鳥もどきの群れは逃げ去ったが、まだ校舎内に別の妖魔が潜んでいる可能性はある。浮かれて歩き回って、今度こそ奇襲でもされたら笑えない。
「静かだな……」
「あれだけド派手に暴れたからねぇ。近くにいた妖魔は逃げたんじゃない?」
「そうだといいけどな。さっきみたいに、あとからゾロゾロ来られても困る」
「あたしも弓を撃ちっぱなしだったから、しばらく大人しくしてほしいなぁ」
鶏崖さんが肩を回しながら苦笑する。
確かに俺も腕が重い。盾で何度も突風や爪を受け止めたせいか、指先まで痺れていた。それでも立ち止まってはいられない。
階段を上り、廊下を進み、屋上へ続く扉を開ける。幸い、そこまで一体の妖魔とも遭遇しなかった。
「ふぅ~。心配しすぎだったかな?」
「何もないなら、それが一番だろ」
「そうそう。平和が一番!」
屋上も当然のように荒れ果てていた。フェンスは所々倒れ、床には亀裂が走り、給水塔らしき物は半分潰れている。この荒廃した景色で言われても説得力がないけどな。
その端まで進み、下を覗き込む。
「うわっ……。高いな」
真下には、あの巨大な籠がある。
地上から見上げるよりも、実際に上から見る方が恐ろしい。足を滑らせれば、渡り人の俺たちならともかく、普通の人間はまず助からないだろう。
「これ、どうやって助ける?」
「ちょうど良い物があるよ!」
鶏崖さんがポケットから一つの宝玉を取り出した。
「
そう唱えると、鶏崖さんの手元にかなり長い一本のロープが現れた。
「そんな宝玉もあるのか」
「裏世界じゃ何が起こるか分からないからな。戦う物だけ持っててもしょうがないだろ?」
「なるほど……」
戦闘用の物ばかりと思っていたが、宝玉にも色々な物が存在するのだな。渡り人として活動を続けるのなら、こういう知識も増やした方がよさそうだ。
鶏崖さんはロープの片端を屋上の丈夫そうな柱へ何重にも巻き付ける。もう一方の端では、犬星が黙々と自分の腰にも結び始めた。
「じゃあ私が下りるね!」
「待て待て!危ないだろ!」
「大丈夫だって。こういうのは慣れてるから!」
「何で高校一年生が高所からロープで降りることに慣れてるんだよ!?」
「裏世界にいると、色々あるんだよ!」
笑いながら犬星は屋上の縁へ足をかける。
念のため俺と鶏崖さんもロープを掴み、支える。
「じゃ、行ってくる!」
「気をつけろよ!」
犬星は壁面を蹴りながら、ゆっくりと籠まで降りていった。
「お、おい!誰か来たぞ!」
「助けてくれるの!?」
籠の中から歓声が上がる。
「大丈夫!今から穴を開けるから、そこから離れて!」
籠へ足を掛けると、犬星はまず自分の腰へ結んでいたロープを解いた自由になったロープの端を籠の隙間から中へ垂らしてから、中の人たちを離れさせる。
そしてポケットから宝玉を取り出した。
「
剣を振るい、籠を構成していた木材や鉄骨を少しずつ切断していく。太い部分には何度か苦戦していたが、やがて人一人が十分に通れるほどの穴が開いた。
「よし!まず、自力でロープを登れそうな人から!」
「私が行こう!」
声を上げたのは、体格のいい男性教師だった。
先生はロープを両手で掴み、足を絡ませながら慎重に登り始める。
「羽菜ちゃ~ん!大和~!いいよ~!」
「よし!猪飼、補助するぞ!」
「オッケー!」
ここからだと籠の中の様子が分かりづらかったから、犬星が大声を出してくれて助かる。
俺たちは屋上からロープを張り、男性教師が登りやすいように支える。何とか先生が屋上まで上がると、すぐに次の救助へ取りかかった。比較的体力のある生徒には自力で登ってもらう。自力で登れない人の番になると、鶏崖さんが柱へ固定していたロープを解く。犬星が下で生徒の身体へ反対側を結び、俺と鶏崖さんが屋上からロープを引っ張って持ち上げる。
一人を引き上げるたびにロープを下ろし、次の人を結びつける。一人、二人、三人と、少しずつ救出していく。作業には時間がかかったが、幸い大きな事故は起きなかった。最後に犬星自身を引き上げ、ようやく全員が屋上へ揃う。
「た、助かったぁ……!」
「帰れる……帰れるんだ……!」
「うわぁぁぁぁぁん!」
生徒たちの中には、その場で泣き崩れる者もいた。
先生たちもほっとしたように肩の力を抜いている。
「本当にありがとう!」
「あなたたちが来てくれなかったら……!」
「さっき空を飛び回ってた子だよね!?」
「弓の人もすごかった!」
「どうもどうも~♪」
「いや、あたし一人じゃ何もできなかったって!」
気がつけば、犬星と鶏崖さんの周囲に人が集まっていた。二人へ次々と感謝の言葉が飛んでいく。
まあ、当然か……。犬星は妖魔の背中を飛び移りながら派手に戦っていたし、鶏崖さんは空から次々と妖魔を撃ち落としていた。籠からじゃ、俺が校舎の中で何をしていたかまでは見えなかっただろう。
実際、最初はあの鳥もどき相手にかなり苦戦した。俺なりに必死だったけど……。
「……もっと、安心させられるような戦い方ができればよかったな」
思わず、小さく呟く。
「キミ」
「えっ?」
顔を上げると、二人の先生が俺の前に立っていた。
籠の中から、俺たちへ逃げろと叫んでいた先生たちだ。
「キミも、人のためにボロボロになるまで戦ってくれてありがとう!」
「……俺を、見てたんですか?」
「もちろんです」
女性教師が優しく微笑んだ。
「あなたが一人であの大きな化け物を校舎へ連れていったところも、たくさんの化け物を自分へ引きつけていたところも見ていました」
「キミも、私たちを守るために戦ってくれていたんだろう。本当にありがとう!」
俺のことも、ちゃんと見てくれていた。
剣だってまともに扱えない。何度も失敗した。それでも、助かった人が目の前で俺に礼を言っている。
「……ありがとうございます」
自然と笑みがこぼれた。
強敵を倒した時より、誰かからこうして感謝される方がずっと嬉しかった。
「はいはい、感動しているところ悪いけど!」
パンッ、と鶏崖さんが手を叩く。
「いつまでもここにいたら、またあの鳥みたいなのが戻ってくるかもしれない。早く帰ろう!」
「そうだな」
「それでは皆さ~ん!今から帰り道を案内しま~す!はぐれないように一列になってくださ~い!」
「遠足の先生みたいだな」
「犬星先生ですから!」
「その肩書きまだ続いてたのかよ」
俺たちは迷い人たちを連れ、再び図書室へ向かった。
途中も妖魔には遭遇せず、無事に到着する。
「うっわー……」
改めて見ると、裏世界の図書室は酷い有様だった。
本棚は軒並み倒れ、床一面に本や木片が散乱し、俺がリーダー格と戦った跡がはっきりと残っている。
「猪飼……これ、お前がやったのか?」
「……半分くらい」
「半分でも十分すごいよ」
鶏崖さんが呆れたように笑う。
幸い、ゲートの残滓が残っている場所だけは瓦礫に塞がれていなかった。図書室を探ると、一ヶ所だけではなく、何ヶ所にもゲートの痕跡が残っている。どうやら全員が同じゲートから引きずり込まれたわけではないらしい。
「これなら全員帰せそうだね!」
犬星と鶏崖さんが、それぞれ残滓の状態を確かめていく。
俺には違いがよく分からないが、二人には残っている力の強さが分かるらしい。
「こっちは二人くらい。そっちは……三人いけるかな」
「これ、別々のゲートを使って大丈夫なのか?」
ふと気になって尋ねる。
「うん。どれも表世界側は図書室につながってるよ」
犬星が痕跡へ手をかざしながら答えた。
「吸い込まれた場所が少しずつ違うだけみたい。帰った時も、この図書室の中に出ると思う」
「なら安心か」
俺たちは残っている力に合わせて、迷い人たちをいくつかのゲートへ振り分けた。
「これを通れば、本当に帰れるんだな?」
「はい!目を閉じて突っ込めば、気付いたら元の場所です!」
「その説明で大丈夫なのか……?」
「大丈夫大丈夫!」
生徒たちは不安そうにしながらも、一人、また一人とゲートへ消えていく。
最後の方になり、先ほどの先生が俺たちを振り返った。
「本当にありがとう。この恩は、一生忘れません」
その言葉に、俺たち三人は同時に黙った。
表世界へ帰れば、この人たちは裏世界で起きたことを全て忘れる。当然、さっきの俺たちの活躍も。
「……どういたしまして!」
最初に答えたのは犬星だった。
「忘れても、無事に帰れればそれでオッケーです!」
「……?」
先生は意味が分からないように首を傾げながらも、笑顔を返してゲートへ入っていった。
最後の一人が消えて、図書室に残ったのは俺たち三人だけとなった。ここで鶏崖さんが呟く。
「……なんか、ちょっと寂しいな。あんなに感謝してくれたのに、帰ったら全部忘れちゃうんだから」
「うん。でも、生きて帰れたならいいよ。覚えてもらうために助けたわけじゃないもん!」
「……それもそうだな」
犬星の言葉に納得したのか、鶏崖さんは微笑んだ。
ふと、床に散乱した本の間で、小さく光るものが見えた。
「んっ?……あっ!」
屈んで拾い上げると、それは俺の『
「見つかったんだ!良かったね!」
「ああ。完全に失くしたと思ってた」
掌へ戻った宝玉を見て、思わず安堵する。
それほど長く持っているわけでもないのに、不思議ともう愛着が湧いていた。
「じゃあ、俺たちも帰るか」
「待った!」
ゲートを出そうとした瞬間、鶏崖さんが止めた。
「ここで表世界へ戻ったら、図書室にいきなり三人現れることになるだろ?」
「あっ」
「まだ学校に残ってる人もいるだろうし、見つかったら色々とめんどくさいことになる」
「危なっ!じゃあ、学校の外まで移動しよう!」
裏世界の校舎から出て、表世界でも人通りが少ないはずの場所まで移動する。俺たちはそこで、それぞれ専用のゲートを作った。一足先に犬星が表世界へ戻り、少ししてからゲート越しに顔だけを覗かせる。
「誰もいないよ~!」
「そんな確認方法ありなのかよ……」
「便利でしょ?」
犬星に続き、俺と鶏崖さんも表世界へ帰還した。
表世界の校舎は、何事もなかったように静かだ。あれだけの騒動があったのに、こちらの世界だけを見ていると嘘みたいだった。夕方から夜へ変わり始めた空を見ながら、犬星が大きく伸びをする。
「いやぁ~!今日は頑張ったねぇ!ということで、祝勝会を開催しま~す!」
「急だな」
「いいじゃん!せっかく三人とも生きて帰れたんだし!」
「まあ……あたしも賛成かな。ちょっと腹減った」
「じゃあ決まり!」
そのまま俺たちは、学校近くのコンビニへ向かった。
店内で各々好きなお菓子や飲み物を買い、店の外にあるベンチへ座る。犬星が炭酸飲料のペットボトルを高々と掲げる。
「それでは皆さん!初めて三人で戦って、全員無事に帰ってきたことを祝して~!乾杯!」
「「乾杯!」」
三つの飲み物を軽くぶつける。
さっきも三人で変なジュースを飲んだばかりだ。でも、今回は意味が全然違う。
「それにしても驚いたよ。鶏崖さんも渡り人だったなんて」
「あはは。あたしも猪飼が渡り人だったことにビックリしたけどね」
「羽菜ちゃん、私より前から渡り人なんだよ!」
「えっ、そうなのか?」
「中学三年の頃からだよ」
「つまり……渡り人の先輩か」
「別に威張れるようなことじゃないって」
鶏崖さんは苦笑しながらポテトチップスを摘まむ。
「それにしても、何で俺たちが裏世界にいるって分かったんだ?」
「教室で言っただろ。『裏』って」
「あっ……」
「あれ聞いた時、もしかしてって思ったんだよ。犬星もすぐ反応したし。その後を追って図書室に行ったら、ゲートの痕跡が残ってたから」
「なるほど……」
隠したつもりだったのに、相手が渡り人なら完全に筒抜けだったわけか。
「あっ、そうだ」
そこで俺は、まだ手元に残っている物を思い出した。
ポケットから一つの宝玉を取り出す。
「鶏崖さん、これ」
「んっ?」
「借りてた『シールド』。ありがとう。助かったよ」
鶏崖さんの掌へ宝玉を乗せる。
すると何故か、彼女は少し驚いた顔をした。
「……本当に返すんだ」
「えっ?」
「いや。てっきり借りパクされるかと思ってた」
「何でだよ!?借りた物は返すだろ!」
「あははは!そうだよな。普通はそうだよな」
鶏崖さんは少しだけ遠い目をし、それから笑った。
「猪飼って、優しい奴なんだな」
「これくらいで言われるほどじゃないだろ」
「……そうだね」
鶏崖さんは笑ったが、その笑顔はほんの少しだけ苦かった。
以前に宝玉関係で嫌なことでもあったのだろうか。返事が妙に引っかかった。けれど、犬星が横から鶏崖さんへ抱きついたせいで、それ以上聞く機会を失った。
「羽菜ちゃ~ん!今日は助かったよぉぉぉ!」
「うわっ!?ジュース飲んでる時に抱きつくなって!」
「今日から羽菜ちゃんは命の恩人!」
「それならあたしも犬星に助けられてるだろ!」
「じゃあ相互命の恩人!」
「何だそれ!」
騒ぐ二人を見ていると、俺も思わず笑った。
今日、俺が何の役にも立たなかったわけじゃない。籠の中にいた先生たちは、俺のこともちゃんと見てくれていた。俺が敵を引きつけたことにも意味はあった。それは分かった。
だからといって、今日の戦い方まで全部正しかったことにはならない。リーダー格を倒した後に油断して武器を失った。丸腰のまま数十体へ突っ込もうとした。鶏崖さんが来なければ、犬星が戻らなければ、その先がどうなっていたのかは考えるまでもない。
「……運がよかったよな」
考えているうちに、そんな言葉が口から漏れた。
「むぐっ!?」
その瞬間、口に何か長いものを突っ込まれた。
慌てて引き抜くと、長い麩菓子だった。
「何すんだ犬星!?」
「大和、さっきから難しい顔してる!」
「だからって口に麩菓子突っ込む奴がいるか!?」
「ここにいます!」
「胸張るな!」
咳き込みながら水を飲む。
犬星は笑っていたが、その目だけは少し心配そうだった。
「大和、なに考えてたの?」
「……別に」
「嘘」
「即答かよ」
「だって大和、反省してる時の顔になってるもん」
「俺の顔にそんな種類があるのか……」
「あるある」
鶏崖さんもこちらを見る。
「何か気になることがあるなら言いなよ。さっき言っただろ?話くらいなら聞くって」
「……」
少し迷ってから、今日考えていたことを素直に話した。
「俺……今日、かなり危ない戦い方してたなと思って」
「危ない戦い方?」
「ああ。最初に囮になったところまではよかったと思う。でも、リーダー格を倒した後に油断した。武器も落とした。最後なんて、丸腰で何十体も相手にしようとしてた」
「うん」
「今回は鶏崖さんが来てくれた。犬星もいた。だから助かった。でも次もそうとは限らない」
ペットボトルを握る手に少し力が入る。
「俺がやったことにも意味があった。それは先生たちに言ってもらえて分かったよ。……でも、もっと上手いやり方はあったんじゃないかって思う」
しばらく沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは、鶏崖さんだった。
「あたしからすれば、猪飼のおかげですっごく戦いやすかったけどな」
「俺が?」
「そうだよ」
鶏崖さんは当然のように言う。
「あの数の妖魔が空を飛び回ってる状況で、あたし一人じゃ矢を撃つ余裕なんてなかった。猪飼が前で盾を構えてくれたから、安心して狙えたんだ」
「でも、その盾だって鶏崖さんの……」
「誰が持ったって同じじゃないよ」
鶏崖さんは少し強い口調で遮った。
「あんな突風と爪を何回も受けても、逃げずに前へ立ち続けたのは猪飼だろ?」
「……」
「それに!」
今度は犬星が身を乗り出す。
「大和が最初に大声で妖魔たちを怒らせてくれたから、籠のみんなから妖魔を引き離せたんだよ!」
「でも、あれはただ怒鳴っただけで……」
「その“ただ怒鳴っただけ”が大事だったの!」
犬星は人差し指を突きつける。
「私はいっぱい斬った。羽菜ちゃんはいっぱい撃った。でも、その前に大和が敵をこっちへ向かせてくれた。だから戦えたの!」
「猪飼の戦い方は派手じゃなかったかもしれないけどさ、ちゃんと役に立ってたよ。少なくとも、あたしには必要だった」
その言葉に、胸の奥へ残っていたものが少しだけ軽くなる。
俺にもできたことはあった。
「ただし」
「んっ?」
鶏崖さんの声が、少し低くなった。
「武器もないのに三十体近い妖魔へ喧嘩売ったのは、普通に馬鹿だからな!」
「……はい」
「あたしが来なかったらどうしてた?」
「壁とか柱を使って……」
「それで全部倒せたと思う?」
「……無理だったと思います」
「だろ?」
鶏崖さんは俺の額を軽く小突いた。
「役に立ったことと、無茶したことは別。そこをごっちゃにするなよ」
「……肝に銘じます」
「よろしい!」
鶏崖さんは説教を終えると、にやっと笑う。
何でも肯定してくれるわけではない。良かったところは認めて、駄目だったところは駄目だと言ってくれる。そのことが少しありがたかった。
「よぉし!大和が復活したところで、お菓子追加しよう!」
「まだ食うのか!?」
「戦った後だからお腹空いた!」
「あたしも賛成。今度は甘いもの買おうかな」
「じゃあ大和のおごりね!」
「何でだよ!?」
三人の笑い声が、夜のコンビニ前へ響く。
ほんの数時間前まで、命懸けで妖魔と戦っていたとは思えない。それでも、こういう時間があるから、また頑張れるのかもしれない。俺はそう思いながら、残っていた麩菓子を口へ放り込んだ。
◇
一方、その頃。裏世界の彩間高校。
第一校舎から少し離れた別の校舎、その屋上に一人の男子生徒が立っていた。崩れかけたフェンスへ背中を預け、遠くの第一校舎をぼんやりと眺めている。つい先ほどまで、あちらでは鳥のような妖魔たちが空を埋め尽くしていた。
怒鳴り声、破壊音、無数の羽音、そして戦う三人の姿。男子生徒は、校庭で繰り広げられた戦いを遠巻きに眺めていた。助けに入ることもなければ、危険を知らせることもしない。ただ、面白そうに眺めていただけだった。
「へェ~……」
小さく声を漏らす。
一番印象に残ったのは、青緑色の髪をした男子生徒だった。剣の扱いは下手。動きだって素人同然。なのに、空を飛ぶ妖魔を怒鳴って地上へ引きずり下ろし、勝てない相手を校舎へ誘い込んだ。次に姿を現した時には、あの大きな妖魔はもういなかった。挙げ句の果てには、何十体もの妖魔を前にして、一人で大声を張り上げて戦おうとした。
普通なら逃げるのが得策だ。自分なら、あんな面倒事へわざわざ首を突っ込もうとは思わない。
「あんな面白そうな奴がいたんだな」
男子生徒の口元が、ゆっくりと吊り上がった。まるで、新しい遊びでも見つけた子供のように。やがて一本の長い槍を肩へ担ぎ、第一校舎へ背を向ける。
男子生徒は崩れかけた校舎の奥へ姿を消していった。