどうやって集めんだよ」
非常に正しい疑問だった。
モニターが切り替わる。
アキュラ。
ガンヴォルト。
二人の戦闘データが並ぶ。
会議室が静かになった。
「……」
「……」
「……」
テセオが最初に耐えられなくなった。
「いや、マジでこれどーすんスか?」
「ぶっ倒して奪えばいいだろ」
ジブリールが即答した。
アスロックがゆっくり彼女を見る。
「……白い方には、グラントルタまで潰された」
「なんだよ」
「何も言っていない」
「その目やめろ!」
「それに青い方には――」
テセオが言いかけた瞬間、ジブリールが睨んだ。
「テメェもその先言ったら殺す」
「圧がすごいw」
ガウリが二人のデータを見比べる。
「ONEがHARDならTEAMでBEAT。二人か三人で囲めば?」
「一案だ」
テンジアンは即座にシミュレーションした。
アキュラ一人へG7三人。
勝率は上がる。
しかし、その横で別地点のGVが完全に自由になる。
「……あ」
「そういうことだ」
「じゃあ二人を離せばいいだろ」
ジブリールが言う。
テセオが二人の行動記録を開いた。
「えーっと……」
数秒。
「この二人、基本ずっと別行動なんですケドw」
「……」
「分断作戦、スタート前からクリア済みっスw」
「じゃあ意味ねぇじゃねぇか!」
「テセオさんに怒られても困るんですケドw」
「正面が駄目なら……盗む」
アスロックが提案した。
「戦闘せず、ピースだけ抜く」
「白い方にはRoRoがいる。本人も技術者だ」
「青い方は?」
「周辺の支援も含めて簡単ではない」
侵入成功率が表示される。
低い。
「じゃあ消耗させたところを狙うとか?」
「誰が消耗させるんスか?」
「皇神」
「こちらが入る前に確保される」
「イージス」
「こちらの都合で戦ってくれる組織じゃない」
「だったらオレたちで――」
ジブリールが言いかける。
テンジアンが静かに返した。
「それができるなら、最初から奪っている」
「……」
沈黙。
ニケーがゆっくり手を上げた。
「人質ハ……どうでしょう?」
なぜか、全員の目がジブリールへ向いた。
「……やめとけ」
即答だった。
「ほう」
「なんだよ」
「いや、何も?」
「その目やめろ!!」
ジブリールは机を叩いた。
「アイツ、人質取ったくらいで止まるようなタマじゃねぇんだよ! むしろ余計めんどくさくなる!」
「経験者のコメント、解像度高すぎなんスけどw」
「テセオォ!!」
「ログアウトォ!!」
テセオが椅子ごと後退した。
ガウリは笑いかけて、すぐにモニターへ目を戻した。
「じゃあWAIT。隙ができるまでSTAY――今はそれしかないんじゃねぇか?」
「現状ではね」
テンジアンが頷く。
「焦燥禁物。無理に取りに行く必要はない。二人とも人間だ。いつでも万全とは限らない」
アスロックが低く付け足した。
「……白い方は、一度止まった」
「ああ」
テンジアンの視線がアキュラのデータへ向く。
撃てる状況で、撃てなかった。
理由はまだ分からない。
偶然かもしれない。
だが、それまで一度も見えなかった綻びではある。
「観測を続ける。それ以上はしない。使える状況になった時だけ使う」
「青い方は?」
ジブリールが尋ねた。
モニター中央へGVの戦闘記録が呼び出される。
雷撃鱗。
カゲロウ。
VOLTIC WEB STRINGER。
そして表示が切り替わった。
《蒼き雷帝(アームド・エンペラー)》。
会議室が静まり返った。
「……あー」
テセオが嫌そうな声を出す。
「なんだよ」
「いや、作戦が成功したとして」
パンテーラが微笑む。
「これ相手、どうするんスか?」
今度は誰もすぐに答えなかった。
完全な《電子の謡精》。
それなら皇神の防衛線を突破できる可能性はある。
だが、そのパンテーラと《蒼き雷帝》を正面衝突させた場合、どちらが勝つのか。
保証できる材料はなかった。
「……勝てるかもしれない」
テンジアンが慎重に言う。
「けれど、それでは作戦にならない」
「だよな」
ジブリールが頭を掻いた。
「全部集めてやっと完成した切り札を、最後にアイツとのタイマンへ全部賭けるとか、さすがにバカだろ」
「珍しく超正論なんですケドw」
「珍しくってなんだテメェ!」
テンジアンはパンテーラとGVの表示を離した。
「ガンヴォルトとは戦わない」
簡潔な結論だった。
「パンテーラの役目は、彼を倒すことじゃない。皇神の防衛線を突破することだ。僕らが主要機能を停止させ、ガンヴォルトが到着する前に目的を完遂する」
「TIME ATTACKってワケか」
「そうなる」
「……で」
テセオが恐る恐る手を上げた。
「そのパンテーラ完成用のピースを、青いのと白いのが持ってるんスよね?」
「そうだ」
「……」
「……」
「…………」
ガウリが天井を仰いだ。
「FRONTはHARD。BACKもBLOCK。STEALもTRAPも全部STOP……」
しばらく言葉を探した末、肩を落とす。
「これ、どうすんだYO?」
「……調理法(ルセット)の問題ではない」
アスロックが腕を組んだ。
全員が彼を見る。
「食材へ……手が届かん」
再び沈黙。
今度ばかりはテセオすら笑わなかった。
皇神の厚い防衛網は突破できない。
その薄い場所ではイージスが動く。
だから《電子の謡精》が必要になる。
しかし完成にはミラーピースが必要で、その一部をG7級の戦力を単独で撃破できる二人が持っている。
苦労して完成させても、片方には《蒼き雷帝》まである。
しかも、最終作戦を支えるはずだったニムロドはもういない。
ジブリールが机へ額を付けた。
「……めんどくせぇ」
「マジレスすると、状況だけ見たらかなり終わってるんですケドw」
「笑えてねぇぞテセオ」
「本人も笑ってないっス」
テンジアンも小さく息を吐いた。
それでも、盤面から目を逸らさなかった。
「だからと言って、止まる理由にはならない」
全員の視線が戻る。
「今は待つ。機会を探す。ピースを集める。それまでは誰も欠けない」
モニターの端には、まだEMPTYの文字が残っている。
「そして条件が揃った時、一度で決める」
パンテーラが目を細めた。
「ええ。それでいいのです」
柔らかな笑み。
「愛とは時に、待ち続けることでもありますから」
「だから何でも愛にすんなって」
ジブリールが即座に返す。
その一言で、張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩んだ。
会議が終わると、皆それぞれの仕事へ戻っていった。
アスロックは新しい機体の設計を始めると言って整備区画へ向かい、テセオはその設計データを覗こうとして追い払われた。ガウリとニケーも先に部屋を出る。
最後まで残ったジブリールは、消し忘れられたモニターへ目を向けた。
画面には《蒼き雷帝》の記録が残っている。
蒼い雷。
その中心にいる少年。
自分を叩き伏せたくせに、自分が死ぬことだけは許さなかった、どうしようもなく甘い男。
「……甘ぇくせに」
口に出した途端、自分で腹が立った。
「なんなんだよ、アイツ……」
戦いたいから気になる。
今度こそ勝ちたいから覚えている。
借りを返したいだけ。
そういうことにしておけばいい。
ジブリールは乱暴にモニターを消し、仲間たちの後を追って会議室を出た。
こうして、エデンの戦いは続く。
立ちはだかるは、紫電率いる鉄壁の国防組織・皇神!
その防衛網の隙間へ目を光らせ、能力者事件へ駆けつける危機管理組織イージス!
そして行く手を阻む、蒼き雷霆ガンヴォルトと白き戦士アキュラ!
頼れる仲間ニムロドを失い、ミラーピース奪取への道は険しい!
ようやく《電子の謡精》を完成させたその先にさえ、《蒼き雷帝》という巨大な壁が待ち構えている!
それでも彼らは諦めない!
いつの日か、能力者たちの理想郷を築くその日まで――!
厳しい戦いにも負けるなエデン!
能力者の未来は、キミたちにかかっている!
『ねえねえ、ノワ! 聞いて!』
「はい、ミチルさま。どうなさいました?」
『わたしね、学校に行けることになったの!』
「ええ、存じております。シアンさまたちが見学の手配をしてくださいましたからね」
『えへへ! 学校ってどんなところなのかな? 授業を受けて、お友達とお昼ごはんを食べて、それから……!』
「ミチルさま、少し落ち着いてくださいませ。学校は逃げませんよ」
『だって楽しみなんだもん!』
「ふふっ。それは何よりです。ただし、くれぐれも無理はなさらないでくださいね」
『はーい! あ、そうだ! アキュラくんも一緒なんだよ!』
「ええ。アキュラさまも付き添ってくださるそうですね」
『アキュラくんにもお友達ができるといいなぁ』
「……そうですね。少々難しいかもしれませんが」
『大丈夫! だって、シアンのお話だと、アキュラくんと同じ趣味の人がいるんだって!』
「まあ。それは楽しみですね」
『それに、GVくんっていう人にも会ってみたいの!』
「シアンさまの大切な方、でしたね」
『うん! でも宿題をよく忘れるんだって!』
「……ミチルさま。そこは見習わないようにいたしましょう」
『あははっ! うん!』
「それでは、そろそろ予告を締めましょうか」
『あっ、そうだった! えっとね……!』
「次回、『蒼き雷霆 ガンヴォルト 爪』――」
『第11話「ミチルの学校見学」!』
「初めての学校、素敵な一日になるといいですね」
『うん! ねえノワ、明日が待ちきれないよ!』
「でしたら、今夜は早めにお休みくださいませ」
『えーっ! もうちょっとだけ起きてたい!』
「いけません」
『五分だけ!』
「駄目です」
『じゃあ三分!』
「短くしても駄目ですよ」
『むぅ……分かった! じゃあ最後は一緒に!』
「はい、ミチルさま」
『「次回も、グッドラック!」』