ずっと気になっていたことを口にする。
同じ高校で、隣の席の女子。授業中はよく寝ていて、先生にもよく怒られていて、変なことばかり言っていた女子。でも今の彼女は、学校で見ていた姿と全然違う。
剣を使って化け物を倒し、異世界みたいな場所を歩き回り、当たり前みたいに人助けをしている。
「う~ん……」
彼女は数秒だけ考えるように唸ると、へらっと笑った。
「裏世界の平和を守る、正義の女子高生?」
「絶対違うだろ」
「バレたか~!」
全然答える気がない。まあ人は誰しも答えたくない秘密が一つや二つあるもの。それを無理して聞く必要はないか。
「……ッ!!」
刹那、ゾクリと背筋を冷たい何かが這った。さっきまでの妖魔とは違う。もっと嫌な、“何か”の視線が刺さる。彼女もそれを感じ取ったのか、ほぼ同時にそこに振り向く。
視界に映ったのは遠くにある、上層階まで崩れた高層ビル。その上層部から、金属がねじ切れるような音が響き渡る。周囲にいた妖魔たちが、一斉に逃げ始めた。俺たちの視線を感じたのか、突如としてビルの外壁が吹き飛ぶ。コンクリートの破片が宙に舞い、落下と共に地面が微かに揺れる。
そして大きく空いた壁から、“何か”は覗き込むように姿を見せる。
「なっ……あっ……?!」
「あっちゃ~……。よりにもよって、こんな時に……。」
俺は思わず言葉を失い、彼女もさっきまでの余裕な態度が消えてしまう。
現れたのは、1体の化け物。さっきの妖魔と姿形や大きさはほぼ一緒。だいたい1メートルくらいで、俺たちと比べて小さい。だが、あふれ出ているオーラが違う。
化け物は、その黄色い目を明確にこちらに向けていた。
「……ねぇ、いきなりだけど走れる?」
「えっ?」
「ごめん、やっぱ無理してでも走って!」
有無を言わせない勢いで彼女は俺の腕を掴み、近くの建物の中へ駆け込む。
俺たちの行動に化け物は少し唸りをあげると、何の躊躇もなく壁から飛び降りる。高層ビルの足元に、再びドーンと土煙と共に落下音が響く。普通なら死んでもおかしくはない衝撃音。だが、化け物は何事もなかったかのように土煙から出てきた。そのまま俺たちを見失わないように全速力で後を追う。
「嘘だろ!?あんな高さから落ちたっていうのにピンピンしてやがる!」
「いつ見てもすごいよね!まるでゴムみたい!」
「呑気なことをいっている場合か!?これからどうするんだ?!」
「とりあえず隠れよう!」
色んな建物を出たり入ったりして動き回り、最後に小さな商店に入って息を潜めた。距離があったおかげで、難なく化け物の視界から消えることができた。だが、かなり執念深いのか俺たちが通った道を辿りながら、ゆっくりと探し回る。
「はぁ……はぁ……」
「強引に引っ張ってごめんよ~。痛かった?」
「いいや、大丈夫。むしろ助かったよ。アレが出てきた瞬間、固まって動けなかった。この世界に残るって言った矢先にこれだ、自分が情けない……」
「慣れない人は誰だってビビっちゃうよ。しょうがないって。……おっと、足音が聞こえた。もう近くまで来ているのかな?」
商店の扉を少し開いて外の様子を見ると、化け物はまだ遠くの方にいる。完全に俺たちを見失っているみたいだ。よく見ると、化け物の口から大量の涎が流れ出ていた。
「涎がすごいな……。食べる気満々かよ」
「妖魔は人間が大好物だからね~。だからさっきの3体も必死にお姉さんを追いかけていたんだよ」
「ホントに化け物だな、妖魔ってのは。ってか、アイツも妖魔の一種なのか?」
「そっ。裏世界にいる生き物は、人間以外はみ~んな妖魔って認識で大丈夫だよ」
今の言い方だと、裏世界には妖魔だけじゃなく人間もいるのか?
そう疑念を抱くと、彼女はおもむろに商店内に片手を振り回す。ゲートを探してくれている。今の俺は、彼女にとって足手まといでしかない。早く俺を表世界に帰して、彼女も早くこの窮地から脱出したいはずだ。自分のことでもあるから、手伝いたいが何をすればいいのか分からず、ただその場でジッとすることしかできない。
今日ほど自分が無力だと感じた日はない。やはり俺は情けない人間だ。
「……それっぽい気配はないし、やっぱこの辺にはないのかな」
「もしかしてゲートってのは希少なものなのか?」
「どうなんだろう?たくさんパパパンって見つかる時もあるけど、しばらく見かけないこともあるって感じ」
つまり不規則、ということか。
何かしらの法則がないのなら、彼女のように手当たり次第に腕を振り回す方が一番有力かもしれない。見つけられるかどうかは別として。
「う~ん……。ここにじっとしてもしょうがないから、別の所で探そう。あの妖魔も諦めてどっかに行ったと思う……」
そう言いながら再び外を覗こうと、彼女が扉に触れようとした。その時、扉は勝手に開いた。この商店の扉は自動ドアではない。
開けたのは、あの妖魔だった。どうやら俺たちの話し声を聞きつけて、商店の前まで歩み寄ってきたみたいだ。思いがけない登場に、流石の彼女も一瞬固まってしまう。
「……。も~~~し訳ございませんお客様!本日は諸事情により休業なんですよ~?またご来店をお待ちしておりま~~~~~……」
まるで商店のスタッフみたいな振る舞いで、彼女は妖魔の入店を拒否するようにさりげなく扉を閉める。一瞬「えっ、それで何とかなるのか!?」と思ったが、そんなわけがなかった。妖魔はようやく見つけた獲物に牙をむき出しにして、今度は力強く扉を開く。
「
扉が開く瞬間、彼女はそう叫ぶと右の握り拳が光る。
そういえばさっきふざけたことを言いながら、片手をポケットの中に入れていた。またあのビー玉を取り出していたのか。
「そぉらぁッ……!!」
さっきの長い剣が出現すると、彼女は強く握りしめる。掛け声と同時に一歩踏み込み、妖魔のガラ空きの胴体に向けて剣を突きつける。
この奇襲に妖魔は対応が遅れ、もろに彼女の攻撃を受けて大きく後ろへ吹き飛ばされた。
「すっご……!アレを押し飛ばすなんて!」
「違う……!私はいつも斬ろうとしているんだけど、斬れる前に弾力で飛んで行っちゃうんだよ!ホント、すっごく柔らかいんだよね、アイツ」
悔しそうな表情を浮かべて彼女はそう語る。
確かに彼女の攻撃が入った時、妖魔の体がゴムみたいにぐにゃりと歪んだのが見えた。ずっと高層ビルから落下して無事だったのが気になっていたが、もしかしてあの妖魔の体はものすごい弾力性があるのか?痛覚があるかどうかは別として、刃物を通さない程となると……かなり厄介だ。
「そんな顔しないで、縁起でもないな~!ため息つくと幸せが飛んでいっちゃうよ?」
俺の中に不安と恐怖が募っていく中、まるでそれらを優しく払ってくれるように彼女は声をかけてくれた。
「ちょっと外で遊んでくるから、
作り笑顔なのか、それとも自信なのかは分からない。ただ、彼女は俺のために安心させるような微笑みを見せながら、1人だけ商店から出て行った。
「えっ、待っ……」
本当に勝てるのか?無理していないのか?また逃げないのか?
そう呼び止めようとするよりも速く、彼女は妖魔の元へと駆け出した。長い剣を軽々と振り上げ、その勢いのまま攻撃を仕掛ける。
「よっしゃッ、今日こそ決着の時だァ!!」
対する妖魔は低く唸り声を上げながら前傾姿勢を取って殴りかかる。剣と拳がぶつかり合った瞬間、周囲に衝撃波が走る。
「ッ……!?」
分かってはいたが、やはり見た目が多少似ているだけで、さっきの妖魔たちとは力量が比べ物にならない。
勢いもあって強いはずなのに、今度は彼女の方が押し返されてしまう。
「うおっとぉ!?」
彼女は宙を一回転して体勢を整え、次は剣を横薙ぎに振る。ザンッと妖魔の胴体は斬られ……なかった。
妖魔の胴体がぐにゃりと歪み、強く反発して刃を押しのける。
「もぉーっ!全然巧く斬れないィッ!!」
呑気に文句をたれている場合じゃない。
その隙を狙うように、妖魔の腕が鞭みたいにしなる。
「……っ!」
彼女は咄嗟に剣で受ける。だが、防いだはずなのに彼女の身体が数メートル吹き飛んだ。道路を滑りながらも、彼女はなんとか着地する。
「いったぁ……!相変わらず馬鹿力……!」
軽口を叩いているが、いつもの余裕が少しだけない。呼吸が浅く、笑顔が硬い。
妖魔は追撃するように唸り声を上げる。その口元から、大量の涎が地面へ垂れていた。本気で食う気だ。
「
彼女の剣が再び輝く。刀身を覆う光が強くなる。
「今度こそ、いっけぇぇ!!」
剣を振り下ろすと、光の斬撃が一直線に走る。
だが、妖魔の身体が波打つように歪んだ。斬撃が命中した瞬間、身体全体がぶよんと変形し、衝撃だけを受け流す。今度はこっちが反撃だと、妖魔はそのまま突っ込んできた。
「えっ、ウソ!?」
避けきれない。妖魔の肩が彼女へ激突する。
「かはっ……!?」
彼女の身体が建物の壁へ叩きつけられる。あまりの衝撃にコンクリートはヒビが走り、彼女は剣を手放してしまう。
「あっ、武器が!?」
剣は商店の近くまで吹き飛ばされてしまい、這いつくばる彼女はあからさまに動揺を見せる。
ジワジワと歩み寄ってくる妖魔を一瞥すると、今度は悔しそうな表情へと変える。
「くっ……!これまでか……!」
言葉の意味を理解したのか、それとも彼女の様子から攻撃手段がないと悟ったのか、妖魔はあくどい笑みを浮かべる。終戦したと思い、妖魔は彼女に腕を伸ばす。
傍から見れば絶体絶命の状況。だが、俺の心境には焦りという感情は生まれなかった。倒れたまま左手を、もう一方のポケットへ滑り込ませる彼女に……とてつもなく演技臭く見えたから。
「……
腕が目前まで迫った瞬間、彼女はニヤリと笑みを見せてそう唱える。
再び彼女は手に剣を出現させて、至近距離で攻撃をする。完全に油断していた妖魔は避ける余裕はなく、彼女の一撃が顔面に入る。今までと変わらない剣先での突きだが、これに妖魔は初めて膝から崩れ落ちて悲鳴を上げた。
「攻撃が効いた!?」
「
好機を作った彼女は剣を消して、そう言いながら俺の元へ走ってきた。
そうだ、感心している場合じゃない。結局あの妖魔を倒し切れていないから、危険な状況なのは変わりない。かなり痛烈だったのか妖魔は両手で顔を覆っている。視界を奪った今、全速力で距離を取れる。
商店を立ち去り、再び色々なビルを出たり入ったりする。裏世界にきてから走ってばっかりだが、疲れたとは言っていられない。あの妖魔から懸命に逃げ切ることしか考えない。雑居ビルに入って、ある程度の距離を取れたと思うと、俺たちはいったん腰を下ろして休憩する。
「ふぅ~!ここまで来れば、とりあえずは安心かな?いや~、走った走った!」
「はぁ……はぁ……!あれだけ攻撃を受けたってのに、随分と元気だな」
「まぁね~。渡り人はかなり丈夫な体だからね」
また訳の分からない理論を……。
まあ、こうして元気な姿を見て安心したよ。
「にしても最後の一撃、何であんなにダメージが入ったんだ?他のは全部なんともなく弾き返されていたのに……」
「ふっふ~♪ねぇ、目を閉じた状態でも目潰しをされたら痛いと思う?」
「痛いに決まっているだろ!?」
「そういうこと!」
返答の意味が分からず首を傾けてしまう。
しょうがないなぁ~と彼女はそのまま補足する。
「どんなに全身が柔らかくても、眼みたいな繊細な部位が思いっ切り刺されちゃうんだよ?そりゃ痛くて痛くてたまわないでしょ~」
「その辺の痛覚は人間と同じなんだな。というか改めて聞くと、結構グロいことしたんだな……」
「生き延びるためにはしょうがない!……まっ、とはいっても結局斬れなかったみたいだけど。それに多分、この手はもう使えないだろうな~」
あの見た目で妖魔は思っていたより学習能力があるのか。知能の高さによっては、次に見つかった時に隙を作るどころか、逃げられるかどうかも怪しくなる。ここからはもう見つからないように慎重に立ち回らないと。
そう考えていると、隣に座る彼女は悲しそうに大きくため息を吐く。
「はぁ~~~!それよりも宝玉1個無くしちゃったのがデカいなぁ~!運良く同じ物があるからいいけど、地味にショック……」
「……宝玉って、これのことか?」
俺がポケットから1個のビー玉……いや、彼女のいう宝玉を取り出す。
これに彼女は目を見開く。
「え、えぇ!?何で、それを持って……!」
「コレ、さっき飛ばされた剣だよ。こんな形になってたから、逃げる前に拾っていたんだ」
彼女が手放した剣は、さっきの商店の近くまで転がってきた。主人から離れたせいか、剣は少し光ると球体へと形を変えた。妖魔が光だけを追って背を向けた一瞬、俺は入口脇まで転がってきた球体へ手を伸ばした。
今まで宝玉は彼女……いや、裏世界にとって重要な物だと理解した。妖魔が彼女に気が向いている間に、静かに商店から出て回収した。
「ありがとう!拾ってくれていたんだ!よかったぁ~、それ結構大事なやつなんだよ!」
彼女は安堵したように胸を撫で下ろす。
やっぱりそうだったか。ならあの時、決死の覚悟で宝玉を取りに出て、正解だった。
「宝玉は裏世界の命綱みたいなものだからね!じゃあ返して~」
「ああ」
小さなことだが、ようやく少しは彼女の役に立てたみたいだ。
そう思いながら彼女が差し出した手に渡そうとした時、遠くの方から破壊音が響いてきた。間違いない、あの妖魔だ。
「うっわ~、想像以上に激オコみたいだ~。この辺にゲートがあればなぁ……」
勘がいいのか、それとも俺たちの匂いでも嗅ぎつけたのか、妖魔の足音らしき音が徐々に近付いている。流石に彼女も焦りをみせ、立ち上がって周辺に手を向けてゲートを探し始める。あんなに嬉しそうにしていたのに、宝玉よりも俺の身の安全を優先してくれる。
俺もここでゲートが見つかることを祈りながら見守ると、ふととある疑問が頭をよぎる。
「……なぁ、ゲートが見つかったら、お前はどうするの?」
「えっ?逃げるか戦うとかして、何とかするけど?」
一ヶ所に開いたゲートは1人までしか通れず、その後は閉じてしまうと彼女は言っていた。つまり、ここで俺を逃がしたとしても、彼女だけは裏世界に残り迫る妖魔と対峙することとなる。俺というお荷物が消える分、楽に動き回れるはずだ、それでも危険なのは変わりない。
ここまで俺を守ってくれた彼女に、俺は何かできないのか。クラスメイトが危険な目に遭うって分かっているのに、黙って逃げることしかできないのか。無力な自分に再び情けなく感じ、無意識に……強く握りしめる。
その時、俺が何を持っているのかを思い出す。
「……この宝玉ってのは、俺でも使えるのか?」
「……えっ?」
まだ彼女が受け取っていない宝玉。もしこれを俺も使えれば、2人であの妖魔を退けることくらいはできるのではと考えた。当然、俺には実戦経験はないし、剣どころか竹刀すら握ったことすらない。そんな奴がいきなり何を言っているんだって話だ。だが……そんなことは関係ない。誰かの危険が迫っているのに、それを無視して逃げ出すくらいなら、俺も危険に立ち向かってでも助けたい。
俺の言葉が意外だったのか、彼女は少し見つめながら考える。徐々に大きくなる轟音に一瞥してから、俺と視線を合わせるようにしゃがんだ。
「結論から言うと……宝玉は裏世界にいる人間なら誰でも使えるし、今からでも発動はできるよ。一度発動したら渡り人になる。だけどね、もう裏世界と無関係だった頃には戻れないんだよ?」
「……死ぬまでか?」
「そこまで重くはないよ。ただ、時間がないから省いちゃうけど、人によってはそれ以上に重いこと」
子供を注意するように彼女は真顔でそう告げる。すると、今度は気が緩んだような表情を浮かべる。
「お隣さんが何を思ってそんなことを言ったのか、何となく分かっちゃった!ま~た私に気を遣って言ってくれたんでしょ?」
「……」
「はい図星~♪あっ、でも渡り人になること自体は自由だよ?ただ誰かのために仕方なくじゃなくて、ちゃんと自分がなりたいからなる、でなってほしいかな?」
そう言って彼女は再び立ち上がる。
「だから大丈夫。ゲートが見つかったら帰りなよ。あの妖魔は私が何とかするから!」
本当に帰るべきなのか……?元の世界へ戻って、何事もなかったように明日を迎える。学校へ行って、友達と話して、いつも通りの日常を続ける。それが正しい選択……なのか?
胸の奥が、ざわつく。今日までの人生を振り返る。勉強も運動もそこそこで、友達にも恵まれている方だ。不満なんてない。でも、何かを本気で選んだこともなかった。流されるまま進んで、与えられた道を歩いてきただけだ。だからなのかもしれない。初めて自分で選ばなければならない今、この瞬間が怖くて仕方がないのに。どうしようもなく、心を掴んで離さない。
遠くから妖魔の咆哮が響く。時間は残されていない。数秒だったはずなのに、ひどく長く感じた。勇気を振り絞って伏せた顔を上げ、再び
「俺は……」
言葉にしようとして、一度だけ息を吐く。
怖い。怖くないわけがない。妖魔は恐ろしい。裏世界なんて意味が分からない。死ぬかもしれない。普通の生活だって失うかもしれない。
それでも……。
「俺は、帰った後で後悔する方が嫌だ」
彼女が目を見開く。
「お前を助けたいって気持ちもある」
それは本心だ。だけど、それだけじゃない。
「でも、それ以上に」
俺は宝玉を握る手に力を込める。
「ここで逃げる自分が嫌なんだ」
遠くから妖魔の咆哮が聞こえるが、不思議と俺たちの間には静寂が流れていた。
「そっか」
彼女は少しだけ目を丸くした後、花が咲いたみたいに笑った。
どこか安心したような、誇らしそうな笑顔だ。
「じゃあ、ようこそ!渡り人へ!」
その瞬間、ドゴォォォォォンと雑居ビルの壁が爆発したように吹き飛ぶ。
コンクリート片が宙を舞い、砂埃が視界を覆う。その中心から、あの妖魔が姿を現した。
「わぁ~お、よく見つかっちゃうねホント。今日の体育の授業で汗かいちゃったからかな?」
「この砂埃まみれの所でそんな嗅ぎ分けできるなら、恐怖が一周回ってすげぇって感心してしまうな。……どうすれば
「宝玉を発動するにはね、それを握ったまま口で言うだけ」
「それだけか?」
「そっ、簡単でしょ?何を言うのかは、もう分かるよね?」
「この短時間で3回は見たんだ。それだけならもう十分」
なら後は実践と、俺と彼女は妖魔の前に立つ。
それぞれしっかりと宝玉を握りしめる。
「「
俺たちがそう叫ぶと、それぞれの手から宝玉は長い剣……ロングソードへと姿を変えた。
ずっしりとした重量感、本物の剣だ。だが、持ち上げられないことはない。あの妖魔の体に反発されないように両手でしっかりと握り、気を引き締める。
「よぉ~し、マルチプレイといきましょ~!!」
「気が緩むなぁ……」
こんな状況なのに、ほんの少しだけ肩の力が抜けた自分がいた。
一応、これが俺の初陣になるんだぞ?もう少し緊張感のある掛け声をして欲しかった……。