星を渡って、ただいまを   作:ka_na

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死んだ人の顔

夏の初め、二人は川沿いの大きな町へ入った。

 

自来也は情報屋と会う予定があり、ナルトを宿へ置いていく必要があった。

 

「昼飯のあとに出る」

 

「いつ戻る?」

 

「日が屋根の向こうへ下がる前」

 

「おそい?」

 

「少し遅い」

 

「誰いる?」

 

「宿の婆さん。何かあれば呼べ」

 

「じらや、戻る?」

 

「戻る」

 

以前なら五回は聞いた。

 

今は二回で終わる。

 

「分かった」

 

そう言って、自来也が置いていった地図へ色石を並べ始めた。

 

 

情報屋との話は短かった。

 

戻る途中、自来也は古本屋へ寄った。

 

ナルトに絵の多い本でも買うつもりだった。

 

店先に、戦争後に出た忍の人物録が積まれている。

 

木ノ葉の黄色い閃光。

 

若き四代目火影。

 

見慣れた顔が表紙の隅にあった。

 

自来也は手を伸ばしかけ、やめた。

 

ナルトへ見せるためではない。

 

自分が見たくなかった。

 

代わりに動物図鑑を買った。

 

ところが宿へ戻ると、ナルトの手には別の本があった。

 

「何じゃそれ」

 

「おばちゃん、くれた」

 

宿の女将が客から置いていかれた雑誌を渡したらしい。

 

古い忍界記事。

 

自来也の目が一箇所で止まる。

 

そこにもミナトの写真があった。

 

まだ火影就任前のものだ。

 

ナルトが指を置く。

 

「このひと」

 

「知っとるのか」

 

「よんだいめ」

 

「名前は?」

 

首を振る。

 

「どこで見た」

 

「じっちゃんのとこ」

 

「火影室?」

 

「しゃしん」

 

ナルトは写真を見つめた。

 

「しんだひと」

 

自来也の喉が乾いた。

 

「誰がそう言った」

 

「じっちゃん」

 

「どうして死んだ」

 

質問が難しい。

 

ナルトは何度か言葉を探した。

 

「きつね」

 

「狐?」

 

「おおきい。こわい。きのは、まもった」

 

「四代目が?」

 

「うん」

 

「いつ」

 

ナルトは分からない顔をする。

 

自来也は聞き方を変えた。

 

「ナルトが生まれた時?」

 

「じっちゃん、そういった」

 

自来也は本を閉じた。

 

「じらや?」

 

「今日はもうその話はいい」

 

「おこった?」

 

「怒ってない」

 

「ほんと?」

 

「ワシが考えたいだけじゃ」

 

ナルトは少し不安そうだった。

 

自来也は本を戻した。

 

「お前が悪いんじゃない」

 

「うん」

 

「何回でも言う。お前が悪い話ではない」

 

 

夜。

 

ナルトが寝たあと、自来也は旅帳を開いた。

 

項目を並べる。

 

うずまきナルト。

 

約三歳。

 

金髪、青い目、頬の三本線。

 

木ノ葉を故郷として認識。

 

猿飛ヒルゼンらしき人物を現役火影として認識。

 

四代目を故人として認識。

 

巨大な狐が木ノ葉を襲い、四代目が里を守って死亡したという断片的知識。

 

自来也は筆を置いた。

 

こちらでは、その歴史は存在しない。

 

クシナの出産時、九尾の封印は緩んだ。

 

外周では一度、正体不明の時空間異常が出た。

 

だが結界内部へ襲撃者は入らず、九尾もクシナから抜かれなかった。

 

ミナトもクシナも生きた。

 

代わりに、生まれたナルトが死んだ。

 

自来也はその葬儀へ間に合わなかった。

 

国境の外にいた。

 

戻った時には、ミナトはもう火影の顔をして働いていた。

 

クシナも笑っていた。

 

二人とも、笑えるようになるまでの時間を自来也は見ていない。

 

だからこそ、軽々しく「あの子に似た子がいる」と言えなかった。

 

だが今となっては、言わなかった理由の半分が臆病さだったと認めざるを得ない。

 

「ワシは何をしとる」

 

独り言が漏れる。

 

布団の中でナルトが寝返りを打った。

 

「じらや……」

 

寝言。

 

自来也は返事をしなかった。

 

代わりに旅帳へ書いた。

 

――四代目を死者として認識。九尾らしき巨大な狐による里襲撃と関連付けている。

 

――当方世界史と重大な不一致。

 

――身元秘匿の継続は限界に近い。

 

最後の行。

 

――ただし帰還条件がまだ整っていない。

 

技術的な問題だけは、嘘ではない。

 

自来也は窓の外を見た。

 

空間反応は月ごとに弱くなっている。

 

次の十月十日。

 

最初に漂着した日と同じ季節が巡るまで。

 

そこまで観測すれば、年周期なのか偶発なのかを一つ切り分けられる。

 

「あと三月」

 

長い。

 

でも、今さら短いとも思った。

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