夏が終わるころ、ナルトは四歳になる日を自分から数えられるようになっていた。
「あと、なんにち?」
「七日」
「きのう八?」
「そうじゃ」
「じゃあ明日六?」
「お前、数字だけは覚えるの早いな」
「たんじょうび、ケーキある?」
「誰に覚えさせられた、その文化」
冬を越した宿の女将からだった。
自来也はため息をつきながらも、町へ入るたび菓子屋の場所を見るようになっていた。
その年の十月十日、二人は火の国南部の小さな湖のそばにいた。
最初の漂着地点からは遠い。
意図的だった。
同じ場所へ戻るのは危険だと考えた。
朝。
ナルトは起きると枕元の小さな包みを見つけた。
「なに?」
「開けろ」
中には子供用の小さな地図帳が入っていた。
「ワシの地図へ勝手に丸を描くから、自分のを持て」
「オレの?」
「お前の」
「かえさなくていい?」
「返されたら困る」
ナルトは何度も表紙を撫でた。
「じらや、ここ書いて」
「何を」
「きょう」
自来也は日付を書いた。
十月十日。
「四歳、おめでとう」
ナルトが笑う。
「四つ!」
指を四本立てた。
◆
異変は昼前に来た。
自来也は湖畔で旅帳を開いていた。
ナルトは少し離れた場所で石を並べている。
風が止まった。
一年前と同じだった。
「ナルト、こっち来い」
声の調子だけで何かを感じたのか、すぐ走ってくる。
「じらや?」
「手を出せ」
触れる前に聞く。
「腕、触るぞ」
「うん」
脈を取る。
速い。
腹部のチャクラが普段より強く折り返している。
空気の一部が薄くなる。
白い裂け目は出ない。
代わりに、湖面へ二つの景色が重なった。
今いる湖。
もう一つ。
石壁のようなもの。
巨大な顔の彫刻。
ほんの一瞬で消える。
ナルトが息を呑んだ。
「きのは」
「見えたのか」
「ひいじいちゃん……にだいめ……じっちゃん……よんだいめ」
火影岩。
自来也には細部まで見えなかった。
しかしナルトは知っている。
反応は一分も続かなかった。
終わったあと、ナルトは膝をついた。
自来也が支える。
「痛いか」
「いたくない。ぐるぐる」
「吐きそうか」
「ちょっと」
水を飲ませ、木陰へ座らせる。
自来也は旅帳を開いた。
一年前の記録。
時刻は違う。
場所も違う。
しかし日付は同じ。
十月十日。
強度は一年前より低い。
そして今度は、ナルトが認識する木ノ葉らしき像が短時間重なった。
「年周期か」
自来也の背中に汗が流れた。
三歳児の漂着は偶発的な一度きりではない。
何らかの周期的な窓がある。
しかも木ノ葉を指している。
自来也は長く考えた。
もう待つ理由はない。
正確には、待つ理由より帰る理由が大きくなった。
「ナルト」
「ん?」
「木ノ葉へ行くぞ」
ナルトが動きを止めた。
「……ほんと?」
「ああ」
「今日?」
「今日は無理じゃ。準備して、数日で出る」
「じらやも?」
「一緒に行く」
「ずっと?」
自来也は一瞬、答えに詰まった。
木ノ葉へ着いたあと、自分がどこまで一緒にいられるかは分からない。
そこにはミナトがいる。
クシナがいる。
ヒルゼンがいる。
ナルトが本当に彼らの子なら、自来也の役割は変わるかもしれない。
「木ノ葉へ着くまでは一緒じゃ」
ナルトの顔が曇った。
言い直す。
「着いた後も、勝手に消えたりはせん」
「ほんと?」
「ワシがどこへ行くかは言う。戻る時も言う」
一年間の約束だった。
ナルトはようやく頷いた。
◆
その夜、自来也は初めて完全な身元情報を暗号文へ書いた。
受取人はヒルゼン一人に限定した。
――保護幼児の自称:うずまきナルト。
――現在四歳。誕生日を十月十日と認識。
――金髪、青眼、頬に左右三本の痕。
――木ノ葉を故郷、猿飛ヒルゼンを現役火影として認識。
――四代目火影を故人として認識。巨大な狐の襲撃で里を守り死亡したという断片的知識。
――本日、漂着から一年後の十月十日に位相反応再発。木ノ葉・火影岩らしき像と一時重畳。
――直接里内へは入れず、結界外の家屋使用を要請。
最後に、自来也は一行足した。
――身元詳細の報告を一年遅らせた判断については、帰還後に説明する。
蛙は使わない。
空間反応を避けるため、遠距離伝令用の通常経路へ乗せた。
三日後。
返信は短かった。
――承知。指定家屋を準備。本人を里内へ入れるな。まずワシが行く。
ヒルゼンの字だった。
自来也は紙を燃やした。
「じらや」
振り向く。
ナルトが旅袋を抱えている。
「できた」
「何が」
「きのは、いく」
袋の中には地図帳、着替え、木の駒、冬の宿でもらった手拭い、丸い石。
一年で増えたものだった。
「全部持っていく気か」
「オレの」
「重いぞ」
「持つ」
「途中でワシに渡すなよ」
「渡す」
「最初からそのつもりか!」
ナルトが笑った。
自来也も笑った。
翌朝、二人は木ノ葉の方角へ歩き出した。
地図の上で何度も指してきた場所が、初めて目的地になった。