『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
行き交う人波を避けながら、俺たちそのまま北へ進んだ。
周囲では、圏外になったスマートフォンを見て首を傾げる人がいるものの、それでもハロウィンの喧騒そのものはまだほとんど変わっていなかった。
しばらく進むと、建物と道路を分断するように黒い膜が進路を塞いでいた。
膜の向こう側には、見えないだけで普段どおりの街がある。車も走り、人も歩いている。時折、仮装姿の若者が外からこちら側に入ってくるが、出られないと怒鳴っている人たちを見て奇異の目を向けていた。
外からくる人たちにとっては、ハロウィンの催しか何かだと思っているのだろう。特に危機感もなく黒い膜を抜けてくる。
その中の一人が、まだ向こう側にいる連れへ何か声を掛け、戻ろうとして足を止めた。手を伸ばしても、今しがた通ってきたはずの黒い膜に阻まれている。そこでようやく異常に気づいて、表情を強張らせた。
そうした人たちも含めて、両手では足りない人数が《帳》を力任せに叩いていた。
「……本当に、壁みたいになってる」
山内さんも《帳》に手を当てる。
手のひらは黒いものに阻まれ、その先へ進まなかった。それはみんなも同じで、確かに実在する壁のような存在を現していた。
「これ、ヤバくない? ごじょー君も無理そう?」
「おそらくは。俺も、試してみます」
俺はウサギ頭を小脇に抱え直し、《帳》に近づいた。
空いた手を黒い膜に伸ばす。
「……え……?」
着ぐるみ越しに、指先に抵抗はなかった。そのまま手首が通り、手のひらが《帳》の向こう側に出る。
「……通った」
「五条だけ出られるのか?」
森田君の声に答えず、すぐに手を引き戻した。
指も手のひらも、何ともない。反発もなく、ただただ空気の中を動かすような感覚だった。
一般人を閉じ込める《帳》。原作どおりなら、この結界を自由に通過できるのは、呪術師。つまり、一定量の呪力を持ち、脳構造としても一般人と異なる者。
「俺に、呪力がある……?」
「じゅりょく?」
「すみません。まだ、どういうわけか俺にも分からなくて」
「でも、ごじょー君なら外に出られるんだよね?」
「……そうみたいです」
「じゃあ──」
「俺だけ出ても、意味がありません」
喜多川さんが言い切らないうちに続ける。
「警察を呼ぶのも、今はやめた方がいいでしょう」
《帳》の向こうには、ハロウィンの交通規制に出ている警察官だっているはずだ。事情を伝えれば、これ以上中に人を入れないよう、車だけでなく人に対しても規制をかけてもらうことはできるかもしれない。
けれど、俺だけがこの《帳》を出入りできると説明して、すぐ信じてもらえるとも思えない。確認や事情聴取に時間を取られる可能性も高い。それどころか、警察官が中を確認しようとして《帳》へ入れば、その人まで出られなくなる可能性がある。
外側の警察にできることはある。
ただ、まず話を通す相手としては、警察よりこの状況を理解している呪術師の方がいい。そちらを優先すべきだ。
連絡先は、当然のことながら一つも知らない。五条悟も、伊地知さんも、呪術高専も。前世で名前や顔を知っていても、電話番号までは知るはずがない。
けれど──
「もしかしたら、頼れるアテがあるかもしれません。そちらを目指しましょう」
七海建人か、禪院直毘人か。
七海さんなら、突然現れた見ず知らずの高校生の話でも、目の前の事実と切り分けて必要な部分は聞いてくれるはずだ。
直毘人は癖の強い人間だったように思うが、禪院家当主にして特別一級術師。実力も立場も申し分ない。少なくとも、異常事態を前に必要な判断を下せる人間ではあるはずだ。
どちらも候補になり得る。でも、より話が通じる方となると七海さんだろう。何より、ここからそれほど遠くない。
原作では、確か十三番出口近辺で待機していたはずだ。午後八時前後になれはそこにいたと思うが、いつになればという正確なところまでは覚えていない。そもそもこの世界でも同じ配置になる保証もない。
それでも、何の当てもなく歩き回るよりはずっといいはずだ。
十三番出口側までみんなで移動する。そこまで行ってから、俺だけ《帳》の外へ出て周囲を確かめればいい。七海さんがいれば、その場で話をつける。見当たらなければすぐ戻り、記憶の時間になってからまた確認をとる。それでもダメなら、全てが過ぎ去るのを待つしかない。
それに、呪術師がこの《帳》を通って内側へ入れるなら、外周沿いに進んでいれば途中で出会える可能性もある。
もちろん、原作知識を絶対視はできない。既に、原作にいなかった俺たちがこうして渋谷にいる以上、この先も同じ配置や順番で物事が進む保証はない。
だからこそ、みんなをおいて、一人で味方となる呪術師を探し回るような真似はしない。知っていることを目安にしながら、全員で動く。
「ひとまず、この壁に沿って移動しましょう」
「うん。じゃあこれはあたしが持つね」
そういって喜多川さんは、俺の抱えたウサギの被りへ手を伸ばした。
「ごじょー君、両手空いてた方がいいでしょ?」
「ですが、喜多川さんが……」
「へーきへーき! 塞がってても塞がってなくても、何かできるわけじゃないし、ごじょー君が自由に動ける方がいいでしょ!」
そこまで言われれば断る理由もない。俺はウサギの被りを喜多川さんへ渡した。
黒い兎姿の喜多川さんが、ピンク色のウサギ頭を抱える。その姿に、ほんの少しだけ緊張が緩んだ。
だまして悪いが、まだナナミンには会えないぜm9(^Д^)