ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
アビドス高等学校の教室では、カナタが机の上に広げた資料を何度も読み返していた。
カイザー系採掘会社、角状遺物、ブラックマーケット。
そして、エゴルギア。
「……やっぱり、偶然じゃない」
カナタは資料を指でなぞる。
「カイザーは、アビドスの借金だけを握ってるわけじゃない。土地や採掘権……昔のアビドスが持っていた権利まで、かなり買い取ってる」
「そういうことになるねぇ」
ホシノが資料を覗き込む。
カナタは一枚の古い書類を取り出した。
「ただ、旧生徒会が手放さなかったものが一つだけある」
「……学校の自治権?」
「はい」
カナタは頷いた。
「昔のアビドスの規約では、旧生徒会の権利を正式に引き継げる人が必要になってる。そして、その条件を満たしてるのは……」
カナタの視線がホシノへ向く。
「ホシノ先輩だけです」
ホシノは黙り込んだ。
「だから、もしホシノ先輩がアビドスを離れたら……カイザーはそこを突いてくる可能性がある」
「……私がいなくなれば、みんなが助かると思ってたんだけどなぁ」
ホシノは苦笑する。
しかし、その表情にはいつもの余裕がなかった。
「ちょっと、確かめてくるよ」
「ホシノ先輩?」
「大丈夫。話をするだけだから」
そう言って、ホシノは教室を出ていった。
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その日の夕方。
カイザー系企業の施設。
ホシノは一人、応接室に座っていた。
机の上には一枚の書類。
退学届。
そして、アビドスの借金を返済したことを証明する書類。
向かい側には、カイザー側の担当者が座っている。
「確認いたしました。確かに、アビドス高等学校が負っていた債務については、返済済みとなっています」
「じゃあ……これでアビドスは自由なんじゃないの?」
「残念ながら、そういうわけではありません」
男は淡々と答えた。
「この書類が証明するのは、あくまで債務が消滅したという事実だけです。土地や各種権利、そして学校の自治権については別問題です」
「……」
「そして、旧生徒会の権利を正式に継承できる人物がいなくなれば、アビドス高等学校の自治権について、改めて手続きを行う必要が生じます」
ホシノは退学届を握りしめる。
「……私がいなくなれば、みんなを守れると思ったんだけどなぁ」
「そうお考えになる必要はありません」
男は微笑んだ。
「我々は、アビドス高等学校を攻撃するつもりはありません」
その言葉に、ホシノが顔を上げる。
「では、何をするの?」
「適切な手続きを進めるだけです」
その時だった。
「……その手続きについて、聞かせてもらえませんか?」
部屋の入口から声がした。
「カナタくん!?」
ホシノが振り返る。
そこには砂原カナタが立っていた。
「どうしてここに……?」
「ホシノ先輩を追ってきました」
カナタは答えた。
「でも、それだけじゃありません」
腰に装着したオメガアナライザーへ目を落とす。
「ここへ来る途中、カイザー系企業の車両を確認しました。以前調べた採掘会社と同じ系列です」
そしてカナタは、担当者を睨む。
「角状遺物を採掘して、ブラックマーケットへ流していた会社ですよね?」
男の表情がわずかに変わった。
「……随分と調べているようですね」
「あなたたちがエゴルギアを流しているのか、確かめに来たんです」
その瞬間。
男は懐から、小さな角状の装置を取り出した。
カナタの目が見開かれる。
「……エゴルギア!」
炎角も低い声を漏らす。
「間違いない。角獣の力を引き出す器だ」
男はエゴルギアを見せるだけで、それ以上のことはしなかった。
「これは、あくまで警告です」
「……」
「我々は武力による解決を望んでおりません。しかし、そちらが武力に訴えるのであれば――」
エゴルギアを懐へ戻す。
「こちらも、それ相応の対応をさせていただきます」
カナタは歯を食いしばった。
やはり、カイザーはエゴルギアを持っている。
ブラックマーケットに流れていた角状遺物。
ヘルメット団が使っていた弾角。
便利屋68のカヨコが使った忍角。
そして、カイザー。
全てが一本の線で繋がり始めていた。
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帰り道。
ホシノは俯いたまま歩いていた。
「……私、間違えてたのかな」
「少なくとも、退学すれば全部解決するって考え方は違うと思います」
カナタは答える。
「ホシノ先輩がいなくなったら、カイザーが正式な手続きを始める口実を与えることになる」
「……うん」
ホシノは立ち止まった。
「じゃあ、私はどうすればいいんだろうねぇ」
「一人で決めないでください」
カナタは真っ直ぐホシノを見る。
「アビドスの問題なんです。ホシノ先輩一人が背負う必要はありません」
ホシノは少しだけ目を丸くした。
そして、小さく笑う。
「……そっか」
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翌日。
アビドス高等学校の前に、複数のカイザー車両が停まっていた。
「な、何事ですか!?」
アヤネが慌てて校舎から出てくる。
車両から降りたのは、昨日の担当者だった。
「ご安心ください。戦闘をするつもりはありません」
男は一枚の書類を取り出した。
「本日は正式な通知をお渡しするために参りました」
「正式な通知……?」
「アビドス高等学校の自治権について、確認および手続きを開始させていただきます」
ホシノの顔から笑みが消えた。
「……私が昨日、話したから?」
「はい」
「そっか……」
ホシノは一歩前へ出る。
しかし、その時。
「待ってください」
カナタがホシノの前に立った。
「ホシノ先輩に何をするつもりですか?」
「何もいたしません」
男は淡々と答える。
「ただし、旧生徒会の代表者として、砂狼ホシノさんには確認していただかなければならない事項があります」
「……私が?」
「はい」
次の瞬間。
カイザーの警備員たちがホシノを取り囲んだ。
「えっ……?」
「手続きが完了するまで、こちらでお預かりします」
「ちょっと待って!」
カナタが前へ出ようとする。
だが、警備員たちが一斉に銃を構えた。
「お下がりください」
「……っ!」
その後ろで、男が再びエゴルギアを取り出した。
「これは戦闘ではありません。正式な手続きです」
カナタは拳を握りしめる。
「そんなの……!」
「カナタくん」
ホシノが振り返った。
「……みんなをお願い」
「ホシノ先輩!」
ホシノはそのままカイザーの車両へ連れて行かれる。
ドアが閉まる。
エンジンがかかる。
「待て!!」
カナタが追いかけようとする。
しかし、車両は砂塵を巻き上げながら走り去っていった。
カナタはその場に立ち尽くす。
やがて、拳を強く握った。
「……ホシノ先輩を取り戻す」
その隣で、炎角が静かに呟く。
「御前様……」
「……今度は、俺たちが動く番だ」
走り去ったカイザーの車両。
その先には、ホシノを待ち受ける何かがある。
そしてアビドスには、最後の盾がいなくなった。
――第12話・終。