星を渡って、ただいまを   作:ka_na

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十月十日、木ノ葉へ

夏が終わるころ、ナルトは四歳になる日を自分から数えられるようになっていた。

 

「あと、なんにち?」

 

「七日」

 

「きのう八?」

 

「そうじゃ」

 

「じゃあ明日六?」

 

「お前、数字だけは覚えるの早いな」

 

「たんじょうび、ケーキある?」

 

「誰に覚えさせられた、その文化」

 

冬を越した宿の女将からだった。

 

自来也はため息をつきながらも、町へ入るたび菓子屋の場所を見るようになっていた。

 

その年の十月十日、二人は火の国南部の小さな湖のそばにいた。

 

最初の漂着地点からは遠い。

 

意図的だった。

 

同じ場所へ戻るのは危険だと考えた。

 

朝。

 

ナルトは起きると枕元の小さな包みを見つけた。

 

「なに?」

 

「開けろ」

 

中には子供用の小さな地図帳が入っていた。

 

「ワシの地図へ勝手に丸を描くから、自分のを持て」

 

「オレの?」

 

「お前の」

 

「かえさなくていい?」

 

「返されたら困る」

 

ナルトは何度も表紙を撫でた。

 

「じらや、ここ書いて」

 

「何を」

 

「きょう」

 

自来也は日付を書いた。

 

十月十日。

 

「四歳、おめでとう」

 

ナルトが笑う。

 

「四つ!」

 

指を四本立てた。

 

 

異変は昼前に来た。

 

自来也は湖畔で旅帳を開いていた。

 

ナルトは少し離れた場所で石を並べている。

 

風が止まった。

 

一年前と同じだった。

 

「ナルト、こっち来い」

 

声の調子だけで何かを感じたのか、すぐ走ってくる。

 

「じらや?」

 

「手を出せ」

 

触れる前に聞く。

 

「腕、触るぞ」

 

「うん」

 

脈を取る。

 

速い。

 

腹部のチャクラが普段より強く折り返している。

 

空気の一部が薄くなる。

 

白い裂け目は出ない。

 

代わりに、湖面へ二つの景色が重なった。

 

今いる湖。

 

もう一つ。

 

石壁のようなもの。

 

巨大な顔の彫刻。

 

ほんの一瞬で消える。

 

ナルトが息を呑んだ。

 

「きのは」

 

「見えたのか」

 

「ひいじいちゃん……にだいめ……じっちゃん……よんだいめ」

 

火影岩。

 

自来也には細部まで見えなかった。

 

しかしナルトは知っている。

 

反応は一分も続かなかった。

 

終わったあと、ナルトは膝をついた。

 

自来也が支える。

 

「痛いか」

 

「いたくない。ぐるぐる」

 

「吐きそうか」

 

「ちょっと」

 

水を飲ませ、木陰へ座らせる。

 

自来也は旅帳を開いた。

 

一年前の記録。

 

時刻は違う。

 

場所も違う。

 

しかし日付は同じ。

 

十月十日。

 

強度は一年前より低い。

 

そして今度は、ナルトが認識する木ノ葉らしき像が短時間重なった。

 

「年周期か」

 

自来也の背中に汗が流れた。

 

三歳児の漂着は偶発的な一度きりではない。

 

何らかの周期的な窓がある。

 

しかも木ノ葉を指している。

 

自来也は長く考えた。

 

もう待つ理由はない。

 

正確には、待つ理由より帰る理由が大きくなった。

 

「ナルト」

 

「ん?」

 

「木ノ葉へ行くぞ」

 

ナルトが動きを止めた。

 

「……ほんと?」

 

「ああ」

 

「今日?」

 

「今日は無理じゃ。準備して、数日で出る」

 

「じらやも?」

 

「一緒に行く」

 

「ずっと?」

 

自来也は一瞬、答えに詰まった。

 

木ノ葉へ着いたあと、自分がどこまで一緒にいられるかは分からない。

 

そこにはミナトがいる。

 

クシナがいる。

 

ヒルゼンがいる。

 

ナルトが本当に彼らの子なら、自来也の役割は変わるかもしれない。

 

「木ノ葉へ着くまでは一緒じゃ」

 

ナルトの顔が曇った。

 

言い直す。

 

「着いた後も、勝手に消えたりはせん」

 

「ほんと?」

 

「ワシがどこへ行くかは言う。戻る時も言う」

 

一年間の約束だった。

 

ナルトはようやく頷いた。

 

 

その夜、自来也は初めて完全な身元情報を暗号文へ書いた。

 

受取人はヒルゼン一人に限定した。

 

――保護幼児の自称:うずまきナルト。

 

――現在四歳。誕生日を十月十日と認識。

 

――金髪、青眼、頬に左右三本の痕。

 

――木ノ葉を故郷、猿飛ヒルゼンを現役火影として認識。

 

――四代目火影を故人として認識。巨大な狐の襲撃で里を守り死亡したという断片的知識。

 

――本日、漂着から一年後の十月十日に位相反応再発。木ノ葉・火影岩らしき像と一時重畳。

 

――直接里内へは入れず、結界外の家屋使用を要請。

 

最後に、自来也は一行足した。

 

――身元詳細の報告を一年遅らせた判断については、帰還後に説明する。

 

蛙は使わない。

 

空間反応を避けるため、遠距離伝令用の通常経路へ乗せた。

 

三日後。

 

返信は短かった。

 

――承知。指定家屋を準備。本人を里内へ入れるな。まずワシが行く。

 

ヒルゼンの字だった。

 

自来也は紙を燃やした。

 

「じらや」

 

振り向く。

 

ナルトが旅袋を抱えている。

 

「できた」

 

「何が」

 

「きのは、いく」

 

袋の中には地図帳、着替え、木の駒、冬の宿でもらった手拭い、丸い石。

 

一年で増えたものだった。

 

「全部持っていく気か」

 

「オレの」

 

「重いぞ」

 

「持つ」

 

「途中でワシに渡すなよ」

 

「渡す」

 

「最初からそのつもりか!」

 

ナルトが笑った。

 

自来也も笑った。

 

翌朝、二人は木ノ葉の方角へ歩き出した。

 

地図の上で何度も指してきた場所が、初めて目的地になった。

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