ネットスーパーの画面を閉じた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
「うおっ!?」
足元から重力が消え、胃のあたりが浮き立つ独特の感覚。次の瞬間、俺——ムコーダ(向田剛志)の靴底は、硬い土でも迷宮の石畳でもなく、見慣れた灰色のペイントが施されたアスファルトの感触を捉えていた。
「ハッハッハ! どうじゃムコーダ、妾の粋な計らいは! たまには故郷の空気を吸いたいであろう? 感謝するのじゃぞ! そして戻ったら、あのお菓子の新作を山ほど備えるのじゃー!」
頭の中に直接響く、どこかポンコツ臭の抜けない女神ニンリル様の高笑い。
どうやら本当に、期間限定で地球——それも日本のどこかへ一時帰還させてくれたらしい。
「ふぅ……相変わらず強引な神様だぜ、まったく。あ、でもネットスーパーで買い込んだタマリンドジュースのダンボールはちゃんと手元にあるな。よかった……」
安堵の息を吐きながら足元を確認した、その時だった。
「ふあぁぁぁぁ……むにゃ……」
俺のすぐ横で、巨躯を誇る伝説の魔獣・フェンリルのフェルが、退屈そうに大きなあくびを噛み殺した。
問題は、その「あくび」のスケールだ。
フェルの喉奥から漏れ出た息は、空気を激しく震わせる重低音の豪快な遠吠えとなって周囲に響き渡った。
『ふぁ〜ぁ……む? なんだムコーダ、ここは異様に匂いが少ない街だな』
「ぷぅ!?」「うおっ、フェルおじちゃん、急に大声出すなよなー!」
フェルの背中の鞄から飛び出した革袋の中で、プニプニの特殊スライム・スイと、小柄だが勇猛なピクシードラゴンのドラちゃんが飛び上がって目を丸くしている。
だが、驚いたのは仲間たちだけではなかった。
「キャアアアアッ!? な、なに今の大きな音!?」
「えっ、嘘でしょ!? ライオン……ううん、おっきな白いオオカミ!?」
「待って待って、なんで街中にこんな怪獣みたいなのがいるのー!?」
曲がり角の向こうから、色鮮やかな衣装や制服に身を包んだ少女たちのグループが飛び出してきた。
D4DJのユニット、「Happy Around!(ハッピーアラウンド)」の面々——愛本りんく、明石真秀、大鳴門むに、渡月麗の4人だ。
彼女たちは勢いあまって俺たちをぐるりと取り囲む形になってしまい、真ん中に鎮座する巨大なフェルを目にして完全に凍りついた。
『ぬ……? なんだこの小さき人間どもは。我を取り囲むとは、闘争の意思ありとみなすぞ』
「アカン!! フェル、待て! 威嚇するな!!」
俺の制止も虚しく、フェルが「グルルル……」と喉を鳴らし、伝説の魔獣たる圧倒的な威圧感(プレッシャー)を放出してしまった。
「ひいぃぃぃっ! た、食べられるぅぅぅ!」(むに)
「む、無理無理無理! 真秀ちゃん助けてぇぇ!」(りんく)
「私たちが腰を抜かしている場合じゃ……で、でも動けない……!」(麗)
「くっ……なんなのこの圧、息が……っ!」(真秀)
ハピアラの4人はガクガクと膝を震わせ、完全にビビり倒して涙目になっている。このままでは彼女たちのトラウマになってしまうし、警察に通報されたら一発アウトだ!
「ああもうっ、パニックにならないでくれ! ほら、これあげるから! 甘いもの飲んで落ち着いて!!」
俺は半ばやけくそになり、ネットスーパーで買ったばかりの冷え冷えのパック飲料——タイ産の甘酸っぱい**「タマリンドジュース」**をストロー付きで素早く開封し、彼女たちの手に押し付けた。
「え……? じゅ、ジュース……?」
りんくがおずおずとストローを口にくわえ、ひとくちゴクリと飲んだ。
「……ッ!!??? な、なにこれぇぇぇぇーーーっ!!???」
次の瞬間、りんくの瞳が太陽のように輝いた。
「甘酸っぱくて、コクがあって、南国みたいなトロピカルな風味が口いっぱいに広がって……すっごくハッピーになれる味がするーーーっ!!」
「えっ、りんく!? こんな時に……んぐ。……ん!? 美味しいっ!?なにこの味わったことのないフルーティー感!」(真秀)
「う、嘘でしょ……? すっきりした甘さで、なんだか体が軽くなるような……!」(麗)
「うにゅ〜〜〜ん! 美味しくて怖いの吹き飛んじゃったぁぁ!」(むに)
タマリンドジュースの劇的な美味さに、一瞬で和やかになるハピアラの面々。
……だが、平和が訪れたと思ったのも束の間だった。
「あら、随分と賑やかね。……というか、何かしらその尋常じゃない甘い香りは?」
通りかかったPeaky P-key(ピキピキ)の山手響子、犬寄しのぶ、笹子・ジェニファー・由香、清水絵空の4人が足を止める。
さらに反対側の街角からは、静謐な雰囲気を纏ったPhoton Maidenの出雲咲姫、新島衣舞紀、花巻乙和、福島ノアまでもが、ジュースの放つ異常なまでの「極上果汁の気配」に引き寄せられるようにゾロゾロと集まってきた。
「ちょっとりんく、何を飲んでるの? 咲姫の『色』が見たことないくらいキラキラ輝いているんだけど……」(衣舞紀)
「このドリンク……ただの果汁じゃないわ。完璧な成分バランス……凄まじいプロダクションを感じる……!」(しのぶ)
「あ、あの……皆さん落ち着いて……! まだ予備はありますからっ!」
俺は冷や汗をダラダラ流しながら、ネットスーパーのダンボールから次々とタマリンドジュースを取り出して全員に配った。
「「「美味しい……!!!!」」」
路上で繰り広げられる、人気DJユニットのメンバーたちによる大絶賛の嵐。
フェルは「ふん、人間の食い物など……」と言いつつスイにジュースをおねだりされ、ドラちゃんはむにに「可愛い〜!」となで回され、カオスながらもなんとかその場の混乱は収まった……かに見えた。
胸を撫でおろし、安堵の息を吐いた俺の前に、パッと目を輝かせたりんくが身を乗り出してきた。
「ねえねえっ! お兄さん! その巨大なモフモフおおかみさんと、プルプルのスライムちゃんと、カッコいいドラゴンちゃん……そしてその『異次元の美味しさのジュース』!!」
「は、はい!? なんでしょうか!?」
りんくは拳を握りしめ、路上にいる全員に聞こえるような大声で、とんでもない提案を口にしたのだ。
**「来週のハピアラのフェス……お兄さんたちも『DJ×異世界グルメ』として飛び入り参加してよ! このモンスターさんたちのDJパフォーマンスと、そのジュースの出店があれば、絶対に会場全体がアラウンド・ザ・ワールドなハッピーに包まれるよ!!」**
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!???」」」」
俺の悲鳴と、ピキピキ・Photon Maidenメンバー全員の驚愕の声が夕空に響き渡る。
「ちょっと待って!? フェルは伝説の魔獣だし、俺はただのネットスーパー技能持ちのおっさん(異世界帰還中)だぞ!? DJなんてできるわけないだろーーーっ!?」
果たしてムコーダ一行は、異世界の魔獣たちと共にDJステージに立つ羽目になってしまうのか!?
ネットスーパーの食材とDJパフォーマンスの融合という狂気のイベントの行方は——!?
「ええええええつっ!? フェスに飛び入り参加!? それに『DJ×異世界グルメ』って……俺、ただの元サラリーマンだぞ!? DJの機材なんて触ったこともないのに!!」
あまりに突拍子のない愛本りんくの提案に、俺——ムコーダの絶叫が夕暮れのアスファルトに響き渡った。
「だーいじょうぶだって! 音楽はハートだから! お兄さんがジュースを配って、大きなオオカミさんがドーンって咆哮して、スライムちゃんとドラゴンちゃんがステージで跳ね回るだけで、絶対みんなハッピーになれるからさ!」
「りんく、無茶苦茶言わないの……って言いたいところだけど」
Peaky P-keyの犬寄しのぶが、あごに手を当ててフェルたちの姿をじっと見つめる。
「あの巨大なオオカミの咆哮……重低音(サブベース)の出方が半端じゃないわ。音圧だけで会場の空気を支配できるレベル。それに、あのドラゴンとスライムの動き……予測不能なポリリズムを感じる……!」
「しのぶちゃんまで乗っからないでよ!? ドラちゃんもスイもフェルも、DJじゃなくて異世界の魔獣なんだってば!」
しかし、一度盛り上がった少女たちの熱量は留まることを知らなかった。Photon Maidenの出雲咲姫が、静かに俺の前に歩み寄ってくる。
「私には見えます……お兄さんとモンスターさんたちが生み出す、見たこともない色とりどりのオーラが。このステージは……成功します」
「咲姫ちゃんにそう言われたら、もう決定ね! よーし、そうと決まれば特訓&準備だよー!」
「待ってくれぇぇぇ!!」
俺の抵抗も虚しく、ニンリル様の「一時帰還(※ただし期間限定)」という謎の力によって、俺たちは強制的に「Happy Around!」の主催フェスへ出演する流れになってしまったのだった。
そして——フェス当日。
会場は超満員の熱気に包まれていた。本来なら素人の俺が上がれるような場所ではない。だが、裏方に回った俺の心配をよそに、ステージ袖で待ち構えるフェルたちは異様に乗り気だった。
『ムコーダよ、あの「でぃーじぇー」とやらは、要するに我らの圧倒的な力をあやつら(観客)に見せつければよいのだろう?』
「見せつけるっていうか、楽しませるんだよフェル! 頼むから『万雷の風牙(グランドクロス)』とか本気の攻撃魔法は打たないでくれよ!?」
「スイねー、音楽合わせてぷにぷに跳ねるのー! たのしいねー!」
「フン、俺様の華麗な飛翔を見せてやるぜ! 光の魔法でイルミネーション代わりになってやる!」
「出番だよ、ムコーダさん! フェルさんたち!」
真秀の合図とともに、俺たちは眩い照明が照らす特設ステージへと押し出された。
(もうどうにでもなれっ……! ネットスーパー、頼むぞ!!)
俺は腹を括り、DJブースの横に設置した調理台に立った。
真秀が重低音の効いたトラックを流し始めると、まずはドラちゃんが空へと舞い上がった。ドラちゃんが体から放つ聖なる光が、まるでレーザー照明のように会場全体を美しく彩る。
『ウォォォォォォォン!!!』
フェルがタイミングを合わせて、空気を激しく震わせる遠吠えを上げた。
重低音スピーカーすら凌駕する圧倒的な音圧と振動が、観客の体に直接響く!
「キャアアアアッ! なにこの重低音、ヤバすぎる!!」
「最高にアガる!! 身体が震えるよ!!」
さらに、スイが楽曲のテンポに合わせてステージ上をリズミカルにピョンピョンと跳ね回り、体色を七色に変化させながら極上の打楽器のような「ぷにっ! ぽんっ!」という可愛い音をマイクに拾わせた。
そして俺は、ネットスーパーで素早く召喚したキンキンに冷えたタマリンドジュースを、専用のディスペンサーから次々とカップに注ぎ、ステージ最前列の客たちへ手渡していく!
「うわっ、なにこのジュース!? 甘酸っぱくて激ウマ!!」
「音楽と重低音と、このトロピカルな美味さ……飛ぶぞこれ!!」
爆音の重低音、幻想的な光のパフォーマンス、最高に愛らしいスライムのステップ、そして一口飲めば脳が痺れるほどの極上ジュース。
それらが奇跡的なシナジーを生み出し、会場のボルテージは最高潮に達した。
「ハッピーーーーーー・アラウンドーーーーー!!!」
りんくの叫びと共にフェスは大成功のうちに幕を閉じたのだった。何故か上手くいってしまった自分に、俺はステージ袖でへたり込んだ。
「はぁ……はぁ……なんとか死なずに済んだ……」
フェス終了後、控室兼打ち上げ会場。
ステージを全力でやり遂げたハピアラ、ピキピキ、Photon Maidenのメンバーたちは、疲労と達成感で充満していた。
「みんな、本当にお疲れ様! 大成功だったね!」
りんくが弾けるような笑顔で言うが、むにや麗はパイプ椅子にへたり込んでいる。
「うぅ……お腹空いたぁ……全力で踊ったからペコペコだよぉ……」
「そうね……激しいパフォーマンスの後ですから、しっかり栄養を補給したいところですけれど……」
疲れ果てた少女たち、そして「おいムコーダ、肉だ! 肉を寄こせ!」と騒ぎ出すフェル。
俺は苦笑いしながら、腕まくりをした。
「よし、みんな本当によく頑張ったし、俺たちを温かく迎えてくれたお礼だ。これから俺が特製の料理を振る舞うよ! 異世界の食材と、日本のうまいものを掛け合わせた打ち上げ飯だ!」
「「「きゃーっ! ムコーダさん(お兄さん)の手料理ー!?」」」
俺は素早く『ネットスーパー』の画面を呼び出し、必要な食材と、以前異世界で解体してストレージに保管してあった超高級魔物肉を取り出した。
**【1品目:北海道男爵いものカマンベールチーズ入りいももち】**
まずは手軽につまめる前菜からだ。
ネットスーパーで購入した北海道産男爵いもをレンジで蒸して潰し、片栗粉とあわせてモチモチの生地を作る。その中央に、トロリととろけるカマンベールチーズをたっぷり包み込み、バターを敷いたフライパンで両面をこんがりときつね色に焼き上げた。仕上げに甘辛い醤油タレを絡める。
「はい、まずは熱いうちにどうぞ! 『北海道男爵いものカマンベールチーズ入りいももち』だ!」
「わあぁぁっ! いい匂い!」
むにが真っ先にパクリと噛みついた。
「んむっ……!? んん~っ!!?? 外側はカリッとしてるのに、中は信じられないくらいモチモチ! しかも中からアツアツの濃厚カマンベールチーズがトロ~ッて溢れてきたぁぁ! 甘辛い醤油タレとチーズのコクが合わさって、ほっぺた落ちちゃう~!」
「本当ですわ……! お芋の素朴な甘みと、チーズの塩気が完璧なハーモニーを奏でています……!」
麗もうっとりと頬を染めている。
**【2品目:コカトリスのフライドチキン】**
続いてメインの肉料理第1弾。
異世界の巨大な鳥型魔物「コカトリス」の太もも肉を使用する。コカトリスの肉は、地球の鶏肉よりも遥かにジューシーで旨味が濃い。
これをニンニク、ショウガ、醤油、そしてネットスーパーの特製スパイスブレンドに漬け込み、衣をまぶして高温の油で二度揚げした。
ザクッ!!
揚がりたての『コカトリスのフライドチキン』を大皿に盛り付けて出すと、部屋中に香ばしいスパイシーな香りが充満した。
『ぬおっ!? この匂いは……コカトリスか! ムコーダ、我にまず寄こせ!』
フェルが待ちきれずに巨大な口でガブリ。
『ムグムグ……むむっ! いつもと衣の歯ごたえが違うな! サクサクとして、中からジュワッと溢れる肉汁がたまらん!』
「私たちもいただくわね……サクッ。……っ!? なにこのジューシーさ!?」
ピキピキの山手響子が目を丸くした。
「肉質が信じられないくらい引き締まっているのに、身がすごく柔らかい……! 噛むたびに溢れ出す肉汁の量が、普通の鶏肉の比じゃないわ!」
「この衣のスパイスの配合……完璧ね。ジャンクなのに品がある……手が止まらないわ」(しのぶ)
「スイも食べるー! あーむ……おいしー! お肉柔らかくてお汁がいっぱいー!」
「ドラちゃんも大満足だぜ! この歯ごたえが最高だな!」
**【3品目:アース・ドラゴンのロースト・ほりにしのスパイス仕立て】**
「次は本命の肉料理、いくぞ!」
異世界でも滅多にお目にかかれない超高級食材「アース・ドラゴン」の極上赤身肉。これに、ネットスーパーで購入した万能調味料「アウトドアスパイス ほりにし」をこれでもかと擦り込み、じっくりと低温でローストした。
表面はカリッと香ばしく焼き上がり、包丁を入れると中は美しいローズピンク色。厚切りにカットして皿に並べると、芸術的なローストビーフ(ドラゴン)の完成だ。
「さあ召し上がれ、『アース・ドラゴンのロースト・ほりにしのスパイス仕立て』だ!」
「ど、ドラゴンのお肉……!? 本物のドラゴン!?」
新島衣舞紀が恐る恐る一口運ぶ。
「……ッ!!??? な、何これ……! お肉の旨味が、波のように押し寄せてくる……! 赤身なのにパサつきが一切なくて、口の中で解けるみたい! それに、この『ほりにし』っていうスパイスの風味が、ドラゴンの濃厚な旨味を極限まで引き立ててる……!」
「色が見えるわ……」咲姫が呟く。「黄金色と、深いエメラルドグリーンの光が交差してる……こんなに力強くて優しい味、食べたことがない……」
「美味い! 美味いぞムコーダ! やはりドラゴンの肉は最高じゃ! この塩気の効いた粉も実に素晴らしい!」
フェルも大興奮でバクバクとおかわりを要求してくる。
**【4品目:ブラッディホーンブルのビーフカレー】**
「まだまだあるぞ! 締めのご飯ものはこれだ!」
巨大な鍋の蓋を開けると、濃厚で芳醇なスパイスの香味が広がった。
使用したのは凶暴な魔牛「ブラッディホーンブル」のスネ肉。これを赤ワインと大量の玉ねぎ、そしてネットスーパーの高級カレールーと共に、圧力をかけてホロホロになるまで煮込んだ特製ビーフカレーだ。
ほかほかの白米の上に、ゴロゴロとした肉が贅沢に入ったルーをたっぷりかける。
「『ブラッディホーンブルのビーフカレー』だ! 熱いから気を付けてくれよ!」
「カレーだーーーっ!!」
りんくがスプーンを手に取り、豪快に口へ放り込んだ。
「んんんんん~~~~~っっっっ!!!!(涙目)」
りんくが美味しさのあまり震え出した。
「お肉が……お肉が口に入れた瞬間、ホロッホロに崩れて溶けちゃったよぉぉ! 牛肉の旨味がルー全体に溶け込んでて、スパイシーなのにすごくコクがあって……飲み物みたいにするする入っちゃう! おかわり! お兄さん、おかわりちょうだい!!」
「私にもください! この深みのある味わい……一日の疲れが吹き飛ぶようです!」(由香)
「ボクも! ボクもおかわりー!」(ノア)
誰もが夢中になってカレーをかき込み、巨大な鍋があっという間に空になっていった。
**【5品目&6品目:デザートと締めドリンク】**
「ふぅ、みんなよく食べてくれたな。最後はデザートとドリンクだ!」
俺が取り出したのは、ネットスーパーの地方特産品コーナーで買い寄せておいた**「道の駅さかいの究極のメロンパン」**と、怪しい紫色のボトル**「クランド(KURAND)の紫コーラ」**だ。
「究極のメロンパン」は、茨城県境町の極上メロン果汁を練り込んだ贅沢な一品。袋を開けた瞬間、メロンのフレッシュで芳醇な香りが部屋いっぱいに広がる。
そして「紫コーラ」をグラスに注ぐと、鮮やかな紫色の泡がシュワシュワと弾けた。
「うわぁぁ! メロンパン、外のクッキー生地がサックサクで、中の生地はフワッフワ! 本当に生のメロンを食べてるみたいに濃厚だよ!」(むに)
「そしてこの紫コーラ……見た目は妖艶ですけれど、飲むとすごくスパイスが効いていて爽やか! メロンパンの甘みと完璧にマッチしていますわ!」(麗)
「はぁ〜……ハッピー……最高にハッピーだよお兄さん……」
全員が満腹になり、幸福感に包まれながらソファや床に倒れ込んでいく。
フェルもスイもドラちゃんも、満足そうにお腹を膨らませて「くぁ……」と欠伸を噛み殺していた。
「いやあ、喜んでもらえてよかったよ。ネットスーパーの食材と異世界の肉の組み合わせは、やっぱり最強だな」
俺が汗を拭きながら片付けを始めようとした、その時だった。
静まり返った控室で、愛本りんくがガバッと起き上がった。
その目は、フェス前のあのキラキラとした——いや、それ以上の怪しい光を放っていた。
「……ねえ、みんな」
「ん? どうしたの、りんく?」と真秀。
りんくはゆっくりと俺の方を振り返り、ビシッと指を突きつけた。
「決定しました! これからのHappy Around!のライブやフェス、そして合同練習のケータリングは……**全部ムコーダお兄さんに担当してもらいます!!**」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!???」」」」
本日二度目の大絶叫が響き渡る。
「ちょっと待てぇぇぇ! 俺はケータリング業者じゃない! それに俺は異世界に戻らなきゃいけないんだぞ!?」
「大丈夫! ニンリル様にお願いして、フェスの日だけ出張してきてもらえばいいんだよ!」
「そうね……あのケータリングがあれば、私たちのパフォーマンスは間違いなく毎回120%を出せるわ」(響子)
「賛成。あのカレーとチキンなしのライブなんて、もう考えられない」(しのぶ)
「咲姫のカラー診断でも、お兄さんがハピアラのケータリング担当になる未来が一番輝いて見えます」(咲姫)
「異議なし! お兄さん、専属契約ね!」(衣舞紀)
「みんなして納得しないでくれぇぇぇ! フェル! スイ! ドラちゃん! 助けてくれ、異世界に帰るぞ!!」
『ぬ? 何を言うかムコーダ。我がまたあの「メロンパン」と「カレー」を食べられるのなら、たまにこの世界に来るのも悪くないぞ?』
「スイもー! ハピアラのお姉ちゃんたちと遊ぶのたのしいから、またケータリングするー!」
「俺様もあの紫のシュワシュワしたやつもっと飲みたいぜ!」
「味方のはずのペット(従魔)たちまで寝返ったぁぁぁぁ!!??」
俺の悲痛な叫びが空しく響く中、ニンリル様の「ほっほっほ、甘いものをくれるならいつでも地球へ送ってやるぞ〜!」という声が脳内に響き渡り——
こうして俺は、異世界で勇者(の巻き込まれ)をやっているはずが、何故か地球の人気DJユニットの**「専属ケータリング担当」**に任命されてしまうという、新たなる受難の予感に頭を抱えるのだった。