TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
ヒロインの兄。
兄キャラと一言に言っても妹となるヒロインの属性や作品によって、実に様々な味付けをされる。そのため一概にしてこれが兄キャラだとは言えないが、大体シスコンだったりそうまでいかなくても妹に優しい存在として描かれることが多いように思う。
特に病弱系ヒロインの兄の場合はより顕著であり、多くの場合妹を溺愛しそれ故に苦悩し、時には主人公の前に立ちふさがりさえする。
病弱系ヒロインはそれ単体でも十二分に魅力的だが、妹を愛し、その幸せのために奔走する兄という存在によってより一層輝きを放つと言えるだろう。──兄妹愛良いよね……尊い……。
「兄君ですか?」
「えぇ。咲良はまだお会いしたことはなかったわよね?」
「はい。もちろん、おられるのは知っていましたが、直接お会いしたことはまだ一度も」
「仕方ないわよ。おに……兄様はお忙しいから」
咲良ちゃんがうちに来て早一年、こうして朝の準備を手伝ってもらいながら雑談が出来る程度には仲を深められていた。
それにしても幼い身空で他家の子女につけられるだけあって、咲良ちゃんは千歳ちゃんより少し年上なだけとは思えないほどしっかりしている。髪の手入れも、衣服の着つけも、洗顔や軽いお化粧も毎朝こちらが何を言う前にテキパキとこなすのだから、本当に大したものだと思う。
そしてそんな子が千歳ちゃんの全然肉がつかない華奢な体や伸びるのが遅い髪を見るたびに、何かをこらえるように目を細めるのは本当に興奮する。それと同時に少し申し訳なくもなるのだが……まあ、やめないけどね!
「衛府にて市中の警備や怪異共の討伐のお勤めを果たされているとのことですが、一年にも戻られない程お忙しいのですか?」
「……お忙しいのもそうなのでしょうけど、兄様は私のことあまりお好きではないのよ」
「そんなことはないと思いますが、兄が妹を疎むなど……」
「咲良の家では皆さん仲良しなのね」
「はい。ただ姉上や兄上もそれぞれのお立場がありますし、私も園城寺家に奉公に出ましたのでなかなか以前のようにとはいきませんが。れでも手紙のやり取りは続けております。少し前にも姉上から…千歳様なにか?」
「ふふっ。いやね、あの時はそういうことだったのねと思って」
「あの時と言いますと?」
「少し前、調子が良かったから外の空気を吸おうと思って廊下に出たら、咲良を見かけたの。それで声をかけようと思ったのだけど、あの咲良が珍しく鼻歌まで歌いながら、お手紙らしきものを読んでいたからやめておいたのよ。てっきり、意中のお方からの恋文か何かだと思っていたわ」
あの時の咲良ちゃんは写真に撮りたいような可愛らしさがあった。普段キリッとしている子が見せる砕けた表情はやはり良い⋯!ってなるよね、なった。
「千歳様⋯!」
「何も恥ずかしがることじゃないわ、咲良の年頃なら普通のことなのでしょう?」
「それはそうかもしれませんが、私はまだそんな相手は⋯⋯千歳様?」
「あぁ、ごめんなさい。ただ良いなぁと思って、ご兄妹からお手紙をもらえることが、私は貰ったことがないから」
これは結構本心である。折角、兄妹として生を受けたのだから仲良くしたい。しかし、どういうわけか兄様は千歳ちゃんと関わろうとしてくれない。こんな可愛らしい妹を放置するとは信じられない暴挙である。俺にこんな妹がいたら、それはもう溺愛しただろうに。
「⋯⋯だから兄君は千歳様のことがお嫌いだと?」
「えぇ。お父様やお母様には定期的に文を出されているようなのだけど、私には家を出て衛府の宿舎に移られてからは一度もないの」
「それは⋯⋯」
「まあ、兄様から疎んじられても仕方ないわよ。⋯⋯私は何の役にも立たないから」
「千歳様⋯⋯」
「こうして誰かの助けがないと普通の生活すら出来ない、こんな体だもの将来娶ってくれるような方さえいるかどうか⋯」
「千歳様!」
「ごめんなさい、咲良。朝からするような話じゃないわよね」
「……千歳様は陰陽互根という言葉をご存じですか?」
「陽があればこそ陰があり、陰があればこそ陽がある。反発しあいながらも依存しあい、互いが存在するからこそ存在できるという考え方よね」
「はい、確かに千歳様の境遇は普通の人とは異なります。しかし、だからといって必要がないなどということはないのです。千歳様という陰に対する陽、陽に対する陰。そんな存在が必ずおられます。⋯⋯少なくとも私は千歳様がいてくださって、とても嬉しゅうございますよ」
「咲良⋯⋯ありがとう⋯⋯」
「⋯少々喋りすぎましたね。さあ、早く朝の準備を済ませてしまいましょうか」
「咲良ったら照れてるの?」
「照れてなどいません!」
「ふふっ、そうねそういうことにしておきましょうか」
はっ?なにこの子?しゅきなんだが????
いやー咲良ちゃんは本当にいい子だ。お陰でこの1年、こんな感じで塞ぎ込みそうな病弱系ヒロインを励ます親友キャラというシーンを何度も摂取することが出来た。イベントCG回収しまくりである。
何がいいって咲良ちゃんは髪もそうだが、仕事着ということもあって汚れてもいいような黒い服が多い。そう!髪から肌から真っ白の千歳ちゃんとはまさに正反対!色味が白と黒で対極なのって映えて良いよね⋯。
このように俺の俺による俺のため病弱系ヒロインラブコメは着々と進行中であるが、やはり兄という存在がいるのに接点も作れていないというのは勿体なく感じる。まあ、今みたいな露骨に距離を取られているというのもアリといえばアリなんだが、肉親からの冷遇とかかなり薄幸で儚げなヒロインポイント高いからね⋯!
ただまあ、やはり兄様とは仲良くしたいなぁとは思っている。よりあけすけに言えば、俺はブラコンの兄による主人公への牽制イベントとか見たいし、それを嗜めるヒロインムーブとかも超したいのだ。その上でその途中で体調を崩したヒロインを2人が協力して助け、そして2人は認め合う的なイベントとかあったら最高だよね⋯⋯。ヤバいですよ兄様、これ絶対人気投票でサブヒロインとか押し退けて上位に来ちゃうやつですよ兄様。
そのためには兄様と友好的な関係を築いておく必要がある。少なくとも手紙も送ってもらえないような今の距離感では、そんなイベントは発生しえないだろう。まあ、もしそんなイベント等が起こらなかったとしても──やはり兄妹には仲良くしてほしいなと思う。
そうと決まれば話は早い、何としても兄様と仲良くなってシスコンの兄という使い古され、手垢に塗れまくったコテコテの存在にしてやろうじゃないか!!!
そんな決意をしてから数日後1年ぶりに帰省してきた兄様と話そうとお部屋を訪ねたら、咲良ちゃんだけ通されて千歳ちゃんは門前払いをくらった件について。
なんでだ!?一体千歳ちゃんの何がそんなに気に食わないんだ兄様……!この小さな可愛いお手々で兄様を握りしめながらお兄ちゃんと呼んだり、その時の反応が微妙だったから兄様に変えたりとこちらが出来うる工夫はしてきだぞ!
お兄様か?お兄様が良かったのか!?……俺に、俺にシスコンに辟易しつつも大切にしてくれることを喜んでいる病弱系ヒロイン(妹属性も追加)ムーブをさせてくれ兄様ぁ!
あ、あと普段は兄様とか硬い口調だけど甘える時はついついお兄ちゃんとか言っちゃうムーブもさせてくれ兄様ぁ!!!
直ぐに飽きられると思ったら思いのほか継続してくれて凄く…凄いありがたいけど……怖いです。
この文字数で小分けにして出すより数日に一回一万文字くらいの方が皆さん良いのだろうか?