星を渡って、ただいまを   作:ka_na

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春の地図

雪解けと一緒に、二人はまた旅へ出た。

 

冬の間にナルトの言葉は増えた。

 

「じらや、今日どこいく?」

 

「川沿いの町」

 

「ひるまで?」

 

「いや、今日は夕方になる」

 

「ごはんは?」

 

「途中で食う」

 

「何?」

 

「まだ決めとらん」

 

「ラーメン」

 

「何で朝から決められとるんじゃ」

 

「ラーメンがいい」

 

「毎日食ったら身体が偏る」

 

「かたよる?」

 

「クシナみたいなこと言うようになったな……」

 

口に出してから、自来也は足を止めた。

 

ナルトは知らない。

 

「くしな?」

 

「昔の知り合いじゃ」

 

「赤い?」

 

「何で赤いと思った」

 

「しらない」

 

ただの偶然だった。

 

自来也は歩き直す。

 

春の街道は歩きやすい。

 

ナルトは三歳にしてはよく歩いた。疲れると黙り、さらに疲れると自来也の袖を引く。

 

最初は「抱っこ」と言えなかった。

 

冬の終わり頃に覚えた。

 

「じらや、せなか」

 

「今日はよく歩いたからな」

 

しゃがむ。

 

背中へ乗る。

 

「ねるなよ」

 

「ねない」

 

五分で寝た。

 

 

自来也は地図を見せるようになった。

 

理由は単純だった。

 

ナルトが毎朝、今日どこへ行くのか聞くからだ。

 

「今ここ」

 

地図へ指を置く。

 

「川がここ。次の町はこの橋の向こう」

 

「きのは?」

 

毎回聞く。

 

自来也は火の国の中央寄りへ指を移す。

 

「ここらへん」

 

「とおい?」

 

「今は遠い」

 

「いつ?」

 

「まだ分からん」

 

ナルトは少し不満そうにする。

 

だが、以前のように泣いたり黙り込んだりはしない。

 

「じゃあ、今日ここ?」

 

「そうじゃ」

 

指でなぞる。

 

「ここから、ここ」

 

「正解」

 

「かえる?」

 

「宿へ?」

 

「うん」

 

「夕方に戻る」

 

ナルトは地図の宿の位置へ丸を描いた。

 

「何じゃそれ」

 

「かえるとこ」

 

自来也は何も言わなかった。

 

翌日、宿を出るとその丸はもう「帰るところ」ではなくなる。

 

旅とはそういうものだ。

 

なのにナルトは、泊まる場所へ毎回丸を付けた。

 

一日だけの宿でも。

 

二日だけでも。

 

自来也は消させなかった。

 

 

春の終わり、ひとつの町で木ノ葉の紋を見た。

 

忍具屋の壁に、各里の額当てを描いた見本が飾られていた。

 

ナルトが足を止める。

 

「これ」

 

木ノ葉の葉の印を指す。

 

「知っとるか」

 

「きのは」

 

「誰に教わった」

 

「じっちゃん」

 

「ジッチャンは何する人」

 

「ほかげ」

 

「他には?」

 

ナルトは考える。

 

「みかん」

 

「蜜柑?」

 

「くれる」

 

「飯は」

 

「きく」

 

「何を」

 

「たべた?」

 

自来也は旅帳へ書いた。

 

――ヒルゼンらしき人物が時々生活確認。蜜柑を持参する記憶。

 

制度や誰が部屋を管理したかなどは分からない。

 

三歳児の記憶を、大人の都合で完成させない。

 

自来也はその線を守った。

 

 

ある夜、自来也は宿の裏庭で小さな口寄せを試した。

 

ナルトから十分離れた場所。

 

障子も二枚隔てている。

 

印を結ぶ。

 

小さな蝦蟇が現れた瞬間、部屋の方で皿が落ちる音がした。

 

自来也は術を解き、駆け戻る。

 

ナルトが腹を抱えていた。

 

「痛いか」

 

「ちょっと」

 

「いつから」

 

「じらや、いなくなって……ぐるって」

 

「ぐる?」

 

「へやが」

 

空間酔いのようなものか。

 

窓枠がほんのわずかに歪んで見えた。

 

自来也は触れない。

 

旅帳へ時刻を書き、口寄せの距離を書く。

 

反応は以前より弱い。

 

だが消えてはいない。

 

木ノ葉へ連れて行けば、里の結界は口寄せより遥かに複雑な時空間・感知術式を含む。

 

「まだじゃな」

 

「きのは?」

 

ナルトが聞いた。

 

「まだ」

 

「いつ?」

 

「帰れる時に帰る」

 

「じらやも?」

 

「ああ」

 

「いっしょ?」

 

「一緒に行く」

 

ナルトはそれで納得した。

 

自来也は納得できなかった。

 

自分は何を待っているのか。

 

空間が安定するのを待っている。

 

それは事実だ。

 

だが、それだけか。

 

名前を見た時から、自来也は一つの可能性を考え続けている。

 

ミナトとクシナへ知らせて、もし違ったら。

 

知らせずにいて、本物だったら。

 

どちらにも傷がある。

 

旅帳の末尾へ、自来也は初めて自分の判断を書いた。

 

――身元情報の秘匿継続。技術的理由はある。ただし感情的理由も否定できず。

 

そこだけは、誤魔化さなかった。

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