夜行バスで隣になった親子が自殺しに行くところだったので、考え直させて一緒に住んだら「あなたと結婚がしたいです」と言われたんだけど。 作:主義
僕の一人暮らしの部屋に親子がいる。
その親子というのは夜行バスで出会った、都村成美さん、娘の杏奈さん。二人は自殺しようとしていて、それが僕を止めた。
止めたのならその後の二人にも責任を取らなくてはならない。
なのであの後、僕は一人暮らしの家に戻る決断をした。推しのアイドルのライブも大切だけど、ここで親子だけにするのはまずい気がした。
『分かりました。では自殺は止めることにします』と成美さんから言葉を引き出すことはできたものの、その言葉が真実かも分からない。僕を騙すための嘘という可能性も全然ある。
だからちゃんと親子に付いていないといけない。
そして何より僕は親子を引き留める上で『僕はお二人に生きていて欲しいんです。お金に困っているのであれば出来る限りお助けします、住む場所や食べることに困っているのであれば全て提供します』と言ったのだ。
その責任はしっかりと取らないといけない。
「成美さん、杏奈さん、もう一度聞きますが、ここで一緒に暮らすということでいいんですか?」
「私は構いません。杏奈もそれでいいと言っていました」
「わかりました。では荷物などもあるでしょうから、前の家から引っ越し屋の人に運んでもらいましょうか」
僕の提案に対して、成美さんは「いえ、その必要はありません」と否定する。
「私も杏奈もあの家に戻る気はありません」
別に怒っているわけではないけど、確固たる意思があるように感じる。もう前の家に戻りたくないと。
「そうですか」
「ですが、お二人がここで生活するのであればものが足りないですよね」
洋服とかもない。彼女たちは本当に死ぬつもりだったようで、夜光バスに乗っていたタイミングでは私物をほとんど持っていなかった。財布ぐらいでそれ以外は何も持っていないのだ。
「いえ、私たちはこの身だけで生活できます」
「それはさすがに……」
これから僕は二人に生きたいと思わせなくてはならない。逃亡犯の生活ではないのだ。
「では必要なものを後で買いに行きましょう。お金に関しては僕は持つので」
どれだけ掛かるのか分からないけど、せめて普通の生活を親子が送れるぐらいにはしてあげたい。洋服などを含めて困らない程度には。
「そこまでしていただかなくても…」
「いえ、僕がしてあげたいんです。成美さんにも杏奈さんにも幸せと思ってもらえるような生活をね」
金銭面はどうにかなるけど、これからの課題はたくさんある。
成美さんは僕に対して「私たちはあなたに何を返せば…いいのですか?」と聞いてきた。
僕は間髪入れずに質問に答える。
「別に何も返して頂かなくて結構ですよ」
僕の答えを聞き、今度は杏奈さんが喋り始めた。
「ぼ、ぼく…たち…」
「いいんです。僕が好きでお二人を助けたんです」
ただの自己満足に近いのだ。別に見捨てるという選択肢もあった中で、ただ僕は死のうとしている人間を助けないのはあんまり良い気持ちになれないと思ったから、助けただけ。
どうやら僕の答えはお二人にとって満足のいくようなものではなかったようだ。
「ですが…」
「なにか…」
まぁ…でもなんで助けてくれたんだろうとは未だに思っているんだろう。何かやって欲しいことを言った方が二人も安心できるのかもしれないけど、僕には本当に何にもないんだよ。
それからちょっと考えた末に僕は一つの案を思い付いた。
「じゃあ、お二人は幸せになってください」
「幸せですか?」
「はい、僕はお二人が幸せになってくださったら嬉しいんです。それ以上のことは何も望みません」
それでも二人は不満そうな顔をしているものの、一先ずは納得してくれたようだ。
―――――
この家の主である、西寺卓也はトイレにいるため、今は親子だけだ。
「ねぇ…お母さん、あの人はなんでぼくたちを助けたの?」
「分かりません」
「うん、ぼくもわからない」
親子の中ではまだ西寺卓也という人間を理解しきれてないのだ。
でも、それは当たり前だ。
西寺卓也と親子が知り合ってまだ数日しか経過していないのだ。お互いを理解するにはまだ短すぎる時間だ。これから共に過ごしていく中で少しずつ相手を理解していくものだ。
「…ぼくたち、生きてるね」
「はい、私たちはまだ生きています」
「生きてても…楽しくない」
「そうですね」
親子にとって生きるというのは『苦痛』なのだ。死ぬ方が生きているよりもまだ良いと判断している。
そんな話の中、成美が娘の杏奈に対して質問を投げかける。
「杏奈は彼のことをどう思いますか?」
「…ちょっと変わった、優しい人?」
「私も同じようなことを思ってます。だからちょっとだけ興味があるんです」
「興味?」
「はい、私たちは彼と生活してどんな感情になるのか。今までのように死にたいと思うのか、それともまた違う感情を抱くのか…」
成美はどこか遠くを眺めていた。