ペニー・パーカーに幼馴染を生やして曇ったり曇らせたりする話   作:血袋

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 すごい数のマネモブが集まってきている! 対戦よろしくお願いします。


大いなる暴走には、大いなる後始末が伴う

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「──。────。────────ペニー?」

 

 口が自然と彼女の名を呼んだ時、僕は正気に戻った。

 瞬間、今に至るまでの記憶が、走馬灯のように蘇り始める。

 

 身体能力増強薬を吸引。父さんを人質にしてオズコープの施設からグライダーとフライトスーツを盗み脱走。小悪党どもを扇動するための動画を配信。トラムウェイを襲撃し追加の人質を確保。誘き出されたヒーロー・スパイダーを攻撃。

 

 全て僕がやったことだ。僕の犯した悪行だ。

 今、眼前のペニーをぐしゃぐしゃの顔で泣かせているのは──他でもない、僕だ。

 

『ペニー・パーカーの正体みたり! 幼馴染の本性は、凡俗の俺を陰で嘲笑う悪女のような腐れヒーローだったのかあっ!』

 

 頭の中がうるさい。僕の内なる世界に巣食う悪魔が、思考をドス黒く染め上げようとする。

 

『うーっ殺らせろ! アニキおかしくなりそうだ!』

 

 悪魔は大声で騒ぎ立てる。目の前のヒーローを殺せと。それこそがハリー・オズボーンの望みであるはずだと。

 ……できるわけがない。目の前にいるのはペニー・パーカーだ。僕の大好きな幼馴染だ。彼女を苦しめて、泣かせて、あまつさえ殺そうとするなんて、そんなことを僕は望んじゃいない。

 

「ハリー、ごめんね……ごめんなさい……」

 

「っ、ペニー……」

 

 今もロボットのコックピット内で体を震わせ泣き続けるペニーへ、勝手に右腕が伸びる。

 この右腕が何をしようとしているのか、僕自身にもわからない。彼女の涙を拭うつもりなのか、それとも彼女の細い首を絞めるつもりなのか。

 

 

 伸びていく僕の腕は──唐突に、横合いから何者かの体当たりを受けたことで、阻まれる。

 

 

「こっちを見ろ悪党! オレが相手になってやるっ!」

 

 ぶつかってきたのは、一人の中年男性だった。背丈も筋量も、特筆するものは何もない。ただ、今このクイーンズボロ橋に偶然居合わせただけであろう一般市民だった。

 そんな男の体当たりだけじゃ今の僕は微動だにしない。それでも、僕の腕は動きを止めた。

 

「舐めんじゃないよ、コノヤロー!」

「スパイダーの敵はニューヨークの敵だ!」

「仲間に手を出す奴は俺たちが許さねぇ!」

「まだ子供だよ、彼女! うちの娘と変わらない! 殺させてたまるか!」

 

 その男に続くかのように、周囲に居合わせただけなはずの市民たちが次々と動き始めた。

 ある者は僕に物を投げつけ、ある者は車のクラクションを鳴らして僕を脅し、ある者は勇敢にも僕とペニーの間に割り込んで前を塞ぐ。

 

『愚か者めっ、弱い者は更に弱い者を見つけて闘いを挑めっ』

 

 頭の中で悪魔が喚いているが、そんなことは気にならなかった。

 僕は気圧されていた。腕を薙ぎ払えば簡単に飛び散ってしまいそうな、力の無い市民たちからの抵抗に、僕は後ずさっていた。

 

 だって、僕は彼らに敵わない。彼らは何も特別な力なんて持っていないのに、今まで自分たちを守ってくれていたヒーローをただ助けようとする一心だけで、凶悪なヴィランにも立ち向かおうとする高潔な精神を持っている。

 ……こんな怪物になってしまう前の僕には無かったものを、確かに持っている。

 

 それに比べて、今の僕は何だ?

 頭の中の悪魔なんて言い訳にはできない。僕は暴走した。薬で力が手に入ったのを良いことに、特別な力を持った人へのコンプレックスを爆発させて、あの時に僕を救ってくれなかったヒーローへ八つ当たりしようとして──

 

 

「……ごめんなさい……」

 

 

 ──ペニーを傷付け、泣かせた。

 その現実に、罪悪感に、僕はもう耐えられなかった。

 

 

「ぁ、ああ……う あ あ あ あ あ あ あ」

 

 

 気付けば僕は狂ったように絶叫しながら、グライダーに飛び乗って逃走していた。

 凶悪なヴィランを追い払えて歓声に沸く市民たちの熱気が、しばらく背中から離れなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 行く当ても無くグライダーで飛行を続け、ようやく上空の寒気で頭が冷えてきた僕は、人通りが少ない区画で適当な建物を見繕い、その屋上に着陸した。

 

 悪鬼の形相をした仮面を脱ぎ捨て、停止させたグライダーに腰掛けて、大きく溜息を吐いて……意を決して、独り言を呟く。

 

 

「……それで? おまえは誰なんだよ」

 

『超危険生物……グリーンゴブリン』

 

 

 思った通り、独り言には返事があった。ただし、僕の脳内だけで。

 僕であって、僕ではない声──曰くグリーンゴブリン。それが悪魔の名前らしかった。

 

「OK、ゴブリンね……もしかしなくても、おまえが生まれたのは身体能力増強薬が原因?」

 

『当たり前のことを抜かすな!』

 

 僕の推論に、ゴブリンは肯定の意を返す。まぁ、訊くまでもなく確信できたことだけど。

 残念だが、父さんの開発した身体能力増強薬は未完成だった。肉体や感覚器官を超人的なまでに増強させるという目的は果たせていた反面、服用者の精神を蝕み凶暴にするような副作用が隠れていたんだろう。

 

 僕の場合、薬に汚染された精神が第二の人格グリーンゴブリンとして独立した、というのが治験の結果になる。

 千年以上前の名作『ジキル博士とハイド氏』は教養として読んだことがあったけれど……まさかそのジキル博士になってしまうなんて、刺激的でファンタスティックだろ。全く笑えない。

 

「どうすれば僕の頭の中から出て行ってくれる? 僕はもう、おまえに意識を乗っ取られて暴れるなんて御免だ」

 

『欺瞞だ。すべてが欺瞞に満ちている』

 

「……欺瞞だって?」

 

『本当は特別な力を手に入れて周囲を見返したかったんだろう? 協力してやろうかボクぅ?』

 

 ……半分は当たってる、耳が痛い。ゴブリンからの悪魔の囁きに僕は言葉を詰まらせた。

 確かに、僕は特別な力が欲しかった。天才少女の幼馴染ペニーや、高名な科学者にして大企業の社長である父さん……そんな人たちに胸を張って並び立てるような、特別な人間になりたかった。

 

 このグリーンゴブリンという人格は、そんな僕の欲望の産物。それを否定することはできない。

 僕が言えないことを言い、僕にできないことをして、僕にとっての邪魔者を始末する。ゴブリンはゴブリンなりに、本気でハリー・オズボーンという人間の望みを成就させようとしている。

 

 全ては僕の自業自得だ。だけど、それでも。

 

「おまえの言葉は否定しないよ。力が欲しくて薬の実験台になったのは僕自身の意思だ、言い訳もしない。だけど、その力でペニーや父さんを傷付けることは望んでない。僕は──」

 

 

 ──絹を裂くような悲鳴が耳に届いたのは、その時だった。

 

 ゴブリンとの会話を打ち切って、声の聞こえた方向へ意識を向ける。この建物の位置からは80mほど離れた先の路地だ。

 悲鳴を上げたのは一人の若い女性。それを取り囲む形で三人の男性が立っている……らしい。

 現場を見ることすらなく、聴こえた音だけで遠方の状況を推測できるのは、薬で強化された聴覚の賜物だ。今なら、100m先に落ちた針の音をも聴き取る男になれるのかもしれない。

 

 

「ゴブリン、話は後だ。放っておけない、行くぞ」

 

『弱き者から狩る。次のターゲットは⋯⋯野蛮人!?』

 

 

 くれぐれも邪魔はしないでくれと言い含めるつもりが、意外にも脳内のゴブリンは乗り気な様子だ。もしかすると、僕が素直に力を使うことを望めば、それをゴブリンが妨害してくるようなことはないのかもしれない。

 何であれ、今はどうでもいい。僕は悪鬼の仮面を被り直し、グライダーを起動させて再び上空に舞い上がった。

 

 盗人の僕が言えたことじゃないけど、オズコープ社が誇る最新のグライダーに乗れば80mなんて目と鼻の先も同然だ。

 聴こえた情報から推測していた通り、その地点には怯える若い女性が一人と、品行方正とは無縁そうな男が三人。しかも揃って拳銃を手にしている。

 

 これから危険な野蛮人たちの眼前へ飛び出そうというのに、恐怖は無かった。僕はグライダーを無人飛行モードに切り替え、飛び降りる。

 

 

「なにっ!?」

「な、なんだあっ!?」

「アイエエエ!?」

 

 

 女性と男たちの間に割って入る形で、全身メタリックグリーンの怪人が突然の三点着地。

 当然その場に居た全員が驚愕の声を上げる。助けるつもりの女性にまで甲高い悲鳴を上げられたのは、悲しいけど仕方ない。

 

「ドーモ、お楽しみ中の皆さん。グリーンゴブリンです」

 

「グリーンゴブリン? アニキ、こいつ5000万ドルくれるって動画流してた奴じゃないスか?」

「おーっラッキーやのお! まさかヒーローより先に本人が出向いてくれるなんてなあっ」

「寄越せ、5000万ドル寄越せ」

 

 試しに名乗ってみれば案の定、この男たちはゴブリンがスパイダーを呼び寄せるため流した動画に釣られた小悪党どもらしかった。

 いくら5000万ドルって額が魅力的とは言え、どうしてあんな胡散臭い告知を真に受ける野蛮人がここまで多いんだろうか。

 

『人間というより猿だな……』

 

 脳内のゴブリンも愚弄の言葉を呟いてるけど、おまえはそんな動画を流した本人だろうに。

 まぁ何であれ、この場に5000万ドルなんて存在しないし、持っていたとしてもプレゼントするつもりは無い。諦めてもらう必要がある。

 

 

「悪いけど5000万ドルの宝くじキャンペーンならもう荼毘に付したよ。バカなことやってないで働くしかないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ」

 

「ザッケンナコラー!」

 

 

 当然キレられる。わかっていたことだけどね。

 野蛮人三人衆の中で最も体格の良い男が、僕に向かって銃口を突き付けてきた。これから一秒もしない内にトリガーは引かれ、弾丸が発射されるだろう。

 

 でも、依然として僕に恐怖心は無い。

 身に纏っているオズコープ社製のフライトスーツに高い防弾性能が備わっているのもあるけれど──それ以前に、この距離なら僕の方が速いと確信しているからだ。

 

「しゃあっ!」

 

 拳銃のトリガーが引かれるよりも速いコンマ数秒で男の眼前まで踏み込み、その顔面へ軽く──本当に軽く、右の裏拳をぶつけた。

 瞬間、男の体は弾かれたように後方へ吹っ飛び、建物の壁に激突した。気絶したのだろう、その場にずるりと座り込んで動かなくなる。

 

 ……思った通りだ。身体能力増強薬で得たパワーに、スーツの性能が加われば、これほど手加減しても人を簡単に打ちのめせてしまう。

 自分の力に自分で驚きながら、残る男二人の方に向き直す。

 

 

「下手な抵抗は止めてくれ。潰さないように蟻を踏むのは、力の加減が難しいんだ」

 

「なんだよこのクソ展開! 俺たちはヒャッハーって突っ込んですぐやられるザコキャラかあッ」

「なめてんじゃねぇぞこらあッ」

 

 

 わざと強い言葉を使って煽れば、男たちは揃って僕に銃口を向ける。

 これで連中の害意が向く先は女性から僕だけに固定された。後は無力化するだけだ。

 

 銃声を響かせ、二つ同時に放たれる銃弾。それすらも、今の僕の動体視力には脅威じゃない。

 最低限の身動きだけで難なく躱し、反撃のため突貫する。

 

「なにっ」

 

「しゃあっ」

 

 防御の間も与えずに、一人目の鳩尾へ手刀を叩き込み、続けざまに二人目の土手っ腹へ前蹴りを打ち込む。

 細心の注意を払って手加減した攻撃は、それでも男たちの意識を刈り取るには十分だった。

 

『これが“闇堕ち”して俺が得た技(チカラ)だ。軽く小突いただけで成人男性を失神KOなんて……刺激的でファンタスティックだろ』

 

 この力を誇らしげに自慢するゴブリンの言葉は適当に聞き流す。

 どうあれ一件落着だ。僕はその場にへたり込んでしまっていた女性へ手を差し伸べた。

 

「さあ、お嬢さん。もう大丈夫ですよ──」

 

「──いやあああ!! 緑のバケモノおおおおおっ!!」

 

 まぁそんな必要は無かったみたいで、女性は自力で立ち上がり一目散に逃げて行った。

 その場には、地面で伸びてる男三人と、立ち尽くす緑のバケモノ……僕だけが取り残される。

 

『ククク……酷い言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど』

 

「……この仮面が悪いよ。どう見たって悪党専用のデザインだもの」

 

 

 悲しい気持ちはあるけれど、怖がられるのは分かり切っていたことだ。

 そもそも感謝されたくてやったことじゃない。僕にそんな資格がないことも分かり切っている。

 

 僕はただ──手に入れてしまった大いなる力に伴う、責任を果たさなきゃいけないだけだ。

 

 

「よし……やり方は大体わかった。ゴブリン、おまえにも付き合ってもらうぞ」

 

『なにっ』

 

「何って、決まってるだろ。自分のケツは自分で拭く……後始末だよ」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『俺はグリーンゴブリンだあっ! まだ街で暴れ続けてるなんてお前たちには失望したよ』

『5000万ドルを野蛮なことやってて手に入ると思うなよ? せめてモラルくらい守ってくれよ』

『そんな倫理観の欠片も無い君たちに残念な知らせがある。“スパイダーを誘き出せ”という依頼は撤回された』

『銃や刃物など凶器の使用、強盗、放火、殺人……とにかくなんでもダメだ。犯罪さえしないなら言うことは何も無い』

『ただし罪を犯す時は必ず覚悟の準備をしろ! グリーンゴブリンの“蝙蝠型グライダー”が現場へ急行するからな!』

 

 

 

「あぁダメだ。もう意識を乗っ取られてるワケでもないのに、イカレた狂人みたいな台詞が口からスラスラと湧き出てくるんだけど」

 

『しっかり“幻魔”を植えつけられとるやん』

 

「他人事みたいに言うな……おまえが原因だろ。僕の脳にゴミのような情報を流すんじゃない」

 

『“幻魔”かあ、それを取り除くのは至難の業だ』

 

 ──まず最初に僕がやったのは、街の悪党どもに呼び掛ける動画の追加配信だ。

 ヒーローを誘き出すために街で事件を起こせという指示は取り消したこと。それを無視して悪事を働き続けるようなら自分が直々にぶちのめしに行くということ。伝えたのはこの二点。

 

 後は有言実行あるのみ。グライダーに乗って飛び回りながらニューヨーク中を上空から監視し、暴動を起こしている野蛮人を見つければ急行、撲滅する。その繰り返しだ。

 実際、僕というかゴブリンの提示した5000万ドルという餌がマズかったのか、なかなかに諦めの悪い犯罪者は多かった……んだけれど、問題はそれだけじゃなかった。

 

 例えば、お店の強盗事件。自動車の盗難事件。麻薬取引現場の発見。幼児誘拐現場の発見。

 忘れていたつもりはないけど、世界一の大都市ニューヨークは犯罪発生率も世界一。ぽっと出のヴィランが扇動するまでもなく、この街には犯罪が溢れている。

 要は、僕の尻拭いとは無関係な犯罪の数々も目に付いてしまうワケで。見つけてしまった以上は放置できず、片ッ端から対処に当たることになってしまった。

 

 ただ、ここで第二の問題が発生する。それは、今の僕の風貌がどう見たって悪党側であること。犯罪から助けても感謝されないどころか、助けた人にまで怖がられるのが通常運転になる。

 ひったくり犯を捕まえてバッグを取り返したってのに、バッグの持ち主に怖がられて逃げられ、危うく自分が第二のひったくり犯になってしまうところだったことなんかは最たる例だ。

 

 加えて、僕は既に流した動画のせいでヴィランとして知れ渡っているらしく、クイーンズボロ橋でスパイダーを痛めつけたこともSNSで広まっているようだった。

 おかげで居合わせた警察からは追い回され──いや、僕が犯罪者なのはその通りだからいずれは自首しないといけないんだけど──とにかく目まぐるしくて、慌ただしくて。

 

 

 

 気付けば、時刻は既に夜となっていた。グライダーの上で腰を下ろし、大きく息を吐く。

 

「許せなかった……ニューヨークの犯罪率がこれほどだったなんて……!」

 

『おまえ喧嘩売る相手間違えたな、ニューヨークは超暗黒的フルコンタクト犯罪都市だ』

 

「ニューヨークに喧嘩を売るような真似したのはおまえだろゴブリン……」

 

 相変わらず脳内で軽口を叩き続けるゴブリンに言い返す気力すら、もはや湧かない。

 強化された肉体が感じる疲労は少ないが、とにかく精神面で疲れてしまった。

 

 ……ただ、この疲労感のおかげで、理解できたこともある。

 

「ペニーは……ずっと一人で、こんなことやってたんだな」

 

 ペニーこそは、ニューヨークを守るヒーロー・スパイダーの正体だった。

 素性を隠しロボットを駆って活動していた彼女が、それでも市民たちからどれほど愛されている存在だったかは、身をもって理解している。

 

「ペニーの素顔を晒すような投稿もSNSには無い……皆ちゃんと内緒にしてくれてるのか」

 

 あの時、僕がロボットのコックピットを抉じ開けたせいで、ペニーの姿は大勢の市民たちの前に晒されている。

 それでも、手慰みに閲覧しているSNSには、彼女がヒーローの正体であると暴露するような発信が見られない。ペニーに救われてきた市民たちの恩返しの形なんだろうと思った。

 

「尊敬するよ、ペニー……僕には真似できないや」

 

 ペニーはまだ14歳だ。例え大いなる力を持っていたにしても、それに伴う大いなる責任を果たすには若すぎる。

 それでも、たった一人で、その手が届く範囲の人々を救ってきた。だからこそのヒーロー。

 

 きっと、ヒーローとは力を持った特別な人間だから愛されるのではなく、愛されるような行動ができる人間だからこそ周りからも愛を返してもらえるんだろう。

 その点、僕は一番最初のところで躓いてしまっている。特別な力を、他者を傷付けるために使う人間になってしまうぐらいなら、生気の無い目をしたマネキン人形みたいなモブキャラでいた方がまだマシだった。

 単に特別な力を得ただけでは、何者にも成れない。そんなこと、もっと早くに気付きたかった。

 

 

「……帰ろう。帰って、ペニーと父さんに死ぬ気で謝って……自首しよう」

 

 今日一日、目に付く全ての犯罪を潰して回った。後始末としては十分に責任を果たせただろう。

 これ以上は、ペニーの偉大さを身に染みて思い知る度、自分が惨めになるだけだ。

 

 そう思い、グライダーを操作しようとして……手元の携帯端末が映す動画に目が留まった。

 

「ん……?」

 

 それはSNSに投稿された動画だった。映っているのは、金魚鉢みたいなヘルメットを被り、奇抜な緑のタイツに金属のアーマーと赤いマントを纏って、生身で空中を浮遊している明らかな変質者──それと対峙する、赤いロボットの姿。

 

 

「──ペニーが……戦ってるッ!」

 

 

 どうしてだ。どうしてだペニー、どうしてそんなにも戦い続けることができる?

 暴走した僕に嬲られてから、まだ一日も経っていない。ボロボロなのはロボットだけじゃない、彼女の精神だって同じはずだ。

 それでも戦い続けることが、君の大いなる責任だというのなら、僕は……僕は。

 

「……ゴブリン、力を貸せ! 僕たちも向かうぞ!」

 

『弱き者から狩る。次のターゲットは⋯⋯スパイダー!?』

 

「いいや、違う。僕はもうスパイダーとは戦わない──スパイダーのために、戦うんだ!」

 

『なにっ』

 

 この期に及んでまだスパイダーと戦うつもりのゴブリンを一蹴し、グライダーの速力を上げる。

 もはや疲労感など吹き飛んでいた。今はただ、ペニーの元へ向かうことしか考えられなくて。

 

『お……おまえ変なクスリでもやってるのか』

 

「変なクスリやったからゴブリン(おまえ)が生まれたんだろうがよ、あーっ!!」

 

 焦る気持ちをゴブリンにぶつけながら、僕はグライダーを目一杯に飛ばした。

 




 たくさんの感想ありがとうございます。励みになってます。
 少なくとも週に一回は投稿できるよう努めるので、コンゴトモヨロシク……。
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