セイレーン(暗黒大陸産)   作:あんまん太郎

2 / 2
みきわめ

 

「うーん! 味濃くておいし~」

 

 ずずー、もぐもぐ、と。

 巨大な寸胴鍋から豪快に麺をすすり、嬉しそうにほっぺたを抑えながら、セイレーンはずりずりと赤い尾っぽと身体を揺らしている。

 人魚らしい珍妙な人面魚も、ギャリギャリと歯を立てて取り分けた器から麺を器用にすすっている。

 

「……ったく、数週間分の食材と非常食がパーだ」

 

 カップラーメンを箸ですすりながら、ジンは目の前の大食らいにため息を吐いた。

 事実、乗ってきた船に積んでいた大量の食料と非常食のカップ麺は、この一食で全て消費してしまっていた。

 セイレーンから所望された味の濃い料理──たこ焼きすき焼きケバブだのを例に挙げられたものの、こんな無人島でそんなものを作れるわけがなかった。仕方なく、大きな寸胴鍋にカップラーメンを大量に入れて、そこに野菜やら肉やら魚やらを適当に入れて、適当に調味料で濃い味付けを施しただけのラーメンを押し付けたが──どうやらこの生き物のお気に召したらしい。

 

 そうした交換条件というわけではないが、すっかり上機嫌になったセイレーンは、ジンからの質問になんでもペラペラと答えてくれた。

 しかし──

 

()()()()ねえ……」

 

 得られた話は、眉唾なものばかりであった。

 

 島民が暮らし観光客が訪れるような文化的な島に住み着いていた割に、「ニンゲン」という生き物は初めて見ただの。

 二頭身がメインの島民たちと共生していたが、ある日連れ立っていた人魚の一匹が、「永遠の命」目当てで島の誰かに食べられてしまっただの。

 そうして人魚を食べた犯人を捜している中で、観光客に邪魔をされるも、最終的に犯人は見つけられたので、()()()()()()()()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()だの。

 

 セイレーンは思いついたことから次々と話す上に、抽象的な言い回しが多い。

 そのため、時系列や言葉の意図はジンのほうで整理する必要はあったが──なんとなく理解はできた。

 また、()()()と言及した点とセイレーンとそもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()の介入などを疑ったが、ジンのような頭身や見た目の観光客は一切見たことがなく、その観光客も全員二頭身だったらしい。

 

(こいつの話を鵜呑みにするなら、西側にもある程度の文明が築かれてるってことだな)

 

 暗黒大陸は未知の世界かつ巨大過ぎるゆえ、あらゆる生き物による弱肉強食の世界が日夜繰り広げていると思われがちだが、人類生存圏と暗黒大陸を繋ぐ唯一の案内人(パイプ)の存在からも察せるように──あちら側(暗黒大陸)にも魔獣族あるいは亜人が棲み、一定の文明社会が形成されている。

 それが西側にも在るのは、特段意外なことではなかった。

 

 そんなことよりも。それ以上にジンが驚いたのは──上機嫌なセイレーンが不意に口ずさんだ()()()()()──島のあらゆる植物の生命力(オーラ)を増大させ、そうして肥大化・成長させ、セイレーンの支配下に置かれた瞬間を目の当たりにしたことだった。

 セイレーンの支配下に置かれた動植物は、簡単なプログラム通りの行動を取る自動操縦型(オートタイプ)のようではあったが、セイレーンの命令あるいは歌に応じて、複雑な行動もできるようであり、仕組みは謎だが、視覚共有などのたぐいもできるようだった。

 さらに歌により被操作者のオーラ総量を増大させることで、限界を超えた能力を無理矢理引き出しても被操作者が壊れることがないという点も大きい。

 

 何よりも──

 

(能力自体は操作系か放出系に属するんだろうが……一方で、コイツ(セイレーン)から感じられるオーラは垂れ流しのまま()()()()()()()

 

 だからこそ、ジンが上陸時に見た植物たちには第三者のオーラの痕跡が一切なかったのである。

 つまり、セイレーンの異能は、暗黒大陸から持ち帰られた希望(リターン)や災厄に近い性質を内在しているのかもしれなかった。五大災厄や希望(リターン)も、一概に念能力やオーラで説明できる範疇のものではないからだ。

 

「もしかしてまだ疑ってるのぉ~? 嘘なんて言ってないよ? 全部本当のことー」

「……その人魚を食ったら、永遠の命とやらが手に入る、ってこともか?」

 

 ギャ!?と人魚が驚いたようにジンを見る。

 うっすらとセイレーンがその猫のような眼を細めて見せた。

 

「……だめだよー? 人魚、食べようとしないでね~」

「しねーよ。()()()()なんざ、考えただけでも恐ろしいね」

「そうなの? 確かに、電池切れとかぁ、メンテナンスちょ~っと面倒だしぃ、やめといたほうがいいよお」

 

 クスクスと笑うセイレーンに悪意は一切ない。そこにあるのは、人間的な価値観から乖離した無頓着さと無垢な残酷さ。

 つまりは人の倫理など最初からハナにかけていない、でかくて強い存在としての隔たりそのものであった。

 

(けどまあ、その無垢が今はまだ救い(友好型)になってるか。……こっから人間側(コッチ)に深く踏み込んで、人間の底なしの悪意なり欲望なりを知ったあと、コイツがどうなるかは分かんねえがな)

 

 無知・無垢だからこそゆえに何が起きるかわからない危うさは大いにある。それはある意味、明確な悪意に基づく存在よりも時には厄介なものだった。自覚なしに災厄を拡散させられては、たまったものではない。

 そもそも、食べれば永遠の命(不老不死)が手に入れることができる眷属を二匹も連れている時点でほとんど災厄を連れてきてるようなものである。

 

「は~、どうすっかな」

 

 メビウス湖西側に張り巡らされているであろう厳重な監視網を考えると、もう5Vの一部調査員には情報が伝わっている可能性もある。

 ジンが珍しく頭を悩ませている一方で、呑気にラーメンをすすっている目の前の生物たちに呆れを通り越してむしろ清々しいほどの脱力感を覚えた。

 

「ねえねえ、毎日こんなご飯つくってくれない~? お礼に歌を歌ってあげるから~」

「そりゃあ、難しいな。俺はハンターなんでね、毎日同じ場所にはいねえし、料理ができねえ場所にも行ったり来たりするからな」

「エ~? そうなのぉ? じゃあ、他に作れる子、紹介してくれない?」

 

「紹介、ね……」

 

 ふむ、とジンは顎を撫でた。

 

「じゃあ、ひとつ交換条件がある」

「……人魚はあげないよお?」

 

 「ちげーよ」とジンは首を横に振る。

 

「──会ってもらいたい奴がいる」

 

 面倒になったジンは、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「助かったぜ。あんたがまさかサヘルタ合衆国にいたとはな」

 

「……ふーむ。十二支ん会議も数年バックれとるお前から直通で連絡が来るなんざ、ロクなこったねえだろうとは思っとったがのう……」

 

 島に上陸直後、アイザック・ネテロは、海面から半分だけ顔を出してこちらを不思議そうに見ている猫のような顔と丸い魚の顔を、つぶさに観察していた。

 人類生存圏にも存在しそうな魔獣の類にも見えるし、強者の気配も特に感じない。だが、問題は強いか弱いかということより、その身に宿している凶悪な希望(リターン)あるいは災厄についてである。

 

 ネテロとジンは、世間話もそこそこに情報を共有する。

 ことのあらましとセイレーンや人魚の話をジンから一通り聞き終えたネテロは、再びセイレーンたちに視線を戻した。ネテロの観察や二人の長話にすっかり飽きてしまったらしいセイレーンは、海で捕まえたイカをボール代わりに人魚たちとバレーのように遊んでいた。

 

「……しかし運が良かったの。こやつ(セイレーン)の言う通りの方向から来たとなれば──こっから西南は年中荒波の、大型船も潜水艦もロクに進めん海域じゃ。特に今はちょうど春のミスミ嵐も重なっとるし、普段は海の生態系調査を隠れ蓑にうろついとるV5調査隊も、あの大荒れの海じゃどうしようもなかったじゃろうて。まさに奇跡的タイミングよ」

「……てことは、合衆国の政府調査員はもちろん、密入してるV5監視員にも知られてる可能性は低いってことだな?」

「無論、ゼロとは言い切れんがのう。……むしろ協会からの依頼をほっぽり出して、なぜお前さんがここにいるかのほうが問い詰めたいんじゃが……」

 

「ね~え、いつまでひみつのお話してるのぉ?」

 

 ネテロがじとりとジンを睨め付ける前に、イカでのバレーボールにも飽きたしいセイレーンがすいすいとこちらに泳ぎ寄ってくる。

 

「秘密にしてねえよ。おめーらの処遇について話してたんだよ」

「しょぐう~?」

 

「そうさなあ」

 

 ネテロはその長い顎髭を撫でた。

 もしこの生き物の出身地が暗黒大陸であるとすれば。メリットデメリットはさておき、さまざまな学問の観点はもちろん、なにより──暗黒大陸への上陸・攻略という面で、セイレーンの存在には限りない価値があった。特に暗黒大陸の西側は東側と比べてもいまだに謎が多い。それを踏まえても、セイレーンはまさしく歴史を動かすターニングポイントといえた。

 

「ジン、お前も理解はしとるだろ」

「……人類からすれば青天の霹靂、公になりゃあ内陸全土を揺るがす大騒動になンだろーな。だが、()()()()()()()()()。答案をあらかじめ配られたテストに意気揚々と挑む馬鹿なんざいねーって話だぜ、()()

 

 騒動が起きる分には、実はネテロもジンも特段関心はない。

 ただ、気乗りしないという一点にあるのだ。

 セイレーンを公表すれば、すぐさま利益を求めるだけのハイエナたちが群がり、速やかに確保・隔離される。そうして、暗黒大陸への攻略は大きく進んでいくだろう。希望や災厄という類で終わらず、()()()()()()()()をもって会話ができるという点も大きいのだから。

 

 ネテロもジンも、暗黒大陸に行くこと自体は願ってもいない話だ。

 ネテロに至っては、一度目の失敗を経たからこそ再上陸は悲願ともいえる。もちろんそのために、暗黒大陸に関する情報は必要ではある。

 

 とはいえ、彼らのハンターとしての本質は、目の前にない『何か』を追い求めることである。

 

「……ま、黙っとくかの」

「ハハ」

 

「……ワシを共犯にするために呼んだな?」

「ジーさんのお墨付きがあんのはデケーからな。あと、バレても大目玉食らうのはあんただし」

「後半が一番の理由じゃろ。ま、それはそれで面白いかもしれんが……とはいえ、このまま放置するわけにもいかんじゃろて」

「だから、あんたの伝手とかで安全な場所への一時的な隔離をだな……」

 

「──ジン。お前さん、たしか息子がおるらしいのう」

「あ?」

 

 急になんだ。と言わんばかりにジンが顔を歪ませた。ジンにとって、息子の話はあまり触れられたくはない事案であったからだ。と同時に、ジンは嫌な予感がした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

神はただ、人の人生を操るだけだ(作者:俺よりあんたに必要そうだ)(原作:HUNTER×HUNTER)

制約と誓約の見返りって誰が決めてるの?うーん、このリスクならこのぐらいネンねぇ…って決めてるの?▼ってことでいっそスピリチュアルな念能力にしてしまおうって感じの話です。▼あとチー付与の半グレの末路を幻影旅団にも辿ってもらいたかった


総合評価:2034/評価:8.25/連載:7話/更新日時:2026年08月28日(金) 07:03 小説情報

メモリのムダ使い♡(作者:野菜丼)(原作:HUNTER×HUNTER)

ネテロ「あいつ、ワシより強くなれたんじゃねー?」▼ビスケ「500カラットのダイヤの天然原石を工業用カッターにしたバカ」▼ジン「きっしょ」


総合評価:554/評価:7.78/連載:2話/更新日時:2026年08月19日(水) 20:37 小説情報

気怠き女のサイヤ人(作者:イゴマル)(原作:ドラゴンボール)

一人で賞金稼ぎを続けてきた女のサイヤ人、リューベ。稼業に一息つくべく、長い休暇を過ごす星を求めた彼女だったが、安息の日々を送る星として探し当てた星は数多の危機が待ち受ける、安息とは程遠い運命の中にある星であった。▼ 本来存在すらしなかった筈の女戦士は、知る事も見る事も無かった戦いへと、不本意のまま巻き込まれて行くのだった。▼※文章の書き方については模索中です…


総合評価:387/評価:8.11/連載:4話/更新日時:2026年08月18日(火) 02:02 小説情報

最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)(作者:淵岳 月夫)(原作:HUNTER×HUNTER)

死にたくない。▼だが、死なないだけでは終われない。▼日本で死に、スラムに生まれ落とされた男は心に生と死の天秤をかかげながら、綱を渡るように物語を歩む。▼目指すのは、まだ見ぬ物語の続き──暗黒大陸。▼※念能力の考察を中心とした話です。考察を元にした独自設定もあります▼※おおよそヨークシン編を本編とする短い連載です▼※ sesamer様の『流れ者の考察記録』から…


総合評価:4573/評価:8.68/連載:6話/更新日時:2026年08月24日(月) 18:02 小説情報

ネオン父に転生したのでふんわりした未来知識で成り上がる(作者:パラレル・ゲーマー)(原作:HUNTER×HUNTER)

父親の葬儀を終えた翌朝、二十二歳のライト=ノストラードは前世の記憶を取り戻した。▼そして気付く。▼自分は『HUNTER×HUNTER』に登場した、ネオン=ノストラードの父親である。▼娘の未来予知能力《天使の自動筆記》を利用してマフィア社会を成り上がり、その能力を失った途端に没落していく――そんな未来が待っている男だった。▼「うわぁ……よりによってネオンの親父…


総合評価:5348/評価:8.59/連載:2話/更新日時:2026年09月01日(火) 21:51 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>