ネオン父に転生したのでふんわりした未来知識で成り上がる 作:パラレル・ゲーマー
1980年、二月中旬。
ベレノス海東部遺構・第二次調査において、中央の地下空洞への遠隔探査が行われてから数日が経過していた。
ノストラード本部の小会議室には、先日のような通信各社から借り集めた巨大な電子機器の群れは存在しなかった。CRTモニターも磁気テープの記録装置もすでに撤去され、いつもの静けさが戻っている。
今日は、どこにでもある普通の事務会議だ。
ただ、巨大なテーブルの上に並べられている書類の内容だけが、一般の運送会社のものとは異なっていた。
港の入出港記録。不審船を捉えた粗い写真。燃料納入伝票の写し。船舶の修理記録。ノース・ケープ海洋調査社の登記資料。そして、そこに資金を出している古物会社の企業資料。
参加者は最小限に絞り込まれている。
ライト、ヴィクター、ノストラード傘下の物流網を仕切る港湾担当の主任、そして経理・企業調査を担当する一般社員。
後から、外部アドバイザーであるエドガー=ヴェイルが合流する予定になっていた。
あくまで、通常業務の延長線上で集めた情報を持ち寄り、現状を整理する場だ。
「では、まず港の方から」
港湾担当主任が、書類の束から数枚の新しい写真をテーブルに広げた。
「ノース・ケープ海洋調査社が所有している海洋測量船が、先日、例の小規模商業港に帰港しました。これがその時の写真です」
ライトは写真を引き寄せた。
船体形状。後甲板に設置された大型油圧ウインチ。クレーン。各種通信設備。
先日、モラウやジンが海上で目視した不審船の特徴と非常に近い。
「現時点では、極めて近い特徴を持っている、としか言えません」
主任はそう付け加えた。
「帰港した時の喫水は?」ライトが尋ねる。
「見ています」
港湾主任は、前回ライトが指示した通り、出航前と帰港後の写真を同じ岸壁の同じ角度から撮影し、並べて見せた。
船の側面に記された喫水線。
「一見すると、帰港後の方が少し浮いているように見えますね」
ヴィクターが写真を覗き込んで言った。
「じゃあ、海底から重い物は積んで帰っていないということか?」
ライトが確認すると、港湾主任は首を振った。
「そこまで単純じゃありません、ボス」
「数日間航海をすれば、それだけで大量の燃料、飲料水、そして食料を消費します。海に出て帰ってくるだけで、船は何も積まなくても自然と軽くなるんです。だから、写真の喫水線だけを直接見比べても、意味が薄い」
ライトは頷いた。
「なるほど。じゃあ、それ込みで計算すると?」
「給油された燃料の量、出港していた期間、エンジンの推定燃料消費、給水量、そして八から十二名とされる乗組員数。それらを全て計算に入れて補正をかけました」
主任は電卓で弾き出した数字のメモを指差した。
「十トン級の重量物を持ち帰った形跡はありません」
誤差を考慮しても、数トンから十数トン級の未知の貨物を新たに積んで帰ってきたとは考えにくい数字だった。
もちろん、数百キロ程度の小物であれば、船の状態変化や通常の積荷に埋もれてしまい、喫水だけでは判別できない。
「少なくとも、後甲板のあの大きなウインチを使って、何か大物を拾って帰ってきたわけじゃない、と」
「そう見ていいと思います」
主任は次の資料を開いた。
「むしろ、彼らは帰港後すぐに、次の補給を始めています。長期間停泊して休む気配はありません」
購入品のリストが並ぶ。
高強度ワイヤーロープの追加購入。予備の水中投光器。圧縮空気ボンベ。防水ケーブル。海上用の標識ブイ。水中作業員用の消耗品。油圧ウインチの交換部品。小型艇用の燃料。
これらは、壊れた設備を修理するための部品というよりは、次の海上作業を継続するための純粋な補充に見えた。
「撤収する船の買い方ではないですね」主任が言う。
「また出る?」ライトが聞く。
「準備のペースから見て、数日以内だと思います」
その時、テーブルの端でメモを取っていた経理・企業調査担当の社員が、少し遠慮がちに口を挟んだ。
彼はベテランの幹部ではなく、通常業務の延長として今回の調査に加わっている若い社員だった。
「あの、素朴な疑問なんですが」
「何?」
ライトが顔を向ける。
「この人たち、海底で何か見つけてるんでしょうか」
「どういう意味だ?」
社員は、テーブルに並んだノース・ケープの動向資料を指差した。
「前回、彼らは中央区画付近へ来ましたよね。うちの調査船をただ観察して、何も大物を持ち帰らずに港へ戻った。そしてまた、港で探索装備を補充して海へ出る準備をしている」
社員は不思議そうに首を傾げた。
「もし彼らが、目的物の正確な場所をすでに知っているなら、もう自分で取りに行っていませんか?」
会議室が、少し静かになった。
ヴィクターも資料に目を落とし、ライトもすぐには答えなかった。
「……存在は知っている。しかし、正確な位置を知らない」ヴィクターが仮説を口にする。
「だから、うちの調査船の動向を見てる?」港湾主任が応じる。
「モラウさんたちが中央区画に移動して無人機を下ろしたタイミングで、向こうもピタリと寄ってきたんですよね」社員が裏付けを添える。
「可能性の一つに入れよう」
ライトは頷いた。
相手は資金を持っていても、広い海底のどこを探すべきかまでは分からないのかもしれない。
一方、ノストラード側にはモラウがおり、エレノア教授の大学研究班がつき、高性能なソナーと無人探査機があり、ハンター協会の支援もある。
もし目的物の存在だけを知っているなら、こちらの調査船を観察する理由にはなる。
「こっちが莫大な海底調査費を払って、向こうが結果だけタダで見るなら……随分といい商売だな」
ライトは少し皮肉っぽく笑った。
「では、経理と企業調査の方から報告します」
若い社員が、別の資料の束を引き寄せた。
先日の調査で、ノース・ケープ海洋調査社へ資金を出している企業の社名までは判明していた。だが、その会社が何者で、なぜ海洋調査会社へ資金を出しているのかまでは掴めていなかった。
「ベルカント古美術商会。ヨークシン市内に本店を置く企業です」
創業は三十年以上前。規模は小さい。世界中の富豪が集まるような大手競売会社ではなく、一般向けの店舗もほとんど持っていない。
主な事業は、相続された古物の処分仲介、個人コレクター向けの代理購入、海難事故や沈没船に由来する古物の引き取り、地方の小規模競売への代理入札、そして宗教・民俗系の珍品の取り扱いなどだという。
ライトは少し面白そうに目を細めた。
「随分、エドガーさんが好みそうな泥臭い商売だな」
「ですので、今日お呼びしています」ヴィクターがドアの方へ視線を向けた。
タイミング良くノックの音が鳴り、エドガー=ヴェイルが会議室へ入ってきた。
「エドガーさん。この会社、ご存じですか?」
ライトがベルカント古美術商会の資料を見せると、エドガーは眼鏡を押し上げて少し考えた。
「ええ、名前は存じています。ただ、一流のオークションで華々しく活動するような会社ではありません。地味な仲介屋です」
エドガーの認識では、ベルカントは「表に出したくない品」や「大手が扱うほど値段がつかない特殊な品」を細々と拾い集めるタイプの業者だった。
少なくともエドガーが知る範囲では、盗品専門の犯罪組織ではない。
「でしたら、それだけなら普通の古物商ですね」
「少し、趣味が偏っていますが」
「どちらに?」
「海から上がった物です」
エドガーは、持参してきた重そうな革鞄から、大量の古い書類を取り出してテーブルに広げた。
「彼らの動向を調べるため、私自身の書庫だけでは足りず、古物商組合の過去の記録庫も漁ってもらいました。これは古い、小規模な地方競売の目録です」
黄ばんだ紙の束。
沈没船から引き揚げられた家具、船舶の部品、古い航海器具、漁師が網で拾い上げた用途不明の品々。
その中から、事前にエドガーと資料を共有していた経理社員が、ある項目を指差した。
「ボス。これを見てください」
それは、1952年。
現在から二十八年前の記録だった。
名もない小さな港町の古物競売。
出品番号の横に、簡素な品名がタイプされている。
『ベレノス東部海域・漁網引揚品 黒灰色金属製湾曲板』
ライトの目が、その一行でピタリと止まった。
ベレノス海という地名自体は、当然当時から存在する。しかし、その海の底に古代都市の遺跡が眠っているなど、誰も知らない時代だ。
これは、漁船の底引き網に偶然引っ掛かった『用途不明の金属片』として、ただのガラクタ扱いで出品されたものだった。
競売目録には、白黒の粗い写真が添えられている。
経年で紙が傷み、不鮮明ではあるが、形は読み取れる。長さおよそ一メートル前後の、わずかに湾曲した厚みのある板状の物体。
色は白黒写真では分かりにくいが、説明文には「黒色ないし暗灰色」と記載されていた。
そして、その板の端の方。
小さな刻印が写っていた。六文字から八文字程度の、見慣れない記号の羅列。
「この部分を見てください」
エドガーが言い、ヴィクターは机の端に置いてあった閲覧記録の用紙へ、この場にいる五人の名前を書き込んだ。それから、管理番号の振られた中央区画の写真を資料ファイルから取り出す。
ライトは現在のベレノス中央区画の調査で撮影された『標準記号の標識』の写真を、古い目録の横へ並べた。
二枚の写真を並べる。
完全な一致とは言えない。白黒写真が古すぎる上に、刻印の削れ具合も違う。
だが、文字列の長さ、特有の記号の形状、そして刻印の並び方の規則性が、気味が悪いほどに似通っていた。
「……同じ系列の文字に見えますね」ライトが低い声で言う。
「私もそう見えます。ただ、写真だけでは材質まで同一とは言えません」エドガーが答えた。
「落札者は分かりますか?」
ライトが聞くと、経理社員が購入者の欄を確認した。
「ベルカント古美術商会です」
会議室が、シンと静まり返った。
二十八年前。
現在、不審船を運用するノース・ケープ海洋調査社へ資金を出しているスポンサー企業が、すでにベレノス海由来と思われる黒い金属を購入していたのだ。
「最近うちの大規模調査の噂を聞きつけて、思いつきで船を出してきた会社じゃない?」
ライトが言う。
「少なくとも、この品に関する彼らの興味は、最近始まったものではなさそうです」ヴィクターが答える。
「それだけではありません」
エドガーは、さらに別の古い記録を何枚も机に並べた。
数年後、また別の港でベレノス海から引き揚げられた小型の板状金属。これもベルカントが買っている。
さらに別の年度には、地元の漁師から直接買い付けたという記録もあった。
全てに写真が残っているわけではなく、記述も『謎の金属片』などと曖昧なものが多い。
しかし、『ベレノス東部』『黒色金属』『不明な文字』『海中からの引揚品』『用途不明』という共通する語が、複数の記録に残されていた。
1950年代。1960年代。1970年代。
毎年大量に買っているわけではない。数年に一度、一件。また数年空いて、二件。
漁船の網や海難救助の作業で偶然拾われた物を、その都度ベルカントが買い取っている。
「年代順に並べられるか?」ライトが指示する。
「はい」
経理社員が、机の上に記録を左から右へ並べていく。
1952年の最初の湾曲板。その後も数年ごとに続く小さな買付記録。
途切れながらも、その流れは二十年以上にわたって続いていた。
港湾主任が、腕を組んで呟いた。
「じゃあ、あいつら、三十年近く前からあの海域を調べてたんですか?」
「そこまでは分かりません」エドガーが答える。「購入したのはベルカントという『会社』です。彼らが誰の依頼で買ったのかは、別の話ですから」
古物商は、客の代理で買い付けを行うことが多い。ベルカント自身の収集とは限らない。
「依頼主の記録は残っていますか?」
ライトが聞くと、エドガーは古い競売の元台帳のコピーを指差した。
「購入欄の一部には、小さく『代理』と書かれています。ですが、依頼人の名前は非公開です。顧客番号のような、古い記号が書かれているだけですね」
『依頼番号 H―17』
名前ではない。それが個人の富豪なのか、どこかの組織なのかすら不明だ。ベルカントが長期にわたり、この『H―17』という同じ顧客のために黒色金属を買い集めていた可能性はある。ただし、番号体系が途中で変わっている年もあり、そこまでは確認できなかった。
「ボス。もう一つ、あります」
経理社員が、分厚いファイルの一番下から、一枚の古い紙を取り出した。
それは競売記録ではなく、古い業者向けに配布された回覧のコピーだった。
『買付希望票』
名義は、ベルカント古美術商会。日付は1953年。
そこには、こう書かれていた。
『ベレノス東部海域より引き揚げられた、黒色または黒灰色の金属製品を求む』
過去に同種らしき品を購入した翌年の回覧だった。
『未知の記号・文字を有する品は高価買取』
そして、その下。
『特に円環状、円弧状、柱状、その他大型部材については、破損品でも可。状態を問わず連絡されたし』
ライトは、その文章の途中で読む手を止めた。
「……エドガーさん。この時点で、『円環状』とか『柱状』の大型の品が市場に出た記録はありますか?」
エドガーは首を横に振った。
「現在まで私が確認できた競売記録や流通記録にはありません。板状のもの、小片、小型の棒らしき物までです。大型の円環状部品や、柱状の部材が市場に出た記録は見つかっていません」
ライトは何も言わず、買付希望票へ視線を戻した。
ヴィクターが、中央空洞の写真をテーブルに滑らせた。
直径八から十メートルの巨大な空っぽの基部。周囲の固定穴。そこに集まる黒灰色金属の束。
「……円環状の大型部材、ですか」
ヴィクターが呟く。
「まだ、そこと繋げないでおこう」
ライトはそう言って、買付希望票を最重要資料のクリアファイルへ移した。
「時系列を作ろう」
ライトの指示で、ホワイトボードにマーカーで線が引かれていく。
1952年。ベルカントが、ベレノス東部海域から引き揚げられた黒灰色の湾曲板を購入。
1953年。円環状、円弧状、柱状などの大型部材を指定した買付希望票を業者へ回覧。
その後も断続的に、数年に一度のペースで関連品を購入。
1979年。ノース・ケープ海洋調査社が設立される。
同年、彼らの船が、重量物を海底から回収するための大規模な改修を受ける。
ベレノス第二次調査が進行。
夏、ノストラード側の調査で中央区画地下に大規模な空洞反応をソナーで確認。
その後、中央区画へ調査の重点が移り、不審船が姿を見せるようになる。
1980年二月。
無人探査機が中央空洞の内部へ初めて進入。
不審船は何も大物を持ち帰ることなく帰港し、再度探索装備を補給して出港準備。
一枚のボードに、全ての時系列が並んだ。
しばらく全員がその文字列を見ていたところで、エドガーが口を開いた。
「ただ、逆もあり得ます」
全員の視線がエドガーに向かう。
「彼らが、先にある程度の場所の目星をつけていて……あなた方の調査隊がたまたま同じ場所へやって来たので、警戒して監視を始めたという可能性です」
「なるほど。こっちが利用されている、とはまだ確定しないわけですね。それも残しておきましょう」
ライトはホワイトボードの端に、もう一つの仮説を書き加えた。
港湾主任が、実務的な確認を求めた。
「ボス。じゃあ、相手の船が海に出たら、港のツテを使って止めますか? 足止めする理由ならいくらでも作れますが」
「まだいい」
ライトは即答した。
「今、あの小船を一隻力ずくで止めたら、この古い『買付票』の向こう側にいる本当の奴の姿が見えなくなる」
古物を買い、海底作業船を用意し、調査海域へ向かう。それだけでは、まだ止める理由には足りない。
ライトは買付希望票を指先で押さえた。
「エドガーさん。古物業界の内部から、彼らのことを普通に調べられますか?」
「多少時間はかかりますが、可能かと」
調べる項目は明確だ。ベルカントの創業者、歴代の経営者、古い主要顧客のリスト、海洋古物の主な仕入れ先、1953年の買付希望票を出した担当者の名前、そして『H―17』といった顧客番号の体系。
危険な潜入調査を頼むつもりはない。あくまで古物業界の記録と人脈から辿ってもらう。
ライトは、ノストラード側の仕事分担を再確認した。
港湾担当は、ノース・ケープの船の次回出港、補給内容、そして帰港時の喫水の監視。
経理担当は、ベルカントとノース・ケープ間の資金移動の洗い出し。
企業調査は、ベルカントの役員や関連会社。
エドガーは、古物業界の古い記録と顧客系統。
そしてヴィクターは、全報告の整理と情報の重複確認。
会議が終了しかけたその時。
最初に「場所を知らないのでは」と疑問を口にした若い経理社員が、1953年の買付票のコピーをもう一度見つめていた。
「ボス」
「まだ何かある?」
「この買付の条件なんですけど……なんだか変じゃないですか?」
社員は、買付票の一文を指でなぞった。
『破損品でも可。状態を問わず』
「普通の古美術の収集家なら、品物の保存状態が価格に強く影響しますよね。でもこの買い手は、壊れていてもいい、状態は問わないと言っている」
社員は不思議そうに首を傾げた。
「美術品として綺麗に飾りたいわけじゃないってことですかね」
ライトは買付票を見直した。
「……形や材質そのものに用がある?」
「あるいは」エドガーが補足する。「その破片から何かを確認したいのかもしれません。刻印、加工法、素材、構造、出所。そのどれなのかは分かりませんが」
さらに、古い記録に残された買付額も高かった。
当時の一般的な金属屑と比べれば、用途不明の破片に払う額としては明らかに大きい。
エドガーは当時の取引記録を見ながら言った。
「少なくとも、スクラップとして買った値段ではありません」
ライトは、1953年と記された買付希望票を静かに見つめた。
自分が生まれるより前。
父がまだ現在のノストラードを築き上げるよりも前。
ベレノス海の海底遺跡が発見される、遥か昔の記録だった。
その日の夕方。
港湾担当の主任から、執務室のライトへ電話が入った。
「ボス。ノース・ケープの船の再出港予定が入りました。明日の朝です」
「行き先の申告は?」
「『海洋測量』。海域は、ベレノス方面です」
「予定通り、見ててくれ」
「了解です」
今回、彼らが積み込んだ荷物の一覧がFAXで送られてきた。
燃料、食料、作業ワイヤー、水中照明、標識ブイ、空気ボンベ。
そこまでは通常通りだ。
だが、リストの最後には、見慣れない項目があった。
『重量物運搬用・大型固定架台(空荷)』
ライトはその一行に鉛筆で印を付けた。
前回の航海で大物を持ち帰った形跡はない。
それでも、次は重量物を載せられる状態で海へ出ようとしている。
「出港させますか?」
ヴィクターがFAXの紙を見ながら尋ねた。
「止める理由がない」
ライトは首を振った。
「それより、帰りを見ろ。何を降ろすか。喫水はどう変化するか。どこへ運ぶかだ」
夜。
ライトの執務室のデスクの上には、三つの時代の資料が並べられていた。
1952年の、粗い白黒写真。黒灰色の湾曲した板。端に刻まれた謎の刻印。
1980年の、ベレノス中央空洞の低画質な静止画像。巨大な空っぽの基部と、集束する黒灰色金属。
そして、1953年の古びた買付希望票。
ライトは、買付希望票を手に取った。
『特に円環状、円弧状、柱状、その他大型部材──』
視線が、その行で止まる。
デスクの端に、昼間の若い社員が整理した資料が置かれていた。
タイトルは『確認済みベレノス海由来古物・形状一覧』。
過去の市場記録から確認できた品物の形状が並んでいる。
『板状』『小片』『小型棒状』。
円環状の大型品、ゼロ。
柱状の大型品、ゼロ。
ライトは、買付希望票と一覧表を交互に見比べた。
ヴィクターも、その矛盾に気づいたようだった。
「……ヴィクター」
「はい」
ライトは、1953年の買付希望票の文章を指の腹で叩いた。
「こいつら、なんで市場に一度も出てない物の形を知ってる?」
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